141食目 女神と精霊王
『……なんじゃあ、あれは?』
ガンテツ爺さんのデスサーティーン改から無線が入った。
『エルティナや、何かいるぞい。注意するんじゃ』
「もう、こっちでも確認しているんだぜ。ものすっごい心の奥底で警戒しまくってる」
帝都ザイガ上空に突如として出現したのは一機の戦機のような存在だった。
しかしそれは、他の戦機には見られない有機的なデザインだ。
例えるなら、エルティナイトを女性らしくデザインした感じの機体。
つまり、結構デカい。エルティナイトと同じくらいのサイズがあるのではなかろうか。
白金色のド派手なドレスを着込んだ機械のご令嬢は宙に制止し、何かを探している様子を窺わせる。
その背中に背負った巨大なコンパクトディスクのような装置が印象に残る機体だ。
「何か探している様子だけど……なんだろう。あれからアホみたいな陰の力を感じる」
『分からなかったら、殴ればいいんじゃにぃか?』
「なんで、おまえはそう脳筋なんだ」
『褒められた。流石はナイト』
「馬鹿野郎」
とここで機械のご令嬢とバカタレナイトの視線が合う。
目と目が合う~、瞬間に~、敵だと気づ~いた~。
『唯一無二の盾っ!』
「桃力っ!」
エルティナイトが盾を構える。俺はそれに魔法障壁と桃力を組み合わせて纏わせた。
鉄壁の防御壁の完成だ。
しかし、それは白金の令嬢が放った光線によって一瞬で蒸発する。
『おいぃっ!? 防御貫通とか卑怯でしょっ!』
盾が一瞬で消滅してしまうも、エルティナイトは持ち前の反射神経で盾を捨てバックステップで光線を回避。
明らかに光速の域に達していたが、バックステップなので仕方がない。
「蒸発っ!? いや、違うっ! これは……」
全てを喰らう者の能力っ! 蒸発じゃない、食われたっ!
俺は背中のエリン剣を引き抜かせる。
相手は明確にエルティナイトを狙ってきた。
応戦しなければやられる。
いや、この場合は食われる、か。
「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉん……!」
白金の令嬢が鳴いた。それは歓喜とも悲鳴ともつかない声だ。
しかし、それは正常な者が聞けば精神に異常をきたすかのような声。
実際に生き残っていた人々が頭を抱えてのた打ち回っている。
このままでは、発狂して人生がジ・エンドになってしまうだろう。
「やるしかない! エルティナイト! 行くぞっ!」
『ダーク・パワー!』
エリン剣に桃力を注ぎ込む。
すると刀身は砕け、次々にエルティナイトに装着され、黒き騎士が姿を現した。
柄からは桃色の輝きが出現し、陰の力を断つ剣と化す。
「よし、行けるっ! 魔法障壁っ!」
これも、問題無く使えそうだ。
しかし魔力は、と言うと二代目エルティナには遥かに及ばない。
たぶん、彼女の百万分の一くらい。
うん、何を言っているのか、これが分からない。
でも、やるしかないんやなって。
「無駄遣いはできねぇぞっ!」
『分かっているぅ!』
最後の魔法障壁の足場を蹴って、エルティナイトは白金の令嬢に飛び掛かりエリン剣を振りかぶった。
『メガトンキック!』
「なんでエリン剣を振りかぶったし」
エルティナイトは、ここでまさかの【不意討騙討】を敢行。
蹴りを白金の令嬢に見舞う。
白金の令嬢は想定外だったのか、エルティナイトの蹴りをまともに受ける。
「な、なにぃっ!?」
『おいぃっ!? ナイトの蹴りを受けてへっちゃらとか卑怯でしょっ!』
白金の令嬢は、まったく、と言っていいほどに損害を受けていない。
いや、そうじゃない、衝撃が相手に伝わっていないかのようだ。
「まさか……ダメージを食ったとでもいうのかっ!?」
『エルティナ! そこから離れるんじゃっ!』
ガンテツ爺さんの指示を聞くや否や、エルティナイトは魔法障壁の足場から跳び退いた。
その足場を破壊しながら、光素の弾丸や光線が白金の令嬢に殺到する。
圧倒的な破壊エネルギーだ。しかし……。
『ええい、化け物めっ!』
まったくの無傷。
白金の令嬢は優雅とすら思える姿勢で宙に浮かんだままだ。
その彼女がゆっくりと両腕を持ち上げた。
それに伴い、莫大な陰の力が発生し始めたことを認める。
『い、いかんっ! あれを撃たせては帝都が!』
「それだけじゃねぇっ! この近くにはクロナミも、アマネック本社もあるんだっ!」
本能で感じ取る、ヤヴァすぎる力の奔流。
その合掌に近い手と手の間に発生する赤黒い輝きの塊、それが徐々に圧迫されて変形してゆく。
恐らくは圧し潰して炸裂させるつもりなのだろう。
そうなれば、帝都どころか大陸そのものが消滅しかねない、と判断する。
「あい~ん! あい~ん!」
「ば、ばぶー!」
「おにぃ! おにぃ!」
おチビたちもそれを理解しているのだろう。
早く来て~、と連呼しまくっている。
しかし、攻撃が通じない。いったいどうする。
どうすれば、全てを喰らう者と同様の力を有するあいつに、ダメージを与えることができるんだ。
早くしないと、町の皆が、それだけじゃない、仲間たちがっ!
焦燥感に焼かれる俺は、頭の中が真っ白に染まってゆくのを感じ取る。
こんな状態になっている場合じゃない、落ち着けっ! 落ち着けっ!
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」
気がつけばエルティナイトを白金の令嬢に突貫させてました。
俺も脳筋じゃないですかやだー。
「やらせないっ! やらせはしないっ! 護るんだっ!」
『よく言った。それでこそナイトだ、と感心するがどこもおかしくはない』
「あいあ~んっ!」
俺たちが覚悟を決めて力を振るおうとした時、エリンちゃんの声が聞こえてきた。
でも、それは彼女の声であったが、彼女ではない何者かの声。
とても暖かく慈愛に満ちたかのような声で、彼女は俺たちに語りかけて来たのだ。
瞬間、全ての時が止まった。色も消え失せ、灰色の空間が広がる。
指一本、瞬きもできない。にもかかわらず意識ははっきりとしている。
そこに、光を纏ったエリンちゃんの姿が浮かぶ。
『私の名は【精霊王】、今は故あって彼女の姿を借り受けています』
精霊王だと?
『時間がありません、要点だけを言います。あれは【全てを喰らう女神】。今から千年前に第六精霊界に出現し、数多の精霊と文明を喰らい尽した悪魔です』
なんだって?
『私は全てを喰らう女神を封印するために肉体を失いました。来たるべき日のために肉体を渡り継いできたのですが、完全に力を取り戻せていないのが現状です』
それで、エリンちゃんは不思議な能力を持っていたのか。
『恐らくは……いや、でも……』
どうした?
『いえ、なんでもありません。今、全てを喰らう女神に【ジ・オールイーター】を放たせるわけにはいきません。この世界が消滅してしまいます』
だが、どうすればいい?
『私の溜め込んだ力を限定的に解放し、あなたに授けます。それしか防ぐ手立てはないでしょう。お願いできますか?』
いいですとも!
『ありがとう、この世界……あなたに託します。鋼鉄のナイトよ』
灰色の世界に色が戻る。
同時に、驚くほどの力が漲ってきたではないか。
あれは決して幻や俺の妄想などではない、確かに精霊王は存在する。
何故ならば、エリンちゃんのブリギルトから力の奔流を感じ取ることができるからだ。
そして、彼女からだけではない、ガンテツ爺さんからも力が送られてきている。
『エルティナっ! わしらの力も持ってゆけい!』
『ピヨピヨっ!』
「ありがとうっ! ガンテツ爺さんっ! 火呼子っ!」
彼らの力を受け取った俺は、本能でそれを形にしようと思いつく。
即ち、思念創世器の顕現である。
だが、その時、全てを喰らう女神の周辺に赤黒い球体が発生し、エルティナイトに飛んできた。
防ぐ手立てがないというのに面倒な事この上ない。
明らかにジ・オールイーター発動までの時間稼ぎだが、これを回避していると間に合わないだろうと判断。
被弾覚悟で突撃する。
だが、その時、黄金の閃光が幾つも背後から迫って来た。
なんと、それらは赤黒い球体を次々に貫き霧散させてしまったではないか。
『……エル! そのまま行って!』
「ヒーちゃん! 分かった!」
黄金の閃光はヒュリティアが放ったものだったのだ。
恐らくは黄金の弓を使ったのだろう。
確かあれも思念創世器だったはず。
であれば、俺の思念創世器も全てを喰らう者に通用する?
やってみる価値はありますぜ、と俺は発現した小さなナイフにありったけの想いを籠めた。
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉっ! 集え、皆の想いっ! 思念創世器・始祖竜之牙降臨っ!」
コクピット内に思念創世器・始祖竜之牙が顕現した。
その瞬間、コクピット内が変化。
俺はいつの間にか広大な鋼鉄の大地に立っており、愛の羽織りと勇気の鎧を身に着け始祖竜之牙を握っていた。
それと同期する形でエルティナイトのエリン剣も変化。
俺が手にする始祖竜之牙と同じ形に変化した。
ただし、そのサイズはエルティナイトの大きさに合わせて巨大化している。
「……っ!」
驚愕に彩られる全てを喰らう女神の顔。
そして、俺たちは彼女の間合いに入る。
「エルティナイトっ!」
『応っ!』
鋼鉄の大地の上で足を踏ん張り思念創世器・始祖竜之牙を両手持ちし振り上げる。
俺に同期するエルティナイトは思念創世器・始祖竜之牙を両手で握り、それを振り上げた。
俺がエルティナイトで、エルティナイトは俺であるのだ。
「必殺! 始祖竜之牙っ!」
『必殺! ゴッド・ドラゴン・スラッシュっ!』
合ってねぇじゃねぇか、壊れるなぁ同期。
そんなツッコミを入れたかったが、始祖竜之牙は見事、全てを喰らう女神の手の間にあった赤黒い球体を両断し、一瞬のうちに霧散させてしまった。
どうせなら機体ごとバッサリやってくれてもよかったのだが、彼女は咄嗟にジ・オールイーターは放てない、と判断して後退していたのである。
「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉんっ!」
全てを喰らう女神は再びおぞましい声で鳴くと、景色に溶け込んでゆくかのように姿を消してしまった。
「……なんとかなった、のか?」
『大勝利だと感心するのだが?』
「あいあ~ん」
まるで勝った気がしない。
しかし、脅威は確かに去ったのであった。




