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181食目 禍々しい花

 他者を顧みない自己中心的な存在、そうとしか取れないような巨大な赤黒い花。

 それは醜悪さの中に人を魅了するであろう美を兼ね備えていた。


 甘ったるい香りを周囲に撒き散らすそれの花弁はなびらには女の裸体。

 髪の色は花弁同様に赤黒い。

 どうやら、あれも花の精霊のようだ。


 だが、どうしようもなく邪悪な感じがする。

 何よりも隠そうとしない鬼力。

 間違いない、あれは鬼に堕ちている。


「鬼だ」


 自然と桃力が溢れ出て来る。

 桃使いの使命を果たせ、と言っているかのような力は激流となって俺を動かす。


 花の鬼と精霊戦隊はどちらともなく動き出した。


 精霊戦隊の中で主戦力になるのは当然ながら俺……ではなくヒュリティアである。

 俺の役割は桃力の供給と精霊魔法になろうか。


 俺とヒュリティア以外は桃力を扱えないので、本物の鬼力を前にしては殆どダメージを与える事は不可能。

 俺の桃力を供給したとしても威力は半減してしまうはずである。


「にゃおぉぉぉぉぉぉぉっ!」

「うにゃぁぁぁぁぁぁぁっ!」


 やはりというか、にゃんこびとたちが真っ先に鬼花に突撃する。

 肩叩き棒というのは、やはりシュールだ。


 彼らは光素を身に纏って武器兼防御用としているようだが、やはり鬼力を前にしてはそれも効果を発揮できていない。

 何か固いものを叩いているかのような音を出して拳を弾かれる。


「桃仙術っ【桃光付与】!」


 というわけで、精霊戦隊に桃力を供給。

 鬼力の反則防御を突破する力を分け与える。


「こいつはいったい、何者にゃ~んっ」

「物凄く悪い子だってのは分かるよっ」


 鬼花の根元から棘の生えた根が飛び出してくる。

 それはミオとクロエの服を掠め、服をズタズタに引き裂いてしまった。


 しかし、そこはにゃんこびと。

 驚異的な反射速度で体には触れさせていない。


 用を成さなくなった服を引き千切り、迷うことなく捨てるミオ。

 引き締まった肉体が露わになる。


 同様にクロエも……って、女の子っ。


「おいぃ、女の子がパンツ一枚とか危険がデンジャラス」

「パンツだから平気だもんっ」


 違う、そうじゃない。


「ミオも何とか言ってやるんだぁ」

「発情期が来てないから大丈夫にゃ」

「おまえもかっ」


 だめだ、こいつら。

 もう花鬼の退治に集中しよう。


「くそっ、なんだこの化け物はっ」


 パンパン、と破裂音を鳴らしながら、ファケル兄貴はマグナムリボルバーを花鬼に打ち込む。

 見事な射撃の腕前だが、銃―――特に物理弾は桃力の乗りが悪い傾向にある。

 逆に弓矢などには相性がいいのか、桃光付与であるなら八割くらいは乗るもよう。


 それでも、花鬼の変幻自在に動く蔓程度なら命中すると千切り飛ばすことができた。

 直ぐに生えて来るけど、蔓。


 ヒュリティアも本物の鬼を前にしては幼女のままいられないようで、現在は大人の姿になって黄金の弓を連射している。

 こちらだけは、もう別の何かだ。次元が違う。


 しかし、その一撃を逞しい根で叩き落とす花鬼は、外見からは想像できないほどのパワーファイターであることを窺わせる。

 近づけば危険、そう判断したからこその射撃戦を選択したのか。


「……ちっ、受けが完璧だわ。このままじゃ消耗戦になる」


 そうなると物資に限りのある俺たちが不利だ。

 早急に対策を講じなければなるまい。


 であれば、俺も援護に徹していないで攻撃に加わるべきだ。

 治癒魔法もない今、被害を被る前に速攻撃破が好ましいのだから。


「来たれっ、海の精霊マッソォ!」

「マッスルフェスティバルっ」


 なんだかんだ言って主戦力になりつつある筋肉モリモリの変態マッチョマンを呼び出す。

 精霊は魔法を使ってなんぼであるのだが、こいつはポージングするだけでマジックなので問題はなかった。


「き、キモい~っ!?」


 始めて花鬼が悲鳴を上げた。

 マッソォのイカれた筋肉の発達ぶりに顔を青褪めさせたのである。


「フロントリラックス」


 ピクピクと大胸筋を動かす様は狂気の極み。

 花鬼はまるで乙女のように怯える。


「フロントダブルバイセップスっ!」

「ぴぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!?」


 いよいよマッソォのポージングが本格化し始める。

 しなしなと萎れる花弁は花鬼のメンタルと連動しているもよう。


「今にゃ~ん!」

「ボコれ、ボコれ~!」


 今が好機と寄って集って花鬼をボコボコにする容赦のなさは流石だと感心するが褒められたものではない。


 でも、鬼を退治するためだから心を鬼にするのも多少はね?


「ましゃきゃどこー、いくでごじゃりゅっ」

『いざっ』


 ここでザインちゃんがマサガト公との合体技を披露。

 彼の刀に雷を纏わせて斬撃と電撃を同時に喰らわせるという荒業にて花鬼を追い詰める。


 割とあっさりと倒せるかな、と考えていたのだがここで花鬼は奥の手を実行に移した。

 メリメリと大地を引き裂き、這い出て来る花鬼の本体。

 それは巨大な球根だった。


 どうやら、花の部分はただの飾りだったようで、あまりにも醜悪な球根を前にしては花の部分の美しさもほぼ無いも同然な心境に追いやられてしまう。


「……ぶっさ」

「きぃゆぇあぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」


 ヒュリティアの心無い言葉に花鬼が咆える。


 これで桃力を自力で発生させれるのだから、ある意味でヒュリティアは規格外の存在だと思うんだっ。


 ヒュリティアの挑発によって出鱈目に根を振るう花鬼は、しかし殆ど狙いが定まっていない。

 でも、露骨にマッソォだけは避けた。

 どうやら、根で触れるのも嫌なもよう。


 防御には使えるが、攻撃にはもう使えないようなので、他の精霊を呼び出す。


 少々、精霊ちからを多く消費するが、ここで仕掛けるとしよう。


「来たれ、雪の精霊・お雪っ」


 唐突に冷風が一ヶ所に集まり、そこに際どい真っ赤なハイレグを身に纏った雪女が登場する。


 お雪さん、あんたもか。


 暑いから仕方がない、という理由は全てに置いて許されるのであろう。

 でも、仕事はしっかりとしてもらいます。


「精霊魔法、【凍れる吐息】っ!」


 お雪さんが手のひらを口元へと添えて、ふぅと息を吹きかける。

 するとそれは彼女の手の平の上で踊り、やがて勢いを増して荒れ狂い始め、いよいよ以って花鬼へと襲い掛かった。


 同時にごっそりと精霊ちからが持ってゆかれた感覚を覚える。

 これが、季節限定の精霊の力を使用した代償というやつなのだろう。


 しかし、この密林でチゲの能力を使うのは危険だ。

 同様にヤドカリ君も近くに水場が無いため物理攻撃オンリーになってしまう。


 ……あっ。


 アクアドロップを使って水を発生させればよかったじゃないですかやだー。


 今更思い出しても、もう遅い。

 このままゴリ押して差し上げろっ。


 パキパキと凍り付く花鬼。

 この極寒の吐息にはしっかり桃力が乗っているので、鬼力での反則防御は通用しない。


 この戦いで唯一の救いであったのは、花鬼が桃使いとの戦いを全く理解していなかった事だろう。

 きっと、桃使いと戦うのが初めてだったに違いない。


「よしっ、完全に凍り付いたっ! 昇天させて差し上げろっ!」

「「「わぁい!」」」


 パンッ!


 しかし、ここで空気の読めないファケル兄貴がマグナムの一撃で花鬼を粉砕してしまいましたとさ。


「……え? 俺が悪いのか?」


 じと~、と精霊戦隊に睨まれるファケル兄貴はおろおろと動揺し、俺に救いの眼差しを向ける。

 俺は「ぷひっ」とため息を吐いた後に勝利を宣言したのであった。




 バラバラに砕け散った花鬼の肉体は桃色の粒子となって天に昇ってゆく。

 完全に鬼力の束縛から逃れられた証であろう。


「無事に退治できてよかったんだぜ」

「……それよりも、問題が起こったわね」

「ふきゅん?」

「……精霊が鬼に堕ちる、ということが分かったじゃない」

「あっ」


 これは言われてみれば大問題だ。

 今までは鬼に堕ちるのは感情を持つ生き物ばかりだった。

 なので精霊のような割と能天気な存在が鬼に堕ちる、など思いもよらなかったのである。


「それにしても、なんであの花の精霊は鬼に堕ちたんだろう?」

「……分からないわ。ただ、この世界に何かが起こりつつあるのは確実ね」

「むむむ」


 確かめようにも術がない。

 それを理解した俺たちは、取り敢えず報告を行うため、花の精霊の下へと引き返したのであった。


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― 新着の感想 ―
[良い点] パンツじゃないか・・・パンツでも問題ないだと! 真っ赤なハイレグ雪女って新しすぎじゃね?
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