13食目 障壁
次の日、俺たちは昼過ぎにアインリールを受け取った。
もちろん、焦げ焦げお肉は美味しく再利用させていただいた。
朝は余っていたキャベツを加えて食卓へ載せ、出来立てご飯に合わせて頂く。
炊飯ジャーなどはないので、鍋での制作となったものの上手くできて何より。
そして、お焦げがおいしかった。
こっちの焦げは、ウェルカムであるのは言うまでもない。
そして、余ったにんにくダレのお肉は食パンに挟んでサンドイッチに。
これは、学校に向かうエリンちゃんのお弁当となった。
「おう、アインリール出来上がったぞ」
「ありがとなんだぜ」
にんにくダレの最後はパスタと合わせて。
これでようやく完食と相成ったわけである。多過ぎぃ!
追加装甲を取り付けたアインリールの姿は、正しく騎士と呼べる風貌であった。
俺はこの姿に感動を覚える。
また、アイン君も「あい~ん」と興奮しまくっていた。
「……これだけ立派になったのなら、新しい名前を与えてもいいんじゃないかしら」
「皮だけで中身は変わっちゃあいねぇぞ、嬢ちゃん」
ヒュリティアの提案にマーカスさんはさり気ない事実を暴露する。
でも、そんなことはええねん。見た目と名前は重要ぞ。
「ナイト……俺、即ち、俺ナイト」
その時、ビビっと電流走る。
「こいつの名は、【エルティナイト】だぁ」
「随分、自己主張が激しいな」
「それくらいで丁度いいんだよ。ナイトに恥じない行動をする、という意味でも」
実際は、まだ騎士の称号を得てはいない。
でもまぁ、騎士を名乗ってはいないから多少はね?
エルティナイトという名前なだけだもん。
「……いいんじゃないかしら。精霊戦機エルティナイト」
「精霊戦機?」
「……そう、アイン君も精霊じゃない」
「あい~ん」
そうだった、アイン君は鉄の塊の精霊。
決して、お饅頭の精霊ではなかったのだ。
……すっかり忘れていたのは内緒だっ!
「御大層な命名だこと。それと、ブリギルトはもうちょっと待ってろ。エリンが頑張っているが、あいつも学校があるからな」
「そっちは急いでないんだぜ。エリンちゃんに、じっくりやってくれるように言っておいて」
「あぁ、すまねぇな。助かる」
「それは、こっちのセリフなんだぜ」
俺たちは戦機協会で仕事を探してくることをマーカスさんに伝え、アインリール改め、エルティナイトで出発する。
無論、携帯する武器は雄々しき剣【エリン剣】だ。
戦機道をゆくエルティナイト。
妙に視線が注がれているのは気のせいではないはず。
「注目されているんだぜ」
「……そりゃあ、銃が主流のご時世に剣一本の騎士ですもの」
時流に逆らう珍獣、それが俺っ! 何も問題はなかった!
というわけで、好奇の眼差しに見守られつつ戦機協会に到着。
受付の黒髪お姉さんに、お仕事を斡旋していただく。
「何かいい仕事は残ってない?」
「あなたは、いつものんびりねぇ」
受付のお姉さんは少し呆れつつも、いくつかの仕事を見繕ってくれた。
その殆どがキャンセルが入って困っている案件だという。
「最近、キャンセルや失敗が多いのよ。戦機乗りの質が下がったのかしらねぇ」
「そうなのか?」
「えぇ、腕の良い戦機乗りは帝国か王国の仕事に出かけるから、こういった簡単な仕事は新人か……言い方は悪いけど三流戦機乗りの仕事になるの」
「ヘタレどもの仕事になるのか」
俺がそう言うと受付のお姉さんは苦笑いをした。
「ハッキリ言う子ね。嫌いじゃないわ」
「俺は騎士になる白エルフ。これくらいはハッキリ言ってしまう、しまわない?」
「それじゃあ、そんなナイト様には、このお仕事」
そう言うと受付のお姉さんは一枚の依頼書を提示した。
「なになに? 盗賊の殲滅任務?」
「そう、最近、ブリギルドに乗った盗賊たちがトッペルボトを結ぶ街道に出没しているの」
「それを退治すればいいんだな」
「えぇ」
「ボコりますた」
「じゃあ、頑張って……え?」
俺は盗賊どもとの経緯を説明。
彼らからブリギルトを没収したことを伝える。
「う~ん、任務成功でいいのかしら。いや、だめね」
「……パイロットを捕縛してないから?」
「そう、捕縛、或いは処分が条件なの」
穏やかではない言葉を受けて俺は彼女に告げた。
「殺すのは良くない、だから俺は連中を捕縛して反省させるだろうな」
「捕縛は難しいわよ? 殺すのよりも遥かにリスクが高いわ」
「それでもやってしまうのがナイト。俺の無限のも……も?」
やっぱり、この次の言葉が出て来ない。
俺の決め台詞だったはずなのに、もどかしくて屁が出そうだ。
「……新しい決め台詞でも考えたら?」
「むむむ、そうすっか」
というわけで、俺たちは盗賊団をとっ捕まえるために出発。
適当にぶらぶらと街道を行く。
すると三機のブリギルドが行く手を塞いだではないか。
「早速お出ましか」
「……いかにも、っていう小物ぶりね」
「聞こえてるんじゃボケぇ!」
真ん中のブリギルトが怒りの発砲。
銃弾が勿体ないんじゃないですかねぇ? 弾代も馬鹿にならんのだぞ?
「そういえば、没収したライフル銃を置いてきちまった」
「……エルはドジっ子ね」
「てへぺろ、なんだぜ」
そんなわけで、問答無用で背中のエリン剣を構える。
「げ、げぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?」
「その鉄の塊はっ!?」
エリン剣がトラウマになているのか、盗賊どもは急に慌てふためきだした。
精霊戦機エルティナイトの初陣を飾るには、少々ヘボい相手だが致し方あるまい。
「おまえらの悪行、天が許しても、この俺が許さぬぇ! 精霊戦機エルティナイトの力を見せてやる!」
ビシッと勇者チックな決めポーズを見せつける。
いいぞぉ、これ。今のエルティナイトは最高にかっちょいい。
「な、何が精霊戦機だ! 剣しか持たねぇ戦機ごときに負けたんじゃあ、商売あがったりなんだよ!」
「撃ちまくりゃあ、勝てる相手だ! やっちまいましょうよ、兄貴!」
「んだんだ!」
なんだか、【三馬鹿トリオ】という重複している称号を彼らに授与したい気分になった。
じゃけん、エリン剣でボコって差し上げようかね。
「よし、アイン君、ヒーちゃん、ユクゾッ」
「あい~ん」
「……お手並み拝見ね」
と言っても、実際にやるのはアイン君です。
だが、俺も戦機乗りを名乗るからには操縦を覚える必要がある。
というわけで今回は俺が操縦を担当。
アイン君にサポートに入ってもらう。
操縦の仕方はなんとなくわかる。
問題はフットペダルに足が届かないという事。
というか、操縦席自体をなんとかしないと直接触れることもできやしねぇ。
そこで、アイン君の出番となる。
俺は彼を抱っこしてイメージを送る。
すると、アイン君がそのイメージを受け取ってエルティナイトを動かしてくれる、というわけだ。
まずは突撃。距離を詰めないと剣が当たらないのだから当然の行動である。
「馬鹿正直に突っ込んできやがった!」
「前はわけの分からない行動にテンパったが、今度はそうはいかねぇぞ!」
殺到する弾丸は腕をクロスさせてガードするしかない。
だが、その時、アイン君が俺の防衛本能を受け取ったのか、それとも俺自身の能力なのかは分からないが、エルティナイトの前方に青白い輝く壁が出現し、迫る弾丸のことごとくを弾き飛ばしてしまったではないか。
「なんだ、これ?」
「……魔法障壁よ。あなたの力」
「魔法障壁?」
やはり、頭痛。
しかし、今度はハッキリと記憶が蘇ってくる。
魔法障壁、それは攻撃魔法を放つ際の防壁となるもの。
それにより、発動者は攻撃性の魔法エネルギーに晒されることが無くなる。
これは、その特性から強固な盾にもなった。
しかし、俺はこの魔法障壁を研究、研鑽し、武器へと昇華させた。
「魔法障壁……思い出した、こいつの使い方っ!」
これの最もクッソ強い使い方、それはズバリ、【ぶちかまし】である。
「おんどるるぅん!」
ガッシャァァァァァァァァンッ!
「今度は体当りしてきやがったっ!」
動揺している、動揺している。
戦機は一応精密機械に分類されているが、戦闘中にそんなこと考えている奴は頭がおかしくなって死ぬ。
したがって、勝つのはいつだって、阿呆か馬鹿のどちらかである。
……あれ? これだと、勝っちゃ駄目なんじゃね?
「こいつも喰らえ!」
エリン剣も投げつける。
ぐしゃっ。
これにより、ぶちかましを受けてバランスを崩していた盗賊ブリギルドの一体は、エリン剣の直撃を受けて大破した。
やはり、効果は【ばつぎゅん】だっ!
「なんで唯一の武器を投げつけてくるんだ、こいつはっ!?」
「お頭! ポンぺがやられた!」
しかし、こちらは唯一の武器を失ってしまっている。
そして、コクピットを狙わないで戦闘不能にするのが意外に難しい点について。
先程のエリン剣も少しずれていたらコクピットを、ぐしゃあ、していたところだ。
「手加減って難しいな」
「……そりゃそうよ。相当に実力差がない限り、手加減して勝つのは難しいわ」
「相手を殺さないで勝利する楽な方法は無いかな?」
「……かつてのエルなら、それもできたでしょうけど……今は無理ね」
「ふきゅん、かつて、か」
かつての俺、は気になるところであるが、今は戦闘に集中しなくては。
俺はエルティナイトの正面に魔法障壁の壁を作り出し、攻撃に備えたのであった。




