160食目 職務怠慢
「取り敢えずは雷山の機獣をボコろうかと思うんだぜ」
「……あのH・モンゴーとかいうへっぽこが所属している機獣の部隊ね。前線基地かそれに値する規模の砦があるかもしれないから、精霊戦隊単体で攻略するのは無謀かもしれないわ」
「むむむ、確かに。以前の俺とエルティナイトじゃないしな」
以前ならファイアボールを一発叩き込んで蒸発させて終わり、であったが、今となってはそれも叶わないだろう。
であるならどうしたらいいか。
「困ったら戦機協会にゃ」
「そうだよね。私たちもよく相談してたし」
これにミオとクロエが戦機協会を頼る案を提示する。
確かに、組織には組織だ。戦機協会の協力さえ取り付けることができれば組織的な作戦も実行に移せよう。
「問題はわしらと一緒に戦ってくれるという気骨のある戦機乗りが、この国にどれだけいるかじゃな」
「そこよねぇ。ここは私たちのホームじゃないし、下手をすれば戦機協会も協力してくれないかも」
「ふむ、自分たちのシマで勝手に暴れるな、と言ってくる可能性もあるのう」
ガンテツ爺さんとクロヒメさんは、戦機協会の抱える軋轢を心配した。
これは以前にもグマプッカで経験したことだ。
深緑の悪魔の撃退情報をわざと遅らせて嫌がらせをおこなってきた事を考えると、ガンテツ爺さんたちの懸念も軽視できない。
「……ま、この国の事は割とどうでもいいわ。目的である雷蕎麦、ついでに水豚の肉も手に入ったし」
「いや、そうなんだけどさ。それでも、お世話になった紅葉さんの周囲に機獣をのさばらせては置けないと思うんだぜ」
「……一理あるわね。それじゃあ、ここの戦機協会に話すだけ話してみましょう」
というわけで雷山の機獣の対応は一応のところ纏まった。
そして、そのままその後の方針を相談する。
といっても、一度キアンカへと戻る、という意見が大多数を占めた。
「そうだなぁ。ジェップさんに報酬を渡さないとだし。一回戻るか」
「ま、それが妥当じゃろうな」
「それか一度、東方国の首都に顔を出すかね」
「首都に?」
クロヒメさんが意外な提案を出してきた。
「そう、地方の戦機協会って意外に頭が固いから、その取り纏めに直接、相談を持ち掛けるって方法。地方は面目を護るために仕方なくでも従う可能性があるわ」
「ふきゅん、その方法があったか。見聞を広める意味でも東方国の首都に向かうのは有益になるかもだぜ」
もちろん、折角来たのだから観光でもして帰るか、という思惑も無くもない。
「それじゃあ、ここの戦機協会に協力を申請して断られたら首都に向かう、でいいのかな」
「それで行こうと思うんだぜ、エリンちゃん。うん? エリンちゃん?」
「ほぇ? どうかしたの? エルティナちゃん」
その時、俺はエリンちゃんに纏わりつく黄色の小さな蛇のようなものを目撃した。
しかし、それはよくよく見ると龍だった。
「エリンちゃんに雷の精霊が憑りついてるなぁ」
「そうなの?」
「うん、というか、他の精霊たちもいっぱい憑りついてるっぽい」
そう、よく目を凝らす、とエリンちゃんの中でまったりしている精霊たちの多いこと多いこと。
これは彼女の中の精霊王が影響している可能性が高いのかもしれない。
「私自身は良く分からないかなぁ。もしかして、ここら辺?」
「そう、首に巻き付いて右肩に顎を乗せてまったりしてるんだぜ」
「そうなんだ~」
どうやら、ぼんやりとは認識できているようだが、精霊ちからがまだ不足しているのか、はっきりとは認識できていないようだ。
それでも、雷の精霊が認識できている辺りエリンちゃんが精霊たちの姿を確実に捉えるようになるのは時間の問題なのかもしれない。
そうなると、いよいよ精霊王も自分を隠しておくことはできなくなるのかも。
次の日、早速、雷業市の戦機協会に取り合ってみる。
「それは我が戦機協会でも把握しております」
「だったら……」
「既に部隊を編制中なので、時期に雷山の機獣たちは殲滅できるでしょう」
「いやいや、申し立てから三か月は経ってるって話を耳にしているんですが?」
「……」
雷業市の戦機協会の受付嬢は、クロヒメさんの指摘にあからさまに不快な表情を見せた。
普通、受付嬢はそのような態度を示してはいけないのだが、どうやらここの戦機協会の受付嬢はそういう教育ができていないらしい。
「あなたじゃ話にならないから、責任者を出してくれないかしら?」
「生憎と席を外しているんですよ、他所者さん。責任者を出せ、とか信用もない方に会わせるはずもないでしょう?」
「戦機協会の認定書は提示したでしょう? 規約を覚えていないのかしら?」
「この国には、この国のやり方があるのよ。何も分からないくせに、ただの戦機乗りが口を出さないで欲しいわね」
ただの戦機乗りじゃないんだよなぁ……クロヒメさん。
あ、受付嬢の名前をメモった。これは、一波乱ありますぞっ!
「なるほど、分かりました。では、【中央】に掛け合います」
「首都に行っても無駄よ。あんたごときが取り合ってくれるわけないでしょ?」
勝ち誇ったかのように笑い声を上げるクソデブ受付嬢に踵を返し、俺たちは雷業市の戦機協会を後にした。
この町の戦機協会は自分たちの町をなんとも思っていないのであろうか。
「腹が立つ奴だったんだぜ」
「そうじゃな。ま、これで大義名分が立った、というもんじゃて」
ガンテツ爺さんはトントン、と腰を叩いてため息を吐く。
その隣でクロヒメさんが携帯端末を物凄い勢いで叩きまくっていた。
どこかに連絡を入れているのであろうか。
その表情は超激烈暗黒微笑であった。
「ふっふっふ、こう見えても、私って中央に顔が効くのよ。Aランク戦機乗りだから」
「あぁ、やっぱり。クロヒメさんが言っていた中央って……」
「そうよ~、こんな島国の中央なわけないでしょ。本部よ、本部」
おわた。雷業市の戦機協会、おわた。
怠慢を貪る組織に明日は無い、ってそれ一番いわれているっぽい。
「特に、あのクソデブ受付女は受付嬢として相応しくないわ。戦機協会の顔に泥を塗っているも同然の態度は、極めて許し難い」
クロヒメさんは止めとばかりに携帯端末をたーん、と軽快に指で叩く。
すると携帯端末は、ピポっという音を出した。
「送信完了。勿論、録音した会話も添付済みよ」
「クロヒメさん、こわいにゃ~」
「敵に回したら地獄を見るタイプだねっ」
「二人とも、後で私の部屋に来るように」
「「ひえっ」」
哀れ、にゃんこびとの二人は後で地獄を見ることになるのだろう。
しかし、俺は助けない。巻き込まれたくないから。
「それじゃあ、東方国の首都に向かいましょ」
「ふきゅん? ここで本部の連絡を待たないの?」
「待っている時間が勿体ないでしょ? 観光している間に音沙汰が来るでしょうから」
「なるほど。そういう事なら、首都に向かってみるか」
こうして、俺たちは東方国の首都【東灯都】へと足を延ばすことになる。
その前に食事処くれないにて、獲得した雷蕎麦を紅葉さんたちに振舞った。
そして、必ず雷山の機獣どもをなんとかすることを約束し、雷業市を後にしたのである。




