186食目 暴食の化身
最早、精霊戦隊あるところ鬼あり的な展開となっているが、これは不可抗力なので多少はね?
「ぬわぁぁぁぁぁぁっ!? くそデカすぎんだろっ!」
『ナイトわんこハッスル!』
アンコウ鬼の丸飲み攻撃を犬掻きの要領で辛くも回避する。
正直な話、こんな装備でどうにかできる相手ではない。
なんで、こんな化け物が成層圏にいるんだ、って話だ。
『不味いな……ろくな装備も無いこの状況で、こんなデカ物を倒せるのかよ』
ファケル兄貴のル・ファルカンは重量の増加を嫌い、その兵装の大半がビーム、或いは光素系兵器で構成されている。
唯一の物理系兵器が三連ミサイルだが、それはたった六発しかない。
ヤツの弱点が分からない今、それは温存せざるを得なかった。
「ゴォォォォォォォォォォォォォッ!」
再び丸飲み攻撃。
今度は雲がアンコウ鬼の口の中へと入ってゆく。
『吸い込みやっ! 正面に立ったらあかんでっ!』
ぽっちゃり姉貴ことグリオネは、マネックにマシンガンを連射させながらアンコウ鬼のサイドを取る。
しかし、その鱗は強固であり、マシンガンごときでは寄せ付けもしない。
『かったっ!? こいつ、ごっつ過ぎやろっ!』
『……下がって』
今度はルナティックがスナイパーライフルでの狙撃に挑む。
桃力入りの鋼鉄の弾丸は、しかし鏡のような鱗に弾かれて通用しない。
『……異常な硬さね。正攻法じゃ倒せないわ』
「正攻法じゃ倒せないって……じゃあ、正攻法じゃない倒し方をしろって?」
『……そういうこと。できる?』
これはできるできないではなく、やらなくてはならないことなのだろう。
そのための精霊、あとそのための精霊魔法?
「魔法障壁っ!」
まずは魔法障壁で足場を作り踏ん張れるようにする。
あのアンコウ鬼を倒すには、とにかく鱗をどうにかしなくてはならない。
一部だけでもいい。
それを引っぺがせれば、あとはヒュリティアたちがなんとかしてくれよう。
というか、まずは自分の安全から確保しなければ。
もう、俺を喰らってやろう、とアンコウ鬼が目をギラギラさせて大変に危険。
「来たれ、火の精霊チゲっ!」
エルティナイトの背後に巨大な火の巨人が顕現する。
「続けて精霊魔法【この世で一番優しい炎】発動っ!」
エルティナイトの前方に巨大な炎の壁が発生する。
この炎をアンコウ鬼は露骨に嫌がった。
「うん? あいつ、炎が苦手なのか?」
『お魚だし、炎を見るのが初めてなんじゃない?』
『もきゅ』
『いやだー! お家帰るー!』
ガラクタに乗るエリンちゃんから、そのような感想が帰ってきた。
あと、H・モンゴー、うるさい。
ウサちゃん号も心なしか呆れているぞ。
『おいぃ、ちんちくりん。炎は使えるんじゃないですかねぇ?』
「そう思うが、チゲは防御にしか炎を使わない優しい子。攻撃は別の方法でおこなわないと」
と言ったものの、何か有効的な攻撃手段があるだろうか。
そう考えていると挙動が怪しいル・ファルカンの姿を認める。
「ファケル兄貴っ! どうしたんだっ!?」
『つぅ……す、すまんっ! ノイズの奴がまた悪さをっ!』
俺の呼びかけで安定を取り戻したファケル兄貴は再び機敏な動きで空を舞う。
もう最悪しか、この場には無いのではなかろうか。
『もぴぃぃぃぃぃぃぃっ! く、来るなぁぁぁぁっ!』
そして、このH・モンゴーである。
しかし、彼がヤケクソで放った幻覚音波は効果があったようで、何も無い場所に目掛けて口を開くアンコウ鬼が見れるようになった。
『……ナイス。役に立つじゃない』
これにはヒュリティアもニッコリであろう。
『なんで私は、こんな化け物にばかり遭遇するんだっ!?』
『そう言えば、精霊戦隊ってこんなのばかりと戦ってるよねぇ』
『エリンちゃん、それ最も聞きたくなかったっ!』
絶望が加速するH・モンゴーはしかし、ガラクタに抱きかかえられるウサちゃん号をしょんぼりとさせる。
基本的に機械人と機獣は融合に近い形で連結されるので、人型に改造された今、その感情表現が思いっきり分かってしまうのだ。
「よし、十分な隙ができたっ! これなら!」
一旦、チゲを引っ込めて新たなる精霊を召喚する。
彼とは相性が悪いので同時召喚はできないできにくい。
「来たれ! 水の精霊ヤドカリ君っ!」
パチンパチン、と大きな爪を鳴らし威嚇する小さなヤドカリは、何故かエルティナイトのコンソールからにょっきりと生えてきました。
なので、他から見れば召喚に失敗したと思われても仕方がないだろう。
「精霊魔法【水の槍】発動っ!」
ずもももっ、と突き出したエルティナイトの手に水が集まってきて、巨大な水の槍が生成される。
この水の材料は雲だ。
「エルティナイトっ!」
『応! ナイトは投擲もスタイリッシュっ!』
俺は投げる系、というか射撃のセンスはほぼ皆無なのでエルティナイトに任せるより他にない。
そこにアイン君の微調整が入り、水の槍は見事アンコウ鬼の鱗と鱗の間に命中。
ここからが俺の仕事だ。
「起爆っ!」
鏡の鱗の間に突き刺さった水の槍を爆発させる。
水飛沫とドス黒い血とが爆発によって撒き散らされ、アンコウ鬼が悲鳴を上げる。
しかし、その巨体にとっては極小さな傷にしかならない。
例えるなら逆剥けから血が出た程度だろうか。
「うわぁ……思ったよりも威力がでないんだぜ」
これにはヤドカリ君も怒りの両爪上げで、そのほどをアピールされた。
『八方塞がりじゃにぃか。なんとかなりませんかねぇ?』
「といっても、鎧が無いナイトは精霊合体もできないできにくい」
『鎧、作れませんかねぇ?』
「ナイト様は無理難題を仰る……鎧を作れ、とか発想が鬼なので桃使いは憤慨するだろうな」
うん? いや待て。
高密度に圧縮した水ならばできるんじゃないか?
でも、今のヤドカリ君にそれができるかどうか。
彼だけではきついだろう。
そして、出来たとしても生成にまで時間がかかりすぎる。
悩む、俺。
その時、俺の魂に語りかけてくる偉大なる声。
―――汝、迷うことなかれ。
それは短い激励のようなもの。
しかし、俺にとって迷うを払うには十分過ぎる。
「シグルドっ!」
桃使いとして彼もまた力を貸してくれようとしている。
この状況でアンコウ鬼を退治できるとしたら、それはルナ・エルティナイトだけだろう。
そこから生成する思念創世器・始祖竜之牙で奴を解放する。
「来たれっ! 海の精霊マッソォ!」
「アイアンマッスル」
いつも登場時の掛け声が違う、筋肉ムキムキの変態マッチョが登場。
「ヤドカリ君、やるぞっ! 桃力、特性【融】! 精霊魔法【デンジャラス☆小さなヤドカリと筋肉大男の共同作業】、発動っ!」
『『『魔法の名前が酷過ぎるっ!』』』
ファケル兄貴、ぽっちゃり姉貴、H・モンゴーから非難の声が上がりましたが俺は元気です。
ヒュリティアとエリンちゃんはまったく気にしていない様子。
さて、この魔法はヤドカリ君が雲を圧縮して水の板を作り出し、それをマッソォが腕力で形を変えてゆく、という精霊魔法となる。
マッソォの海の要素はどこに行ったんですかねぇ?
「ふきゅ~ん! ふきゅ~ん!」
これがまた精霊ちからの消耗が激しい!
ゴリゴリと削れゆく精霊ちからに俺は速やかに白目痙攣状態へと陥った。
そして、そこを露骨に狙って来るアンコウ鬼。
しかし、その100メートルは超えようかという巨体がピタリと止まった。
『早くなさいな、そして早くダーリンの雄姿をっ! はぁはぁ』
それを成したのは、やたらと興奮しているユウユウだ。
身体をグネグネさせながら乙女の……発情したヤヴァイ顔をお見せになられている。
ヤヴェよ、ヤヴェよ。
彼女は鬼力の特性【重】を用いて重力の渦を作り出し、アンコウ鬼をそこに拘束したのであろう。
しかし、彼女の力が強大であっても、それは完全覚醒には至っていない。
長時間の拘束は不可能であろうと思われる。
そして、シグルドの気配がヒュンとした気もする。
ユウユウが苦手なのだろうか。
まぁ、あそこまでグイグイ来られると「ひえっ」となるのも分かるというものだ。
その時、スピーカーから騒がしい声が聞こえて来た。
『……ファケルっ! しっかりなさい!』
ヒュリティアの檄が飛ぶ。
どうやら、ファケル兄貴はまたノイズとやらに悩まされているもよう。
『ちぃ……なんだっていうんだ? 早く来い……だと? どこだよ』
うわ言のように聞こえるファケル兄貴の声。
ル・ファルカンはふらふらとアンコウ鬼の正面に行ってしまう。
『何してるんやっ!? そっちに行ったらあかんっ! あかんって!』
ぽっちゃり姉貴の必死の呼び止めも聞こえていないのか、ル・ファルカンはいよいよアンコウ鬼の正面へと。
「ゴォォォォォォォォォォォォォッ!」
吸い込み攻撃。
今の状態のファケル兄貴がそれを避けれるわけもなく。
「ファケル兄貴っ!」
俺たちの悲鳴と共に、その青い機体は大きな口の中へと吸い込まれてしまったのであった。




