１６９食目　光と闇が合わさり最強に見える

「行くぞっ！　エルティナイトっ！」

『応っ！』

　桃色の繭から飛び出す。

　エルティナイトは確かな変化を遂げている。

　でも、それは内面だけの事。

　外見はそこまで変わっていないはずだ。

「感じるぞ……エルティナイトが、まるで自分の身体のようにっ」

　今までとは比較にならないほどの一体感は、エルティナイトが感じているであろう感触すらも俺に伝えてくるかのようだった。

　それは最早、俺がエルティナイトで、エルティナイトが俺であるかのよう。

　まさに人機一体とはこれの事だ。

『なにをしたかとと、おももももえばあっ！　繭、まゆから出てきただ、だだけとはなぁ！』

「それだけだと思うなっ！　今の俺たちは、さっきの俺たちとはまるで違う！」

「あいあ～ん！」

　深緑の悪魔の挑発に乗る形で、アイン君が力を解放する。

　そして感じるのは魂の奥底から溢れ出てくる桃力。

　でも、この桃力は……！

『……エルっ！　シグルドが力を貸してくれているっ！』

「なんだって!?　いや、そうか！　この桃力の感覚は……！」

　そうだ、竜の枝シグルドは、全てを喰らう者の枝であると同時に桃使いだ。

　鬼に反応しないわけがない。

『……今なら、まだ未完成の【アレ】が使えるっ！』

「おいぃ、アレとは何ですかねぇ？」

　飛び掛かって来たデ・キーモを受け止め、ぶん投げる。

　先ほどとは比べ物にならないほどのパワーだが、やはり武装が乏し過ぎる。

　距離を置くと、こちらの攻撃が届かなくなってしまうのだ。

　そして、当然の権利のように向こうは遠距離攻撃を備えている。

　デ・キーモの手の平にはビーム砲の発射口が備わっているようで、それをエルティナイト目掛けて連射してきたのだ。

「うごごごごごごごごっ！　めっちゃ強烈なんですがっ!?」

『おいぃっ!?　嵌め技とか、うちのシマじゃノーカンだからっ！』

　これでは、パワーアップした意味があんまりない。

　桃力を纏わせた盾でなんとか防いでいるが、このままでは破壊されてしまうのも時間の問題となる。

『……攻撃を一時的に止められればっ』

　ヒュリティアは何かをしたがっているようだが、深緑の悪魔はここぞ、とばかりにエルティナイトを攻め立てる。

　ルナティックも他のデ・キーモやレ・ダガーを処理しながら隙を窺っているも、その隙を作ってくれないのが深緑の悪魔だ。

「こいつ、口だけじゃねぇっ！」

『相当に戦い方を研究してきた感』

　そう、対エルティナイトに特化した戦い方。

　中距離戦を主軸に据えたヒットアンドアウェイを徹底している。

　パワーアップしたエルティナイトでようやく互角。

　もし、進化を遂げていなければ一方的にボコられていたに違いない。

『ここれでで、おわわわりりりだだだだだっ！』

　更に深緑の悪魔の陰の力が増大する。

「そんなに、俺たちが憎いかっ！」

『にくいいいっ！　にくぅぅぅぅぅぅぅぅぅいっ！　おま、おまえたちがっ！』

　深緑の悪魔が出鱈目に爪を振り回して突撃してきた。

『おま、たちがっ！　わ、たしの、かがや、かしいみらいううぉ！　うばったぁ！』

「この星を侵略している時点でっ！　輝かしい未来もクソもあるかっ！」

『うがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ！』

　俺の怒りが……有頂天に達した！

　何の罪もない人々を殺め、自分の私利私欲のために弱者をいたぶり栄光を得ようなど言語道断っ！

　加えて、自分は安全な場所で戦い続けるなどとっ！

「深緑の悪魔っ！　おまえは俺たちに絶対に勝てないっ！」

『な、なんだだとっ!?』

「そんな安全な場所で、借り物の力だけで戦うおまえに何ができるっ！」

『き、きさまぁっ！』

「見せてやる！　命を懸けた野生の戦いを勝ち抜いてきた俺たちの力をっ！　精霊召喚っ！　来たれ、水の精霊ヤドカリ君っ！」

　エルティナイトの肩にちょこんとヤドカリ君が乗っかった。

　やはり、在りし日の姿に戻るには精霊ちから、そして桃力が不足しているようだ。

　でも、今はそれでもいい。あるものでなんとかする。

「つづけて、来たれっ！　海の精霊マッソォ！」

『マッスルフェスティバルっ！』

　エルティナイトの背後に筋肉モリモリの変態マッチョマンが出現する。

　これで、準備は整った。

「いくぞっ！　水と海の精霊魔法！【戒めの大渦】っ！　発動っ！」

『マッスルタイフーンっ！』

　ヤドカリ君が生み出した莫大な量の水を、マッソォが掻き混ぜる。

　すると、それは強烈な力によってリング状へと変化。

　それを、エルティナイトが深緑の悪魔のデ・キーモへと投げつける。

『ど、どこをを、狙っているるるるっ!?』

　しかし、そのリングはあらぬ方向へとすっ飛んでいったではないか。

「エルティナイトっ!?」

『問題にぃ。おまえ、【ふいだま】って言葉、知ってますか？』

「えっ？」

　あらぬ方向へ飛んでいった激流のリングは、なんと途中で軌道を変えて深緑の悪魔の背後へと迫る。

「あっ!?　おまえっ！」

『魔法障壁の糸、凄いですね』

　そうか！

　限界まで強化して細くした魔法障壁の糸を、激流のリングに繋げておいたのかっ！

『ふいだまぁっ！』

「なっ!?」

　エルティナイトが手繰り寄せた戒めの大渦は見事、深緑の悪魔を捕らえ弾けた。

　瞬間、それは大渦と化し、深緑のテナガザルを激流の中へと閉じ込めてしまう。

　ミシミシとデ・キーモの装甲がひしゃげてゆくが、破壊までは至らないであろうことが理解できてしまった。

　だが、それで構わない。

『こ、この程度、どっ！　ハイ・バ・オーガーの力ででででっ！』

　赤黒い輝きがデ・キーモの装甲を修復してゆく。

　このままでは戒めの大渦が解かれる頃には全て修復されてしまうだろう。

『……チャンス！　エル！　いえ、エルティナイトっ！【エレメンタル・ドッキング】、やるわよっ！』

　ふぁっ!?　なんですかそれは？　聞いてないんですけど？

『応！　こっちはもう準備万端。はやくきてー、とうきうきしてる』

　そして、エルティナイトは知っているというね。

『……合体シークエンス起動っ！　ルナティック、オーバーロード……ソウル・ヒュージョン・リンクシステム起動確認っ！』

　なんと、ヒュリティアの言葉と共にルナティックがバラバラになってしまったではないか。

　しかし、それらのパーツは地面に落ちることなく天へと昇ってゆくっ。

『エレメンタルドッキングの要請を受理。これより、ルナティックとの合体を開始する』

　事務的な口調のエルティナイトに違和感を感じつつ、俺は何もできないお子様と化す。

　もうわけが分からないよ。

　というか、エルティナイトが飛んでる？

　いや、飛んでいるというか、引っ張られているっ。

　マジで、重圧が酷いんですがっ!?

「おごごごごごごごごごごごごごごっ!?」

『耐えろぉ、ちんちくりぃん！』

『……位置修正っ！　エルティナイトっ！』

『エレメンタル・ドッキングっ！』

　細かくパーツに分離したルナティックが次々とエルティナイトに装着されてゆく。

　それらが機体に装着される度、シグルドの桃力を強く感じ取った。

　そうか、あいつの桃力の特性は【固】。

　それで、固定を強固なものにしているのか。

　やがて、合体は全て完了し、新たな姿となったエルティナイトが爆誕する。

　それは、エルティナイトのコクピットにも影響を及ぼしたではないか。

「ヒ、ヒーちゃんっ!?」

「……ルナティックとエルティナイトのコクピット融合を確認。エル、あなたの桃力、貸してもらったわよ」

「俺の？」

「……そう、あなたは無意識のうちに、自分の桃力の特性を使用していた。あなたは気がついていなかったけど、私は直ぐに理解したわ。だからこそ、エレメンタルドッキングを思い付いた」

　俺の後ろに出現したルナティックのコクピット。

　それが正常に完了したことを、コンソール画面が告げる。

「ソウル・フュージョン・リンクシステム？」

　コンソール画面にはシンクロ率５３パーセントの文字。

「……それは魂と魂を繋ぐシステム。桃使いたちの秘術を機械化したもの。わたしは、それを【彼】から託された」

「彼、ってことは名前を教えてくれないんだな？」

「……えぇ、それが条件だもの」

「そっか」

　聞きたいことは山ほどある。

　でも、今はやるべきことがあるに違いなかった。

『が、合体だととととぉっ!?』

　深緑の悪魔が驚愕の声を上げる。

　同時に、エルティナイトが名乗りを上げた。

『精霊融合、ルナ・エルティナイトっ！　転生降臨！』

　ルナティックの銀色の装甲を身に纏った漆黒の騎士は、大渦に束縛される機械仕掛けのテナガザルに告げる。

『光（おれ）と闇（ルナティック）が合わさり最強に見えるっ！　もう、おまえ、ボコボコにするわ』

『ポンコツ同士が、くっついた、とこころででででででっ！』

　強引に大渦の戒めを振り払うデ・キーモ。

　その代償は直りかけていた装甲たちだ。

　だが、その憎悪はデ・キーモを更に巨大化させてゆく。

「憎しみを抱え込み過ぎだっ！　鬼に堕ちるぞっ！」

『おまえをぉ！　殺せるならぁっ！　かまわなぁぁぁぁぁいっ！』

　憎悪に染まり顔の形状までもが歪に歪んだテナガザルが、ルナ・エルティナイトに迫る。

「……エル、あなたがメインパイロットよ！」

「任されたっ！　みんな、力を貸してくれっ！」

　ルナティックの大出力は、巨体であるエルティナイトをも宙に浮かす。

　飛行能力を獲得した新たなるエルティナイトの力を見せてやる。

　武装確認。

　オーラキャノン【ツキウサギ】

　連装ミサイル【ツキダンゴ】

　スナイパーライフル【フォリティア】

　バスターランチャー【アルテミス】

　ルナティックの武装は全部使えるのか。

　純粋に強化ってレベルじゃないな。

　これに、エルティナイト本来の武装が加わる。

　負けた時の言い訳なんて思いつかないぞっ。

「ミドルレンジっ！　エルティナイト！　オーラキャノンっ！」

『応っ！　メガトンパンチっ！』

　いや、光素のビームなんですが。

『ぐがぁぁぁっ！』

　直撃、デ・キーモの左腕が吹き飛ぶも、お構いなしに突っ込んでくる。

　既にその機体はルナ・エルティナイトの倍以上だ。

　でも、不思議と力負けする気がしないんですわ。

「……エルっ！」

「応っ！　エリン剣っ！」

　腰から柄だけのエリン剣を引き抜く。

　それを媒体にして、俺は想いを集める。

「この一撃に全てをっ……！　来たれ、思念創世器・始祖竜之牙（カーンテヒル）っ！」

　大いなる輝きがエリン剣に集結し、それは巨大なる刀身を作り上げたではないか。

「こ、この大きさはっ!?」

「……それが、あなたの力。想いを集めて結びつける能力」

　ヒュリティアが俺の能力の正体を明かす。

「……【融】。あなたの桃力は【全てをひとつ】にする」

「それが、俺の桃力……！」

「……エル、恐れないで、自分の能力を。信じて、私たちを」

「答えるまでもない！　俺は仲間を、俺を信じてくれる者たちを信じる！」

　ルナ・エルティナイトコクピットが鋼鉄の大地に変化を果たす時、そこには創世神カーンテヒルによって生み出された子供たちの姿があった。

　光の白エルフ、そして闇の黒エルフが一本の剣を支え合う時、人知を超える力が剣に宿るのだ。

　人はそれを、こう言う。

「「光と闇が合わさり最強に見えるっ！」」

　思念創世器・始祖竜之牙の周りで、光と闇が終わることのない円舞曲を奏でる。

　それは、周囲の空間を異質なものへと変化させた。

『な、なんだっ!?　これははははっ!?』

「……ここは、深緑の悪魔、あなたが果つる地よ」

『ぎ、銀閃んんんんんんっ！』

「……もう逃げられない。鬼に堕ちたあなたが向かうのは母星じゃない。輪廻の輪よ」

　ルナ・エルティナイトが始祖竜之牙を静かに振り上げる。

　たったそれだけの事なのに、まるで星が悲鳴を上げているかのような音が鳴り響く。

『ま、まだだっ！　うわぁたしはぁ！　なにもぉ！　なしとげて……』

「その必要はないっ！」

『っ!?』

「おまえは、やり過ぎたっ！　憎しみを増大させ過ぎたんだっ！　今、その憎しみを吐き出させてやるっ！」

　桃使いとしての使命を果たす。

　その想いは俺に最後の桃戦技を思い出させる。

　いや、違う。この力はっ！

「桃先生？」

　いつの間にか、桃先生が勝手に飛び出し、ぷかぷかと宙に浮かんでいるではないか。

　そして彼女は言うのだ、【最終奥義、承認】と。

「あぁ、やり遂げて見せる！　あいつを憎しみの牢獄から解き放って見せみせるさ！」

　その想いを力に変えて、今、解き放つは最終奥義っ！

「桃戦技、最終奥義っ！　輪廻、転、生、ざぁぁぁぁぁぁぁぁぁんっ！」

　始祖竜之牙に、ありったけの桃力を籠めて振り下ろす。

　それを深緑の悪魔はガードする。

　しかし、この剣は実体剣ではない。

　そして、相手を殺めるための剣ではないのだ。

　絶対に防ぐ事などできやしない。

　デ・キーモの腕をするりと通り抜け、輝く剣はテナガザルの胸に達する。

　にもかかわらず、機体には破壊された痕跡は一切ない。

『あ、あぁ……光が、溢れるっ!?　私は、何を……？』

「汝に罪なし。希望（ひかり）を抱いて逝け」

　淡い光の粒子へと解け天へと昇ってゆく深緑の悪魔。

　完全に鬼へと堕ちていた証拠だ。

　しかし、機体はそのまま。

　ガクリと膝を突き、その動きを止めてしまう。

　身も心も鬼に堕ちて暴走してしまった者が正気に戻ることは二度とない。

　そんな鬼をを救ってやるには、桃力で浄化し輪廻の輪にて再生してもらうしかないのだ。

　それが、鬼に堕ちた者の【罪】。

　桃使いは鬼から【罰】を取り除いてやることくらいしかできない。

　それを可能とするのが、この救済の剣技【輪廻転生斬】なのだ。

「……完全に深緑の悪魔の気配が消えたわ。お疲れ様、エル」

「あぁ、ありがとなんだぜ。どうやら、向こうも片が付いたようだな」

　消失する始祖竜之牙と特殊空間。

　その向こうでは勝鬨を上げる仲間たちの姿。

　どうやら、機獣の殲滅に成功したようだ。

　こうして、俺たちは機獣基地を丸っと頂く事に成功。

　エルティナイトも新たなる姿を得て、大勝利に終わったのであった。