134食目 エリンちゃんのパスポート
エリンちゃんのパスポート申請のために渡航管理局へと向かう。
移動にはタクシーを利用。町の中を移動するように車の購入も視野にいれてもいいかもしれない。
移動中にゲアルク大臣に連絡をいれる。連絡役はガンテツ爺さんだ。
俺だと、うっかり彼の名前をぽろりんちょしかねないので妥当である。
「うむ、うむ、分かった。それではの」
携帯タブレットをツナギの胸ポケットに仕舞い込んだガンテツ爺さんは、ゲアルク大臣の名前は伏せつつ、彼の近況を伝えた。
「どうやら、無事に屋敷に着いたらしいの。これから仕込みをするそうじゃ」
「……それは何より。ルナティックの方も2~3日で改修が終わるみたい」
「そいつは重畳。デスサーティーン改だけでは小僧のカバーが追いつかないからの」
「……ルビートルも良い子なんだけどね。癖が強いけど」
「ぶろ~ん」
ヒュリティアはルビートルがわりにお気に召したもよう。
しかし、レポートを見させてもらったが散々な酷評が掛かれていたりする。
開発者がこれを見たら、速やかに白目痙攣状態へと移行すること間違いなしですぞっ。
ちなみにルビートルは戦闘後にアマネック本社へと返却したようだ。
ブロン君がヒュリティアに纏わり付いているのがその証拠である。
「ふきゅん、現状、人員が足りない状態?」
「……そうね。足りないといえば足りないけど、そこはクロヒメさんかサポートメンバーで補えばどうとでも」
「そっか」
精霊戦隊は現在、極端な状態にあると言えようか。
鉄壁の防御を持つ戦機がいる反面、手数が非常に少ないのだ。
過剰な攻撃力を持つが範囲が狭いデスサーティーン改、ルナティックも正確な狙撃を目的としている機体なので数に対応しにくい。
といって全てを喰らう者を呼び出すと毎度大惨事になるという悪循環。
これもう、どうしたら良いかわっかんねぇなぁ?
「……広範囲を補う兵器を搭載してもいいけど、動きが鈍くなるのよね」
「ううむ、状況によって戦機や武装を使い分けるのも選択肢の一つじゃが、それは潤沢な資金がある場合だけじゃしのう」
「貧乏でさーせん」
以前よりましになったとはいえ、精霊戦隊の台所事情はまだ明るいとは言えない。
借金もまだまだ残っているし、食費代もうなぎ登りで上昇中。
これをなんとかするには特殊食材で大儲けするより他にない。
そのための雷蕎麦? あとそのための雷蕎麦? じゃけん、雷蕎麦を手に入れましょうね~。
とか思っていたが、その前にリューテ皇子の件をなんとかしないといけませんでしたとさ。ふきゅん。
その問題となるリューテ皇子はヤーダン主任のむっちり太ももの上に乗って、その華奢な身体を彼女に預けている。
こうしてみると本物の母娘にしか見えない仲睦まじさである。
ちょっぴり嫉妬マンが顔を覗かせるも、それは俺の陽の心が成敗いたしました。
やがて、渡航管理局へと到着。早速中へと入ると、そこは快適な空間が広がっていたではないか。
清潔感溢れる広いスペースは、従業員と訪れる者たちに不快感を与える事はないだろう。
紺色の制服を着た受付嬢の下へと赴く俺は、妙な視線を受けていることに気付く。
特に無駄にデカい乳とケツにだ。
「……先に服を買っておいた方が良さそう」
「じゃな。ここはわしがやっておくから、服でも買ってこい」
「それじゃあ、ザインちゃんは僕が預かっておくね」
「ばぶー!」
そんなわけで、エリンちゃんのパスポートの手続きはガンテツ爺さん見届けることになり、俺はヒュリティアに連れられて服を購入することになったのだ。
流石にくっそエロナース服とエロエロ下着のコンボは【歩く破廉恥】と認められてしまったようだ。
ザインちゃんはヤーダン主任が預かってくれるという事なので、安心して買い物ができるというものである。
服屋へと向かう道で、またしても山賊チックなおっさんどもを発見。
前回とは違い全身を包帯でぐるぐる巻きにしていたが、旺盛な食欲は微塵も衰えてないもよう。
傭兵の仕事で怪我でもしたのであろうか、所々に火傷の跡が見て取れる。
それを目の当たりにし、当然の権利のようにヒーラー魂が顔を覗かせる。
しかし俺は、彼らに変化が起こっていることを認めた。
焼いた肉の塊をガツガツと口に放り込んで飲み込むたびに、その火傷が小さくなっているのだ。
驚異的な再生能力と食事は決して無関係ではないだろう。
だが普通の人間が、このような能力を持ってるわけがない。
「……エル、行くわよ」
「お、おう」
俺は彼らの不思議な能力を気にしつつ、幼女に手を引かれながら一軒の衣服店へと入り込んだ。
それから三十分、俺は着せ替え人形にされた過去のトラウマを思い出しつつ、ようやく解放された。
購入し、即着替えた服とは無地の白いTシャツとジーパンだ。
無難な選択は流石ヒュリティアである。これが向こうの世界の家族であった場合、俺はゴテゴテの飾りがついたドレスを着せられる羽目になる。
「おぉ、動き易い。乳とケツ以外は」
「……エルのは大きいから。特にお尻」
すぱーん、とおケツを叩くのはNG。そんなことをされたら、益々大きくなる可能性がある。もうこれ以上は要りません。
「……おっぱいはEあるって」
「白エルフなだけに?」
「……白エルフなだけにっ」
迫真の集中線を多用し、無駄に迫力を醸し出してくだらない会話を終えて、俺たちは、すん……となった。
そして、その帰り道にまたしても三人組のおっさんを見かける。
なんと、その頃には既に包帯を外しており、火傷の後も微々たるものになっていたのだ。
加えてまだ食っている。恐ろしい消化速度と胃の容量だ。
というか、どういう体の構造をしてんだ、あのおっさんども。
やはり、今回もヒュリティアに手を引かれ強引に連行される。
彼らが精霊を見ることができた謎は結局、謎のままで終わりそうだ。
渡航管理局へと戻ってきた俺たちはパスポートらしき物を掲げ、それに集中線を集めるエリンちゃんを発見。
その背後には【バァァァァァァァンッ!】という効果音の姿があった。
「パスポート、ゲットだよっ」
「見りゃあ分かるわい。ん? おぉ、エルティナ。かなりまともな姿になったのう」
エリンちゃんにツッコミを入れたガンテツ爺さんは、俺たちの姿を認め声を掛けてきた。
しかし、一緒に居たはずのヤーダン主任とリューテ皇子の姿が見えない。
「ただいま。あれ? ヤーダン主任とリューネちゃんは?」
「待っている間、暇だから、って併設してある喫茶店でお茶してるよ」
「なるほど。ザインちゃんを抱いたままだと大変だしなぁ」
というわけで喫茶店にレッツゴー。ついでに俺たちもお茶と洒落込む。
渡航管理局に併設されていた喫茶店は、どこかレトロチックな佇まいだ。
店内に入り込むとコーヒーの芳ばしい香りが鼻腔を刺激して、俺は思わず高揚感に酔いしれる。
「お、いたいた」
ヤーダン主任の姿を店の奥のテーブルにて発見。直ちに突撃をする。
「ばっぶー」
そしてザインちゃんを受け取る、途端にぱいぱいを要求する食いしん坊ベビー。
仕方ないので、ガバッとパイパイを放り出してちゅっちゅさせる。
「まてまてまて! ここで授乳をおっぱじめるでないわ!」
「おっぱいなだけに?」
「エリンは黙っとれ! ええい隠せ隠せっ!」
「俺は見られても一向に構わんっ!」
「なんで無駄に男らしいんじゃ、おまえはっ」
喫茶店だから許される、と思った俺は間違っていたのであろうか。
「ザインちゃんだってお茶をのみたいよな~?」
しかし、彼女はおっぱいを、ちゅっちゅすることに全神経を傾けているので答えてはくれない。
まぁ、答えたところで「ばぶー」か「だー」なのだが。
「店の奥の席でよかったね」
「まったく、エリンの言う通りじゃわい。見つかったら捕まってしまうぞい」
「なんて酷い国だ。赤ちゃんの食事を邪魔するとか心が醜い」
「そのための授乳室があるんじゃ」
ガンテツ爺さんは、授乳室と書かれた札が張り付いているドアに指を向けた。
「見事な授乳室だと感心するがどこもおかしくはない」
「おかしいのはお前さんの頭じゃ」
「それほどでもない」
「褒めておらんっ」
「あ、お姉さん、俺カツ丼」
「えっ?」
カツ丼は取り扱ってなかったので、普通にコーヒーを人数分頼みました。
残念無念。




