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178食目 空の向こう側

 翌日、早速聞き込み開始。


 大人たちは置いてきた、この聞き込みには付いて来れそうにないから。


「二日酔いどもめ、ふぁっきゅん」

「……早く治癒魔法が使えるようにしたいわね」


 まったくその通りであるが、その治癒の精霊がまったく見当たらないという。

 近くに居そうな気配がするが、そこへ向かっても姿が見当たらない。

 まるで、煙に巻かれたかのように姿を消してしまっているのだ。


 これは、果たして俺が治癒の精霊に嫌われているからであろうか。


「まぁ、二日酔いはチゲ鍋でも食べさせれば一発だぁ」

「ひえっ、この暑い国でまたあれを?」

「……暑いからこそ、意味があるのよ。エリンちゃん」


 本日も快晴なり。

 クッソ暑くなることが予想される。


 したがって、俺たちも薄着になって行動するだろうな。

 具体的には水着姿。


 いつでも海に入って体を冷やす準備は万端である。


 ここの住民たちも、そのようにしているのでまったく問題はない。

 寧ろこれこそが、ここの生活スタイルなのであろう。

 だから、普段から素っ裸なのだと思う。


 それはさて置き聞き込み開始。


 おっぱいぷるんぷるんなお姉さんに突撃インタビュー。


「おっぱい!」

「……ぷるんぷるん」

「いえ~!」


 ノリが良いお姉さんで大変喜ばしかったです。


「おねーさん、ミラージュってお魚を知ってる?」

「知ってるよ。この大空のどこかを今も泳いでいる虹色の鱗を持つ魚、それがミラージュ」

「うおぉ、おねーさんは見たことがあるの?」

「うん、子供の頃、君くらいの時かな。一匹だけ、暢気に泳いでいた子を見たよ。だ~れも信じてくれなかったけどね。だから、それっきりさ」

「おぉう、ミラージュは確かにいるんだっ」


 のっけから貴重な話を聞くことができた。

 ミラージュは、この空のどこかに確かにいて虹色の鱗を持つという。

 恐らくはその虹色の鱗が迷彩の役目を果たすのであろう。


 となると、ミラージュを見つけるのは相当に困難となろうか。

 でも、俺の辞書に諦めるという文字は行方不明。

 必ず探し当ててやるだろうな。


 その後も原住民たちにミラージュを聞いて回る。

 大半はヤーバン共和国の英雄物語を語った。


 その英雄は剣を片手に全裸でミラージュにまたがり、国民を弾圧した悪王をやっつけたというやべー奴だ。

 筋肉モリモリの変態全裸が輝く魚にまたがって襲い掛かってくるなんて恐怖以外の何ものでもない。


 でも、この国の英雄なんやなって。


「う~ん、英雄物語からしてミラージュって相当に大きいのかな?」

「大人の男の人が乗れるくらいだしね」

「……物語を鵜吞みにするなら、それなりの知性を持っているのかもね」


 となるとミラージュゲットは相当難しくなろうか。

 しかし、この程度で諦める俺ではない。


「話を聞く限りなら、この空の上を泳いでそうだけど」

「でもミラージュの死骸って普通の魚の大きさだった、って言ってたよね」

「それな~」


 エリンちゃんが言っていたように、ミラージュの死骸は片手で持てる程度の大きさであったらしい。

 それでは英雄物語のミラージュの巨大さは作り話であったのだろうか。


 そう断定するには情報が足りなすぎる。


 うんうん、と頭を悩ませる俺たちの下に日傘を差しながら優雅に歩いて来る者がいた。


「あら、精が出るわね」

「ユウユウ閣下」


 昨日、あれだけガッツリと飲んで唯一、二日酔いになっていない大人だ。

 どうやら彼女も散歩ついでにミラージュの情報を聞いて回っていたもよう。


「私が聞いた話では、ミラージュは天空に住まう、というものだったわ」

「それっぽい話は俺たちも聞いたんだぜ」

「うふふ、でしょうね。なら、こうも考えられないかしら? ミラージュは雲の上、成層圏を泳ぎ回っている、と」


 ユウユウ閣下の淑女な微笑に、俺たち、ちんまりエルフズはピコン、と大きな耳を立てた。


「その可能性は否定できないっ」

「……寧ろ、それをどうして思いつかなかったのか」

「さしゅがは、ゆーゆーどにょでごじゃるっ」


 だいぶミラージュの情報が集まって来た。

 あとはその成層圏にどうやって行くかだ。


 行くこと自体は簡単なのだが、そのためにはルナ・エルティナイトにならないといけない。

 しかし、現段階では竜の枝・シグルドが力を貸してくれないと、精霊合体ができないのだ。


 鬼退治の名目ならともかく、食材集めでは力を貸してくれないのは目に見えている。

 であるなら、他の移動手段が必要になろうか。


「今回ばかりはエルティナイトもお留守番かなぁ」

「あいあ~ん」


 アイン君も「そうかもね」とぴょんぴょん俺の頭の上で飛び跳ねて肯定した。

 流石に成層圏まで魔法障壁の階段を作るわけにはいかない、というか作れない。

 したがって、他の移動手段を考える必要があった。


 となると、超万能汎用機マネックの出番となろうか。


「確か、【フライトユニット】を作ってたよな?」

「うん、設計図を見せてもらったけど、凄かったよぉ」

「エリンちゃんは戦機の図面を見て理解できるのかぁ」

「そりゃあ、戦機工場で長年、戦機を見てきたんだもの」

「それもそうか」


 でも、成層圏に辿り着けるかどうかは別問題らしい。


「ロケットブースターが必要になるね」

「お値段は?」

「軽く億になると思うよ」

「耳が腐るんだぜ」


 現実的じゃ無さ過ぎる。


 これでは破産待ったなしですぞっ!


「ままうえどのっ、せっちゃたちには、べちゅのほーほーが、ありまちゅるっ」

「むむむ、聞こうじゃないか、我が娘よっ」

「せーれーに、たのむでごじゃる」

「精霊に?」

「……となると風の精霊か重力の精霊かしら?」


 ここで聞き手に回っていたユウユウ閣下が口を開いた。


「あら、重力なら私、操れてよ?」

「……そういえば、ユウユウの鬼力の特性って【重】だったわね」

「そう、私の鬼力は重力を操る。今は十分な力を発揮できないけど、戦機の一体くらいは制御できてよ?」


 こうなるとマネックでの成層圏到達も現実味が帯びてきた。

 残る問題はマネックのフライトユニットだ。


 ぶっちゃけ、まだ未完成なのである。


「ここまで話が煮詰まったのなら、あとはヤーダン主任と相談になるかな?」

「……マネックも弄る必要があるかも」


 そうなると雷蕎麦と水豚で得た収入が吹っ飛ぶ可能性が微レ存? というか確定?


「マジで震えてきやがった」

「ままうえどのっ、しっかりしゅりゅでごにゃるっ」

「あい~んっ!?」


 教えてくれ、俺は後、どれくらい借金を返せばいい。

 H・モンゴーは答えてくれない。


 あ、ちなみに奴はアロハシャツを着こんで浜辺で光素製のトロピカルジュースを飲みながらバカンスを満喫中だ。

 もう、普通の機械人には戻れないとのこと。


 ……ふっ、堕ちたな。


「まぁ、とにかくヤーダン主任と相談しよう」

「……そうね。戦機に関しては彼女に任せるより他にないわ」


 こうして、だいたいの話が纏まった俺たちはクロナミへと帰る。

 当然そこには生きた死体と化しただらしのない大人たちがいるわけで。


 では、このために下準備をしていたチゲ鍋を仕上げよう。


 いつもの材料にここの名産であるポテデや、パインアップルのような味がするお魚【パインアップウオ】の切り身をドバーっと投入。

 そこに追加でエデンテルの特産品【ヒリヒリココナッツ】という辛いココナッツを隠し味に。


「ひえっ、こんなの食べたら死んじゃうよ」

「へーき、へーき、三途の川が見える程度だから」


 味見? するわけないだろいいかげんにしろっ。




「みぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

「ほぎゅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ!?」

「らめぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?」


 青空に吸い込まれるは二日酔いゾンビたちの悲鳴。

 のた打ち回るそれらを捕獲しチゲ鍋を無理矢理口に突っ込むユウユウ閣下はいよいよ本領を発揮」


「うふふ、さぁさぁ、たぁくさんあるわよ~?」

「た、助けてっ!」


 ど親切という名の【ドS】は情け容赦なくチゲ鍋を減らしてゆく。


 そんな中、当然の権利のようにせっせとチゲ鍋を口に運ぶヤーダン主任は筋金入りだ。


「はふっ、はふっ! んぐんぐっ! ふほほー! この甘辛さ、酸味のバランスが堪らないっ!」

「〆はうどんとご飯のどっちがいい?」

「ご飯が良いですねぇ」


 残ったスープも全部平らげた、というかねじ込まれて大人たちは無事? に二日酔いを脱したのでありましたとさ。


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― 新着の感想 ―
[一言] どんだけ辛い物食べても戻らないヤーダン主任 ヤーダン「昔の癖で多く食べちゃう」 珍獣「それは本能だ」
[一言] モンゴーのヤツ… 完全に、堕落したな…
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