136食目 奇妙な本
「だ~」
帝都ザイガを当ても無くぶらぶらする暇人とは俺たちの事だ。
その目的とはザインちゃんの欲求を満たすことにあり、俺たちは特に求める物はない。
そう思っていた時期がございました。
「らっしゃい、らっしゃい。爆弾ソーセージの串焼きはいらんかね~?」
道端で屋台を引き、食い物商売をする者たちが多いこと多いこと。
その呼びかけに応えてしまうのは仕方がない事だと思うが、いかがなものであろう。
「くださいな」
「まいどっ、何本入りようですかい?」
「一つや二つではない……全部だっ!」
「ひえっ」
そんなわけで容赦なく焼いてあった爆弾ソーセージを購入する。
その数、全部で十五本。ぶっちゃけ腹の足しにもならない。
「「いただきま~す」」
エリンちゃんに半分あげようと思ったのだが、彼女は俺を見習い9本でいいと言った。
あれ? 半分以上持って行ってないか?
爆弾ソーセージに齧りつく、とその名の通り肉汁が爆発するかのように溢れ出してくる。
噛み締めると肉本来の味が堪能できるが、衝撃的な体験を同時に味わう事になった。
ソーセージの中に仕込まれていた固い何かを噛み砕く、とカリッとした音と刺激的な辛みを感じ瞬く間に汗が浮き出てきた。
「あっ!? 粒胡椒かっ!」
「辛さと香りが凄いねっ。口の中で爆ぜてるみたい」
なるほど、それで爆弾ソーセージというのか。納得である。
十分に立ち食いを堪能した俺たちは次なる場所へと向かう。
目的地が無い散歩なので、目に付いたものを目的地と定めるのだ。
「ふきゅん? アレはなんだろ?」
「きっと図書館だよ。友達が言うには中にフードコートがあるんだって」
「よし行こう」
「そう言うと思った」
てなわけで、表面上はきゃぴきゃぴと女の子しながら、しかし内面では、がはは勝ったな、と勝利を確信しつつ図書館へと向かう。
そこは図書館にはあるまじき香りが漂う空間であった。
本を利用するのが目的なのか、それとも腹を満たすのが目的なのか、これがもう分からない。
でも、俺は後者を選ぶだろうな。
「ハイパー帝都バーガーください」
ざわっ、ざわっ……ざわっ、ざわっ……。
騒めき声が上がる。俺は何か間違った注文でもしたであろうか。
「あ、私もっ」
エリンちゃんも俺と同じ物を頼み、やはり騒めき声の洗礼を受ける。
待つこと十分。その待ち時間を納得させるハンバーガーが出てきた。
「おいぃ、これが騒めきの理由かぁ」
「あい~ん」
「ばぶー!」
そのハンバーガーのサイズは、なんと座布団ほどの大きさがあったのだ。
「足りん、もう一つ追加だ」
「マジでっ!?」
「マジでっ!」
衝撃的な返答を受け店員は迫真の集中線を用い俺に是非を問う。
無論、返答はYES一択である。
お味の方は丁寧に作られたハンバーガーで歓心を得た。
パテはソーセージを使っており、バンズはそれに見合うように調整されているのか、非常によく調和している。
味付けは基本に忠実なトマトケチャップとマスタード、しかし、これもよく吟味してあるお陰で実に美味しい。
全てにおいて調和が成されており、そのため食べ易く飽きが来ない。
一個目をもりもり食べ進め、五分足らずで完食。続けて二個目もあっさりと食べ尽くした。
エリンちゃんは食べるのが遅いだけなので、余裕で完食できるであろう。
マジパネェ、という囁き声が聞こえてくる。
しかし、こんな量など精霊戦隊ではレンゲに乗せられた炒飯のようなものだ。
足りぬっ! まだまだ、足りぬぞっ!
でも、お金を使い過ぎたらヒュリティアさんにお仕置きされるので、ここまでにしとうございますっ!
「なんか本でも探してくるんだぜ」
「わふぁったほぉ」
たぶん、分かったよ、とエリンちゃんは言ったのだろう。
俺は彼女が食べ終わるまで本を読んで時間を潰すことにした。
「なんか面白そうな本はあるかなぁ?」
「あい~ん」
「だーうー」
ぶらぶら、と図書館をぶらつく。
すると俺は奇妙な気配を感じ取った。
それは図書館の最奥から異様すぎる魔力を放ち、俺を引き寄せるではないか。
「なんだぁ? この魔力はぁ」
「ばっぶー!」
これにザインちゃんも反応。勇ましいバブーボイスを披露する。
アイン君もただならぬ魔力にそわそわし始めた。
また、茨木童子も妙にそわそわしている。
「おにぃっ、おにぃっ」
「まだ慌てる時間じゃないっ」
小鬼を宥めつつ図書館の奥へと移動。
人気のない机にポツンと置かれている古めかしい一冊の本を発見する。
それは金色の本であった。手に取るとバチリという衝撃を覚える。
しかし、身体には異常がない事を瞬時に悟った。
同時に魂の奥底、そこに眠るとても大切な何かが目覚めたことを理解する。
しかし、その何かが判明しない。もどかしい。
だから俺は、そのもどかしさを表現するだろうな。
「みょぺぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!」
「お客様、館内ではお静かに」
怒られました。
しかし、この本はいったい? 中を見る、と困ったことに白紙。
これを本と言ってもいいのであろうか。
やはり、何も書いていない。誰かの悪戯であろうか。
だが、この本からは何故か魔力を感じる。
この世界は光素がハッスルしている世界だ。
このような強力な魔力を垂れ流す本があるとは思えない。
では何故、このような本がこのような場所に無造作に置かれているのか。
「俺を呼んでいた?」
そうだ。
いつか、どこかで聞いた声。
歪む視界、霞掛かる意識。僅かに垣間見たエリンちゃんの走ってくる姿。
意識を手放したその時、俺は手首を掴まれた感触を理解した。
意識が戻る。そこは図書館ではなく、どこかの丘。
「くぉくぉは?」
「分かんない」
俺の隣にはエリンちゃんの姿。彼女以外には誰もいない。
背中にいたはずのザインちゃんやアイン君、そして茨木童子の姿も見えなくなっている。
そして、俺の背丈も元の幼女の物へと戻ってしまっている。
身に着けている物はあろうことか聖女の服。
「どうなっているんだぁ?」
「まったく分からないよ。倒れそうになっていたエルティナちゃんを見つけて、腕を掴んだところまで覚えているんだけども……」
取り敢えず立ち上がり身体を調べるも異常はない。
魔法も問題無く使用できるもよう。
だが、ここがどこなのかは判別不可能。そもそも、丘以外は真っ白な靄で覆い尽くされているという、わけの分からない状況だ。
しかし、ここにいると妙な焦燥感に囚われる。
早くここから逃げろ、という警鐘にも似た耳鳴りは気のせいではないはずだ。
その不安の原因は間もなく天よりやってきた。
大地を震動させる巨大なる者は、黄金の鱗を身に纏う恐ろしい竜であったのだ。
その巨大な咢を開いた竜は俺に告げる。
「汝、その力を我に示せ」
返答する間も無く、巨大な黄金の竜は俺たちに襲い掛かって来たのであった。




