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114食目 帝都防衛戦 そのに

『ハイスラァっ!』


 エルティナイトがエリン剣を用いての剣技『ハイ、ご注文はスラッシュですね』を繰り出す。

 技名が長いので短縮されてしまいましたが俺は元気です。


 でも、武器が武器だし、何よりも力任せなエルティナイトじゃ、斬撃技にはならないんだな、これが。


 ぐしゃり、と鋼鉄の牛さんがエリン剣の一撃により頭部を叩き潰されて沈黙する。

 彼らは相当な硬さを誇っているようだが、エルティナイトの、脳みそが小さいぶん筋力がやたら発達している理論によって、それを台無しにされていた。


 彼らは鳴いていい。


 さて、ぶもー、と怒り狂ってこちらに敵意が向くのは良いが、やはり中にはエルティナイトをガン無視して帝都を目指す牛さんどもがいるわけだ。

 そういった連中は帝都防衛隊の皆さんにお任せしたい、のだが……これがまた当てにならない。

 本当に訓練をしていたのか、ってレベルで牛さんにボコボコにやられているではないか。


 なんで、あいつらの正面に立って棒立ち状態でライフルぶっ放してんの?

 死にたいの? 馬鹿なの?


 あ~っと! アインラーズ君っ、またふっ飛ばされたぁぁぁぁぁっ!


『やはりナイトの方が賢かった』

「あいつら新兵だな、きっと」


 動きを見て分かったことは、帝都防衛隊の腕前が戦機乗り以下である、ということだ。

 訓練は結構積んでいるようだが、実戦はまったく経験していないのだろう。


 幾ら三十年近く襲撃が無かったから、といって練度が高い兵を全部地方に送ってどうすんだ、ふぁっきゅん。


 これは、帝都防衛隊は当てにならない。

 でも、ナイト一人ではどうにもならないわけでして。


「……てー」

『きてー』


 というわけで、我々は召喚の儀式を執り行う。


「あいーん」

「ばぶー」


 祈りは力、困ったらお祈り。

 万国共通の神秘の力が発現したりしなかったりしろぉ!


「はやくきてー」

『はやくきてー』

「あいーん」

「ばぶー」


 俺たちの祈りは果たして天に届いたであろうか。

 割と受け取り拒否されていそうではある。


 その証拠として天より降りてきたのは真っ黒な死神であった。


『おう、やっとるな』


 スラスターを吹かし、安全に着地を決める腕前は流石だ。


「きたっ! 死神、来たっ!」

『これで勝つるっ!』


 天より舞い降りた異形の機体はデスサーティーン改。

 着地と同時にアームドカバーを展開し、左腕オーラガトリング砲二基と右腕オーラカノンを問答無用でぶっ放す。

 その際は背部大型スラスターを起動させて姿勢制御をおこなっている、という徹底ぶりだ。


 デスサーティーン改から放たれた光素の破壊エネルギーは容赦なく鋼鉄の牛たちをハチの巣に、そしてミンチへと変えていった。

 その圧倒的な攻撃力の前に、鋼鉄の牛たちはデスサーティーン改に対して敵意を強めるに至る。

 つまり、注視がガンテツ爺さんに集まっている、という状態だ。


 この状態は非常に宜しくない。

 デスサーティーン改は攻撃特化の機体であり、攻撃を受けるのは避けるように、とのヤーダン主任のお達しだ。

 したがって、再び鋼鉄の牛さんたちの注視をエルティナイトに向ける必要がある。


 それをどうするかはただ一つ。

 攻撃をしながら目立てばいいのだ。


 それを成すことができるのは、丁度、偶然にもエルティナイトに混入したバブーがやってくれる。


「だーっ」


 俺の背中から膝へと移動したザインちゃんが、もりもりと魔力をちゅっちゅして雷属性中級攻撃魔法【ライトニングチェイン】を発動。

 エルティナイトの右腕に雷の鎖が生まれ出た。


『ナイトは、バンパィンヤハンターもできるっ!』


 彼はそれを振り上げ、雷の鎖を鋼鉄の牛に目掛けてしならせた。

 雷の鎖はまるで意志を持つかのように鋼鉄の牛へと伸び、そして絡みつく。

 当然、鎖は雷で出来ているので牛さんはビクンビクンしながら感電した。


 だが、恐ろしいのはここからだ。

 この雷の鎖は感電させた対象から、次の獲物を求め拡散する。

 つまり、こんな混戦状態となったら、なんでもかんでもホイホイ食っちまう雷様が爆誕するのだ。


 そして、止めに【俺式ライトニングボール】をぶっ放す。

 言わずもがな、自らを雷の玉に包み込み爆ぜるだけだ。


 これがまた目立つ。


 バチバチと発光する巨大な雷玉が生まれ出て、暫く威容を見せつけた後に爆発。

 無差別攻撃で誰かれ構わず貪り食ってしまった。


 これも、敵陣に一機で突っ込むことができるエルティナイトだからできる攻撃だ。


『こりゃあっ! もっと考えて攻撃せんかっ!』

「あっ」

『あっ』


 ガンテツ爺さんがいたことを忘れておりました。

 でも、脚部のオーラバリア発生機で難を逃れているんやなって。


『まったく、こいつじゃなければ巻き添えを喰らっておったぞい』

「反省しているんだぜ」

『ごめんなしあ』


 どうやら、エルティナイトの頑強さにかまけて周囲を気遣う心が疎かになっていたもよう。

 というか、ガンテツ爺さんを護るために、牛さんの注視をこちらに向けたのに、彼を巻き込んでしまっては意味がないではないか。


「ふきゅん、違う方法で注目を集める方法を考えんとなぁ」

「あい~ん」


 アイン君にそうした方が良いかも、と諭された俺は気合を入れ直し、牛さんの相手をする。

 結構数は減ったように見えたが、そうでもなかったことが発覚。


 一万もの機獣は、そう易々と撃破とはいかないようだ。


「千くらいは、やっつけたかなぁ?」

『千五百くらいじゃな』

「まったく減って無いじゃないですかやだー」


 戦闘開始から五分弱、戦場は混戦状態へと突入。

 なんとか帝都防衛隊が踏ん張っているが、このままでは防衛網を抜けられてしまうのは必至だ。

 ガンテツ爺さんのデスサーティーン改がもりもり鋼鉄の牛を撃破してくれてはいるが、やはり一機ではなんともし難いものでして。


「う~ん、もう【ファイアーボール】撃ち込んじまおうか?」

『おいばかやめろ、ナイトの活躍の場が無くなっちまうだろ』


 しかし、人命にはかえられないんやで、ナイトさん。


 だが、このタイミングで助っ人が参戦。

 大地を滑るかのようなその黄色い機体は脚部が存在しなかった。


 代わりに大型の腰部パーツが後ろに伸びる異形の機体は、ホバークラフトの要領で荒野を疾走する。


 そして右肩だけが銀色の塗装を施されていたことに俺は気付いた。

 それは言わずもがな彼女のパーソナルカラー。


『……おまたせ、エル』


 囁くかのような喋り方は、俺の親友ヒュリティア独特のものだ。

 彼女はアマネック本社から試作機を借り受けて戦場へと駆け付けてくれたのである。


 しかし、試作機と言っても大胆な発想過ぎませんかね?

 脚部を完全に捨てて、移動をホバークラフトに限定。

 足がない分、腕を四本にして手数を増やし、くそデカ大砲も四基搭載している。


 完全に停止することを拒絶したかのような回遊魚のごとき戦法を強いられるその機体は、全体的に丸っこい姿をしており、ゲンゴロウから人の上半身が生え出ているかのように思わせた。


「ヒーちゃん、それは?」

『……TAS‐AMX01‐M・ルビートル』

「型番、長ぇ」

『……試作機だから仕方がない』


 ツッコミはさて置き、AMXというのはアマネック社製オリジナルブランドの試作機という意味であるらしい。

 そしてMはミスリルクラスに相当する機体である、ということだ。


 つまり、ロデド研究長はアマネック本社の秘蔵品を惜しげもなく貸し出してくれたことになる。


 こりゃあ、壊すと恐ろしい未来が待っておりますゾ!


『……さぁ、ひと暴れしましょうか』


 彼女のその言葉に、俺の無いはずのタマタマがヒュンとした。

 乱れ飛ぶエネルギーの弾丸とミサイルの雨、ぶっとい四本の破壊光線が戦場を蹂躙する。

 これに、牛さんたちは堪ったものではない、と慌てふためいた。


 デスサーティーン改をも凌駕する圧倒的な火力、そして、機動力だ。

 しかし、それもパイロットの技量があって初めて活かせる。


 ルビートルは決して止まることを許されない。

 停止してしまってはホバークラフトの性質上、走り出すまでの数秒間はのろのろとした動きとなり良い的になってしまうからだ。


『さて、面子も揃ったのう。本格的に牛狩りといこうか』

「おう、これなら、なんとかなりそうだしな」


 ヒュリティアの参戦で完全に流れは変わった。

 どうやら、このまま押し切れそうである。


『ナイトの実力を余すことなく見せつけるべき! そうするべき!』

「はいはい、分かってるんだぜ」

「てっつー」

「ばっぶー」


 俺は帝都防衛隊を防衛するためにも、昂るエルティナイトを前へと圧し出した。


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― 新着の感想 ―
[一言] ナイトは上に堕ちる変態だった…? エルティナイトの能力とライトグラヴィティを併用すれば実現できそうな変態機動はNG
[一言] やりすぎ御礼・・・
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