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176食目 ノイズのようなもの

「こんなところで出会うだなんて奇遇なんだぜ」

「チームを結成したってのは本当だったんだな」

「その頃には、ここに?」

「あぁ、ちょいと訳ありでな」


 とファケル兄貴はこめかみの辺りをトントンと指で叩いた。


「どうにもノイズが酷くなってきてな」

「ノイズ?」

「あぁ、なんていうのかな? 囁き声、ともいえるようなもんなんだ。昔っからそれはあったんだが、ここ最近は特に酷くてな。ル・ファルカンを操縦しているときも頻発するから、それを治療できるやつを探しているんだ」

「それで、見つけられたの?」

「いや、調べてもらったが、身体の方には一切の異常が無いってよ」


 ファケル兄貴は引き締まった肉体を惜しげもなく見せつけながら肩を竦める。

 となると、精神的な問題となろうか。


 だが、その時、おぼろげながらも彼の背後に何かの影のようなものを認める。

 邪気は感じられないが、その代わりに必死さを感じ取った。


「?」


 精霊のような感じもするが、同時にマサガト公のような怨念も感じ取ることができるそれは、大気に溶けるようにして姿を消してしまう。


「ファケル兄貴。今、ノイズしてた?」

「ん? あぁ、ザザーってな」

「何かに憑りつかれてるっぽい」

「おいおい、止めてくれよ……ともいえねぇな。占い屋の婆さんも、そんなことを言ってたぜ」


 ぼりぼり、と頭を搔くファケル兄貴は少し悩んだ末に、俺たちに話を持ち掛けてきた。


「なぁ、おまえら。ミラージュって魚を知ってるか?」

「ふきゅん? 俺たちも、その魚を探しに来たんだぜ」

「なんだって? いや、おまえさんなら食いつくか……実はな」


 ファケル兄貴は一向にノイズを治す手段が見つからないことから、今度は伝説を頼ることにしたようだ。


 一説によるとミラージュは耳鳴りや幻聴に効果があるとのこと。

 雷蕎麦も虫歯を撃退する効果があるように、ミラージュにもそのような効果があってもおかしくはない。


「そういうわけで、俺と暫く行動を共にしないか?」

「断る理由は無いんだぜ」

「今、全く考えなかっただろ? 俺がミラージュを持ち逃げするとは考えなかったのか?」

「それはできないできにくい。それにファケル兄貴はミラージュを調理できるのかぁ? 特殊食材は普通に調理してしまうと、たちまちの内に劣化して食べられなくなるんだぞ」

「マジかよ……」

「俺は余程のことがない限り嘘はつかないんだぜ」

「それは分かる。というか反射的にしか喋らないだろ、おまえ」

「ふきゅん」


 ファケル兄貴の指摘に、俺のガラスのハートはギザギザになった! 法廷で会おうっ!


「……ファケルの言う事は正しいわ。でも私たちと行動することは正解よ」

「銀閃がそう言うなら、そうなんだろうな。おまえも、見えるのか?」

「……えぇ。うちの連中の大半は、そういった者たちよ」


 ヒュリティアの説明を信じたのであろう、ファケル兄貴は改めて手を差し出してきた。


「Bランク21位、ファケルだ。暫く厄介になる」

「ふきゅん、またランクが上がったのかぁ。こちらこそ、よろしくなんだぜ」


 がっちりと握手を交わす、俺とファケル兄貴。


 そういえば、俺たちの順位はどうなっているのだろうか。

 考えてみると、まったく戦機協会のカードを更新してない。


 あれ? これって、結構拙いんじゃないのか?


「ヒーちゃん、大変だぁ」

「……どうしたの?」

「俺、戦機協会カードを、まったく更新してないんだぜ」

「……そういえばそうね。うっかりしていたわ。でも、目立った活躍はしてないから順位は上がってないと思うのよね」


 そう言えばそうだった。


 帝都防衛戦も個人的に参加だし、東方国の件だって匿名での報告の上に、同盟も秘密にしている。


 なんだ、順位変動の要素がまったく無いジャマイカ。


「セーフっ」

「アウトだ。更新くらいしておけ」

「おぉんっ!」


 ファケル兄貴にそう言われてはしないわけにもいかない。

 というわけで、オンドレラ島の戦機協会へGO。


 そこはハワイアンな感じの内装が施された愉快な職場であった。

 職員たちも全員ラフ過ぎる姿である。


「はぁい、オンドレラ島戦機協会へようこそっ!」


 金髪碧眼の褐色肌娘が、ぷるんぷるんと肉を無駄に弾ませながら対応してくれる。

 なので俺も対抗。


「おねぐぁいすまちゅっ」


 激しく首を振って、モチモチほっぺを無駄にプルプルさせながら戦機協会カードの更新をお願いする。


「……珍生物が無駄に誕生したからやめなさい」

「くらくらするんだぜ」


 暫くすると俺とヒュリティアのカードは更新されて返却された。

 順位の方はというとDランクの真ん中辺りとなっている。


「微妙に上がってたんだぜ」

「……特に活動してなかったはずなんだけどね」

「盗賊や海賊を叩きのめしていれば上がってゆくもんじゃ」


 首を傾げる俺たちにガンテツ爺さんが種明かしをしてくれた。

 ならず者たちの撃破は基本的に自己申告である。


 俺たちはいちいち報告が面倒臭いのでボコったら、何かのついでに差し出す程度だ。

 でも、その様子を目撃した者が、悪党を退治したのは銀閃です、と報告してくれているようなのだ。


 なので、チーム単位で評価ポイントが加算されて順位が向上したとのこと。


「チームで活動するのはこういうメリットがあるのかぁ」

「デメリットもあるぞ。チーム単位だから、評価ポイントの割合が少なくなるんだ」

「あぁ、だから個人で活動する人も多いんだ」


 ファケル兄貴の説明に納得を示した俺は、それでもチームで活動することに不満を感じることはない。

 ゆっくりランクを上げればいいだけの話なのだ。


 それに、今はランク上げよりも大切なことが盛りだくさんなのだから。


「ファケル兄貴は帝都が陥落したことを知ってる?」

「うわさでは聞いた。本当なのか?」

「実際に現場にいたんだぜ」

「エルティナでも無理だったのか……」


 彼は在りし日のエルティナイトの無茶苦茶ぶりを知る者だ。

 そのエルティナイトでも帝都を護れなかったことにショックを受けているもよう。


「……そのタイミングでエルティナイトが弱体化……というか原点に帰ったのよ」

「ということは、今は普通の戦機に?」

「……もっとおかしくなったわ」

「ひでぇ話だ」


 おいぃ、言いたい放題いいやがって。

 しかし、事実なので反論しにくい。


 エルティナイトがアロハシャツに短パン姿で格納庫に寝転がり週刊誌を読んでいる、なんて知ったら卒倒してしまうであろう。

 しかも、魔力で作り出した胡麻煎餅をバリバリ食べながらだ。


「取り敢えずはミラージュを一緒に探す方向でよろしく」

「ファケル兄貴はチームに入るつもりはない?」

「まだないな。天辺に足を踏み入れてもいないからよ」

「そっかー」


 彼は明確な目標を持っている。

 それは俺同様にナイトクラスへと昇格することだ。


 だから、チームに入ってくれと無理強いすることはできない。


「それじゃ、ミラージュをゲットするまでよろしく、ファケル兄貴」

「あぁ、こちらこそだ」


 こうして、ファケル兄貴を同行者として精霊戦隊は特殊食材ミラージュを獲得するためにエデンテルを目指す。


 百果実の聞き込みもしたかったが、それはついででいいだろう、という事になり後に回されるのであった。


 まぁ、ファケル兄貴のノイズを治してあげるのが先決ってね。


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― 新着の感想 ―
[一言] うわお! 元は戦機だったヤツが、善良で人間臭いエヴァ化しとる!
[良い点] エルティナイト「サングラスとトロピカルジュース(もちろんクネクネストロー付き)追加でオナシャス」
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