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161食目 東灯都

 東方国の首都、東灯都に到着した俺たちは、その技術力の高さと徹底された和のテイストに圧倒された。

 それは、道行く人たちにも適用されているのは勿論のこと、飼い主不明の犬にまで施されていたのだ。


 犬がちょんまげって、これは虐待の可能性も存在している?


「……町の至る所にオートメーション化された箇所があるわね」

「しかも、巧妙に隠されている辺り、景観を徹底的に守ろうとしているのが分かるわ」


 ヒュリティアとクロヒメさんは、自動床の上に乗って楽ちんをしていた。

 本来はお年寄りや体が不自由な方のための装置かと思われる。


「うす、東方国は観光にも力を入れているっす」


 町を案内してくれているオーストさんによれば、観光は東方国の一大産業の一つであるらしい。

 それは、徹底された和風テイストでも理解ができるというものだ。


 すぐそこのコンビニエンスストアですら、洋のテイストを見つけることができないという。


「オーストさん、あれって、なんて書いてあるの?」


 エリンちゃんは【拉麺】と書かれた看板を指差しオーストさんに尋ねる。

 その店は行列ができており、僅かに空いた窓から美味しそうな匂いが外に流れ出していた。


「うす、あれはラーメンっていうっす。東方国の国民食っすね」

「ねぇねぇ、エルティナちゃんっ」


 エリンちゃんは目をギュピーンと輝かせて俺を誘惑してきた。


「言われなくとも俺はホイホイとラーメン店へと向かうだろうな」

「まだ昼には早い気もするが……ま、ええじゃろ」


 ガンテツ爺さんの同意も得たことなので俺たちはラーメン屋の行列に混じる。

 尚、今回は精霊戦隊全員でお出かけだ。


 いろいろと、購入する物があるらしく、また駐艦場の警備も厳重であることから全員でのお出かけと相成った。


 まぁ、何かあったらエルティナイトが騒いで知らせてくれるだろう。


 店内へと入った俺たちは早速、お勧めという塩ラーメンを注文。

 それほどの時間を待たずしてラーメンが運ばれてくる。


「ふきゅん、細麺か。通りで早いわけなんだぜ」


 俺は箸を使っていただく。

 箸が苦手な者たちのために、フォークを用意してあるのはポイントが高い。


「いただきま~す」


 まずはスープの味から堪能。

 塩味は誤魔化しが効かないため、調理人の腕がもろに出てしまう。


「ずびびっ」


 むむっ、これはお勧めと言うだけあってかなりの物だ。 


 絶妙の塩加減に豊かなコク、後を引く味はあっさりしているのに分厚いステーキを食べているかのような満足感を与えてくる。


 そう、このスープは素晴らしく濃厚に違いない。

 でも、それを感じさせないほどに、さっぱりとしているのだ。


 混乱してきた思考を整えるべく麺を啜る。

 細い縮れ麺は、スープをたっぷりと絡めて口の中へと運ばれていった。


「んぞぼぼりっちゅ、ぴぴぴぷぷぷりゅっ!」

「……音っ」


 仕方がないじゃないか、意図して出しているわけじゃないんですっ。


 ヒュリティアに生暖かい流し目を頂戴したが俺は元気です。


 口の中に入った麺をもぐもぐする、と小麦の素晴らしい味と香りが広がる。


 これは、鹹水かんすいを使わないで塩だけで練り上げた麵が持つ特徴だ。

 鹹水を使用すると麵が黄色くなって独特のにおいが付くので容易に判別できる。


「うんうん、これは凄い。スープと麺の味が混然一体となって完璧な味を作り上げている」

「美味しいにゃ~ん」

「美味しいね~」


 これには猫舌であろうミオとクロエも麺を息で冷ましながらも、せっせと口に運んでいる。


「ちゅるちゅる」


 ようやく固形物が食べられるようになったザインちゃんは、俺からラーメンを分けてもらって、フォークで麺を口に運んでいた。


「おいちいでごじゃる」

「おう、たんとお食べ」


 にぱっ、と微笑む彼女に、俺もほっこりとするのは仕方のない事であろう。

 だって、ママンだもの。三歳だけどっ。


 見た目は完全に姉妹であろうが、どうでもよかろうなのだ。


 だが、この店には致命的な弱点があることが分かった。


「店主ぅ、この店の弱点は集客数に対して店が狭い事なんだぜ」

「嬢ちゃん、鋭いな。でも、これは国が定めた規則でなぁ……これでも一番、広い店舗なんだ」

「むむむ、お国が定めたなら、どうにもできないできにくいっ。これじゃあ、ゆっくり美味しいラーメンが堪能できないんだぜ」

「俺っちも心苦しい次第でさぁ」


 どうやら、江戸っ子風な店主のおっちゃんも、これには気付いているもよう。


 でも、国の方針によって一店舗の大きさは指定されてしまっているらしい。

 ある意味で平等な競争ができるが、利用客にしてみれば待たされるので、一長一短であろう。


 俺たちは後ろで待つ人たちのために、慌ただしくラーメンを食べて店を後にした。


 実に残念であるが、あのラーメンは少し冷めてからが本番な気がしてならない。

 熱すぎると舌が本来の味を知覚できないからだ。


「もっとゆっくり食べたかったんだぜ」

「でも、美味しかったねぇ。お腹は全然、いっぱいにならなかったけど」

「行列がいては、おかわりもできないできにくいっ」


 心は満たされたが、腹は満たされていないので買い食いをおこなう。


 あ、ちなみにここに来た目的は一応、戦機協会に顔を出すためだ。


 見分を広めるというのも、この旅の目的の一つであることから、各都市の戦機協会へ立ち寄るのは必須事項なのである。


「あっ、変わった戦機だね」

「あぁ、東方国のオリジナルブランド【豊多】が製造した戦機、【TAS-153-A・ブジン】ですね。アイアンクラスの重装甲機体で近接戦闘特化の仕様が特徴的です」


 エリンちゃんが道行く戦機に興味を示した。

 その機体の説明をアクア君を抱いたヤーダン主任がおこなう。


 ブジンと説明された機体は一言でいえば銅褐色の鎧武者だ。

 携帯している武器は太刀と脇差のみという極端なものである。


「良い機体なのですが、どういうわけか射撃武器の携帯を拒むために、今一つ活躍を耳にしないんですよね」

「それは戦機乗りがこだわり過ぎている、ってだけなんじゃないのか?」

「それもありますね。というか、あの機体、オートロックオンシステムが搭載されていないんです」

「なにそれこわい。馬鹿なの?」

「完全に自分の技量頼みという、ある意味でぶっ飛んだ機体ですね。お勧めはできません」


 だが、よく考えたら最近のエルティナイトってロックオンシステムが息をしていない事に気付き、俺は速やかに遠い眼差しをしたという。


 ロックオンなんて必要ねぇんだよっ! 勘だ、勘っ! 戦いは勘だよっ!


「それにしても、結構な数のブジンだね。皆、どこかに向かっているようだけど」

「そう言えばそうだな。向かっている方角が同じだ」

「……エル、エリンちゃん、あれ」


 ヒュリティアが指差した方角には、大きな城の姿。

 どうやら全機、あそこを目指しているらしい。


「そういえば、将軍が戦機乗りを募っているって話を聞いたなぁ」

「う~ん、妙ね。戦機乗りを集めるなら戦機協会に話を通す必要があるのだけども」

「話が来てないの?」

「携帯端末で調べたんだけど、そんな話は無いって」


 きな臭くなってきた感じだ。

 ただ単に連絡が遅れている、というだけならいいのだが。


「まぁ、ここの戦機協会に話を聞いてみればいいんじゃないのかな?」

「そうね。ここでああだ、こうだ、といっても仕方がないわ」


 俺とクロヒメさんはそう結論付けて、東灯都の戦機協会へと向かう。

 そこの掲示板には、でかでかと、【戦機協会からの脱却を! 自国による、自国のための戦機組合の設立を!】といったものが張られておりました。


「なにこれ」

「やりたい放題なんだぜ」


 どうやら、東灯都には戦機協会本部からの出向者はいないらしい。

 クロヒメさんはそんなことはない、と受付を問い詰めるも事務的な返答が帰ってくるだけであった。


 これでは埒が明かない、とクロヒメさんは一旦引き下がる。


「おかしいわ、本部からの出向者がいないなんてことはない。規約に反するもの」

「ふぅむ、消されたかのう?」

「それこそ馬鹿な、よ。戦機協会に逆らえば支給だって停止されるし、それ以前に全世界の戦機を敵に回すと同じ状態に陥るわ」

「そうなの?」

「えぇ、確実にナイトクラスに討伐命令が下される。この国の戦機ごときじゃ相手にすらならないわ」


 クロヒメさんは少し焦っているように思える。

 寧ろ、ナイトクラスの連中にお灸を据えてもらった方がいいのでは、と意見を言うと彼女は首を横に振った。


「ナイトクラスはね、ある意味で頭のねじが飛んでいるのよ。競争が激しいから。討伐=殲滅は当たり前。命令されたから、って理由で一国を滅ぼした聖騎士トップテンもいるの」

「マジか」

「えぇ、だから、これが公になる、とここに住む人たちも危険にさらされるわ」


 どうやら、クロヒメさんは葛藤しているらしい。


 報告しなくてはならない事案だが、それをおこなうと罪もない人々に危険が及ぶ可能性が高い、と推測している。

 かといって、これを見過ごせば後々、大混乱が起こる可能性は高い。


「ふぅ……駄目ね、ここで考えても、いい考えが浮かんでこない」

「一旦、クロナミに戻ろっか」

「そうね……あ、ちょっとトイレに寄って行くわ。先に外に出ていて」

「分かったんだぜ」


 俺たちはトイレに寄るというクロヒメさんを残し、一足先に疑惑の戦機協会を後にした。




「……遅いわね」

「おっきい方かもしれないっ」


 便秘かな? と思ったが、十五分も経つのに姿を見せないのはおかしい。

 なので、様子を窺いに女子トイレへと向かう。


「お~い、出た?」


 だが俺の呼び声に応える者はいない。

 仕方ないのでガサ入れ開始。個室の扉を開けてゆく。


「いない?」

「……変ね。正面玄関以外に出入り口は無いと思うけど」


 そうだ、あとは関係者以外使用禁止の裏口があるくらいだ。

 俺たちはずっと正面玄関の前で待っていたからクロヒメさんを見逃すという事はあり得ない。


 ここで、ヒュリティアが鼻をヒクヒクと動かした。


 ま、まさかっ、俺が、おっぷぅを漏らしたことがバレたっ!?


「……エル」

「さーせん」

「……そうじゃない、このにおい、睡眠薬よ」

「なんだって?」


 俺も鼻は良いと思うが、ヒュリティアはそれを遥かに上回る。

 そして、彼女は薬学に精通しているため、トイレの臭いに混ざる僅かなにおいに気付いたもよう。


「いくらクロヒメさんが超人的な身体能力を持っていても眠らされたんじゃ、どうしようもないぞっ」

「……早急に対処しないと。彼女の波長を拾える?」


 結構な無茶を言ってくれるが、それでもやらなくてはならない。

 クロヒメさんの邪悪な波長を思い出し、それを感じ取ろうと努める、とそれが感覚に引っかかって、俺から離れてゆくのが理解できた。


「離れていってる。この速度だと車かっ!?」

「……方角は?」

「あっち」

「……その方角は……エル、面倒なことになりそうよ」


 ヒュリティアは言う、その方角は城のある方角である、と。


「んなことは関係ないっ。仲間を連れ去られたなら取り戻すっ! 精霊戦隊、緊急出動なんだぜっ!」


 かくして、予想だにもしない急展開となり、精霊戦隊はクロヒメさん奪還作戦を決行する。


 果たして、彼女の安否はいかに。


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― 新着の感想 ―
[良い点] おっぷうは我慢すると身体に悪いから仕方がない [気になる点] ちょんまげ 宴会芸のちょんまげが頭に浮かんだ 確かに虐待だな [一言] ラーメン食べたくなった 来週食べに行く予定だったのに前…
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