15食目 機獣
戦機協会に到着し、受付のお姉さんの元へと急行する。
受付カウンターの前には、いかにも、といった感じのロクデナシどもが多数。
いずれも、腕に覚え有り、といった不敵な面構えは貫禄さえ感じられた。
そのロクデナシたちは、若輩から老兵と様々だ。
だが、間違いなく言える事、それは俺たちが最年少であることだ。
年齢を詐称しても、俺たちは十二歳のお子様なのであ~る。
見た目が三歳児なので信じてもらえないだろうがな。ふぁっきゅん。
「あ、エルティナさん、ヒュリティアさん、よく来てくれました!」
受付のお姉さんが俺たちの到着に気が付いて声を上げた。
それに反応し、俺たちを見つめるロクデナシども。
その視線は当然のごとく、品定めをするかのようなものであった。
「急に呼び出しだなんて、何事なんだぜ?」
「詳しい話は奥の応接間で」
そして、有無も言わずに、俺たちを奥の応接間へと案内する受付の黒髪お姉さん。
彼女のぷりぷりのビックなヒップを眺めているのは、たぶん俺だけではないはず。
うん、いた。モヒカン兄貴だ。
「モヒカン兄貴と、スキンヘッド兄貴も呼ばれたのか?」
「あぁ、間違いなくトラブルだろうぜ」
「おまえさんたちも、Eランク上位ランカーだからな」
おん? そういえば、暫く順位を見ていなかった。
今、俺の順位はどのくらいなのだろうか?
ごそごそと懐を弄り、戦機カードを取り出し順位を確認。
Eランク14位、と書いてあった。
「うを、いつの間に順位が上がっていたんだぁ?」
「見てなかったんかい」
モヒカン兄貴とスキンヘッド兄貴が呆れた表情を見せる。
ちなみにモヒカン兄貴はEランク8位、スキンヘッド兄貴はEランク3位という実力の持ち主だ。
本来なら、Dランクに昇格していてもおかしくはないのだが、キアンカの町に愛着があるらしく、Eクラスに留まっているらしい。
Dランク以降は中央の戦機協会から呼び出しがあるらしく、一つの町に居座るのは難しくなるそうだ。
つまり、俺も上位を目指すのであれば、この町から巣立つ日が訪れる、ということになる。
「そういう戦機乗りもいるんだな」
「俺たちは変わりもんなのさ」
「おまえさんたちは真似せんでもいいぜ。若いうちは、世界を見て回った方がいいからな」
がっはっは、と笑い飛ばす彼らであるが、二人とも十分若かったりする。
応接室に通された俺たちは、思い思いの場所に居座った。
部屋は十分に広く、ソファーや椅子も十分にあるのだが、壁に寄りかかったり、窓際に陣取る者たちの姿が見受けられた。
用心深いのか、それとも臆病なのかは分からない。
それだけ、綱渡りをしてきた証なのかもしれないが、この俺は違う。
俺はテーブルの上で大の字となって、度胸と貫禄を見せつけた。
「かかって来いやぁ!」
速攻で受付のお姉さんに下ろされてしまいました。
「諸君、揃っているようだな」
暫しの時間を置いて、やたらと貫禄のある中年の男性が応接間に入ってきた。
銀髪オールバックに鋭い目には青い瞳だ。
そして結構、大柄な体の持ち主である。
彼を見た戦機乗りたちに緊張が走る。
尚、俺は悪戯をしないように、とソファーに座る受付のお姉さんの膝の上に載せられていた。
気分はやんちゃな子犬である。おぉん!
中年男性は、戦機協会キアンカ支部長【ルフベル】と名乗った。
かつては、Aランク一位の座に君臨していたこともある凄腕の戦機乗りらしい。
引退後は管理能力を買われて、各支部長を務めながら体制の強化に努めているらしい。
つまり、彼はキアンカにいつまでも留まっているわけではなく、時期を見計らって色々な支部へと飛ぶ、敏腕サラリーマンみたいなものであると推測される。
中間管理職は、どの世界でも大変なんやなって。
「急な呼び出しに応じてもらい感謝する。一時間ほど前のことだ、中型の【機獣】を目撃した、との知らせが入った」
ざわざわ、と応接間が騒めきだした。
いったい、機獣とは、なんなのだろうか?
「はい、質問」
「許可する」
「機獣ってなんぞや?」
「ふむ、きみは新人だね。戦機乗りになって間もない君なら仕方がないな」
ルフベル支部長は、機獣について簡潔に語った。
機獣とは機械の獣である。読んで字のごとくとはこの事だ。
発生した時期は定かではないが、かなり以前から存在していた、という説があるくらいに古いと言われている。
問題となるのが、機獣は人類の敵だという事だ。
彼らは人類を発見するや否や、問答無用で襲い掛かってくる。
女子供でも容赦がなく、戦う力が無い者は容赦なく命を奪われるらしい。
その機獣に抗うために開発されたのが、俺たちが乗る戦機、というわけだ。
戦機を人間同士の戦争に用いるようになったのは、近年かららしい。
それに歯止めを掛けるために設立されたのが、戦機協会である。
機獣という化け物を退治するための戦機を、無駄に消費しないようにするのは重要なことである、とのこと。
というか、機獣が滅びてない状況で戦争なんてするなし。
「大体わかった。機獣死すべし、ナサケ、ムッヨー! だな?」
「うむ、理解が早くて助かる。諸君らも、話の通りだ。目撃場所はキアンカ北東の荒野地帯、数は不明だが一体という事はあるまい」
ルフベル支部長は複数枚の写真をテーブルの上に投げ捨てた。
その写真には、虎だかライオンだか区別がつかない機械の獣の姿が映っている。
「タイガータイプの機獣【レ・ダガー】だ。諸君らには、こいつの始末を依頼する」
「うげっ、レ・ダガーかよ」
戦機乗りたちが、一様に嫌な表情を見せた。
もちろん、表情を変えない者たちもいる。
「おいおい、支部長さんよ。Eランクに依頼する内容じゃねぇだろ」
スキンヘッド兄貴がルフベル支部長に噛みつくも、彼はスキンヘッド兄貴に取り付く島を与えない。
「きみの実力はDランク二十位圏内……そう把握しているのだが?」
「……ちっ」
露骨に目を逸らしたスキンヘッド兄貴。
どうやら、図星だったらしい。
「いい加減に元のランクに戻ってほしいのだが?」
「ごめんだね。俺ぁ、この悠々自適な生活が性に合ってるのさ」
「まったく……まぁ、いい。それが戦機乗りというものだ」
ため息を吐いたルフベル支部長は改めて成功報酬額を提示した。
その金額、なんと百万ゴドル。
しかし、これは破格と言っていいのだろうか。
これを全員で山分け、というオチはないだろうな?
「参加、不参加は自由だ。命に係わる依頼だからな」
「まぁ、そりゃあ、そうだな」
モヒカン兄貴がルフベル支部長に同意を示す。
しかし、その後のルフベル支部長の言葉に、彼は苦い表情を見せた。
「だが、これを放置することは、キアンカを危険に晒すに等しい。仮にこの機獣が偵察機だとすれば、群れに合流した後に徒党を組んで町を襲撃する恐れがある」
それは、もはや脅しに近い言葉であった。
キアンカ外部から呼ばれたものならいざ知らず、キアンカをホームとしている戦機乗りにキアンカを見捨てる、などという選択肢は無いに等しい。
「なんとなく分かった。なんでもいいから、その機獣をボコってこいおるるぁん、というわけだなぁ?」
「うむ、きみは理解が早くて助かる」
「それに、キアンカの人たちを守るのは、騎士を目指すエルティナイトなら当然の事。おまえら、俺の活躍を見とけよ、見とけよ~?」
と格好よく決めた俺に対し、ロクデナシどもはポカーンとした顔を見せた後に大爆笑してくれやがりました。
「こりゃあ参った! 将来の騎士様がいるなら、この仕事も大安泰だな!」
「よぉし、やってやろうじゃねぇか!」
「おうよ、こんなお子様に、まだ負けてられねぇからな!」
ロクデナシどもは妙に盛り上がりを見せている。
俺が目立てないから、静かに盛り上がってどうぞ。
「よし、出撃時刻は本日の16:00だ。それまでに準備をしておいてくれ」
「結構遅い時間だな? どして?」
「レ・ダガーは夜行性なんだよ、エルティナ君」
「俺の名前を知っていたのか」
ルフベル支部長はにやりと口角を上げた。
「勿論だとも。僅か一ヶ月で、Eランク上位ランカーに上り詰める者はそうそういない」
「そうなのかー」
「そうだとも。きみには期待している。きみの相棒にもね」
ルフベル支部長はヒュリティアにも期待を寄せているらしい。
「ヒーちゃん、今何位?」
「……Eランク1位」
「ふぁっ!? ちょっと待って? どゆこと?」
なんということでしょう、俺のヒーちゃんが既に頭一つ抜けていた件について。
「おいおい、相棒を名乗っているのに【銀閃】の二つ名を知らねぇのか?」
「……それは、恥ずかしいから言わないで」
しかも、二つ名持ちとか、もう発狂しそうなほどに羨ましいんじゃあ。
「お、俺には二つ名はないんですかねぇ?」
「あるじゃねぇか。【珍獣】っていう立派な通り名がよ」
モヒカン兄貴が、によによ、と笑う中、俺は応接間の中心で「ふきゅん」と叫んだのであった。




