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17食目 遭遇

 時間は過ぎて、出撃の時間となった。


 しっかりと準備は整えている。

 長期戦に備えて、主に食い物を充実させてきた。


 武装? 何それ美味しいの?


「集まったのは十五機。内、十位内ランカーは五名か」


 モヒカン兄貴が、この数に不満を吐いた。


 機獣は一体かもしれないが、もしかすると、徒党を組んでいる可能性もあるという。

 その場合、戦力比でこちら側が不利になるというのだ。


 尚、戦力比は、機獣5に対して戦機1、というのだから世知辛い。

 俺は当然、9くらいになっていいはずだ。


 ん? ヒュリティア? あぁ、90だ。


 こんなんじゃ勝負になんないよ~?


「どうした、エルティナの嬢ちゃん。震えちまって」

「ヒーちゃんとの戦力比について考えてた」

「あぁ……銀閃な。当然だが、こちらの主力だ」


 モヒカン兄貴は紺色のアインリールに寄り掛かって、そう答えた。


「機獣と交戦状態に入ったら、いかに銀閃を守るか、が勝負の分かれ目になるだろうな」

「あぁ、彼女のスナイパーライフルは最新型だったか?」

「アマネック社製の45mm狙撃銃レイタックだ。一度、それのデモンストレーションを見たが……機獣の装甲を一発でぶち抜く威力だったぜ」


 ざわざわ、と騒めきだす戦機乗りたち。


 そりゃあ、借金六億八千万やで? それくらい凄くなけりゃあ泣けるぜ。


「……機獣は私が仕留めればいいのね?」

「そうしてくれ。俺たちも、現時点で購入できる最高の武器を購入してきたが、いかんせん金が無いから中古を買ってカスタムするしか方法がないのさ」

「カスタムは確かに威力が上がるが、デメリットも発生する。確実じゃない」


 戦機乗りたちはスキンヘッド兄貴の説明に頷いた。


 なるほど、と俺も頷いておく。

 もちろん、理解して頷いているわけではない。


 そして、俺のエリン剣はカスタマイズが絶望的という。

 あの塊をどうにかできたなら、相当な人物やぞ。


「囮なら俺が受け持とう。軽量戦機だから引き付けられるはずだ」

「おう、ロイスの【ブロウリヒト】なら、それもできるだろうさ」


 囮役を買って出たゴーグル兄貴はロイスという名前で、Eランク4位の男だ。


 彼の愛機はブロンズクラスのTAS‐027・ブロウリヒト。

 この機体はブリギルトの後継機であり、その機体の軽さと運動性が売りとなっている。


 その分、パワーが無く、接近戦を不得手にしていた。

 また、最大光素量も低く、長期戦に向かない機体だ。


 中距離戦を得意とし、実弾兵器を手に相手を翻弄する戦い方が基本となるそうだ。


 俺では絶対に扱えない機体となろう。


「あたしの【ガントライ】と、レダムのアインリールは、支援砲撃に専念すればいいんだね?」

「まぁ、そうなるよな」


 スキンヘッド兄貴の本名はレダムという。

 そして、彼の愛機はアインリール砲撃型。右肩のぶっとい大砲がイカす機体だ。

 それ以外は、追加装甲を取り付けたごっついアインリールといったところである。


 赤髪のワイルド姉貴は【ミーシャ】といい、Eランク8位の女性だ。

 彼女の駆る赤い【TAS‐053・ガントライ】はアイアンクラスの機体であり、非常に独特なシルエットを持ていた。


 頭部、両腕が大砲になっており、脚部は三輪車となっているのだ。

 要は移動砲台に近いコンセプトの戦機であることが窺える。


 一応は跳躍とかもできるらしいが、ワイルド姉貴曰く、お察し願う、との事。


 尚、ワイルド姉貴はムチムチぼいんのワイルドな服装であり、モザイクでも掛けた方がいいんじゃないかと心配するほどにきわどい。

 いったい、彼女はどこを目指しているのだろうか。


「じゃあ、俺は遊撃かな? どっちでもこなせるしな」


 モヒカン兄貴こと【ラルク】はアインリール改を愛機としている。


 これは、アインリールの後継機ではなくアップデート機という枠組みに入るらしい。

 若干の性能アップ以外はアインリールとなんら変わらない。

 しかし、アインリール自体が素直な操作性なので、信頼性は非常に高いとの事。


 遊撃を買って出ることから、モヒカン兄貴はどのレンジでも卒なくこなす出来る男であることが窺える。


 なんで、世紀末ルックにこだわっているのか……これが分からない。

 それさえなければ、女性にモテたであろうに。


「残りは援護射撃に徹してくれ」

「はい! スキンヘッド兄貴!」

「うん? どうした、エルティナ」

「エルティナイトに射撃兵装はありませんっ!」

「ばかやろう」


 怒られた。ふぁっきゅん。


「取り敢えず、おまえは機獣に標的にされないように、こそこそしておけ」

「分かるましたっ!」


 そんなのに従うわけないだるるぉ!

 エルティナイトの活躍無くして勝利などあり得ぬぅ!






 というわけで、作戦開始。

 機獣が目撃されたという荒野地帯にまで移動。


 とここで妙な気配を感じ取る。妙に、ぞわり、と来る感覚だ。

 同時に俺の奥の何かが蠢きだした。


「ヒーちゃん、気を付けた方がいい。何かいる」

『……レーダーには何も反応してないわ』

「勘」

『……全機に通達、周囲を警戒』


 即座に信用してくれるヒュリティア愛してる。


 確かにレーダーには反応はない。しかし、感じるのだ。


 圧倒的な【殺意】を。


 負の感情を。


 陰湿な気配を。


「っ! 魔法障壁っ!」

「あいあ~ん!」


 何かが爆ぜた。


 瞬間、俺はエルティナイトに魔法障壁を展開させることにより、味方機を守る。


「このエルティナイトを差し置いて味方を狙うとか卑怯でしょ。機獣きたない、さすが機獣きたない」


 黒煙が晴れた向こう側。

 低い唸り声を上げながら、ゆっくりと近づいてくる鋼鉄の獣の姿。


 その数……ざっと二十機。


『マジかよ……!』

『数が多過ぎるっ! この戦力じゃ無理だっ』

『いや、それよりもだ! レーダーに反応がないだとっ!?』


 戦力比で劣る上に数でも負けているという現実に、戦機乗りたちは明らかに動揺した。

 真っ先に逃げ出す十位外の戦機乗りたち。


「おいぃ! 魔法障壁の範囲から出るんじゃぬぇ!」

『何が魔法だ! 現実を見やがれっ!』


 忠告を無視した者の末路はいつだって残酷である。

 即座に背後を取られて、機獣に貪り食われてしまった。


「あれは、戦機を食っているのか?」

『いいや、中の人間を食ってんだよ。あいつらの好物は人間の光素だ』

「えげつない、なんてもんじゃあねぇな」


 ふつふつ、と怒りが湧き上がってくる。

 それと同時に【大自然の絶対なる掟】を呼び起こされた。


「上等じゃねぇか。俺に対して、弱肉強食の掟を付きつけてくるとはよぉ」


 であるなら、喰らってやる。勝者となって、鋼の獣たちを。


『一気に数が減っちまった。どうする?』

『どうするったってなぁ?』

「決まってる、あいつらは一匹残らずぶっ壊す!」


 スキンヘッド兄貴とモヒカン兄貴の通信に介入。徹底抗戦を訴える。


『……エルの意見に同意するわ。どの道、こいつらは片付けないとキアンカに被害が出る』

『流石にランク1位は言う事が違うわね』

『今回ばかりは生きて帰れるかねぇ?』


 ワイルド姉貴とゴーグル兄貴も腹を括ったようだ。


「ならば、ユクゾッ」


 ここに戦機6機と機獣20機の戦いが始まった。


 この絶望的な戦力差をひっくり返してこそ、ナイトとしての格が上がるというもの。

 精霊戦機エルティナイトの力を見せてやる。


 俺は問答無用で、鋼の獣レ・ダガーの群れに突撃した。

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― 新着の感想 ―
[一言] なんせこの珍獣様・・・ 「バケモノでも食う」ヤツだから・・・
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