163食目 潜入 灯都城
ガンテツ爺さんに案内をされた場所は、灯都城の真裏にある寂れた公園であった。
表の華やかさと比べて、あまりにも陰鬱で寂しい場所は異様な光景に映る。
いよいよ以って、ここは異界なのではなかろうか、と錯覚するのも無理はないだろう。
「にゃんだか、寂しい場所にゃ~お」
「おっかない感じだね」
にゃ~ん、とクロエがミオに抱き付く。
まるで、お化け屋敷に入ったリア充のようだ。
このままでは嫉妬に駆られた何かが出現してしまうのではなかろうか。
「変わらんのう、ここだけは」
「……ガンテツ爺さん、ここはなんなの? 異様に陰の気配が強いんだけど」
ヒュリティアが二の腕を擦る仕草を見せた。
そうもなろう、というものであり、この場所は陰の気配が強過ぎる。
そのお陰で茨木童子も、きゃっほい、きゃっほい、と大喜びだ。
「ここはのう、大昔の処刑所の跡地じゃよ」
「うげっ、マジかっ。通りで陰の力が充満しているわけだぁ」
ガンテツ爺さんの説明を頷かせるかのように、あちらこちらをふらふらする首無しの武者の姿が見える気がする。
関わらないようにすとこ。
「ほれ、あそこに祠みたいなもんがあるじゃろ?」
「うん、あるな」
「あそこが隠し通路になっておるんじゃ」
ガンテツ爺さんはふらふらする首無し武者を、げしっと足蹴りにして通路を切り開いた。
メンタルが強過ぎるって、それ一番言われているお年寄りのもよう。強すぐる。
「むぅ……こうじゃったかの?」
ぶつぶつと独り言を言いながら祠をいじくるガンテツ爺さんは、やがてゴトンという音を立てさせることに成功する。
「いかんせん昔の事じゃから、忘れていた部分も多いが……なんとかなったわい」
どういう仕組みであったのだろう、祠の根元の部分に階段が出現したではないか。
まるで、緑の服を着た勇者が活躍をする物語内のギミックのようだ。
だが、昔の抜け道の割には警備が薄すぎやしないだろうか。
もしかしたら、既に封鎖されていて警備する必要がないのかな。
「……妙に手薄ね。どういうことかしら?」
「ここはの、強力な悪霊がいるという噂があってのう。だから、住民はもちろんのこと、将軍ですらここに近付こうとはせんようじゃ」
「……悪霊って、それ?」
ヒュリティアがおもむろに、禍々しいオーラを放つ落ち武者を指し示した。
「うむ、丁度あんな感じじゃの。悪霊の名はマサガト・タイラーと言ってのう、それはそれはとてつもない権力を誇っていた武家の当主じゃったんじゃよ」
落ち武者さんが、うんうん、と首を振っていらっしゃるんですが。
「じゃが、重用していた家臣に裏切られての、捕えられて秘宝の在りかを尋問された挙句に殺されてしまったらしい」
うごごごご、と落ち武者さんが怒り狂っていらっしゃる!
「おちつきたまへ」
俺が紅葉みたいな手を突き出し悪霊を諫める、と彼はこくこくと頷いた。
どうやら正気に戻ったらしい。
「その処刑場となったのがここじゃ。それ以来、彼に替わって東方国を治めるようになった将軍家は身内に不可解な死を遂げる者たちが続出しての。マサガト公の祟りだと信じるようになったんじゃよ」
落ち武者さんが、えっへん、とドヤ顔を見せていらっしゃる。
どうやら、相当に強力な力をお持ちなもよう。
「こうして出来上がったのが、この祠じゃ。マサガト公を縛り付けると共に、供養をして冥府に行ってもらうための装置、といった感じじゃが……こんな感じじゃ成仏もできんじゃろうて」
「そうにゃおね。寂し過ぎて、ミオなら旅立ちたくないにゃお」
「なんだか、大昔を思い出しそう。私の前世、確か骨だった気がする」
クロエさん、骨が前世って酷過ぎませんかねぇ?
そんなんじゃ、勝負になんないよ~?
「っと、いかん。早く城に乗り込んでクロヒメを助けんとの」
「その前に、この落ち武者さんはどうするの?」
「落ち武者? なんじゃい、それは?」
「ほらそこ」
ガンテツ爺さんが、背後の落ち武者さんを確認する、と落ち武者さんは「はろー」片手を上げて気さくな挨拶をしてきたではないか。
「うをっ!? マ、マサガト公かっ!」
「……たぶん、そうじゃないかしら?」
落ち武者さんは、いかにも、と肯定している。
強力な力を持っているが、どうやら喋ることはできないらしい。
「伝説は本当だった、ということかのう。以前は彼の姿を見ることはできなかったんじゃが」
「たぶん、俺の眷属になって見えなかったものが見えるようになったからじゃないかな」
「うむ、それが普通になってしもうて気が付けなんだな」
ガンテツ爺さんは改めてマサガト公に挨拶をし、ここを利用する目的を告げる。
するとマサガト公は、うんうん、と理解を示し、ちら~り、とザインちゃんを見つめた。
「ふきゅん?」
ザインちゃんは、こてん、と首を傾げる。
だが次の瞬間、マサガト公は彼女の中へと入ってしまったではないか。
「おわぁぁぁぁっ!? ちょっ! 人の娘に何してくれてんのっ?」
これはもしかしなくても、ザインちゃんが悪霊に憑りつかれてしまったっぽい。
これは直ちに、悪霊退散っ、いぇあっ! しなくてはっ。
「こ、これはぁっ! ままうえっ! せっちゃ、こりぇで、しぇんりょくに、なりぇまちゅる!」
「なん……だと……!?」
ザインちゃんの背後には一対の刀を構える武者が佇んでいた。
その下半身は存在していないことから幽霊であることが理解できる。
また、その力はザインちゃんと結びついていることも理解できた。
『我が名は【平昌雅斗】。こんごともよろしく……』
なんか、勝手に悪霊が仲間になったんですけど?
「せっちゃ、ざいん、ともうちゅっ! ともに、あくを、ぶちころしゅのらっ!」
『興奮してきた。幼女に仕えるのも悪くない、はぁはぁ』
浄化しなきゃ。うちの子が危ない。
「……エル」
「どいて、そいつ殺せない」
「……もう死んでるし。丁度いいから力を貸してもらいましょう」
「おいぃ、立っている者は親でも使え、というのかぁ」
「……そうよ。どうせ、城内で誰かと鉢合わせたら戦闘は避けられないし、それならマサガト公に、ばっさばっさと切り捨ててもらった方が良い」
「最初から暴れる前提とか、スニーキングミッションが息をしていらっしゃらないんですが?」
極めて武闘派のヒュリティアの説得もあり、俺たちはマサガト公を受け入れることに。
妙な仲間が増えてしまったが、今はのんびりとしてはいられない。
「あい~ん」
「おう、そうだな。アイン君が急げとおっしゃっているぞっ! いそげ~!」
「「「わぁい!」」」
というわけで、抜け道へと突入。
内部は暗く、大昔の空気と陰の力で満たされていた。
「暗いんだぜ」
「大丈夫じゃ、一本道じゃからの。壁を伝って真っ直ぐに進めばええわい」
暗視能力も効果を発揮しないほどの闇の中、俺たちは手探りで前に進む。
というか、ガンテツ爺さんに手を繋がれて、あとは俺がザインちゃんの手を繋いで、と連なっているのだが。
あと、野良わんこは置いてきた。危ないからな。
「よぉし、ここじゃ。覚悟はええか?」
「応、なんだぜ」
ガンテツ爺さんがゆっくりと階段を上る。
そして、出口の蓋をゆっくりと上げて周囲を確認した後に階段を上り切った。
出た場所はどこかの部屋の隅っこ。
部屋には大昔の資料や武具が置かれている。
どうやら、物置に使われている部屋のようだ。
「出口の上に物が置かれてなくて助かったわい」
「……物置のようね」
「そうじゃな。位置的には一階の右奥の部屋じゃ」
「ところで、このお姉さんは誰にゃ~ん?」
ミオが指し示した人物を目の当たりにし、俺たちは驚愕した。




