143食目 精霊戦隊補強計画
ターウォに逃れてこれた人々は元の人口の半分にも満たないらしい。
その大半は先の地震で生き埋めになってしまっていたか、帝都防衛隊を信じて残った者たちだそうだ。
しかし、間もなくして帝都防衛隊からの音信が途絶えたとのこと。
最悪、全滅の可能性すらある。
「そして、皇族ですが……皇帝陛下と第一皇子が崩御なされました」
「つまり、死んだってことか」
「はい。地震による落盤で呆気なく……そして、これに付け入ったアバスレン伯爵が帝都ザイガを占領し、自らを皇帝と称してエンペラル帝国の支配者であることを宣言しました」
いや、何を考えているんだ、アバスレン伯爵は。
ただの火事場泥棒じゃねか。
「帝都は?」
「謎の軍団によって占領されたもようです。ただ、アバスレン伯爵は、その後も声明を発信しているので生きている可能性は高いかと」
そんな馬鹿なことが……いや、しかし、可能性が無いわけじゃない。
アバスレン伯爵は度し難い欲望の持ち主。
その欲望が肥大化し他者を顧みない醜悪なものへと至れば或いは。
「ヒーちゃん」
「……恐らくはそうね。彼は【鬼に堕ちた】と考えるべき」
「面倒なことになったんだぜ」
そうなると今の俺では対処できるかどうか。
エルドティーネになったことで母の記憶は失われる一方だ。
つまり、それは桃使いとしての戦技や術も失われ始めているという事。
「……桃戦技や術は大丈夫。あなたが強くなれば、それが切っ掛けで思い出すわ。問題なのはエルの魔力量」
「確かに、それが無いと始まらないんだぜ」
「……魔力量の最大値はなかなか上げ難いわ。個人差もあって、どういう方法で上げれば効率が良いかは色々と試してみる必要がある」
「限界まで魔力を使って回復させる、とか?」
「……それも、一つの方法。お勧めはできないけどね」
「魔力の枯渇は死に繋がるもんな」
そう、魔力量の問題だ。
俺の必殺技の大半は魔力に頼る物なのだ。
特に魔法障壁などは多用するので、莫大な魔力の確保は必須と言えよう。
「そのことですが……精霊戦隊には一度、エンペラル帝国から離れていただきたいのです」
「なんだって?」
神妙な面持ちのゲアルク大臣は、リューテ皇子の背を押し俺の前に進み出させた。
「リューテ皇子を国外に脱出させていただきたい」
「ふきゅん? リューテ皇子がいないとアバスレン伯爵のいいようにされちまうんじゃないのか?」
「はい、ですがリューテ皇子が死んでしまえば元も子もありません。我々が帝都を奪還するまで、なんとしてでも生き延びてもらう必要があります」
それは苦渋の決断だったのであろうか。俺にはそうは思えない。
帝都を取り戻す、といってもその算段すら見つけられてはいないだろう。
これはただ単純にリューテ皇子を逃がしたい、という彼の愛情だ。
自身は明日の見えない戦いに身を投じるつもりなのだろう。
「そんなことは……」
「……了解したわ」
「ヒーちゃんっ!?」
勝手に承諾したヒュリティアに俺は非難の声を上げる。
だが、彼女は首を横に振って俺の目を真っ直ぐ見つめてきた。
しかし俺は、彼女のエメラルド色の視線を受け止めるだけの余裕を持ち合わせてはいなかった。
だからだろう、無意識のうちに視線を逸らしてしまったのだ。
「……耐えて。今のエルでは、どう足掻いても奇跡は起こせない」
「ちくしょうっ」
俺は悔しさで布団を叩く。モフっとした感触が返ってきた。
「エルティナちゃん、脱出の事なんだけど」
「何か問題でもあったのか、ヤーダン主任」
「問題というか……うちのスタッフを何人か精霊戦隊に加えさせてもらえないかなって」
「それは構わないけど、どうしてなんだ?」
ヤーダン主任はくそデカおっぱいを抱えてため息を吐いた。
「うちの上層部が、僕が子持ちだと大変だろう、って勘違いしててね。それで、スタッフを派遣しようって流れになったそうなんだよ」
「あー、色々と情報が迷走しまくっちゃったのかぁ」
「うん。でも、派遣されてくるスタッフは優秀な人たちばかりだよ。そこは僕が保証する」
「そりゃあ、ありがたいんだぜ」
「じゃあ、許可が下りたと報告しておくね」
ヤーダン主任はパイパイの谷間から、にゅっと携帯タブレットを取り出して通話を始めた。
そして、そのまま部屋を後にする。
「エルティナ・アイン殿、私からはマウリとべリアーナを派遣させます。どうか、精霊戦隊の末席に置いてやってはくれませんか?」
「リューテ皇子の護衛じゃなくてか?」
「……はい」
なんとも含みのある間だ。
それは、まるでリューテ皇子が亡命をするのではなく、精霊戦隊に加わると確信しているかのような、そんな意図を感じとることができる。
また、孫のマウリとべリアーナを安全な場所へと逃がしたい、という思惑も多分に含まれているのだろう。
彼からは温かな心と、厳しい覚悟が伝わってくる。
「わかったんだぜ。精霊戦隊はマウリとべリアーナを迎え入れる」
「ありがとうございます。その代わりに元盗賊たちはこちらに引き渡して頂きたく」
「もちろんだ。でも、死なない程度にこき使ってやってくれ」
「それはもう。彼らの贖罪には打って付けと言える仕事になりましょうぞ」
これにて、俺たちはターウォを後にする。
魔法の大半が失われてしまった今、俺は早急に魔力量の向上、そして精霊たちと契約を結び、再びここに戻ってくる必要がある。
また、鬼と事を構えるのであれば桃使いとしての成長も必要となってくる。
「っと、そうだ。おいでませっ、桃先生っ!」
俺は神桃の実を召喚し、彼女に願った。
「桃先生っ、ゲアルク大臣たちを護ってくれっ」
いいですとも、という声が聞こえたので俺は甲板から遠ざかるターウォに向かって、桃先生を思いっきり投げつける。
すると桃は独りでに空を飛び、ターウォの町へと向かっていった。
そして、その上空で弾け飛び、桃色の結界で町を覆い尽くしてしまったではないか。
「とんでもない規模の桃結界陣だなぁ。流石は桃先生。桃結界陣……か」
俺は桃先生の見事な桃結界陣に見とれるも、それで重要なことを思い出す。
今の俺では桃結界陣を展開してパイロットを護るという事ができない、という事に。
つまり、ここからは適当に戦っていては仲間を失いかねない、ということになる。
「強くならなくちゃ」
俺は崩壊した帝都の方角を向き、強くなって再び帰ってくることを誓う。
謎の機体に占領された帝都からは腐臭が漂ってきているかのようで、俺は思わず顔を顰めた。
久しぶりにキアンカへと戻った俺たちは、直ちに戦機協会へと赴きルフベル支部長に相談を持ち掛ける。
やはり、というか彼は呆れた表情を見せたという。
「帝都が陥落したというのは事実だったか。しかも、リューテ皇子までいるとはな」
ルフベル支部長の強面が怖いのか、リューテ皇子はヤーダン主任のむっちむちのおヒップの後ろに密着し防御の構えを見せている。
その際、しっかりと彼女の肉を掴んでいるのを俺は見逃さなかった。
「俺も大幅に弱体化してしまったから、ここいらで戦機乗りを精霊戦隊に加えたいんだ」
「いよいよ、本格的に活動を行う、というんだな?」
「うん。もう、のんびりとはしてられない。早急に力を付けて帝都に巣食う鬼どもを退治しなくちゃ」
俺の決意宣言にルフベル支部長は「ふむ」と腕を組んで思考に入る。
「分かった、それでは掲示板に精霊戦隊メンバー募集の張り紙を出させておく。期間は一週間。それと、クロヒメも、そちらに正式参加させよう」
「いいのか?」
「いいも何もない。これはエンペラル帝国の存亡に係わる問題だ。それに、クロヒメの奴を受け付けに回していたのは私の我儘のようなもの。きっと、クロヒメは正式参加を喜ぶことだろうさ」
そう言うとルフベル支部長は少し寂し気な表情を見せた。
「それよりも、だ。弱体化の方はどうなんだ?」
「魔力が激減したせいで、無茶な戦い方はできなくなってる。特に防御面は厳しいかな」
「ふぅむ。これからは連携が戦いの胆になりそうだな」
「でも、ナイトが盾になるのは変わらない変わり難い。だから、俺はエルティナイトの盾を強化するだろうな」
「盾の強化か……となるとそれ相応の金属が必要だな」
「それには当てがあるんだぜ」
「ほう?」
ぶっちゃけ、桃先生とマーカスさんにお願いして桃色金属を作ってもらえばいいのだ。
問題は、今回もそれが成功するかどうかなのだが、こればかりはやって見なければ分からない。
「それで、今後の方針は?」
「まず、当初の目的であった東方国に向かう。そこでも仲間を集うつもりなんだぜ」
「ふむ、それならば、そこを起点として世界各国を渡り歩いてはどうだ?」
「え?」
ルフベル支部長からとんでもない提案が飛び出た。
しかし、彼は大真面目に提案したらしく、その表情は真剣そのものである。
「いろいろな思想を持つ人々との交流は人脈を得るだけではなく、精神的な成長をも促してくれるはずだ。それは確実に戦士としての成長に繋がるだろう」
「でも、そんなことをしていたら、ターウォの人々や、もしかしたらキアンカまでもが……」
「大丈夫だ、ターウォには帝都防衛隊の分隊も駐屯しているし、キアンカには沢山の戦機乗りたちがいる。君らが成長して帰ってくるまで十分に持つさ」
ルフベル支部長は話は終ったと言わんばかりに立ち上がった。
そして、ヒュリティアのエメラルドの瞳を見つめる、と彼女は頷いたではないか。
「……エル、直ぐに行動に移るわよ。のんびりなんてしてられない」
「お、おう」
こうして、俺たちは想定外の事態に巻き込まれつつ、世界を周ることになった。
果たして、俺はかつての力を取り戻し、鬼に占拠された帝都を奪還することができるのであろうか。




