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107食目 帝都ザイガ

 盗賊たちからアバスレン伯爵の邪悪な野望を知った俺たちは、リューテ皇子たちをエンペラル帝国の帝都ザイガまで護衛する。


 三日程度の旅路であったが、道中に盗賊などは出没しなかった。

 代わりに、熊が出没したが戦機を駆る俺たちにとって熊は脅威足り得ない。

 そもそも、巨大な陸上艦にちょっかいを出す熊など命知らずにも程がある。


 そんなわけで、出没した熊さんは暢気に、くそデカドングリをむしゃむしゃしながら俺たちを見送っていた。


 冬眠するために栄養を蓄えているんやなって。

 深まりゆく秋に、俺はクロナミの甲板でセンメンタルな幼女感を演出する。


「でっかいドングリだなぁ」


 でも、食欲には勝てなかったよ。


「【ラージドンドン】じゃな。茹でるとジャガイモみたいにホクホクするぞい」

「なぬっ? 帰りにゲッツしなければぁ」


 ガンテツ爺さんは、料理人の奥さんを持っていただけに食材に詳しかった。

 非常に助かる御仁である。


 そして、何故か彼の頭の上の赤いヒヨコがドヤ顔を見せている件について。


「ま、ラージドンドンくらいなら、ザイガでも食べれるじゃろうて」

「ふきゅん、見えてきたな」

「ばぶー!」


 存在感を示さんがために、ザインちゃんが俺の背中でばぶーと咆えた。


 その視線の向こう側に灰色の城壁に護られたビル群の姿。

 立ち並ぶビルに護られるかのようにして、中央に巨大な城の姿が見える。

 この分なら、午前十時前にはアマネック本社に到着できそうだ。


「そろそろ、支度が終わったかな?」

「流石に終わるじゃろ」


 支度とはリューテ皇子の変装である。


 彼はアバスレン伯爵の脳内では既に亡き者になっているはずなので、生きていると分かればすぐさま消しにかかるであろう、とゲアルク大臣が判断したのだ。


 もちろん、ゲアルク大臣たちも変装をおこない帝都ザイガへと入る。

 それを解くのはアバスレン伯爵の野望を打ち砕いてからだ。




 入国に関してはまったく問題は無かった。


 銀閃の名を出したらあっさり態度を変えた門兵は心を入れ替えるべきである。

 桃力玉の中に突っ込んでやろうかぁ。


「ここが帝都ザイガかぁ」


 停泊所にクロナミを置いた俺たちは、リューテ皇子たちを伴い、まずはこっそりとゲアルク大臣の屋敷へと向かうことになった。


 そのための変装なのだが、ゲアルク大臣は普通に商人の姿だ。

 武装メイドたちもそれに倣う。


 全身をフードで覆い隠して砂漠地方の民族のような出で立ちになった。

 彼の部下たちも同様の姿である。


 そして、リューテ皇子だが、彼は何故か女装させられおり、どこぞのお嬢様と化していた。

 ひらひらのフリルが沢山付いた豪華絢爛な青をベースとしたドレスは、不思議の国に迷い込んだ少女を想起させる。


 そして、その姿を本人が痛く気に入ってしまったという。


 将来有望な少年になんという性癖を刻み込んでしまったのだ、バカタレどもがぁ。


「よく似合ってるよっ!」

「……完璧」


 その犯罪者たちがエリンちゃんとヒュリティアである。

 武装メイドたちも、それを助長した罪に問われているのは言うまでもない。


「綺麗なお洋服だね。嬉しいな」


 そして、リューテ皇子のキラキラ具合がエフェクト化して発揮されている件について。


 これはもう、ダメみたいですね。


 見た目は完璧な少女と化したリューテ皇子の隣には、彼の母親として変装させられたヤーダン主任の姿。

 もちろん、女装している。


 というか、彼の場合はマジもんの女性化なのだが。


「う~ん、女性物の衣服は久しぶりだなぁ。やっぱり、スカートは慣れないや」


 大胆に胸元が露出しているドレスは青に近い紫色だ。

 これは、キャラバンに偽装していたゲアルク大臣が所持していた積み荷から引っ張り出して来た物であり、どこぞの貴族夫人が着用する結構お高いドレスであるらしい。


「やはり、お母上に似ておられますな」

「でも、眼鏡はしていらっしゃらなかったのでしょう?」

「はい、だいぶ印象が変わりますな。あまり、眼鏡はお外しになられぬよう。あらぬ誤解を受けるやもしれません」


 なら、男に戻せばよかったのでは、と思うかもしれないが、そこはヤーダン主任の事情を知ってか知らすか、リューテ皇子がごねた。

 ぺったり、と彼女にくっついて離れなくなってしまったのだ。


 まるで、くっつき虫だ、とからかってやったが笑顔で「そうだよ」と言われてしまってはどうしようもない。


 仕方ないので、そのまま親子を演出してもらう。

 顔もそっくりなので疑われることは少ないであろう。


 しかも、リューテ皇子はエクステを付けて長髪になっているから尚の事だ。


「……エルも久しぶりに、おめかししたら?」

「あれは、周りが騒いでいただけで、俺自身はそういうのに興味はないんだぜ」


 俺の興味は、いつだって食べ物である。


 既に帝都ザイガの食べ物に、俺の視線はロックおぉん!

 ジャンジャンバリバリ喰らってやるから覚悟しろよぉ?


「ガツガツガツガツガツガツガツガツっ」


 そして、帝都ザイガ入り口付近の露店食堂で俺並みに喰らう、むっさいおっさんトリオを目撃。

 中々に豪快な食い方であり、観ていて清々しさすら覚えた。


 骨付き肉とチャーハンを交互に口に放り込む。

 あの速度からしてよく噛んではいない、丸飲みのはずだ。


 時折、スープをごくごくと飲んでは喉に詰まった食べ物を強引に胃に流し込んでいる。

 それが、大の男三人だ。なかなかの迫力になろう、というものである。


「あぁん? 何、じろじろ見てんだ?」

「気持ちのいい食べっぷりなんだぜ」


 野獣、粗野、まさにその塊とも言えるおっさんが、彼らの食事風景を眺めていた俺の視線に気づいた。


「ったりめぇよ。飯はおしとやかに食うもんじゃねぇ」

「速度と勢いが大切ってな」

「あと、量も重要だな」


 ぐわっはっは、と猛々しく笑う彼らはまさに肉食獣のそれであった。

 なので、俺も対抗して、ふっきゅんきゅんきゅん、と笑い飛ばす。


「度胸のあるガキだな、俺たちに近付くガキは、そうそういないぞ?」

「俺は超一級のナイトを目指す白エルフ。ビビったらナイトになれないなりにくい!」

「あいあ~ん!」


 俺の頭に上のアイン君も、そうだそうだ、と俺の意見を肯定する。


「こりゃあ、傑作だ!」

「はっはっは! いい戦機乗りになりな!」


 粗野な感じの割には気のいい連中だったようで、わしわしと俺の頭の上のアイン君を撫でて男たちは店を後にした。


 ……何? アイン君を撫でた、だと?


「ま、待ってく……」


 しかし、既に彼らは人ごみの中。

 最早、探し出すこともできず、俺の伸ばした手は行き場を失って力無く下がる。


「……エル、あの人たち、普通じゃない」

「あぁ、精霊が見えている、と思って間違いないんだぜ」


 俺は胸に湧き上がる【不安】に疑問を抱いた。


 普段なら精霊が見える同士を発見できて嬉しいはずなのに、何故か不安の方が強く湧き上がってくる。


 それは確かなる勘であったのだろう。


「あのおっさんたちとは敵対したくないな」

「……戦機乗りなのかしらね。それとも……」


【傭兵】、ヒュリティアの口からその言葉が漏れ出た。


 傭兵は金のためなら、どんな汚い仕事にも手を出す戦機乗りどもの成れの果て。

 しかして、彼らからはそのような感じはしない。


 確かなるプライドと、それを支える自信を携えていた。

 何よりも感じる強大な圧。


 それは、彼らが絶対なる強者であることを周囲に知らしめる。


「いったい何もんなんだ……あのおっさんたちは」


 帝都ザイガに着いた早々、波乱を感じ取った俺たちは急ぎ互いの目的地を目指す。


 尚、盗賊どもは指示があるまでクロナミに待機と相成った。

 彼らは夜を待って、帝都へと忍び込む。


 それは、アバスレン伯爵の用意した裏道からの侵入。

 彼にリューテ皇子の殺害成功と偽の皇家の光核を渡すためである。


 尚、偽の王家の光核は、俺が魔力を凝縮して作り出した。

 本物そっくり、とのゲアルク大臣のお墨付きなのでバレる事はそうそうないはずだ。


「さて、それじゃあ、アマネック本社に向かうか」

「では、後ほど。場所は【リューネ】様が知っておられますので」


 そう言い残しゲアルク大臣は遠回りをして自分の屋敷へと向かう。

 場所はリューネことリューテ皇子が知っているので問題は無いだろう。


 このタイミングで、エルティナイトがよっこらしょ、と門を潜り抜けてきた。


『門が小さい、小さくない? もっと大きくするべきでしょう?』

「そこは、本来、戦機用じゃないってそれ一番言われてっから」


 戦機用の入り口は別にあるのだが、横着なナイトは強引に入り込んできてしまった。


 どうしようもないヤツだなぁ。


 そんなわけで、エルティナイトの手に乗って移動開始。

 これなら、それほど時間もかからずアマネック本社に辿り着くであろう。


 ようやく、当初の目的の一つを達成できることになるわけだ。


 ヤーダン主任の指示通りに進むと、やがて、アマネック本社とでかでかと掲げられた金色の社名が見えてきた。


「あれが、アマネック本社かぁ」

「そうだよ。う~ん、久しぶりだなぁ」


 研究者の表情を見せるヤーダン主任の謎の圧に、ビクンビクンしながらも、俺たちはアマネック本社の敷居に足を踏み入れたのであった。


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[一言] ちゃんと「見える」人もいるようで・・・
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