171食目 魅入られる者
◆◆◆ 機械人 A・ヴァストム中将 ◆◆◆
「K・ノイン、反応、ロスト。ソウルの帰還も認められません」
「そうか……彼女には、すまない事をしたな」
「いえ、貴重なデータが取れました。彼女もきっと二階級特進でしょうから本望かと」
エリシュオン中央データ管理センターにて、第六精霊界での戦闘データを収集する。
「それにしても……素晴らしい機体だ」
我が軍の最新機を、意図も容易く葬り去る特殊な戦機に我々は目を輝かせた。
我らエリシュオン軍人にとって、強さとは全てであり、最強とは到達点の一つ。
その力を携えて総統閣下にお仕えすることこそ、軍人の誉れである。
「特殊な戦機……【特機】とでも呼称するべきでしょうか」
「そうであるな。あれは明らかに戦機の枠を逸脱する」
どうやら、のんびりと侵攻し過ぎていたせいで、新しい風が第六精霊界に吹き込んだようだ。
惑星カーンテヒルが昇華してしまった今、いよいよここに本腰を入れるべきなのだろう。
「しかし、オーガ係数をより高めたハイ・バ・オーガー搭載機を、ああも簡単に撃破されるとはな」
「はい、我々も少々自信を失うほどです」
「M・キーク技術少佐、ハイ・バ・オーガーはまだ試作段階だったな?」
「はっ」
私と共に特機とデ・キーモの戦闘記録を観察していた青年は、長年、エリシュオン軍の特殊兵器を開発し、貢献してきた功労者の一人である。
帝都ザイガに出現した謎の兵器群、それらが放つ強烈な力を解析し使用可能レベルにまで調整したハイ・バ・オーガーシステムは、他の惑星の攻略に置いては絶大な威力を発揮していた。
しかし、あの特機のまえでは、それも児戯に等しくなる。
「ふっふっふ……やはりC・スルト大佐の目は正しかったな」
「はい、あの特機、なんとしても手に入れて解析をしてみたいものです」
私はテーブルの光素茶を口に含んだ。
豊かな香りが鼻腔をくすぐり、複雑玄妙な渋みが舌を楽しませる。
「時にDチームはどうしているか?」
「はっ、帝都ザイガの北部に位置するターウォという町に留まり、一般的な戦機に搭乗して未確認兵器と交戦しているようです」
「ふむ、C・スルト大佐の指示であるな」
「はい、実に素晴らしい戦闘データが送られてきております」
「彼らの機獣もだいぶ損傷したからな。腕を鈍らせないためでもあろう」
私がC・スルト大佐の思惑に納得を示す、とM・キーク技術少佐は画面に帝都ザイガを占拠する謎の戦闘兵器を映し出した。
「ご覧ください、この異様なオーガ係数を。通常なら、この数値で生存できるパイロットはいません」
「だが、これらは戦闘に耐えうるだけの動きを見せている。無人機の可能性は?」
「大いにあります。しかし、バ・オーガーシステムに属した力を振るっている以上、核になるものが必要かと」
「パイロットは確認できてはいないのかね?」
「残念ながら、そのような報告はありません。まだまだ、データが不足しているのです」
「ふむ……そうか」
確実にあの星で何かが起ころうとしている。
私は背筋に冷たいものを感じた。
この感覚は惑星カーンテヒル攻略戦で感じたものと同じだ。
どうやら、急ぐ必要がある。
「ハイ・バ・オーガーシステムの安定を急ぎたまえ」
「はっ、お任せください」
私は中央データ管理センターを後にする。
早速、将校たちを集めて議論を交わす必要がありそうだった。
◆◆◆ 三代目エルティナ ◆◆◆
「……というわけなんだぜ」
「まぁっ! そ、それでは、機獣の基地を無傷で手に入れてしまったというのですね!?」
俺たちの報告に咲耶将軍は驚嘆した。
それもそうで、機獣の基地を小規模とはいえ無傷で手に入れたなど異例の事だ。
現在は取り戻されないようにガンテツ爺さんが駐屯してくれているが、俺たちもいつまでもいるわけにはいかないので、代わりの者を寄こしてほしいとお願い中である。
「なんという方々でしょうか。私はあなた方のような勇敢な武人を見たことがございません」
「戦機乗りなんだぜっ」
「ところで……」
しかし、咲耶将軍はこれを華麗にスルーっ!
この人、割とメンタル強いなっ!
「エルティナ殿、一つ提案があるのですが」
「何か用かな?」
「東方国と精霊戦隊との間に【同盟】を結んでいただきたく」
「ふぁっ!?」
国と国、チームとチームならまだ分かる。
でも、国とチームっていまだかつて聞いたことがないぞ。
「いやいや、俺たちはただの戦機チームなんだぜ」
「そのような事はございません。あなた方は一国に匹敵する力をお持ちです。現に、それを証明して見せたではございませんか」
ぐいぐいと迫ってくる咲耶将軍に、俺は「ふきゅーん」と鳴かずにはいられない。
「……エル、毒を食らわば皿まで、よ。妙な形でかかわってしまった以上、最後まで面倒を見ましょう」
「むむむ、一理ある。それに、鬼まで出現していたんじゃあ見逃せない見捨てれない」
俺は改めて咲耶将軍の前に、ちょこんと座り直した。
おっぱいでけぇ。
いや、そうじゃない。正気に戻れ、俺。
ちゅっちゅの衝動をなんとか抑えた俺はベビー卒業生である。
だからもう、おっぱいを欲しがらないだろうな。
「分かったんだぜ。精霊戦隊は東方国との同盟を承諾するます」
「感謝いたします。この良縁が、いつまでも続く事を」
がっちりと握手を交わす俺と咲耶将軍。
しかし、彼女はやがて、ぷるぷると身体を震わせ始めた。
「咲耶将軍?」
果たして、トラウマでも蘇ったのであろうか。
咲耶将軍救出から僅か一週間と数日だ、無理もない事であろう。
そんなふうに考えていた時期が、俺にもございました。
「ふおぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ! もう我慢できぬっ!」
「ふきゅーん! ふきゅーん! ふきゅーん!」
なんという事でしょう、咲耶将軍は人目もはばからず、俺を抱きしめて、いい子いい子をしてきたではありませんか。
誰か助けてっ!
「咲耶将軍っ! ご乱心っ! 咲耶将軍、ご乱心っ!」
「将軍っ! お気を確かにっ! というか拙者と代わって下されっ!」
「幼女、さいこぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」
「ええい、控えいっ! エルティナたんを渡してなるものかっ!」
これは酷い。
しょせんは前将軍の血縁者という事なのか。
「……先行き不安ね。じゃ、今後の事を家老さんと話してくるから」
「おいぃっ!? 助けてくれないのっ?」
「……エル、試練というものはね、自分で乗り越えないといけないの」
「本音は?」
「……めんどくさ」
この外道がぁぁぁぁぁぁぁぁっ!
俺の魂の叫びはしかし、咲耶将軍のたわわな乳房によって掻き消されたのでありました。
どうしてくれるのこれ?
あ~あ~、もう滅茶苦茶だよ。




