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172食目 キアンカへ戻ろう

 東方国と精霊戦隊との同盟が締結された二週間後、ヤーダン主任は一機の戦機を開発した。

 それはブジンをベースとして一から手直しを入れたものであり、既に原型が何であったか分からないという。


「取り敢えず完成しました。もう少し時間を掛けたかったんですけどね。一年くらい」

「それは流石に掛け過ぎなんだぜ」

「いやいや、こんなに早く作れるものじゃないからね、戦機って」


 むっふー、とヤーダン主任はでかいパイパイで胸を張って、新型機の完成をドヤ顔でアピールした。

 俺のツッコミはアナスタさんによって完全論破されてしまうも、俺はこれを華麗にスルー。

 しかし、直後の彼女の制裁、究極パイパイハサミを受けてマットに沈んだ。


 今は豊満な乳房に挟まれて、アイン君共々まったりしている。


「この機体はなんていうの?」

「正規の戦機じゃないので開発コードは使えないんですよねぇ。となるとオリジナルの開発コードを使うしかないでしょうか」


 ヤーダン主任は「うーん」と身体をくねらせながら考える。

 それを真似るリューテ皇子は、アクア君を乗せた乳母車を制御していた。


 何気にこの乳母車は半オートマティックであり、遠隔操作も可能で光素障壁も短時間ながら纏える、というぶっ壊れ性能を持たされている。


 後々、犯罪防止用にミサイルとドリルを付けるとかなんとか。


 アクア君の今後に多大な影響が出てしまうのでやめて差し上げろっ!


「そうですね……【T-XXX-01-A・サムライ】というのはどうでしょう?」

「直球的なネーミングなんだぜ」

「分かり易い方が良いでしょう? 侍たちがサムライに乗って戦うんですし」


 サムライはブジンのパワーをそっくりそのまま頂いて、デザインを変更したマイナーチェンジ機と言えなくもない機体に仕上がっている。

 頭部にちょんまげのような形のカメラアイが追加装備されているのが印象的だ。


 マイナーチェンジとは言ったがヤーダン主任が関わった機体だ。

 サムライはアマネック社の技術をふんだんに盛り込んでおり、単なるマイナーチェンジを越える物へと魔改造されてしまっている。


 やりたい放題やっていい、といった結果がご覧の有様だ。


 特に装甲を取っ払って細身にし、機体重量を半分近くにまで落としたのは凄まじいの一言に尽きる。

 防御力こそ劣るが、それは先日の盾の力を知る者であれば納得を示すであろう。


 盾の扱いに慣れれば、今度は盾の大きさを小さくして小回りが利くようにできるし、寧ろ回避を捨てて大きな盾を持ったっていいのだ。


 更に軽量化したことによってアホみたいな運動性を獲得している。

 アインラーズくらいでは比べ物にならないであろうとのこと。


 また、サムライは人体の動きにより近づけるべく、関節を多重構造化させた。


 流石にエルティナイトまでとは言えないものの、より人間に近い動きが可能となっている。

 なので、刀を両手で持ち、上段の構えからのチェストーが可能になっているのだ。


 ちなみに、以前使っていたブジンの装甲は一部取り付け可能である。


 武装面では刀オンリーだったブジンに対して、折り畳み式の光素弓を追加。


 これは以前、エルティナイトが使用した試作型の弓を改良し、威力、コストを抑えたものに仕上げたという。

 東方国製戦機、待望の遠距離攻撃武器にして、サムライたちにも縁のある武器が開発されたのである。


 銃に抵抗を覚える侍たちであっても弓ならどうか、とヤーダン主任は考えて作ったようだが、彼女の思惑通り弓はすんなりと彼らに受け入れられたもよう。


 ただし、両手で使用する武器なので盾との相性は悪い。

 ここら辺は搭乗者のセンスの問題となろうか。


 この技術をヤーダン主任は東方国の戦機開発者【絡繰り座衛門】さんに惜しみなく提供。

 彼の指導の下でヤーダン主任たちの手を一切借りずに、一機のサムライを完成させた。


 これを以ってして精霊戦隊はキアンカへと一時帰国とする。


 更に一週間後、サムライとブジンで構成された部隊が機獣基地を護っていたガンテツ爺さん隊と交代する。


「やれやれ、ようやく肩の荷が下りたわい」

「お疲れ様なんだぜ。H・モンゴーは出てきた?」

「それがのう……」


 樹の陰からチラチラ、とブサイク兎が見えているんですが?


「出るにも出れず、かといって何かできるわけでもなくを繰り返しておったわい」

「これは酷い」


 どうやら脱走兵となったH・モンゴー君は本国に帰れなくされてしまったらしく、機械人の身体の大破=死という事になってしまったもよう。


 なんだ、普通だな。


「たすけてくださいおねがいしますなんでもいたしますから」

「恐ろしいほど卑屈な機械人。俺なら見逃しちゃうね」


 不細工兎から降りてきたH・モンゴー君は、ビックリするほどのダイビング土下座を披露し、俺たちの度肝を抜く事に成功する。


 最早、帰るところが無くなってしまった哀れな存在に、流石のヒュリティアも生暖かい眼差しを送ったという。


「ふきゅん、桃使いは弱者に手を差し伸べるだろうな」

「……はぁ、仕方がないわね。こき使ってあげるから死ぬ気で働きなさいな」

「あ、あざーっす!」


 かくして、ヘタレ機械人H・モンゴーは精霊戦隊の管理下に置かれることになった。


 基本的にヘタレなので裏切ることはないとは思うが、それでも暫くの間は目を光らせておくに越したことはないだろう。

 取り敢えずは、機械人とバレないように塗装からだな。


 メタリック人間は目立ちすぎるって、考えなくても分かるから仕方がない。


「機獣も戦機風に改造しないとね。誤射されかねないし」

「うう、わが友よ。すまんっ」


 不細工兎もクロナミ内で大改修を受けることになった。

 とはいえ、中身はあまり変えずに兎を人型化させるだけだ。


 あれ? 十分過ぎるほどの魔改造なんじゃね、これ。






 咲耶将軍に問題は全て解決したことを告げて東方国を後にする。

 死ぬほど抱き付かれた挙句、クロヒメさんとのサンドイッチは死に至るのでNG。


 また、長い間、東方国に滞在していたので、雪が降りてくるのは珍しい光景ではなくなっていた。


 そろそろ、お正月に備えなくてはっ。


 海上を行くクロナミは、その工廠にて不細工兎の大改修を開始。

 機械人たちのテクノロジーを目撃し、変態どもの脳汁がヤヴァイ、ヤヴァイ。


「うひょぉぉぉぉっ! 堪りませんねっ、これっ」

「あ、やだ……濡れてきたかも」


 なんで、機械を見て発情するんだ、この人たち。


 もりもり分解されてゆく戦友を見守るH・モンゴーは、ちょぴりセンチメンタルだ。


 軍人を続けるにはヘタレであり、でも他の生き方を知らないという彼は、自分の在り方にずっと悩んでいたもよう。


 ちょっぴり可愛そうだと思うが、雑用をするための割烹着が割と似合い過ぎて可哀想だという感情がドロップアウトしてしまう。


 今は箒を手にして格納庫のお掃除中だ。


「お~い、モンゴー。そろそろ休めぇ。ご飯持って来たぞ」

「おぉっ、我が主っ! ありがたき幸せっ!」


 卑屈になり過ぎた結果であろうか、H・モンゴーは俺を主君と定めてしまった。

 とはいえ実のところ【わんこと飼い主】の関係に近い。


 それは俺がエルティナイトにご飯をあげる要領で、光素を用いて簡単な料理を彼に施したからだ。


 どうやら、今までは光素を直接口に放り込むか、光素茶というものでエネルギー補給としていたらしい。


 だが、下っ端は純度の高い光素を貰うことはできなかったようで、機械の身体の中に廃棄物が溜まって大変だったそうな。


 そんなわけで、高純度、しかも味のレパートリー豊富なエネルギー補給に味を占めてしまい、もう俺からは離れられなくなってしまったとのこと。


 要は、H・モンゴーの胃袋をがっちり掴んでしまった、というわけだ。


「はふっ! はふっ! がつがつがつ……」

「誰も取らんから、ゆっくり食べるんだぜ」


 光素で作ったオムライスを物凄い勢いで掻き込むH・モンゴーに俺は呆れる。

 だが、彼はそうしなくてはならない状況下にあったようで。


「ま、マジっすか!?」

「どんだけだったんだ?」


 どうやら、食事も容赦のない競争だったもよう。






 こうして珍妙な仲間を加えて、俺たちはキアンカへと一時帰国する。

 どんどん妙なことに巻き込まれてゆくが、精霊戦隊は止まることを許されない。


 尚、不細工兎は無事に人型に変化。

 その名前を【うさちゃん号】と改められた。


 名付け親はヒュリティアである。


 H・モンゴー君は泣いていい。


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― 新着の感想 ―
[一言] ブシン… 「リックディアス」→「ディジェ」みたいな変化… 「うさちゃん号」って…
[良い点] うさちゃんで良かったのかも ウサリンだったら巨大ピコピコハンマーで戦う羽目に 某勇者ゲームで勇者王から「お借りしますわ〜!」とゴル◯“ィオン・ハンマーを奪い取る技は今でも強烈に覚えてるぞ …
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