180食目 百果実を求めて
取り敢えずマフィアを潰した俺たちは百果実の聞き込みを再開。
突然、、マフィアたちの姿が見受けられなくなったことに住民たちは困惑するも、速報でマフィアたちが壊滅したことを知ると大歓喜した。
やはり、相当に嫌われていたもようだ。
俺たちがそれを成した人外集団なのだが、いろいろと暴露すると面倒臭いのでだんまりを決め込む。
ここには、百果実を求めてやってきたのであって英雄になりに来たわけではないのだ。
やがて、俺たちは百果実の有益な情報を得る。
それは路上で物乞いをしていた老人からの情報だ。
彼はかつて冒険家だったらしく、俺たちと同じく百果実を求め、しかし遂に活動資金が底を尽いただけではなく体を壊してしまい、夢半ばにして引退せざるを得なくなったそうだ。
「百果実は【ニューズの密林】の奥底にひっそりと生えると言われておる」
百果実の事を聞く前はよぼよぼの物乞いだった彼は、かつての青春を取り戻したかのような目の輝きを見せた。
彼に幾ばくかの情報量を手渡し、俺たちはニューズの密林を目指す。
密林とあって流石に軽装での侵入はおこなわない。
しっかりと動き易い服に着替えてから突入する。
久しぶりの桃色ツナギだ。
「ここが、ニューズの密林か」
鬱蒼と茂る木々と密林独特の蒸し暑さに、俺たちは探検の困難さを理解する。
しかし、この程度で諦める俺たちではない。
道なき道を突き進む俺たちは、いよいよ第一珍獣と遭遇した。
「な、なにぃ……こいつはっ」
「はむー」
密林の奥、といっても比較的入り口付近で野生のハムスターを発見する。
といっても、そいつらはやたらとカラフルな毛色をもっており、中には虹のような模様のファンキーな個体も。
「……ハムスターね」
「すっげぇ色なんだぜ」
「……毒を持っているってアピールなのかも」
だが、彼らは一切の毒を持っておらず、そして警戒心も無いという。
やたらと引っ付いて来るカラフルハムスターを黙らせるために桃先生に協力を仰ぐ。
ハムスターどもは桃先生にまっしぐら、カリカリシャクシャクと夢中になっている内に辛くもその場を後にする。
「強敵だったんだぜ」
「踏み潰してやればよかっただろ」
「ファケルさん、ハムスターが可哀想だよぉ」
「……残酷ね」
「とんでもないよっ、食べ物なのにっ」
「「えっ?」」
「えっ?」
女性陣の非難を受けるファケル兄貴であったが、クロエの発言によってそれは逸れた。
どうやら、にゃんこびとは動くもの全てを食材として認識しているもよう。
マジで震えてきやがった。
更に奥へと進む。
すると今度は首の長いオランウータンを発見。
これがまたキモイ。
「変なサルなんだぜ」
どうやら、高い木の果物を食べるために進化したらしい。
素直に木を上ってどうぞ。
途中、休憩を挟む。
水分補給と栄養を取るために桃先生を召喚。
すると、その香りに誘われたのか、やたらと羽が短い小鳥がトテトテと草陰から姿を現した。
「ふきゅん、なんだこいつはぁ?」
緑色の饅頭に鳥の足をくっつけたかのような小鳥にはつぶらな目と小さな嘴。
彼らはそれを寄こせと「ぴぃぴぃ」鳴きまくる。
「ただで食べれると思ったら大間違いだぁ! いざ、尋常に勝負っ」
数の暴力で負けました。
今は一心不乱に桃先生をむしゃむしゃしている。
「ぴぃ」
「そっかー、美味しいか」
どうやら、この鳥も人を怖がらないようだ。
エリンちゃんやザインちゃんにも緑ダイフク鳥は纏わり付き、まったりとした表情を見せている。
しかし、ヒュリティアとファケル兄貴には一切纏わり付いていない。
にゃんこびとたちも同様だ。
理由としては、警戒心は無いが危険察知能力に優れた鳥である、といったところであろうか。
無害そうな者には近づき、危険人物には近寄らないを地で行っているもよう。
まったりとした時間を過ごした俺たちは、緑ダイフク鳥たちに別れを告げて更に密林の奥へと進む。
途中、屈強な緑の毛を持つ三メートルほどの熊さんに遭遇。
彼は大きく手を広げて威嚇してきたが、ヒュリティアの威圧を受けてあっさりと腹を見せて降伏。
長寿タイプであることを見事に示したという。
「そろそろ、日が暮れてきたねぇ」
「キャンプの準備をするかぁ」
少し開けた場所で焚火を起こす。
その上でごろごろ野菜と果物のトマトスープを作成。
これはオンドレラ島の郷土料理とのこと。
百果実の聞き込みついでに教えてもらった。
「変わった味なんだぜ」
「甘じょっぱいな」
文句を言う割に、もりもりとスプーンを動かすファケル兄貴は、お代わりまでしたのであった。
この甘じょっぱいスープは栄養もたっぷりで、淡白な味のくそ硬いパンを浸して食べるのがお約束となっているもよう。
このスープ用にわざわざ硬いパンを作る、というのだから愛されぶりが分かるというものだ。
食事を終えたらすぐに寝る。
通常は寝ずの番を設けるのだが、ザインちゃんには寝る必要のないマサガト公が憑りついているので彼にお任せする。
そして、目が覚めると辺り一帯が血の海に。
「おっふ」
「獣は斬り応えが無いで候」
狂暴な肉食獣が襲い掛かってきたようだが、その全てが首を刎ねられて絶命しておりました。
もちろん、これらはスタッフが美味しくいただきましたのでご安心ください。
更に奥へと。
ここからは物乞いの爺さんが侵入を断念したという区域となる。
確かにここより先から禍々しい空気を感じ取ることができた。
常人であれば侵入を断念して当然であろう。
本能に直接訴えかける恐怖はしかし、イカれ野郎の俺たちには通用しない。
恐怖を暴力で恐怖させるという矛盾をまざまざと見せつけて、我ら精霊戦隊は奥へと足を踏み入れる。
最早、獣たちですら侵入を拒むであろうそこは植物たちの楽園と化していた。
「うん? 呼んでいる?」
「あっ、エルティナちゃんも聞こえる?」
なんだか、かすかに俺を呼ぶ声が聞こえて来た。
どうやらそれはエリンちゃんにも聞こえているようだが、ヒュリティアたちは何も聞こえないという。
「……油断しない方が良いわね。精霊の気配が異常に濃くなってる」
ぴくぴく、と長い耳を動かし情報を収集するヒュリティアは、その眼差しを密林の奥へと定めた。
どうやら、ピクニック気分は終了させる必要がありそうだ。
更に奥へと進む。
今までは俺たちを拒んでいたかのように伸びていた植物たちが自ら避けるかのように割れて道を作り出す。
いよいよ以ってこれは何かあると緊張が高まる中、それは姿を見せた。
それは、人のサイズほどもあろうかという一輪の花。
これを目の当たりにしたファケル兄貴はギョッとした表情を見せる。
「人間が花に寄生されているのかっ!?」
「……ようこそ、ファケル。人外の領域へ」
「あ?」
「……この娘、精霊よ」
ヒュリティアのいう事は正しい。
何故ならば、彼女の本体ともいえる花は、彼女の足元の小さな赤い花だからだ。
しかし、それなる花は元気が無さそうに項垂れている。
「ようこそ、冒険者よ。わたしは花の精霊にしてニューズの密林を管理する者」
「精霊戦隊のエルティナだ」
「突然で申し訳ないのですが、一つお願いを聞いてはくれないでしょうか?」
突発するクエストは冒険者の特権、とでもいうかのようにほぼ半裸の赤髪の女性は精霊戦隊にクエストを提示した。
それはこの奥に生え出した有害な植物を始末してほしい、というものだ。
「ここ最近になって、急にそれなる植物が生え出てきたのです。明らかに自然発生ではありません」
「ここ最近?」
「だいたい、2~3ヶ月くらいでしょうか」
「むむむ」
帝都ザイガが陥落した時期と重なる。
偶然だと思いたいが、ここから奥より確かに、陰の気配をビンビン感じ取ることができた。
「分かった。その植物を退治してやるんだぜ」
「ありがとうございます。このままではこの森の植物たちが全て枯れてしまうので、なんとかお願いします」
こうして、俺たちは花の精霊よりクエストを受注、更に奥へと向かう。
「今の娘が精霊? にわかには信じられんな」
「……普通の娘が、こんな森の奥深くに一人でいるわけないでしょ」
「う~ん」
いまだに半信半疑のファケル兄貴は腕を組みながら、うんうん唸っていた。
花の精霊が言うように、進むにつれて植物たちが枯れて無残な姿を晒し始める。
同時に濃くなる陰の気配は、いよいよ以ってその姿を現すのであった。




