164食目 でっかくなっちゃった
「お、おまえは誰だぁっ……!?」
そこには、いつの間にか破廉恥なお姉さんが「おにぃ」とセクシーポーズを炸裂させていたではないかっ。
というか、角を生やして虎柄ビキニなんて一人しかいないんだよなぁ。
「あ~、ようやく、まともな姿になれたわ。まぁ、小さい方も小さい方で楽しかったけれどもね。くすくす」
真っ暗闇を抜けてきた茨木童子は、いつの間にかダイナマイトバディを誇るエロエロお姉さんへと大変身。
きっと、地下通路に溜まっていた陰鬱な力を食って急成長を果たしたのであろう。
「……あら? あなた、純粋な茨木童子じゃない?」
「うふふ、ようやく気付いたの? ヒュリティア。初見じゃ、流石に少し焦ったわよ?」
「……あなた、ユウユウね」
茨木童子はにんまり、と怪しい笑みを浮かべ、胸に手を当てて答えた。
「そう、私は茨木童子の魂が分かたれて誕生した転生体、ユウユウ・カサラ。そして、あなたとエルティナのクラスメイト」
いいよいよ以って無表情を貫いていたヒュリティアの表情が驚愕に染まる。
と言ってもお口を三角にして耳をピンと立たせただけであるが。
「うふふ、ダーリンあるところ私ありよっ」
「……まさか、竜の枝の気配が向こうに無いからって、こっちに来たんじゃないでしょうね」
「あらやだ、そんなわけないでしょう? 最初から、その子に、憑りついてたわ」
「……最悪」
「やぁねぇ、隙の無い二段構え、ってやつよ? くすくす」
上品に笑う茨木童子、もといユウユウ・カサラは俺の頬をぷにぷにと蹂躙した。
「ほんと、母親そっくりね。面白そうなことをしていたから便乗してみたけど正解だったわ」
「……シグルドの事も知っているってことね?」
「もちろんっ! あぁ、やっぱり素敵だわっ。私のダーリンっ!」
ユウユウは体をくねくねさせて惚気に惚気まくっている。
というか、シグルドって竜の枝で、めっちゃドラゴンなんですけど?
どう見ても人型で、しかも鬼な彼女がなんでまた。
「……エル、そこら辺の記憶が曖昧になっているわね?」
「というか、まったく無い」
「……ということは、これは想定外という事になるわね。はぁ、面倒臭い」
ヒュリティアは額を押さえて盛大なため息を吐いた。
俺としては訳が分からないので「ほぁ~」と間抜け面を晒すより他にない。
「まぁまぁ、悪いようにはしないわ。だから早く、ダーリンを召喚できるようになってね」
「限りなく脅迫に近い激励を受けたんだぜ。鳴きたい」
「それじゃあ、先を急ぎましょうか」
俺をザインちゃんを、ひょいと持ち上げたユウユウは、ニコニコしながら先を促した。
細い腕からは想像もつかない怪力を誇るのは、彼女が鬼だからであろうか。
「茨木童子ちゃんってヒュリティアちゃんの知り合いだったんだ?」
「……そうよ、クロエ。もうこれだけ不思議現象が起こっていたらいいわよね?」
「ふぇ?」
そういうと、ヒュリティアは輝きと共に大人の女性へと変身を果たす。
その姿はユウユウにも劣らないダイナマイトバディであった。
「にゃ~ん! ヒュリティアもおっきくなっちゃったにゃ!」
「ク、クロエも大きくなりますっ!」
「にゃっ! それにゃら合身にゃっ!」
いやいや、肩車をして大人とは言わないだろ。
そして、そのまま前進開始という。
あぁ、もう、グダグダだよ。
「っ!? 貴様ら何者だっ!」
部屋を出たところで運悪く警備の者に発見される。
「いやいやっ! 本当に何者だっ!? なんで肩車っ!? というか、子供と女っ!?」
「……うるさい」
「ほぎゅっ!?」
ヒュリティアさんが残像を残しつつ警備兵の背後を取り、首元に当て身を喰らわせて仕留めました。
この警備兵は運がいい方だったのだ。災難ではあったけどな。
「あら、まだ現役で動けるみたいね。ちょっとトロかったけど……太った?」
「……うるさい、太ってない。ユウユウこそ、無駄に肉が付いているじゃない」
「くすくす、これはそう、ダーリンの愛が詰まった証っ」
「あいかわらじゅ、でごじゃるにゃ」
「ザインは随分と可愛らしくなっちゃって」
そうか、ヒュリティアとクラスメイト、ということはザインちゃんもユウユウとクラスメイトという事になるのか。
なんだか話がややっこしくなってきたぞ。
「ほれほれ、先を急ぐぞい」
「ほんと、私たちに関わるご老人は元気ねぇ」
「……否定はしない。向こうでも、こっちでも、みんな元気だわ」
俺はこのやり取りの間にクロヒメさんの波長を拾おうとした。
そしてそれは上の階から伝わってくる。
「クロヒメさんの波長を上の階から感じ取れるんだぜ」
「むぅ……となると天守閣に連れてゆかれた可能性があるのう」
そうであるなら、戦闘は避けられない、とガンテツ爺さんは言う。
「あら、何か問題でも?」
「確実にわしらはお尋ね者になるじゃろうな」
「うふふ、そうなったら、そうなったで面白いじゃない。いっそ、世界征服でもして、根本から変えちゃえばいいのではなくて?」
「なんで、そういう発想になるんじゃ?」
「だって、鬼だもの」
にっこにこなユウユウさんは、ダイナミック発想の持ち主であるもよう。
これは下手に怒らせない方が吉であるに違いない。
「……別にそれでも構わないから、とにかくクロヒメさんを助けることを優先」
「にゃっ! そうだったにゃ!」
「今こそ、合身の力を見せつける時だよっ!」
「……それは、もう解きなさい。あと、クロエ。パンツ丸見えよ」
「「そんにゃ~!」」
にゃんこびとの二人はショックを受けつつ、合身という名の肩車を解いた。
もちろん、この合身の最大の見せ場は、警備兵との初遭遇時のあれである。
その後、やはり戦闘は避けられなかった。
これを強引に突破するのだが……精霊戦隊の戦闘メンバーの戦闘能力が半端ではない件について。
最早、完全なカチコミ状態。
そして、絶対に勝てない酷い連中に密かに潜入されていた、という圧倒的な絶望感。
それは警備兵たちを委縮させ、酷く混乱させてしまう。
というか……。
「くすくす、さぁさぁ、抵抗してみなさいなっ! この茨木童子に対してっ!」
「ひぃぃぃぃぃっ!? お、鬼だっ! 伝説の化け物に勝てるわけがねぇっ!」
ユウユウの虚空から取り出した金棒にぶん殴られて、壁と共に外へと退場する警備兵たち。
ここ、三階やぞ。絶対に助からないだろ。
『おぉ、おぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ……!』
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁっ!? あ、悪霊だっ!」
「あ、あれはっ……! ま、昌雅斗公だとっ!?」
更にはザインちゃんに憑りついたマサガト公が、ここぞとばかりにハッスルする始末。
ボロボロの刀で切り捨てる、切り捨てる。
宿り主であるザインちゃんはミオが背負っています、はい。
「にゃんだか、凄いことになってるにゃ~」
「わぁ、首が綺麗に飛んだね。凄いや、マサガト公」
『おぉ……』
悪霊が頬を染めて恥じらってはいけない、いいね?
「……ったく、雑魚が幾ら湧いても無駄なのに」
更にはヒュリティアが黄金の弓で容赦なく警備兵を射殺する。
せめてもの情けで一撃で仕留めている辺り、優しいといえるのだろうか。
でも、鬼よりも鬼なんですけど?
「もう駄目だっ! お終いだっ!」
本当にソレな。
俺はガンテツ爺さんに抱っこされつつ、警備兵たちの悲哀を強く感じ取ったのでありました。
「あ~っはっはっはっ! 竦みなさい、怯えなさいっ! そして、己の力も生かせぬまま糞虫のごとく潰されるがいいわっ!」
「お、お助け~っ!」
ユウユウの邪悪な笑顔に、警備兵たちは失禁。なりふり構わない逃走を開始した。
もっと早くに諦めていれば死なずに済んだものを。
「あらやだ、もうお終い? 根性無いわね~」
「……割とあった方じゃない?」
「そうかしらねぇ? 向こうじゃ、ここら辺で強敵登場で燃える展開なのに」
「……たぶん、あれ」
ヒュリティアが指差す方には、頭部がぺちゃんこになっている少し鎧が豪華な警備兵の死体があった。
「え? 嘘でしょ? 違いが分からなかったのだけど?」
「……どうやら、私たちは過剰戦力過ぎるようね」
「見るのと、実際に戦うのとじゃ違うってことね。これじゃあ、戦機としか戦えないわね」
生身で戦機と戦う気なんだ、と考えた俺は、それも可能なのではと確信した自分に戦慄したとかなんとか。
「……そうでもないわ。機械人はそれなりに手ごわい」
「機獣の中身ね。うふふ、あなたがそう言うなら楽しみにしてましょうか」
「それよりも先を急ぐぞい。ここの連中は、なかなかにエグい拷問をしてくるからの」
「それって凌辱?」
「それもあるがの。それはまだマシな方じゃて」
そっちがマシなのか。
ということは口にするのも躊躇われる方法が目白押しという事だ。
これに、俺の怒りは速やかに最高潮に達し、ほんのりと桃色の力が漏れ出してきたではないか。
「クロヒメさんの波長が鮮明になって来たんだぜ」
「もうすぐ天守閣じゃ。急ごう」
俺たちは蹂躙に蹂躙を重ね、いよいよ天守閣に辿り着いた。
そこには、衝撃的な光景が待っていたのであった。




