167食目 東方国 機獣基地攻略戦
ブジンたちを引き連れ、何度目か分からない雷山へと突入する。
このあいだ降った雪は一時的なものであったようで、既にその姿を確認することはできなかった。
さて、機獣どもの基地の在りかだが、実はほぼほぼ判明している。
それもこれも、全部H・モンゴーだかモンゲーだかのお陰だ。
あいつが特殊食材を持って行ってくれたお陰で、その波長を拾えばいいだけの簡単な作業となっているからだ。
どうやら、連中はそれを食べずに大切に保管でもしているのだろう。
いまだにビンビン、と水豚の波長を拾う事ができた。
「そろそろ、近いんだぜ」
『……全機、戦闘準備。警戒しながら移動』
今回は東方国の全戦力を投入した絶対に負けられない戦いとなる。
したがって、精霊戦隊も戦機を動かせる者は全員、戦闘に参加とした。
といっても、後ろから銃を撃つだけのお仕事なので比較的安全ではあるが。
今回もクロナミは戦闘に参加することはできない。
この山岳という地形は本当に厄介だ。
補給も簡単には受けられないので一度のトライで、機獣基地を落とせなかった場合、俺たちは最悪の結末を迎えてしまうだろう。
それは、向こうも同じ条件ではある。
機獣たちも、東方国に幾つも基地を構えてはいないはず。
ここを足掛かりにして東方国を攻略するつもりなのだろう。
しかし、おまぬけさんを派遣したのが運の尽き。
彼には割と恨みはないが、東方国の未来のためにも、ここで命運尽きていただく。
「見えた、面倒臭いところに基地をおっ建ててやがるなぁ」
『……急斜面ね。攻めるのは難しく、守るには易し、といったところかしら』
ヒュリティアも俺と同じ感想を抱いているもよう。
「さて、それじゃあ、行ってみようか」
『久しぶりの出番で、もう腕がビキビキ言っている。超危険なナイトは、きっと大活躍するだろうな』
エルティナイトも暫くの間、暇そうにしていたのでやる気は十分だ。
加えて、ヤドカリ君を召喚できるようになったことで、魔力と精霊ちからも飛躍的に向上している。
これなら、多少の相手でも後れを取ることはないだろう。
ここで、機獣基地よりサイレンが鳴り響く。
どうやら、あちらさんも俺たちの存在に気付いたもよう。
「みんなっ、覚悟はいいかっ! これより、機獣基地を攻略するっ!」
規模は幸いにも小規模だ。
機獣の数は多く見積もっても百五十程度だろう。
この猪口才な戦術なら勝てなくもないはず。
「ブジン隊の作戦は【いのちをだいじに】だっ! 精霊戦隊の作戦は【いのちはなげすてるもの】でユクゾッ!」
『ナイトダッシュっ!』
とはいえ、エルティナイトのやることはいつも通り、みんなの盾である。
桃色金属で作り直したナイトの盾に、防げないものはあんまりない事を教えてやろう。
尚、装甲は諸事情があって鉄製のままでございます。
貧乏は辛いねんな。
急造の盾を構え、横に列を成しながら進軍するブジンたち。
その盾の正面には槍の矛先がやっつけ気味に取り付けられている。
これで、無謀にも突撃してきた機獣を、ブスリ、あーっ! とやってやろうというのだ。
とはいえ、盾役は基本的に攻撃はしない。
俺と彼らの役目はとにかく防御に徹し、攻撃役を護ることにある。
お侍たちは不満な表情をしていたが、俺たちは機獣との戦闘経験が豊富だし、将軍様から大義名分を頂戴してるので逆らえないもよう。
『機獣確認っ! レ・ダガーおよそ百っ! 未確認機も多数っ! 新型かと!』
偵察機仕様の装備を施されたヤーダン主任のマネックより通信が入る。
随分とゴテゴテしたオプションを装着されているマネックは、その高性能なカメラで以って狙撃も得意としていた。
なので、アマネック社の新製品、【ブラッドローズ】を携えて戦闘に参加している。
このブラッドローズは従来の狙撃銃の射撃距離を限界まで延長することを目指して開発された実弾銃だ。
戦機用の実弾狙撃銃の射程は通常3000メートルが一般的だ。
それ以降は命中させることが難しいし、威力も極端に落ちる。
しかし、ブラッドローズの限界射程距離は驚異の15000メートル。
その威力も距離によっては厚さ十メートルの鉄板を容易くぶち抜く、というのだから凄まじい。
尚、お値段。
へっぽこ戦機チームでは絶対に買えません。
「ガンテツ爺さん! 攻撃チームの指揮は任せたっ!」
『おう、任せておけいっ!』
「ヒーちゃんっ! あまり前に出過ぎないでくれよっ!」
『……考えておく』
そこは、了解と言ってほしかったなぁ。
どうにも、先の水豚戦では新ルナティックの本領を発揮できなかったようで、鬱憤が溜まっているようだ。
それにしても、相変わらず凄まじい推進力だこと。
横着形態への変形も一瞬となっている辺り、最早、変形と言っても差し支えないだろう。
その内、空も飛べそう。
『き、来たっ!』
ブジンのパイロットの悲鳴が聞こえた。
というのも、そのパイロットの殆どが年若い侍たちばかりなのだ。
この国の達人とよばれる侍の殆どが戦機を操れない、という不具合が生じており、これが東方国の戦機協会依存の原因となっていた。
しかし、若い者たちはその柔軟性もあってか、なんとかブジンを操ることができる。
だが、その腕前はというと戦機を移動させることがなんとかできる程度。
つまり、エリンちゃんよりも遥かに下手くそという事になる。
『命中したよ~』
そんなエリンちゃんは簡易狙撃スコープを装備したブリギルトで出撃。
同じくアマネック社製の狙撃銃ロゼッタにてレ・ダガーを狙い撃つ。
確かロゼッタって、かなり尖がった性能で扱いが難しいと聞いているんですが?
『唯一無二の盾っ!』
押し迫るレ・ダガーの群れをエルティナイトのパワーで押し返す。
ブジンたちも、やることは明確で一つしかないため、盾を構えて群で押しまくる。
これにレ・ダガーは成す術もなく、後方からの攻撃にて一方的に撃破されていった。
とはいえ、こちらに損害が無いわけではない。
盾も急増であるため完全に攻撃を防げるわけではないのだ。
所々に被弾し、走行不能となっているブジンもちらほらと出始めていた。
そういったパイロットたちを回収してくれているのがクロヒメさんである。
背中に狙撃銃ロゼッタを背負っているので、攻撃にも参加できるのが強みだ。
しかし、それも序盤だけであろう。
戦いが長引けばそんなこともできなくなる。
この戦いは序盤の攻防が肝となり、そこを制したものが戦いを制したことになる、といっても過言ではない。
だからこそ、向こうも全戦力に近い数を出してきたのだろう。
『ちんちくりんっ! 新型が来たっ!』
「俺たちで相手をするぞっ、エルティナイトっ!」
レ・ダガーの後方より迫る新型の機獣。
それは、異様に腕の長い猿のような機体であった。
その中に一機、色違いを発見する。
それは、他の茶褐色のテナガザルとは違い深緑の色に染まっていた。
「まさかっ!? 深緑の悪魔かっ!?」
『久しいなぁ! 会いたかったぞ!』
憎悪に満ちた声からは、度し難い殺気を感じる。
機体から感じる陰の力は、以前とは比べ物にならないほどの禍々しさだ。
どう考えても、連中が使っていたシステムのそれではない。
『貴様らに受けた屈辱を晴らすために、私がどれほどの代償を支払ったか分かるまい!』
「知りたくもないし、自業自得と思うんですが?」
『その減らず口もこれまでだっ! この新型機【デ・キーモ】でお前の命を刈り取るっ!』
そんなお猿さんでナイトを撃破しようなどとは片腹痛いんですが。
『モンキーがなんか言っているんですが?』
「猿なだけに、キーっ! と言わせて差し上げろっ!」
『応っ!』
まさかの深緑の悪魔との再戦は、いったい何をもたらすのであろうか。
そして、ちらちら見えるブサイク兎の姿。
「あ、逃げた」
『……逃げたわね』
『脱走兵だっ! 捕まえろっ!』
『機獣が機獣を攻撃しているぞっ!?』
『いったい、どうなっているんだっ!?』
『被弾したっ! 衛生兵っ! 衛生兵っ!』
あぁ、もう、滅茶苦茶だよ。
どうしてくれるの、H・モンゴーくん。
戦いは敵味方ともに大混乱になり、いつも通りの展開になることは容易に予想できたのであった。




