135食目 継承問題
エリンちゃんのパスポート発行が済んだところで精霊戦隊の目的は完了した。
このまま東方国へとレッツラゴー、したいところではあるが大問題が一つ。
それはリューテ皇子とアバスレン伯爵の件というのは言うまでもない。
アバスレン伯爵は、どうやら俺が作り出した偽物の皇家の光核を本物だと認識したようで、着々と国家転覆計画を推し進めているらしい。
この情報はゲアルク大臣から送られてきたものなので信用するに値するだろう。
喫茶店でまったりとコーヒーを飲みつつ、これからの行動を話し合う。
「まずはゲアルクと合流じゃな。場所はクロナミが良いじゃろう」
「……そうね。キモい盗賊たちも待機していることだろうし」
「う、うむ。あやつらの戦機の修理の兼ね合いと、アバスレン伯爵が事を起こすタイミングとなるとわしらが動けるようになるのは一週間後、くらいかのう」
ガンテツ爺さんの見立てだと、既に謀反の準備はほぼ整っており皇家の光核待ちだった、ということが窺える。
そして、偽物ではあるが皇家の光核を手に入れたアバスレン伯爵はいよいよ以って事を起こすタイミングを計っているのだろう。
「実はの近々、第一皇子が正式な皇位継承を宣言するらしいんじゃよ」
「それはまた急なんだぜ」
「そうじゃな。ゲアルクが言うには第一皇子の派閥が強引に提案を通したらしいんじゃ。それで他の派閥は反発しての。式典をボイコットすると喚いておる」
果たして、皇位継承という大事な式典をボイコットする事がまかり通るのか。
いや、それだけ皇帝の威光が薄れてきている、ということか。
最早、皇帝制が形骸化してお飾りになってしまっている可能性が高い、と考えるべきだろう。
いつの時代も制度が長く続き過ぎると腐ってしまうんやなって。
「第一皇子の派閥は阿呆な連中じゃが数が多いらしくての。多数決では叶わないらしい」
「アバスレン伯爵は?」
「無論、第一皇子の派閥じゃよ。首を狙うなら組織の内側の方が都合がいいからの」
「暗殺とかじゃなくて、直接狙うのかぁ?」
「第一皇子の皇家の光核も狙っておるんじゃろ。強欲は身を亡ぼすことに気付いておらん」
「馬鹿だな」
「馬鹿じゃから、こんな事を思い付くんじゃろうて。だから、といって見逃すつもりはないがのう」
ガンテツ爺さんは顎髭を擦りながら盛大に呆れた表情を見せる。
というか、この話の流れだとアバスレン伯爵自ら第一皇子の命を取りに行く流れになっているんですか。
「……アバスレン伯爵は強いの?」
「一応はのう。あれでも昔は軍に所属しておった。じゃから己惚れてしまったのじゃろうな」
しかし、とガンテツ爺さんは続ける。
「その腕前も精々、戦機乗りのDランクの中堅程度じゃ。上位の機獣とやり合ってきたわしらが後れを取る理由はどこにも無いじゃろう」
「……つまり雑魚ということね」
「辛辣じゃのう。正直に言えばその通りじゃ。生身の能力も一般的な軍人よりかは多少上といった感じじゃし……というかアレに最後にあったのはかなり前の話じゃから、今はただの中年になっている可能性が高いのう」
つまり、真正面から戦えば俺たちが後れを取ることはない、という事になる。
だが、真正面からではない場合、不覚を取る可能性がある、とガンテツ爺さんは言いたいのだろう。
「なんにせよ、ゲアルクとの合流待ちになるかの」
ガンテツ爺さんの結論に全員が頷いたところでヒュリティアが席を立つ。
「……私はアマネック本社でルナティックの調整を手伝うわ」
「それなら、僕も手伝おうか?」
「……ヤーダン主任はクロナミでキモい盗賊の戦機を修理して。それに、リューネをあまり連れ回さない方がいいわ」
「それもそっか。うん、分かったよ」
ヤーダン主任を諭したヒュリティアはちゃっかり注文したホットドッグをテイクアウトして喫茶店を後にした。流石はホットドッグジャンキーだと感心するがどこもおかしくはない。
さて、ヤーダン主任にしっかりと抱き付くリューネ事リューテ皇子は、どうやら完全に彼女に依存しているもよう。
これは別れの際に一波乱ありそうだ。これも要対策しておいた方が良さげである。
「それじゃあ、俺たちもクロナミに戻るか」
「ばぶー!」
ぷぅ。
「その前にザインちゃんがハッスルしたのでオムツを交換するんだぜ」
「かっかっか、母親は大変じゃろ?」
ガンテツ爺さんは愉快そうにトイレへと向かう俺を見送ったのであったとさ。
うんうん先生のありがたい指導を受けた俺は仲間と共にクロナミへと戻る。
そこには船内を清掃し、無駄に爽やかなキラキラエフェクトを発生させるむっさいおっさんどもの姿があった。
その通路での出来事だ。
「おかえりなさいっ! お掃除してますたっ!」
「ほぅ、見事な掃除だと感心するが……こいつはなんだぁ?」
「げぇぇぇぇぇっ!? 埃っ!」
俺は小姑よろしく窓際に指を走らせて埃を確認。それを元盗賊どもに見せつける。
「これは罰が必要だぁ」
「ぜ、是非っ! 我々に罰をっ!」
ケツを差し出す盗賊どもはよく訓練され過ぎていた。
「ええい、やめんかっ。この構図は子供の教育に悪いわい」
「見事な着眼点だと感心するが、どこもおかしくはないな」
ガンテツ爺さんの言う通り、これはリューテ皇子に良くないであろう。
だが、そのリューテ皇子は、何故か俺にお尻を差し出しているではないか。
「おいぃ、ヤーダン主任?」
「え? 僕は何も教えてないよ?」
「ママの部屋のお本を読んだの。裸の女の人がお尻を男の人に……」
「スターップ! リューネちゃんっ!?」
それはきっとヤーダン主任のムフフな本だったのであろう。
リューテ皇子はダメな方に関心を持ってしまったようだ。
これにヤーダン主任が顔を真っ赤にさせて慌てる。
「おにぃ」
「ふきゅん、分かっている。彼は既に手遅れなようだ」
これには茨木童子も俺もニッコリであった。
その後、リューテ皇子に良く言い聞かせリビングへと向かう。
ガンテツ爺さんのはソファーにどっかりと腰を下ろし、携帯端末でゲアルク大臣に連絡を入れ始めた。
エリンちゃんはそのままキッチンへと向かう。きっとお茶を用意するつもりなのだろう。
ヤーダン主任は戦機の修理を行うための作業着へ着替えるために自室へと戻る。
当然ながら、リューテ皇子も彼女に付いていった。
そうなると俺はやることがなくなる。
仕方がないので茨木童子を弄ぶことにした。
「おらおら~、どうしたー」
「おにぃっ、おにぃっ」
指であやしてやると、ちょこ前に小さすぎる拳で反撃をしてくる。
小さくても、そこは鬼であるのか負けん気が強いもよう。
「ばぶー!」
そして意味も無く存在感をアピールするザインちゃん。
と思ったがどうやら退屈しているもよう。
アイン君が彼女をあやしてみるも、どうやらお望みの物ではない様子。
これは、外の景色を見たいという訴えであろう。
「ガンテツ爺さん、ザインちゃんが退屈しているから散歩に連れてゆくんだぜ」
「うむ、あまり遠くに行くでないぞい」
「分かってるんだぜ」
ザインちゃんを抱っこし散歩に出かけようとしたところで、エリンちゃんがお茶を淹れて来た。
「あ、エルティナちゃん、どこか行くの?」
「ザインちゃんが暇を持て余しているから散歩に行くんだぜ」
「それじゃあ私も行くよっ」
「四十秒で支度しなっ」
「ばぶぅ」
きらり、と最高に格好いい促しのセリフを決める。
「このままでいいよ。行こっ」
「お、おう」
しかし、相手が悪かったのか、それは不発に終わった。悲しいなぁ。




