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174食目 天を揺蕩う魚の伝説

 Barスクラッパーの厨房を借り、水豚の肉で雷蕎麦を茹でる。

 くつくつ、バチバチと賑やかな音を奏でながら特殊食材たちはその美味を高め合う。


 普通にざるで提供をするが、それだけだとつまらない。

 なので、一工夫してみようではないか。


 フライパンだけを借り受けて、水豚の肉を調理する。


「来たれ、火の精霊チゲっ」


 俺の背後に火の巨人チゲが出現。

 今日もスマイルマスクがニッコリしている彼は、優しい炎で水豚の肉を調理する。


 精霊が見えない者にとっては突然、空間に火が発生しているようにしか見えないであろう。

 俺と関わる限り、この現象は割と頻繁に発生するので慣れてもらうより他にない。


 というか、マスターは極普通にグラスを磨いており、この超常現象には目もくれない。

 流石に慣れすぎである。


「よし、こいつを冷ましてから細長くカットだ」

「ほぉ、焼くとピンク色になるんだな」


 やはり、食材にしか興味がなかったか。


「食べてみる?」

「あぁ」


 焼き上がった水豚の肉をマスターに提供。

 一口大にカットした焼きたての肉を口に放り込んだマスターは良く咀嚼して味を確かめる。

 味付けは塩コショウのみだ。


「むぅ……肉という割には口の中に筋が残らないな」

「それが水豚肉の特徴なんだぜ」

「ふむ、獣臭さもないか。肉嫌いの連中にも提供できるかもな」

「その可能性は十分にあるんだぜ」


 茹で上がった雷蕎麦を水でしめる。

 手が若干ビリビリするが、それすらも心地いい。


 ざっざっ、と水を切って皿に盛りつける。

 本来はざるに盛り付けたいが、Barスクラッパーにざるは用意されていなかったので仕方がない。


 後は蕎麦つゆを用意してざる蕎麦は完成。

 もう一品も手早く完成させる。


 海苔を用意してそこに茹でた雷蕎麦と、焼き上がった水豚肉を細くカットして乗せる。

 それを巻いたら食べやすいサイズにカットして【雷蕎麦巻】の完成だ。

 これは、醤油をちょんちょん、と付けて食べていただく。


 本当はレタスなどの葉野菜を加えたいところであるが、特殊食材ゆえに並の野菜では負けてしまい使用不可となった。


「ふきゅん、美味しいけど……野菜が使えないのは痛いんだぜ」

「十分、美味いと感じるがな……まぁ、確かに野菜があるとより美味いか」


 こう考えると野菜の種類をもっと増やしたいところである。

 グツグツ大根も美味しいだろうが、あれは根菜なので葉野菜のようなシャキシャキ感と心地良い苦みを得ることができないのだ。


「あ、そうだ。マスター、鶏もも肉ってある?」

「あるぞ」

「雷蕎麦を使って酒のつまみを一品作ってあげるんだぜ」


 というわけでバーボンに合うであろう一品を、ささっと作って調理完了。


「お待ちどうさまなんだぜ」

「へっへっへ、待ってましたっ」


 もちろん、モブ戦機乗りたちにも小皿にて雷蕎麦を試してもらう。

 さぁさぁ、特殊食材の味をご堪能あれ。


 Barスクラッパーには不相応な、ぞぼぼっ、という音が合唱のごとく響き渡る。

 その度にバチバチ、びりびり、という音と放電が確認された。


「うおぉぉっ! なんという快感だっ!」

「こりゃあ、美味いと感じる前に、気持ちいいという感触が先に来るな」

「噛み締めると電流が走るが、それが歯を刺激して気持ちいいな」


 ジェップさんたちはせっせと雷蕎麦を口に運んだ。

 その姿は一心不乱。

 とにかく、次を次をと忙しない。


「ちなみに、雷蕎麦は虫歯菌をやっつけるらしいんだぜ」

「「「何っ!?」」」


 これは、リューネちゃんの申告で発覚された事実である。

 彼は割と虫歯があって、乳歯が虫歯に蹂躙されていた。


 大病を患っていたリューテ皇子は、あまり物を食べれなかった。

 なので彼はサプリメントと甘いお菓子を少量食べて、なんとか凌いできたらしい。


 だが、それが虫歯発生の原因を作ってしまったようだ。

 あまり歯を磨かなかったのも原因らしい。


 現在はヤーダンママの教育もあってか、しっかりと歯を磨かさせているもよう。


「雷蕎麦を噛むときに発生する電流が虫歯菌を殺すみたいだ。虫歯菌の繁殖で黒くなっていたリューネちゃんの歯もご覧の通り」

「あ~ん」


 俺のリクエストに応えてリューネちゃんは口を大きく開ける、と虫歯の名残が見て取れた。

 しかし、そこにあったはずの黒ずみは一切なく白い歯のみが見える。


「マジか……! お、おいっ。俺のはどうだ?」

「うおぉっ!? おいおい、マジで虫歯が無くなってやがるぞっ!」


 スキンヘッド兄貴の口の中をモヒカン兄貴が確認すると、どうやら雷蕎麦によって除菌が完了していたもよう。

 このように、特殊食材は医療に用いることができることが判明していた。


 ちなみに、グツグツ大根はお通じに大変によろしい。


「ちょっ!? ジェップ、なんだその顔っ」

「てっかてかじゃねぇかっ!? ぎゃははははっ!」

「んだよ、おまえらだって、てかてかじゃねぇか」


 はい、水豚肉の効果でございます。


「水豚肉の効果なんだぜ。お肌ツルツル、皮膚の再生力向上も期待できるんだ」

「マジか……というかもう治ってる!?」


 とモヒカン兄貴は切ってしまったであろう手の甲を見せる。

 そこには僅かな傷跡が見て取れるのみであった。


「今朝、包丁で切っちまったばかりだぞ?」

「いったい、どうなってんだ? この特殊食材ってやつぁ」


 キツネにつままれたかのようなモヒカン兄貴たちは、それでも特殊食材たちを心行くまで堪能し、その食材たちに対して感謝の言葉を送る。


「「「ごちそうさまでした」」」


 こうして、俺たちはジェップさんに特殊食材たちを提供。

 依頼を完了させた。


「ほい、後は酒のつまみに、鶏もも肉のフライ。衣は雷蕎麦を纏わせたんだぜ。味は付いているからそのままどうぞ」

「おぉ、こりゃあいいやっ」


 サクサク、カリカリ、バチバチ、と賑やかな音を立てる雷蕎麦の衣。

 その奥から封じ込められていた鶏もも肉の肉汁がドバっと溢れ出す。

 どうやら、雷蕎麦の電流が肉をとんでもなく柔らかくする効果があるらしく、肉なのにとろ~りと舌で蕩けるという珍現象が発生した。


「マジかこれ」

「もう肉じゃねぇな。飲めるぞ、これ」


 はふはふ、ほふほふ、とたこ焼きのように食べ進めるおっさんども。

 熱々になった口の中に、バーボンのロックを流しいれてゴキュと飲み込む。


 く~、と固く目を閉じ口角を上げて笑みを見せる様子は、本当に酒が好きなんだな、と俺を納得させてくれた。


 さて、雷蕎麦と水豚は無事にゲットした。

 そうなると、次の依頼というか情報を提供されるわけだ。


「よぉ、蕎麦には天ぷらがつきものだと思わねぇかい?」

「もちろんなんだぜ」


 だが、雷蕎麦に負けない食材、となるとそうそう見当たらない。

 水豚肉の天ぷらも考えたが、これは水分が多過ぎて油との相性は良くないのだ。


 したがって、現段階では天ぷらに適した特殊食材は無い。


「おまえさん、天空を揺蕩たゆたう魚って知ってるかい?」

「トビウオじゃなくて?」

「あんな、鳥の出来損ないじゃないさ。大空を回遊する摩訶不思議な魚、【ミラージュ】。ヤーバン共和国に古くから伝わる英雄伝説の中に登場する幻の魚だが……近年、その死骸が発見された」

「なんだって?」

「腐敗が進んでいて見た目も酷い有様だったらしいが、確かにそれなるものは存在する」


 ジェップさんは言う。


 それなる魚は、今もヤーバン共和国の天空にて泳ぎ回っていると。

 しかし、誰一人としてその姿を見た者はいないと。


「そこにいるのに、そこにいない。それが超特殊食材ミラージュ。幻の魚……食ってみたくはねぇかい?」

「食いてぇっ! どんな魚なのか、そしてどんな味なのか知りたいっ!」

「なら、ヤーバン共和国の【エデンテル】という小さな町を目指しな。そこに、ミラージュの亡骸は確かにあった」




 こうして、戦機乗りたちの腹を満たし、虫歯をも癒した俺たちは次なる目標を獲得。

 それに向けての準備を開始した。


 気に掛かるのは帝都ザイガ、そこに巣食う鬼どもの動向だ。


 ヤーダン主任の話だと、やはりターウォに侵攻をしているようだが、そこは駐屯する帝都防衛隊と戦機乗りたち、そして傭兵部隊がなんとか凌いでいるらしい。

 その際には桃色に輝く不思議な力護られるという情報も。


 どうやら、桃先生がしっかりと力を貸してくれているようだ。


「今のところは小康状態ね。だから、精霊戦隊はしっかりと世界を周るように、って」

「ルフベルさんが?」

「うん、お父さんがそう言っていたわ」


 戦機協会から帰ってきたクロヒメさんは、クロナミのリビングでまったりと紅茶を飲みながら戦機協会での出来事を話してくれた。

 だいたいはヤーダン主任の情報の補足となっている。


 東方国での出来事はやはり深刻であったようで、ルフベルさんはその対応で大忙しのもよう。

 こんな片田舎の支部長まで忙しくなるとは、相当な出来事であったのだろうか。


「ま、精霊戦隊が関わっていた、というのは一応、隠蔽してもらえるっぽいわね」

「それは助かるんだぜ」

「いやいや、そもそもが戦機チームの一つに過ぎない精霊戦隊が、そんな大事をやってのけた、って誰も信じないでしょうから」

「お、おう」


 まぁ、冷静に考えればそうなるな、である。




 こうして、精霊戦隊は再び特殊食材を求めて出発することになる。

 しかし、正月も近いこともあり、年を越してからの再稼働となった。


 マーカスさん親子の事を考えると多少はね?


 さぁさぁ、年越しの準備を始めなくては。

 もりもり特殊食材、使っちゃうよ~。


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― 新着の感想 ―
[一言] >「ふむ、獣臭さもないか。肉嫌いの連中にも提供できるかもな」 >「その可能性は十分にあるんだぜ」 ※加熱には火精霊が必要です
[一言] すいません!虫歯治療用に雷蕎麦ください! でも虫歯が酷い人が食べたら歯神経に雷直撃! のたうち回る未来しか見えない
[一言] おお! 雷蕎麦ほしい!
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