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175食目 常夏の島

 精霊戦隊は束の間の休息の後、常夏の島ヤーバン共和国へと出発する。


 その際に問題となるエリンちゃんのパスポートの件だが、それは彼女がキアンカの戦機協会に登録することで問題を解決した。

 とはいえ、お正月中は戦機協会も営業してないので、クロヒメさんが元受付嬢の経験を活かして勝手に登録を済ませてしまったのであるが。


 元なのに良いのであろうか、という疑念はルフベルさんの、いいのだ、で解決した。


 現在はだらだらと正月気分のまま、大海原を航海中。

 我らのクロナミは、どんぶらこっこと波に揺られながら、のんびりとヤーバン共和国を目指す。


 ヤーバン共和国は常夏の島の集合体だ。

 したがって、近付くにつれて暑くなってくる。

 それは俺たちから防寒具を脱がせるに十分過ぎる理由となった。


 なので、現在は超薄着状態。

 中には水着を着てまったりとしている者もいる。


 ヤーダン主任などはその筆頭だ。

 甲板にてビーチパラソルをおっ立て、潮風に吹かれながら束の間の休息を楽しんでいる。

 そこにはリューテ皇子とアクア君の姿も。


 子持ちだけどスタイルは一切崩れていないヤーダン主任の水着姿は、恐ろしいまでにダイナマイツ。

 もしこの場に若い獣たちがいたなら、たちまちの内に、いや~ん、な事態に発展しているだろうか。


 でも、ここには食いしん坊か、戦機バカしかいないんだよなぁ。


 食いしん坊側の俺はヒュリティアとザインちゃんと共に釣りを満喫中。

 釣った魚は正月気分で朝っぱらから酒を飲んでいるガンテツ爺さんたちの良いつまみになるだろう。


「のんびりした時間が、ずっと続けばいいのになぁ」

「……そうね」


 ぴくぴく、とヒュリティアの釣り竿の先端が反応した。


「あっ、はんにょうちたでごじゃる」

「……まだ早い」


 ヒュリティアの言う通り、釣り竿の反応は暫くすると鳴りを潜める。

 しかし、獲物を逃がしたか、と思った次の瞬間、大きく竿がしなった。


「……よし」

「流石は釣りキチなんだぜ」


 格闘の結果、重さ65キログラムの人魚を釣り上げました。


「……さっそく調理開始よ」

「たすけてー!」


 容赦なく人魚さんのブラを剥ぎ取るヒュリティアさんはマジパネェっス。


 その後、人魚さんの哀れな命乞いは功を奏し、ヒュリティアから助命されて海に帰された。


「……人魚の癖に釣り餌に食いつくから」

「容赦ないんだぜ。というか、普通に人魚がいるんだな」

「……精霊がいるんだから、普通にいるでしょ?」

「そこなんだよなぁ」


 精霊は精霊ちからが一定に達していないと視認できない。

 しかし、亜人は別だと思われる。


 現にミオやクロエは誰からも視認されているのだ。

 にもかかわらず、亜人がいるという噂も、伝説も一切無いのである。


 これはミステリーですぞっ!


 やはり、ここら辺はミリタリル神聖国が何かしらの管理をおこなっているのだろうか。


「そろそろ、釣りを切り上げるかぁ」

「おひるでごじゃりゅ」


 ザインちゃんの籠の中は雑魚ばかりだ。

 甲羅に引っかかって釣り上げてしまったウミガメの子が籠の中でまったりとしている。


 どうやら、彼女はあまり釣りが上手ではないもよう。


 食べない者たちは海に帰して、釣り上げた魚たちを捌くためにキッチンへと向かう。

 主に釣れたのはカツオっぽい何かだ。


 それらは刺身にすることはもちろんのこと、叩きにしたり、ステーキにしたりと大いに活用することができた。




 航海から二週間。

 時折、ちょっかいを掛けてくる海賊どもを泣かしつつ、遂に精霊戦隊はヤーバン共和国の玄関口【オンドレラ島】へと到着した。


 ここから、全ての島へと移動可能とのことだが、俺たちは船を持っているので移動はそれでおこなう事を申請する。


 入国手続きはクロヒメさんがやってくれた。

 流石に手際が良く、あっという間に入国手続きが完了する。


「ふきゅん、ここがヤーバン共和国かぁ」

「暑いにゃ~ん」

「あっついねぇ」


 暑いのがあまり得意ではないのだろう、ミオとクロエは限界まで薄着になっている。

 それは、俺たちも同じことだ。


 だがしかし、アナスタシアさんや。

 当たり前のように水着姿を標準装備とするのはNG。

 ヤングなボーイたちが男の尊厳を守る姿勢にスイッチしていらっしゃるっ。


 ただでさえ、ヤーダン主任も薄着で際どいのに止めを刺しに来ているとか、ヤングマンを殺しに来ているじゃないですかやだー。


 まぁ、俺の関心は既に路上販売している果物に向いているんですけどね。


「物凄く甘いにおいなんだぜ」

「マンゴーかしらね? それをくださる?」

「へいっ、ありがとうございやすっ」


 ユウユウ閣下は、それを人数分の果物を購入。

 見た目がマンゴーなそれは、味もマンゴーだ。

 だが、食感がリンゴという変わったマンゴーでもあった。


「おいちぃ!」

「……食感が変わると味も変わって感じるわね」


 あま~い香りに惹かれて、俺たちはあっちにふらふら、こっちにふらふら、と露店の食べ物をパクリんちょする。

 エンペラル帝国ではお目に掛かれない珍しい果物たちは実に美味であった。


 そういえば、果物の特殊食材もまだお目にかかっていない。

 いつかは、これぞ、という食材に巡り会いたいものである。


「さて、それじゃあ、エデンテルを目指してみようか」

「その前に、海賊たちの身柄を引き渡しましょう」


 既に常夏気分のクロヒメさんは上半身だけ水着という過激な外見だが、パイパイがちんまりなので特にムラムラする連中はいなかった。

 その大きなお尻はスカートでしっかりと隠しているが、大きく切れ込みが入ったスリットから覗く太ももがセクスィ~なので、やはりヤングな……以下略。


 愚かにも襲撃してきた海賊たちはことごとく、水の精霊ヤドカリ君と、海の精霊マッソォの餌食となった。

 力の根源たる海にあって、この両者は情け容赦のない力を振るいまくれるのだ。


 大渦を発生させて船を沈没させるのなんて当たり前、無数の分身を生み出して筋肉で圧殺する様など狂気の極みであった。

 船が縦になって沈没する姿など、滅多に見られるものではないだろう。


 そこからなんとか脱出できた者たちを捕らえて、ヤーバン共和国の警察に突き出す。


 やはり、海賊たちはお尋ね者であったらしく、幾ばくかの報酬を得ることができた。


「これでよし。あとはエデンテルを目指すだけだぁ」

「……大変よ、エル」

「どうかしたんだぜ?」

「……ここには【伝説の果物】があるらしいわ」

「なんですと? どこからその情報を?」

「……この子を締め上げた」

「お、お子様ぁぁぁぁぁぁっ!?」


 なんと言う事でしょう、ヒュリティア様がまたしても無茶ぶりを披露。

 そこら辺を歩いていただけのボーイを捕獲し尋問を行っていたではありませんか。


 そして、まんざらでもない、という彼は明らかにドMの可能性が高い。


「うへへ、女の子って柔らかぁい」

「おいぃ、深みにハマるなボーイ」

「はっ!? 俺は正気に戻れた?」

にゃいです」


 その後、少年から伝説の果物の詳細を聞く。


 それは、ありとあらゆる果物の特徴を備えた果実だという。

 しかし、詳細は不明。その特徴と名前だけが脈々と伝えられてきたというのだ。


「伝説の果物は【百果実ひゃっかじつ】とも【ワンハンドレッド】とも言われているんだぜ」

「ほうほう、百もの果実の良いところを備えた果実ってわけかぁ」


 お礼に桃先生を進呈して少年を釈放する。

 彼は桃を食べたことがなかったようで、この世ものとは思えない美味さだ、と言いながらあっという間に完食し、にっこりと笑顔を残して立ち去っていった。


「面白い話が聞けたんだぜ」

「……そうね。きっと特殊食材よ。ジェップさんにお金を払わなくて大助かりだわ」


 情け容赦がないヒュリティアさんであるが、彼女がしっかりと財布を管理しているおかげで、精霊戦隊は破産していないのだ。

 借金も特殊食材のお陰でだいぶ減ったようだが、詳細は明かしてくれない。

 聞いても物凄い圧を掛けてくるだけだ。


 まさか、とは思うが増えてないよな? な?


「直ぐにエデンテルに向かおうと思ったけど、百果実の情報を集めてからでも遅くはないか」

「そうだねぇ、私もその果物が気になるよっ」

「エリンちゃんは果物も好きだもんな」


 丈の短いタンクトップとハーフジーンズ姿が眩しいエリンちゃんは、百果実の獲得に意欲を燃やす。

 そんな俺たちに声を掛けてくる者がいた。


「うん? おい、エルティナか?」

「え? あっ! ファケル兄貴っ」


 そこには、真っ黒に日焼けした戦機乗り、ファケルの姿があったのだった。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 食いしん坊と戦機バカしか居ないなんてあり得ません! 珍獣も居るから! ヒュ「それは食いしん坊と同義語よ」 エル「ふきゅん!」 [気になる点] 前途ある少年にはしていいことと悪いことがある …
[一言] お約束な人魚!?
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