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16食目 魔改造

 レ・ダガー討伐任務を引き受けた戦機乗りたちは、出撃に向けて準備に取り掛かった。

 俺たちも一度、マーカス戦機修理工場へと戻る。


 既に俺たちの戦機はマーカスさんによって調整を受けているので問題はないはず。

 問題は俺のエルティナイトの内部構造だけなのだが……ま、えぇわ。


「ところで、ヒーちゃんはいつの間にEランク一位になっていたんですかねぇ?」

『……ホットドッグの代金を稼ぐためにバイトしてたの』

「いつ?」

『……エルが二秒で寝た後』

「おう、じーざす」


 どうやら、ヒュリティアはホットドッグを食べんがために、夜の依頼もこなしていたらしい。

 道理で彼女の戦機がボロボロになって工場に置いてあったわけだ。


 俺はてっきり戦機の操縦の練習中に、こけた、と思っていたのだが、そうではなかったようだ。


「俺も夜に仕事入れるかなぁ」

『……だめよ、夜更かしをすると身長が伸びないわ』

「それは困るんだぜ」


 もう、幼女は勘弁なんやなって。早く大きくなりたいです。はい。


 マーカス戦機工場へと戻る途中で、ヒュリティアと無線通話をおこない、衝撃の事実を知った俺は、ホットドッグジャンキーの業の深さを理解したのであった。






 マーカス戦機工場へと戻った俺たちは早速、戦機の準備に取り掛かる。

 といっても、俺はすることが無い。


 エルティナイトの武装はただ一つ。

 そう、我らのエリン剣ただひとつだけ。


 銃など、不要らっ!


「……エル、いい加減にライフルも使って」

「騎士が銃とかダメでしょう?」

「……エルは外見を気にし過ぎ」


 ヒュリティアは、ぷひっ、とため息を吐いた。


 銃も使えなくはないのだが、やはり騎士は剣と盾をもってなんぼだ、と思う。


 したがって、俺は銃を持たないことを強いられているんだっ!


 迫真の集中線を用いた俺のドヤ顔に、ヒュリティアの怒りのほっぺぷにぷに攻撃が炸裂した。


 俺のほっぺたは、ぼどぼどだぁ!


「何やってんだ、おまえら」

「あ、マーカスさん」

「……機獣が目撃されたから討伐しに行くの」


 機獣という言葉を耳にしたマーカスさんは渋い表情を見せた。


「最近は姿を見せないと思ってたら、また出てきやがったのか」

「以前にも目撃されてたのか?」

「あぁ、そんときゃあ、戦機乗りたちも出払っていてな。キアンカも相当な痛手を被った」

「そんなことがあったんだ」

「あぁ、その後は外部から人を入れての復興だ。統一感なんて綺麗さっぱり無くなったよ」


 なるほど、それで町が和洋中で、ごちゃごちゃな事になったのだろう。

 とにかく、再建を最優先すれば、こうもなろうというものだ。


「……今度は、私たちがいる。問題無い」

「銀閃がそう言ってくれるなら、安心ってもんだな」

「お、俺もいるぞぉ!」

「あぁ、珍獣もちょっぴり期待しているさ」

「珍獣言うなぁ! しかも、ちょっぴりってなんだ、おるるぁん!」


 俺は地面に身を放り投げ、怒りのじたばた、を披露。

 マーカスさんに、怒りのほどを見せつけた。


 効果はなかったもよう。ふぁっきゅん。


「しかしまぁ、あのぶっ壊れた機体が、よくもここまで、だな」

「ふきゅん、ある意味で、まだぶっ壊れてるがな」

「それな」


 ヒュリティアのTAS‐024・ブリギルトは改造に改造を重ねて、従来のブリギルトの姿をほとんど失っていた。

 面影があるのは頭部の形状と、コアが内封されている胸部のみである。


 これもう、ブリギルトって言わないんじゃないのかぁ?


 というのも、戦機の各パーツの接続部分は戦機開発会社の取り決めで、同一規格になっており、様々な戦機のパーツが容易に取り付けることが可能なのだ。


 したがって、町には【戦機の腕専門販売店】などというものもある。

 要はコンパチブルが可能なわけだ。


 がしかし、エルティナイトは、それができなくなってしまっている。

 関節部分に鉄の繊維みたいなものが絡まっており、筋肉のような構造を見せていたのだ。


 いったい何がどうなってこうなったのか、さっぱりわけワカメ。

 にもかかわらず、性能は向上していない、という非情な宣告にもう頭に来ますよぉ!


「まぁ、呼称するならTAS‐024・ブリギルトHTヒュリティアカスタムってとこか?」

「あくまで、ブリギルトなんだな」

「あぁ、コアが載せられている胸部は替えれないからな」


 という事は、戦機の本体はコアが搭載されている胸部ということになるのだろう。

 尚、コクピットも胸部にある。


 アインリールの場合は胸部の下側に搭乗口があるが、ブリギルトの場合は上の方についていた。

 したがって、乗り込む場合は少しばかし怖い。


 高所恐怖症のヤツは乗れないぞ、これ。


「軽量逆関節タイプの脚部にライトミスリル合金の装甲、これでもかという数のスラスターに、背部大型スラスター。武器がアマネック社の45mm狙撃銃【レイタック】と大型ダガーのみっていうピーキーな機体か」

「ヒーちゃんは近接戦闘を嫌がるからなぁ」

「トラウマでもあるのか?」

「……どうだろな?」


 心当たりがいくつかある。

 しかし、その殆どの光景が白い靄に包まれてしまっていて全容が分からない。


 ただ一つ言えることは、ヒュリティアはものすっごいスナイパーだという事だ。

 百発百中やぞ、百発百中。どうなってんだ、あの子の腕前。


「組み合わせも悪くない。逆関節だと、しゃがんでの狙撃体勢から立ち上がり易いからな」

「たまに横着して、スラスターでブーンしてるらしいぞ」

「ぶっ!? そういう使い方してんのか、あの背部スラスター」


 マーカスさんは、ヒュリティアの想定外のスラスター使用方法に吹き出した。

 俺的には、当然の使い方である、と思っていたのだが、どうやら違うらしい。


「ま、その分、借金が増えてるらしいがな」

「どれくらいですかねぇ?」

「約六億八千万ゴドル」

「おっふ、聞かなきゃよかった」


 百万ぽっちじゃ焼け石に水じゃないですかやだー!


「借金は戦機乗りの信用だと思え。信用の無い奴は借金すらさせてもらえないんだからな」

「そういうものなのかぁ」

「それに、ヒュリティアの嬢ちゃんなら、すぐに借金を返し終えるだろうさ」

「それって、上のランクに昇格するってことか?」


 マーカスさんはそれには答えず、ひらひら、と手を振って仕事に戻っていった。


 そして、妙に大人しい、と思っていたヒュリティアがベンチに腰かけて一人、黙々とホットドッグを食べていた件について。


「おいぃ、ホットドッグ警察だっ!」

「……やべぇ、さつだ~」


 超棒読みのヒュリティア可愛い。

 そんな彼女の隣に、ふっきゅんしゅ、と腰かける。


「というか、またホットドッグなのか?」

「……魔力、ううん、光素の補充。私の戦機は光素の消費が激しいから」

「あぁ、戦闘中、びゅんびゅん、動き回ってるもんな」

「……本当はあの子、エルが一番、上手く扱える」

「う~ん、狙撃は好きくないんだぜ」


 やはり、戦うのなら正面から正々堂々である。異論は割と認めない。


「……相も変わらず馬鹿正直ね。エルらしいけど」

「俺は、こういう生き方しかできないんだぜ」

「……そうね。そうよね」


 ヒュリティアは残りのホットドッグをぺろりと平らげ虚空を見上げる。

 その眼差しは、まるで遠い過去を見ているかのようだった。


 彼女の場合はさまになるが、俺の場合は腹を空かせた子犬にしか見えないらしい。


 ぷじゃけんなっ! 訴えてやる、法廷で会おうっ!


「あい~ん」

「うん? あぁ、別に怒ってなんかいないんだぜ」


 俺の感情の起伏を感じ取ったアイン君が、俺を宥めよう、と身体を摺り寄せてきた。

 どうやら、いらない心配を掛けさせたようだ。


「ぶろろん」

「……大丈夫よ。私もどこにもいかないから」


 そして、ヒュリティアの相棒となった青銅の精霊ブロン君。

 この子の存在があったからこそ、ヒュリティアはブリギルトを魔改造したのだ。


 ちなみに、ブリギルトはブリキが名の由来になったわけではない。

 ブリギルトの前身となった【TAS‐023・ブロスギルト】の名を継承し、少し変更した結果、ややこしい名前になったのだという。


 ブリキは、鉄鋼をスズで表面処理した表面処理鋼板ってマーカスさんが言ってたからな。

 青銅とは全然違うんじゃあ。


「ヒーちゃんのブリギルトとは違って、俺のエルティナイトは改造ができなくなっちゃったんだぜ」

「……それは、早計なんじゃないかしら?」

「ふきゅん?」


 首を傾げる俺に、彼女はダイナミックな提案をしてきたのであった。

TAS‐024・ブリギルトHTカスタム


全高11m5cm


重量62.2t


最大索敵範囲4000m 狙撃スコープ使用時10000m


総推力 125000kg


光素出力 1830kpコウソパワー


装甲材質 青銅 ミスリル銀合金


適性 陸 宇宙


第一次世界大戦前に開発されたブロンズクラスの戦機TAS‐024・ブリギルトをカスタムした機体。


軽量逆関節タイプの脚部にライトミスリル合金の装甲。

これでもかという数のスラスターに、背部大型スラスター。

武器がアマネック社の45mm狙撃銃【レイタック】と大型ダガーのみ、というピーキーな機体。


総重量はスラスターの増加によって重くなっているが、良好な運動性能と機動力を獲得した。

また、鎮座による簡易変形をして背部スラスターを使用することにより、空気抵抗を少なくした形態へ移行し高速移動することも可能。


頭部にも狙撃用のスコープカメラを増設している。

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