154食目 狂暴なる者
さて、全メンバーでの出撃、とはいえ雪中装備は五つしかない。
では、どうやって全員で出撃したかといえば、ヒュリティア、ミオ、クロエ、が戦機を乗り換えたのである。
ヒュリティアは言うまでもなくルナティックに搭乗。
いつもの横着移動形態にて地を這うようにして山を登っている。
一方のミオとクロエはルビートルに搭乗。
こいつはテスト機とあってか複座式となっているため二人乗りが可能なのである。
ヒュリティアは一人で運用していたが、ヤーダン主任の話では本来、一人での運用は厳しいとのこと。
そりゃあ、あれだけ腕の数があれば、そうもなろうというものだ。
でも、元々ルナティックも異常な操縦の難しさだし、加えて彼女は精霊を頼れる。
だから、自分の手の回らない部分は精霊に丸投げできる、という強みを持っていた。
それが、ひとりでルビートルを運用できていたカラクリだろう。
つまり、今のミオとクロエの運用方法が正しいルビートルの使い方となる。
加えてこの二人はルビートルに宿るミスリル銀の精霊が見えているので、もしかしたらヒュリティア単身よりも、この機体を上手く操れる可能性だってあるのだ。
でも、今回はルビートルでの初陣となるため、ちょっぴり緊張気味なもよう。
ルビートルは中~遠距離戦闘がコンセプトの機体となるので機体の操縦をミオ、攻撃をクロエが担当するもよう。
ミオの射撃の腕前はアレなので、妥当なポジションに納まったと言えようか。
この二機以外は雪中装備を身に着けて雷山を登っている。
「吹雪で前が見えねぇ」
『目が良いから、ってそれに頼りすぎるからそうなる。もっと精霊を頼ってどうぞ』
猛吹雪で視界が最悪、それを愚痴るとエルティナイトから意外な返事が返ってくる。
精霊を頼る、ということは先日、契約を結んだ雪の精霊の力を頼れ、ということか。
「お雪さん、お願いするんだぜっ」
俺は内に宿る雪の精霊【お雪】に協力を訴える。
すると、待ってましたと彼女は俺の背後に顕現し、その能力を行使した。
瞬間、ごっそりと魔力が失われる感覚と、猛吹雪が治まってゆくのを認める。
これが雪の精霊の力なのだろう。
でも、暴風の方はどうにもできないとのこと。
彼女が言うには精霊魔法の性能を完全に引き出すには魔力ではダメらしい。
別の力が必要だ、と告げた。
「その別の力って?」
お雪さんに問うてみても、実際にそれに気付かない限りは口で説明しても無駄と返事を返される。
「そっか~、ありがとな」
お雪さんにお礼を言うと、彼女は速やかに魔力を回復させなさい、と告げて俺の中へと帰っていった。
それに従って、俺はヒュリティア印の魔力回復ポーションの小瓶を開ける。
「ごきゅ、ごきゅ、ごきゅ……まっず~い!」
これがまた激マズであるのだ。
急いで作ったためにエグ味が抜けなかった、とのこと。
しかし、その効能は確かなものであり、消費した魔力の半分が回復したことを認める。
とはいえ、こいつをがぶ飲みすることはできない。
一本使用したら、三十分は間隔を置かなくてはならないのだ。
連続で服用すると中毒に陥る、とヒュリティアにきつく言われているので間違いないだろう。
尚、母は、ありとあらゆる毒の症状が無効なのでがぶ飲みしていた、とかなんとか。
なんなの二代目? 俺の弱さが目立っちゃ~うっ。
「挫けない心を持ってこそのナイトっ」
『痩せ我慢、凄いですね』
「それほどでもないっ」
「あいあ~ん」
いつものやり取りで若干、平静を取り戻した俺は雷山の踏破を目指す。
『むぅ、幾分か吹雪が和らいだ、とはいえ凄まじいのう』
季節外れの大雪は山を真っ白に染め上げ、銀杏の黄色の葉を落とす速度を加速させる。
雪の量こそ減ったものの、相変わらずの暴風は機体を揺らしに揺らした。
その後、登山を続け山の中腹辺りに差し掛かった頃。
「ふきゅん? 妙な気配がするなぁ」
「ばっぶー」
「おにぃ」
妙な気配を感じ取る。良い方と悪い方の両方だ。
これにザインちゃんと茨木童子も肯定の鳴き声を上げる。
『エルティナちゃん、なんだか妙な感じを受けない?』
「エリンちゃんもか? 俺も感じたんだぜ」
『昨日の夢の中で感じた力に似ているんだけど……なんて言えばいいのかなぁ』
それは俺も感じていることだ。
きっとヤドカリ君の力であることは間違いないが、微妙に違うような感覚もある。
というよりかは何かが混ざっているような感覚。
これが俺たちをモヤモヤさせる原因だろう。
「ここからは注意して登ろう」
『……エル、来るわ』
「え?」
ヒュリティアが言うように、途方もない力の塊が俺たちに向かって来ているのを感じ取った。
それは明らかに【俺】に対して敵意が向けられている。
だが、それは昏く粘着質なものではなく、乾いた敵意とでも言えばいいのであろうか。
「ぶきぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!」
それは銀杏の樹を粉砕して姿を現した。
体長五十メートルはあろうか、という超巨大猪が、エルティナイトに向けて突進してきたのである。
「エルティナイトっ!」
『【ファイアボール】っ!』
エルティナイトは即座に桃色金属製の盾を雪の上に投げ捨てその上に乗る。
そして、盾の真下でファイアボールを起爆させた。
すると盾ごとエルティナイトが天高く舞い上がられる。
「くっそでけぇっ!?」
エルティナイトは空中で魔法障壁の糸を生み出し、盾へと放出。
これを回収して華麗に着地を決める。
ずぼっ。
華麗に着地できましたかねぇ?
「雪に埋まったぁっ!?」
『おいぃっ!? なんでここだけ、深くなってんだおぉんっ!?』
じたばたする俺たち。
下半身が雪に埋まってしまい身動きが取れないのだ。
そんな俺たちに対し、鋭い眼光を向ける巨大猪はその体が透明であった。
「ま、まさかっ!? こいつが山の神だというのかっ!」
『……神かどうかは分からないけど、探し物の一つであることは間違いなさそうね』
ヒュリティアの指摘で、俺は【水豚】というワードを思い出す。
豚は猪を家畜にしたものである。
狂暴性を抑え込んだ種が豚であるから、狂暴なこいつは水豚ではなく水猪と呼称した方が良いんじゃないのかなぁ、と現実逃避するも現実は甘くありませんでした。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁっ!? 突っ込んできたぁぁぁぁぁぁっ!」
『おいぃっ!? うちのシマじゃ、ハメはノーカンだからっ!』
「いあ~んっ!」
まだ、ちっとも抜け出せていないのに、水豚は容赦なくこちらに向かってきた。
しかし、こちらには仲間がいる。
彼らが水豚の注意を引き付け、エルティナイトの注視を逸らしてくれた。
『ちょっ!? 弾丸がすり抜けてるんですけどっ!?』
『クロヒメっ、水の身体に物理攻撃は意味ないわいっ! この吹雪じゃ、ちっとやそっとじゃあ火事にならんっ!』
『そういうことねっ! だったら!』
クロヒメさんのアインラーズが腰から短い棒を引き抜いた。
それは青白い刀身を形成し低い唸り声を上げる。
非実体系の剣、光素剣【ガロン】だ。これもアマネック製の試作品である。
これは機獣は勿論のこと、超高熱を発生させて対象を焼き切る仕様となっているので、物理攻撃が効かない相手でも一定の効果を期待できるであろう。
しかし、その対象の規模があまりにも大き過ぎる、とその限りではないもよう。
『全っ然、効いて無さそうね』
『ダメージは入っておろう。根気よく続けるんじゃ』
『……それじゃあ、追加いくわよ』
ヒュリティアのルナティックが新たに増設された背部ユニットより、折り畳み式のキャノン砲を展開させる。
どうやらそれはエネルギー系統の砲門であるらしく、砲口に破壊性のエネルギーが収縮していく様子が見て取れた。
その輝きは青白いことから、これも光素系兵器であるもよう。
『……バスターランチャー【アルテミス】、発射』
キュオっ、という音と同時に轟音が鳴り響く。
光の速さで放たれる極太光線は水豚の身体の半分以上を蒸発させて尚、雷山の一部を完全に消失させるという極悪非道な威力を持っていた。
『……やっべ、威力設定間違えた』
『馬鹿もぉぉぉぉんっ! やりすぎじゃっ!』
なんということでしょう。お山の姿が変わってしまいましたとさ。
これは事案ですぞっ! 乱用は控えたまへっ!
だが、身体の半分を失った水豚はというと、周囲から水が集まって失われた身体を補填し始めておりました。
これではキリが無いし、こちらは消耗する一方である。
「ガンテツ爺さんっ! エルティナイトに火炎放射をっ!」
『むっ、その手があったか! エリン、ヤーダン、離れるんじゃっ!』
うんしょ、うんしょ、とエルティナイトを引っ張り出そうとしていたブリギルトとマネックを退かしたガンテツ爺さんは、デスサーティーン改の火炎放射をエルティナイトに見舞った。
その炎は瞬く間に雪を溶かし、エルティナイトは自由の身となる。
魔法障壁を纏えばこれくらいの熱はへっちゃらだ。
それに、熱はチゲが食ってくれるので寧ろ魔力が回復するという。
俺のじゃないけどね。チゲのだよっ。
「これで、自由に動けるっ!」
『ナイト、復活っ!』
今更、格好つけても遅いんだよなぁ。
さて、あの超巨大な水豚をどうしたものか。
突如として出現した狂暴な特殊食材、水豚。
果たして、俺たちはこれを獲得することができるのであろうか。




