177食目 エデンテル
エデンテル……そこは【この世の最後の楽園】と称されるほどの美しい自然に囲まれた島である。
極限まで人工物を排除した街並みは中世ヨーロッパよりも以前の生活を住民に強いた。
しかし、そこに住む者たちはそれを当然のように受け入れ、自然と共に生きている。
木の枝を加工もせずに大地に突き刺して壁とし、屋根は藁で作ったそれは原始の生活を思い浮かばせる。
しかもそれらは大地に根を張り、中には巨大な樹木として再誕しているものまであった。
一応は町との触れ込みであるが、どう見ても村にしか見えない。
しかし、観光客が沢山いるお陰で人を見ない日は無いもよう。
一応はコンビニエンスストアっぽいのはあるが、それすらも掘っ立て小屋みたいな施設となっている。
尚、ホテルなどは一切なく、そこら辺の空き家を勝手に使ってくれ、という超豪快な観光施設となっていた。
このことからエデンテルは観光業をおこなっていない事が分かる。
彼らは本当に自然と共に生きているだけなのだ。
「ここが、エデンテルかぁ」
「……全裸の人もいるわね」
「これは、俺も裸族になれってことかぁ!」
裸族の血が騒ぐ。
エデンテルは老若男女、結構な人数、というか住民の大半がすっぽんぽん。
パオーンさまや、パイパイなんかも見放題だ。
でも、エキサイティングしていない者が大半であるので、これは演出ではなく日常なのであろう。
流石は常夏の島である。
「ここの空にミラージュがいるって話だが……」
「見上げても青空しか見えないんだぜ」
ファケル兄貴と共に空を見上げる。
しかし、そこには吸い込まれるかのような澄んだ青空しかなかった。
その下にあるアクアブルーの海は透明度が高く、様々な海で生きる者たちの姿を肉眼で確認することができた。
そこに全裸で突撃する現地住民たち。
きっと素潜りでの漁をおこなうのであろう。
ヤングなボーイとガールが色々な個所を、ぷるんぷるんさせながら獲得した獲物たちを見せ合っている。
この光景は当然ながら撮影すると、ほぼモザイクで何がなんだか分からなくなるもよう。
きちんと見たい人は現地まで来てどうぞ。
当然の権利のごとく、飛行機の発着場は無いので船でしか来れません。
「自然と共に生きておるのう」
「みんな裸で恥ずかしくないのかなぁ?」
「寧ろ、裸である方が普通なんじゃろ。わしらの普通と同じようにの」
全員、アロハな服装でエデンテルの大地に降り立つ。
一部は既に水着状態で降り立ち、GOの合図を待っている。
「それじゃあ、ミラージュの捜索開始なんだぜ」
「「「わ~い!」」」
ぶっちゃけ、初日はミラージュ捜索という名目のバカンスである。
ミラージュが絶対にいないであろう海に突撃するお子様たちと、くそエロお姉さま方。
生命いずる母なる海に抱かれながら、楽しいひと時を思い出に刻み込む。
「……エルは泳がないのかしら?」
「泳ぐんだぜ」
少しばかり母なる海に思考を巡らせていると、水着姿になったヒュリティアに促された。
なので速やかに服をクロスアウト。全裸モードへと移行する。
「時代が全裸に追いついたっ!」
「……追いつかないわよ」
「そこをなんとかっ」
「……流石は親子だわ」
癖になるからダメ、と桃色の水着を着せられました。
悲しいなぁ。
いつまでもしょんぼりはしてられない。
遊ぶのであれば全力で、ということでミオとクロエと合流。
ふっきゅんふっきゅん、にゃ~にゃ~しているとエリンちゃんがそこに加わり、続いてリューネちゃんがビキニ姿で……って、パオーン様はどこ? ここ?
「ぱ、パオーン様が行方不明にっ!?」
ぱんぱん、とリューネちゃんの股間を確認するもそれは存在していない。
これはミステリーですぞっ!
リューネちゃんは、いやんいやんと身体をくねらせる。
これではエンペラル帝国の未来が危ういっ。
「……古い武術には睾丸を体内に引き上げる技があるわ」
「マジか」
ヒュリティア曰く、それはコツカケと呼ばれる特殊な呼吸法で睾丸を体内に隠すという武技であるという。
格闘家たちはそれを用いて、少しでも弱点を無くそうとしたようだ。
それをリューテ皇子は筈かな時間で体得したという。
あれ? この子、天才なんじゃね?
「……あとは竿をテープでグイっと」
「物凄い執念なんだぜ」
「……本当は【性転丸】でまるっと性別を変えた方が早いんだけど、それだと面白くないから」
「うをぃっ、なんという危険なお薬を持っているんだぁ?」
その薬の名を耳にしたザインちゃんがビョクっと反応を示した。
そういえば、彼女が女の子になってしまった原因がこれだっけか?
今回は最初っから女の子として誕生していたが、いまだに男に未練があるのであろうか。
だが、これにもう一人反応する者が。
言うまでもなくヤーダン主任である。
「あの日対策に是非っ」
「……だぁめ」
「しょぼーん」
やはり却下と相成った。
お薬に頼るのはほどほどに、がヒュリティアの信条なので余程のことがない限り、彼女は薬を処方することはない。
というか、性転丸って全世界の性同一性障害者の救世主になるんじゃなかろうか?
そこんところ、どうなんだろう。
全力でバカンスをしたら明日から全力でミラージュ探しとなる。
ついでに百果実も見つけたいところだ。
周りが海に囲まれている、とあっては海の精霊マッソォやヤドカリ君も勝手に飛び出してまったりするのはやむ無しというものである。
海に向かってマッスルポーズを決めるマッソォ。
果たして、それに何の意味があるのか。
きっと、そっとしておくのが良策なのであろう。
ヤドカリ君は流れ着いたであろう流木の上にちょこんと乗り、押しては引く白波を眺めている。
その隣に現地のヤドカリが腰を落ち着けて共に波を眺めていた。
果たして、そのヤドカリには精霊であるヤドカリ君が見えているのだろうか。
「それ、焼けたんじゃない?」
「もういいんだぜ」
エリンちゃんの指摘に肯定する。
現在、俺たちはバーベキューコンロでエキサイティング中である。
水平線に沈みゆく太陽を見ながらの楽しいひと時は、きっと思い出に刻まれるに違いない。
アダルトな連中は早速、アルコールを摂取。
キンキンに冷えたビールを喉に流し込んで「くぅ~」と喘ぎ声を発している。
ここでヤーダン主任はノミユの町で購入したとっておきを開ける。
それは【唐辛子ビール】なる辛いビールだ。
これもキンキンに冷やして飲む物なのだが、爽やかな苦みと刺激的な炭酸を堪能した後、鮮烈な辛みが喉を刺激するという、ある意味で悪魔的な飲み物であるらしい。
興味本位でファケル兄貴もそれを口にしたが、どうやら癖になってしまったようで、後日ノミユに買いに行くかと意気込みを見せている。
俺たちはというとエデンテルでしか食べられない珍しい食材を堪能中だ。
その名も【ポテデ】。
これは、海のポテト、と呼ばれる黄色いヒトデだ。
基本的にヒトデは食用に適さない。
しかし、ポテデは焼くとジャガイモのようにホクホクとした食感となって美味しく食べることができるようになる。
現地住民も古くから慣れ親しんでいる食材の一つだ。
かつては主食としていた時期もあったが、ポテデの数が減ってきてからはそれを止めて、現在はヤシのような樹に生る実を加工したものを主食としているようだ。
「お魚、美味しいにゃ~ん」
「ミオ、さっき拾ってきた物を焼いてみよ」
「にゃっ、これのことにゃお?」
「タスケテー」
ミオが小さな籠から取り出した物、それは人語を喋るミル貝だった。
その名も【ヘルプミール貝】。
タスケテーと鳴く珍妙な貝類である。
しかし、にゃんこびとは一切の躊躇なくヘルプミール貝を網の上に乗せたという。
弱肉強食の世界は厳しいんやなって。
尚、お味の方は肉厚、且つジューシー。
罪悪感に苛まれても食べる価値は十分過ぎるほどにあった。
バター焼きがこれまた美味しく、ヘルプミール貝はあっという間に無くなってしまったとさ。
完全に日が暮れて夜の世界が訪れる。
自然と生きるこの島には電気というものが無い。
明かりを求めるのであれば焚火か松明が必要になるだろうか。
でも、星の煌めきだけで十分過ぎるほど物を視認することができるようだ。
もっとも、俺とヒュリティア、ザインちゃん。
そして、猫人間であるミオとクロエは暗視能力があるため、夜でもまったく無問題。
それに、人間たちも酒をかっくらってお眠の時間と相成っている。
まぁ、ヤーダン主任はまだ飲んでいるんですけどねっ。
「ミラージュってどんな魚なんだろう?」
「きっとトビウオの強化版なんだぜ」
焚火の前に座るエリンちゃんがそのような事を呟いた。
ミラージュの姿を想像して、ツインキャノンを搭載したトビウオの姿を思い浮かべた俺は疲れているのであろうか。
それが群れを成して泳いでいるとか悪夢ですぞっ。
「……取り敢えず、後片付けをして休みましょう。大人どもは役に立たないわ」
「辛辣なんだぜ」
しかし、ヒュリティアの言うとおりであり、殆どの大人たちは酒瓶を抱えて夢の中。
ヤーダン主任もアクア君がいるため、今日だけはとアルコールをガッツリ摂取している。
ザインちゃんとリューネちゃんは既にお眠タイムだ。
アクア君も今日はぐずらずに、潮風に吹かれながら乳母車の中で寝息を立てている。
波の音が心地いいのであろうか。
「……アクア君の未来が心配ね」
「きっと大酒飲みなんだぜ」
「お乳がお酒になっちゃわないといいねぇ」
せっせと後片付けをする。
綺麗な浜辺に汚らしい物を残すのは犯罪だ。
楽しんだなら、きちんと後始末。
お残しダメ、絶対。
そんなわけで、エデンテル初日はその大自然を満喫して終了したのであった。
尚、酔い潰れた大人たちは放置した。俺たちは悪くない。




