148食目 新人たちの初陣
その日の夜は勿論、港町の居酒屋で情報収集兼夕食だ。
そこは【うみかぜ】という居酒屋で、テーブル席やカウンターもあるが、畳敷きの上がり台も設置されていた。
エンペラル帝国の出身者にとって畳は珍しい、とあり俺たちは否応も無くそこへと突撃する。
そもそも、人数が人数なので、そこにしか座れなかったりするのだが。
和風の内装の店内は風情があり、いかにも港町の居酒屋、といった感じで随所に漁師たちが用いる釣り道具が飾られている。
それらは使いこまれていたであろう傷が無数に確認でき、きっと店主は元漁師か何かだったのだろう、と思わせた。
提供される料理も新鮮な刺身や、ひと手間掛けた海鮮などがメインだ。
「おいちぃっ」
「……海鮮ホットドック……イケるっ」
「いくなっ」
またしてもヒュリティアさんが暴走し掛けていたので、さり気なくツッコミを入れて事無きを得ました。
クロナミがあるため宿代を節約できるのは大きく、ある程度豪勢に食べ飲みできるのは大きい。
ただ、俺を含めて大飯食らい、大酒食らいが多過ぎる。
そして、新たに加入したミオとクロエも食べる食べる。
「がつがつがつがつがつがつがつがつがつがつがつがつ」
「むしゃむしゃむしゃむしゃむしゃむしゃむしゃむしゃむしゃ」
育ち盛りなのは分かるが、通常の同世代の少年少女の十倍は軽く食べれるのではなかろうか。
精霊戦隊には、こんな連中しか集まらないのであろうか。
えぇ、アマネック本社から出向してきたスタッフたちも、それはもう、それはもう。
「うぇ~い! お酒、さいこー!」
「「「「「さいこー!」」」」」
ダメだこいつら、早く情報収集しないと。
アダルトな連中は役に立たない、と見切りをつけて独自調査開始。
ターゲットは料理を運び終えた店員のお姉さん。
やはり彼女も黒髪で黒い瞳、そして着物姿で客に奉仕している。
「お姉さんっ」
「はい、ただいま~」
俺の呼びかけに店員のお姉さんは、ぱたぱたと駆け寄ってきた。
「注文じゃないんだけど、ちょっと聞きたいことがあるんだ」
「はい、なんでしょうか?」
俺は彼女に雷蕎麦の情報を直球で聞き込んだ。
やはり、彼女からも昔話の中でその名を知ったことを告げられる。
その内容も受付嬢の語ってくれたものとほぼ同じ。
しかし、一点だけ、違う個所があった。
それは山の神が模った獣の姿。それが猪である、と明確に証言したのである。
「ありがとう、お姉さん」
「いえいえ、ごゆっくりと」
俺は小さいけど大きな発見をし満足を得た。
その後も居酒屋を利用しているおっさんどもに聞き込みをするも、たいした収穫はなかった。
ただ、雷蕎麦とは違った情報を仕入れることには成功している。
なんでも東方国の征夷大将軍が軍備の増強を謳い、戦機乗りを募っているらしい、と。
きな臭い話であるが、今の俺たちには関係の無い話であろう。
取り敢えずはヒュリティアにこの情報を伝えておく、と俺と同意見が帰ってきた。
「……今は面倒ごとは避けるべきね。とにかく、失われた力を補填する。これに尽きるわ」
「分かったんだぜ」
俺は【トビウオ鶏】の刺身にわさびを少々載せ、醤油をちょんちょんとつけて口に運ぶ。
噛み締めると鶏もも肉の触感と、じんわりと滲み出る肉汁の甘さに思わず表情が蕩けた。
トビウオ鶏はトビウオと鶏が合体したかのような奇妙な魚だ。
分類的には魚に入るらしいが、姿は殆ど鶏である。
しかし、羽毛の代わりに鱗がびっしりと生えており、まったく可愛げは無いもよう。
だが鱗は油で揚げるとパリパリ、サクサク、の食感となって酒のつまみに丁度いいらしく、今もヤーダン主任が色っぽい仕草で口に運んでいる。
天然の塩味が付いているで、ただ揚げるだけでいいとのこと。
これっ、リューテ皇子っ。
ヤーダン主任の指を、ちゅっちゅしてはいけませんっ。
「ばぶー!」
彼の行為にザインちゃんが呼応し、ちゅっちゅさせろ、とバブってきました。
「ザインちゃんが、バブっていらっしゃる! 速やかに、ちゅっちゅさせなくてはっ!」
「でも、エルティナちゃんには、もう大きなおっぱいは無いよ?」
「いやいや、指でいいんだぜ」
「あっ、そういえば、そうだったね」
俺はザインちゃんのお口に指を、ぬぷぅ、と挿入する。
すると、ザインちゃんは驚きの吸引力で俺の桃力を吸い上げていった。
「んん? な、なんだか、変な感じ」
「……変な感じとは?」
「吸われているのに、増えていっている感」
「……愛の力で桃力が増えているのね。急激に桃力の最大値が減ったから、成長具合も認識できるようになった、って話よ」
「そうなのかー」
つまり、雑魚になったから強くなるのが実感できる、という事なのだろう。
成長がはっきりと分かるのは良い事だし快感である。
だから、俺はこれからも成長するだろうな。
次の日、港町を出て雷業市へと向かう。
その途中で、なんと機獣の襲撃があった。
『レ・ダガー発見! 数、三! 戦機は直ちに出撃されたしっ!』
ヤーダン主任の報告を受けて戦機は緊急出撃。
ただし、出るのはガンテツ爺さんと新人のミオとクロエのみだ。
どうやら、ガンテツ爺さんは彼らに経験を積ませたいもよう。
俺も万が一に備えてエルティナイトにて待機。
新人たちの戦いを見守る。
「ミオとクロエ、大丈夫かなぁ?」
『問題にぃ。昨日、暇だったからガンテツ爺さんのしごきを眺めていたが、二人とも戦い方をよく知っている様子だった感』
「ふきゅん、エルティナイトがそう言うなら、様子を見守るとしよう」
ガンテツ爺さんはデスサーティーン改、そして、ミオとクロエはマネックに搭乗して出撃した。
扱い易い戦機で基礎を叩き込もうというのだろう。
『よし、昨日教えた通りに戦うんじゃ。そうすれば、おまえさんたちで勝てる』
『分かったにゃ~ん』
『や、やってみますっ』
暢気な返事のミオと、若干緊張気味のクロエ。
ミオは胆力が強いのか、はたまた暢気なだけなのか、これを見極めるには丁度いい機会となろう。
クロエは慎重であることが頷けるので、そこまでは心配していない。
きっと、戦い方も手堅いものとなろう。
『にゅおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!』
『『『「クロエが真っ先に突っ込んだぁぁぁぁぁぁぁっ!?」』』』
はい、想定外の事態が起こりました。
まさかのクロエ暴走でございます。
『にゃ~ん、クロエ、一人で狡いにゃ~お』
少し遅れてミオ機もレ・ダガーに突っ込む。
にゃんこびとは果たして脳筋なのであろうか。
突っ込むなら武装を近接武器にしてからにしなさい。
しかし、彼らはライフルで格闘戦をおっぱじめましたとさ。
ライフル、壊れちゃ~う!
『にゃおぉぉぉぉぉぉぉっ!』
『にゅおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!』
しかし、きちんと戦えている上にレ・ダガーを一方的に殴っているという。
且つ、しっかりとライフルでレ・ダガーを撃ち抜いている辺り、ただの脳筋ではないもよう。
レ・ダガーのバックステップを読んで、どうにもできない空中を狙い撃つあたり、戦闘のセンスは、もしかすると俺よりも遥かに高いのかもしれない。
これに俺はちょっぴり嫉妬する。
すると、俺の胸から茨木童子が、にょっきりと生えてきてメシウマの表情をしたではないか。
どうやら、彼女はどこにいても俺に戻ってくることができる上に負の感情を糧にすることができるらしい。
それによって、俺は嫉妬ガールになることなく、ミオとクロエの戦いを見守ることができるようになった。
「あい~ん」
「うん、凄いな、あの二人」
息の合った連携。今日が初めての戦闘とのことだが、あの戦いぶりは初めてとは到底思えない。
まるで、何年も共に戦ってきたかのような阿吽の呼吸に、俺は思わず見とれてしまった。
それはガンテツ爺さんも同様だったのであろう。
遂に彼が動くことなく、鋼鉄の獣たちはその全てが破壊され停止。
ミオとクロエの圧勝で幕を閉じることとなる。
『勝ったにゃ~ん』
『この子、素直で動かしやすいよっ』
最初はクロエの暴走でどうなることかと思ったが、意外にもクロエは近接戦闘を得意としているようだ。
ミオもまた近接戦闘が得意のようだが、所々でライフルの射撃を外し、癇癪を起してレ・ダガーに八つ当たりをしている。
総合的な強さはクロエに軍配が上がるが、どうにもミオには期待というものが込み上げてくる。
それは、ただ単純に強さから来るものではないのだろう。不思議な少年だ。
『よし、よぉやった。じゃが、ミオは帰って来たら射撃の訓練じゃ』
『にゃおぉぉぉぉっ! 勝ったのに負けた気分にゃぁぁぁぁぁぁっ!』
ミオの悲鳴に俺たちは思わず大笑いした。
機獣を恐れないのにガンテツ爺さんは恐れる少年は、四苦八苦しながら射撃訓練に勤しんだという。
それから二日後、俺たちは無事に雷山の麓にある雷業市へと辿り着いたのであった。




