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145食目 新メンバー

 一週間後、精霊戦隊に加わってもいい、という戦機乗りが集った。

 と言っても、たったの二名。知り合いの戦機乗りは一人も来ませんでしたとさ、とほほ。


 しかし、明確な理由を以ってお断りされたので文句を言えない言い難い。

 それにキアンカの防衛もあるので、モヒカン兄貴やスキンヘッド兄貴は町に残っていてくれた方が安心できる。


 ゴーグル兄貴とワイルド姉貴はタイミングが悪かったのか、キアンカから離れていてメンバー募集の情報すら届いていない。

 よって志願してくれたメンバーは、純粋に精霊戦隊に興味がある者たちなのだろう。


 マーカス戦機工場の駐車場に駐屯したクロナミ。

 その前に新メンバーの戦機が並んでいた。


 どちらもブリギルトを改造した物であるようだが、もうボロボロ過ぎて動いているのがやっと、と言った感じだ。

 どう見ても戦力にならなさそうである。


「精霊戦隊にようこそ。俺がリーダーのエルティナだ」

「ミオだよ。よろしく」

「クロエです。よろしくお願いします」


 ミオと名乗った戦機乗りは、黒髪のひと房を金色に染めた気の強そうな顔つきの少年であった。

 瞳の色も黄金色であり、独特の魅力に満ちている。


 身に着けている灰色のツナギは所々、修繕された跡があり、黄色の布地と黒い布地とで補填されていた。

 年の頃は十二歳くらいであろうか。どこからどう見ても戦機乗りになりたての、ひよっこにしか見えない。


 クロエと名乗った戦機乗りもミオと同じくらいの年齢であり、少し青み掛かった白髪と優しい形の目に納まる真紅の瞳が印象的だ。

 ミオとは違い黒いワンピースを着ており、どこからどう見ても戦機乗りには見えない。


 この二人はやはり新人戦機乗りであり、ブリギルトも中古で買った物のようだ。

 よって残金0の上、どうやら外れを引いてしまったらしく戦機にも精霊が宿っていないという始末。


 どうするの、これ。


「よろしく、ミオ、クロエ。一応、最終確認しておくけど、うちは大変だぞっ。それでも加入するかぁ?」

「大丈夫、今までなんども大変な目に遭ってるにゃ……げふん、よ」

「うん、特にミオと出会うまでが大変で大変で……ね?」

「もう、生身で戦機とやり合うのはこりごりだよ」


 ミオとクロエは、まるで子猫のように体をこすり合わせて仲の良さを見せつけた。

 この齢で二人は既に恋仲であるのだろうか。


 何はともあれ、貴重な人手を得たことには変わらないので大事に育成してゆくことにしよう。


「……ヒュリティアよ。私は精霊戦隊の陰の支配者。だから、逆らったら割と凄いことになる」

「「ひえっ」」


 ヒュリティアさん、その自己紹介はどうかと思うのですが?


 とんでもない影の支配者にビビる新人さんたちを、クロナミの中へとご案内。

 まずはリビング等の生活スペースと、彼らに割り当てた個室を案内し、それから艦橋へと連れてゆく。


「やぁ、新人さんだね。来てくれて嬉しいよ。僕はヤーダン、よろしく」

「うむ、うむ、こりゃあ鍛え甲斐がありそうな若者じゃの。わしはガンテツじゃ。こいつは火呼子。よろしくしてやってくれ」

「ぴよっ」

「「よ、よろしくおねがいしますっ」」


 そこには出発の準備をおこなっていたヤーダン主任とガンテツ爺さんがおり、新人を連れて来た俺たちを快く迎い入れてくれた。

 また、先んじて加入した双子の姉妹マウリとべリアーナもいる。


 がしかし彼女らはペコリ、と頭を下げるだけに留まった。

 そんな、マウリの腕の中には、すやすやと寝ているザインちゃんの姿。

 ついでに茨木童子の姿も見える。


「ここが、クロナミの艦橋なんだぜ」

「へ~、思ったよりも広いなぁ」

「うん、あまり物がごちゃごちゃしてないね」


 活発なミオに対して、おっとりとしているクロエは相性がいいのだろう。

 艦橋に興味津々すぎるミオをさり気なく制御し、手元に置くクロエには大いに期待したいところである。


「あ、この子も精霊戦隊のクルー? 僕はミオ、よろしくっ」

「私はクロエ、よろしくね」

「……リュ、リューネです。よろしく」


 ミオとクロエが発見したのは、再び女装したリューテ皇子だ。

 相変わらずヤーダン主任のおケツに引っ付いている。

 そのせいで発見が遅れてしまったもよう。




 続けて格納庫へと向かう。


 そこではアマネック本社から出向してきたスタッフたちが忙しそうに戦機を組み立てている最中であった。


 組み立てているのはもちろん、ルナティック。

 あの騒動の中、ルナティックは各パーツに分けられて帝都から運び出された。

 そして、取り敢えずクロナミに搬送されて難を逃れたのである。


 また、幾つかの試作機もクロナミへと搬入されていた。

 その中の一機にルビートルの姿がある。


 元々はヒュリティアの予備機として考えられていたが、ミオとクロエのどちらかに乗ってもらった方が、後々の事を考えるといいのかもしれない。


 また、アマネック社が総力を挙げて開発した試作量産機【マネック】、そのプロトタイプも十機ほどパーツ分けされて納品されている。

 これはアマネック本社が俺たちに期待しているという証であろう。


 プレッシャーが半端ないのですがっ。


「うにゃ~、凄いっ! 新品の戦機だ!」

「ミ、ミオっ!? 耳っ、耳っ!」

「にゃ? し、しまったにゃおぉぉぉぉぉぉぉっ!」


 その時、俺たちは見た。


 ミオの頭部からぴょこんと立った猫耳の姿を。

 彼は慌てて猫耳を伏せたが後の祭りだ。


「ミオは、にゃんこ人間だったのかぁ」

「うう、この姿を見られては、ここにはいられないにゃ」


 涙目になって猫耳を抑える少年に対して俺は言う。


「俺のこの耳が目に入らぬかぁ?」

「よくできたアクセサリーにゃ」

「本物なんだぜ」


 俺はそう言うと、ちょっと垂れ気味の大きな耳を上下にピコピコと動かし本物をアピール。

 その耳を猫のように追いかけるミオとクロエ。


 ということは、クロエもミオと同じなのであろうか。


「リーダーは僕らが怖くないにゃお?」

「いや、そもそもが俺たちも人間じゃないし。なぁ、ヒーちゃん」

「……あ、そのパーツは変更しておいて。そう、頑丈なヤツに」

「聞いてねぇっ!?」


 影の支配者様は、既に自分の戦機に関心が移っておりました。


「俺は白エルフ。ヒーちゃんは黒エルフ。だから人間じゃないんだぜ」

「にゃ~ん、アクセサリーじゃなかったんだ」

「うむっ、よって精霊戦隊から脱退する必要性はなっしんぐ」


 ミオと顔を合わせたクロエは頷くと、彼同様に頭からぴょこんと猫耳を立たせた。

 同時に尻の部分がもぞもぞと動き、にょっきりと尻尾が飛び出て来たではないか。


「ぷはっ、窮屈だったよ~」

「ミオも尻尾を出すにゃ」


 クロエに倣いミオも尻尾を出した。

 その尻尾は白をベースとして金色と黒の毛並みが見て取れる。

 まるで三毛猫の尻尾のようだ、と感じた。


「この世界にも人間以外の種族がいたんだなぁ」

「にゃ~ん、ミリタリル神聖国には、僕らみたいな子が沢山いるにゃ」

「クロエたちは、そこから逃げてきたの」

「むむむ、逃げてきたとは穏やかじゃないんだぜ」


 どうやら、この二人は色々と訳ありのもよう。


「事情を聞いても?」

「にゃ、たいしたことじゃないにゃ。クロエが儀式の生贄に選ばれたから、儀式の会場を襲撃して奪って逃げたにゃ~お」

「たいしたことだったっ!?」


 ミオは、なんとも豪快なお子様であった。

 この事から、戦機よりも生身の戦闘の方が得意そうではある。


 俺がほんのりとミオに驚愕している、と何者かが駆け寄ってくる気配。

 そして、唐突に身体が浮き上がる。


「うひょ~っ! やっと本格参戦できたっ!」

「ク、クロヒメさんっ!?」


 そう、遂に精霊戦隊に本格加入したクロヒメさんの仕業であった。

 彼女は俺の頬と自身の頬を密着させた後、容赦なく摩擦し始める。


「むほほっ! 相変わらずのぷにぷに具合で安心したわ~!」

「ふきゅーん! ふきゅーん! ふきゅーん!」

「味も確かめておこうかしら」


 このやり取りをポカーンとした表情で見守っていたミオとクロエであったが、クロヒメさんの視線が彼らに合わさった瞬間、猫耳少年少女は、ささっと物陰に隠れてしまった。


 彼らが本能的に長寿であることが判明した瞬間である。


「変態にゃ~!」

「変態さんにゃ~」

「うふふ、こっちの子も美味しそうねぇ」

「やめて~! ミオはクロエのにゃっ!」


 クロエはミオの前に立ち、ふーっ! とクロヒメさんを威嚇。

 どこからどう見ても、にゃんこだったという。


「冗談よ、冗談」


 その割に目が狩人のままなんですが?


『おいぃ? まさか、そこのちんちくりんが新メンバーかな?』

「その通りだぁ、っと紹介するんだぜ。こいつが俺の戦機、精霊戦機エルティナイトだ」

『おまえら、俺は超一流のナイトだから頼ってもいいぞ』


 バァァァァァァァァンッ! と無駄な文字エフェクトを背景にして奇妙なポージングを披露するマッスル戦機は、ただいま装甲を修理中である。

 よって、素体の常態で格納庫に寝っ転がりながら、魔力で作り出した雑誌を読む日々を送っていたという。


 尚、この一週間で素体に入ったダメージはすっかり回復したとか。


「おまえ、デカくなった?」

『超回復したら筋肉モリモリになるのは定められたルール内で有効。だから俺はマッスルポーズを炸裂させるだろうな』

「キモい」

『傷付いた、これではナイトのハートがギザギザになる』


 やはり、このやり取りにポカーンとなるミオとクロエは、いよいよ以って尻尾をピンと伸ばしたという。


「「戦機が喋ったにゃーっ!?」」

「まぁ、そうなるな」


 これに俺は苦笑せざるを得ない。

 しかし、エルティナイトを紹介する上では避けて通れないので、二人には慣れてもらうより他にないのだ。


「あとはアイン君とブロン君」

「あい~ん」

「ぶろ~ん」


 といっても、二人には見えない可能性が高い。


「にゃ? お饅頭にゃ」

「よろしくっ」


 そう言うと、二人はアイン君とブロン君を両手で包み込んで抱きかかえてしまったではないか。


「二人とも、精霊が見える上に触れられるんだな」

「にゃ? ミリタリル神聖国じゃ、普通にゃお」

「そのせいで私は生贄にされかけたんだけどね」


 良い情報と穏やかではない情報が耳に入った。

 このご時世に生贄制度がまだ残っているとは嘆かわしい次第である。


「ミリタリル神聖国は危険な国なのか?」

「危険というか……古臭い国にゃ」

「他からの干渉を嫌う国ではあるけど、いつからかおかしくなり始めたの」


 クロエは二の腕を擦り俯いてしまった。

 攫われて生贄にされかけたことを思い出したのであろうか。


「その連中にクロエは攫われたのか?」

「そんなところにゃ~お。ボコってやったから、暫くは大人しくしているだろうにゃ」


 ミオは、ふんすふんす、と拳を突き上げて怒りのほどをアピールした。

 どうやら、国全体がおかしくなっているのではなく、一部が暴走している可能性が高い、と俺は判断する。


「ふきゅん、これも鬼と関係しているのかなぁ?」

「……その可能性は否定できない」

「急に戻って来たら心臓がふきゅんとなる」

「……その程度じゃ、ふきゅんとならないから大丈夫」

「影の支配者様は無理難題をおっしゃる」


 どうやら、ヒュリティアも鬼の関与を疑っているもよう。

 しかし、彼らが逃げて来た時期と、鬼軍団が出現した時期とは一致しない。


 これはつまり、それ以前から何かしらの影響が及んでいた可能性がある、という事だろうか。


「あ~、新人さん? 私、エリンっ。よろしくね~」


 格納庫の隅で何かをやっていたエリンちゃんが、ミオとクロエを発見し駆け付けて来た。

 ぶるんぶるん、と弾む健康的なおっぱいが尊い。


 だがしかし、彼女の姿を見た瞬間、ミオとクロエは身を強張らせた。


「にゃっ! せ、精霊王っ!?」

「この気配はまちがいないにゃっ!」


 慌てふためくクロエは遂に語尾に【にゃ】を付けてしまった。

 だが、この二人、精霊王を知っているというのか。


「精霊王? 確かエルティナちゃんも言っていたような?」

「気のせい」

「ほぇ?」


 俺はクロヒメさんに下ろしてもらい、直ちにミオとクロエの下に駆けつけて彼らをしゃがませる。


「おいぃ、エリンちゃんは現在、不思議少女中だぁ。精霊王の件は時期が来るまで内緒、いいね?」

「「分かったにゃ~」」


 物分かりの良い二人で助かった。

 これで、余計な混乱を避けることができるというものだ。


「精霊王、といえば大昔の宗教団体が崇めていた存在よね」

「クロヒメさん、知ってるの?」

「知ってるわよ、エリンちゃん。戦機協会の受付をやっていたら、戦機乗りたちが求めてもいないのに情報を提供してくれるから」


 なんと言う事でしょう、余計な混乱を撒き散らすお方が、ここにいらっしゃったではありませんか、ふぁっきゅん。


「……ふに? でも、興味無いからいいや」

「あら、そう? 面白そうな物には目が無いのに?」

「なんだか、それだけには興味がわかないの。変だなぁ?」


 エリンちゃんは首をこてんと傾ける。

 恐らくは彼女の中の精霊王が、彼女に干渉したのは間違いないだろう。


 きっと内心、ひやひやものだったに違いあるまい。






 かくして、にゃんこ人のミオとクロエを新メンバーに迎え、俺たちは東方国を目指す。

 果たして、そこではどのような出会いが待っているのであろうか。


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― 新着の感想 ―
[一言] 兄妹が別れ別れになったと見るかラブラブしたいから2人っきりでこっちにきたのか でもにゃんこびとなんでしょ?
[一言] カップル確認よしっ! 確認できたのは嬉しいような平和な世界でまったりしていて欲しかったような複雑な気分だぁ。
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