106食目 尋問
さてさて、人質をゲアルク大臣と会わせたら、今度は盗賊どもを尋問じゃい。
今頃は桃力によって真人間へと変貌していることであろう。
濃厚な桃力に漬けられて、悪人でいられるとしたら、そいつは既に桃力によって浄化、速やかに輪廻の輪に送還されていることであろう。
即ち、死、ぞ。
陽の戦士桃使いが殺人をおこなわない、と思ったら大間違い。
救いようのない悪人の今生を終わらせ、輪廻の輪の中で穢れを浄化し、未来に繋げてやるのも桃使いの役目なのだ。
まぁ、その前に地獄行き、という場合もあるが誤差だよ、誤差。
閻魔様も忙しいし、大抵はそのまま輪廻行きになるっぽい。
たま~に、地獄に行くやつもいるが、それは稀有なパターンらしいぞ。
そのような説明を格納庫へ行くすがらゲアルク大臣に説明する。
彼は訝し気な表情を見せたが、リューテ皇子を不思議パワーで治療した実績があるので事詳しくは追及してこなかった。
「どんなふうになってるかなぁ?」
「……キモいことになってそうね」
はい、ヒュリティアの予想通りでした。
そこには真人間へと生まれ変わった盗賊どものキラキラした姿がっ。
これにはゲアルク大臣も若干、引き気味であった。
「おいぃ、おまえら、知っていることを全部、ゲロってもらうからなぁ?」
「あいっ! ゲロりますっ!」
姿勢を正し、ビシッと敬礼を炸裂させる彼らに違和感を覚えた。
一般人が盗賊に身をやつした場合、このような行動は取らない取りにくい。
「元軍人か」
「あい! エンペラル陸軍アバスレン大隊、元第14隊所属であります!」
その部隊名を耳にしたゲアルク大臣はその顔を顰める。
「解隊処分を受けた部隊です。噂によると、村を焼き払った罪、とのことですが」
「我々はアバスレン伯爵の直属でありました! 彼の指示に従わざるを得ませんっ!」
「そうでありますっ! しかし、罪に問われたのは我らだけでしたっ!」
「うむ、部隊の暴走扱いになり、アバスレン伯爵は多少の罰則金を支払って処置を終えていたな」
「あいっ! その後、我らは生き延びるために悪事に手を染めたでありますっ!」
キラキラ謎のエフェクトを撒き散らしながら、爽やかスマイルのおっさんどもが実にキモい。
しかし、陰の感情を取り除かれたら、人間なんてこんなもん。
ここはグッと我慢のし所さん。
「……ふんっ」
「ありがとうございますっ!」
そして、我慢できなかった子が、そこに。
げしっ、と盗賊のケツに蹴りを入れるヒュリティア。
しかし、盗賊は何故か嬉しそうにしている。
「私めに、もっと罰をっ!」
「……エル、手遅れだわ」
「一応、善人になってるから、そっとしておいて差し上げろ」
話が進まないので、ヒュリティアにはホットドッグを与え、沈黙してもらうことにした。
長い耳をピコピコ上下させてながら、もっ、もっ、と食べ進める彼女は小動物のそれを感じる。
ここからはゲアルク大臣主導の尋問へと切り替える。
その方が効率がいい、と判断したがゆえだ。
どうにも、盗賊どもは身分の保証と復隊を条件に、リューテ皇子の殺害を指示されたらしい。
ここで疑問なのだが、放って置いてもやがて死に至るであろうリューテ皇子をわざわざ殺害させるのはリスクが高すぎる。
では、殺害を指示したであろうアバスレン伯爵は、何故、盗賊どもにそのような指示を与えたのか。
「【皇家の光核】を奪うつもりだったか……」
「皇家の光核?」
皇家の光核、それはエンペラル帝国の血脈にのみ生じる、という超光素生産器官であるらしい。
それは、基本的に心臓に寄生するかのように発生し、所有者の成長と共に大きくなってゆく。
つまり、大人になればなるほどに、莫大な光素を生産できるようになってゆくのだ。
この世界は光素を主軸としたエネルギー兵器を扱う世界であるので、光素を大量に生み出せるのであれば、それに見合った強力な兵器を扱う事が可能になる。
「皇家の光核を取り込むのは簡単です。それを食べてしまえばいいのですから」
「そして、容易に奪えるのがリューテ皇子の年頃ってわけか?」
「はい。ある程度、成長し皇家の光核も安定。何より、まだ光素を上手く扱えない年頃ですので」
ここまでの情報を揃えたところで、そのアバスレン伯爵というのが何をしでかそうとしているのかが理解出来てきた。
「恐らくは国家転覆、そして自らが皇帝にとって代わろうとしている」
「十中八九、聖女様の予想通りでしょうな」
聖女と呼ぶのは、おケツがむずむずするので止めて差し上げろぉ。
もう、聖女は勘弁なんだぜ。
「面倒臭いヤツだな。そんなに皇帝になりたきゃ、自分で国を起こせってんだ」
「それができないから、奪おうとしているのですよ」
「身に余る行為は身を亡ぼす、ってそれ一番言われてっから」
「その通りです。何故、それが分からないのか……」
ゲアルク大臣は自分が成すべきことが増えたことにより、また心労が蓄積されることを嘆いた。
しかし、エンペラル帝国に仕える臣下として、これを見過ごす事などできるはずもなく。
「事情は理解できましたな。あとは、彼らの処分ですが……」
「あい! どんな処分も受け入れますっ!」
やはり、盗賊どもはキラキラのエフェクトを撒き散らしながら沙汰を待つ。
そこに、俺が一言申す。
「真人間になったのだから、酌量してやってほしいんだぜ」
「むぅ……本来であれば縛り首が妥当なのですが」
彼らには事情が事情なだけに、ゲアルク大臣も慎重になった。
とここで彼は何事かを思い付いたもよう。
「諸君らが罪を償いたいと思うのであれば、これからは私仕えとなってみんか?」
「あい! それが、償いとなるのであればっ!」
なんとゲアルク大臣は彼らを召し抱えよう、と考えたのである。
現在の彼は表立って使える戦力が乏しく、その主戦力も許可なく動かせない。
そこで、影の部隊として盗賊たちを使ってやろう、という目論見であった。
「アバスレン伯爵のやり口を知っている諸君らなら、きっとヤツめの目論見も阻止してくれることだろう。それはリューテ皇子の身を護ることであり、そして、帝国を護ることでもある。これまでの罪を贖罪するつもりで任に当たれ」
「あい! 身命を賭して臨まさせていただきますっ!」
こうして、盗賊どもはゲアルク大臣の管理下に置かれることになった。
彼らの実力はゲアルク大臣本人も知るところであろう。
問題は彼らの戦機をどうするか。
「ヒーちゃんが仕留めた戦機って、コクピットだけ直したら使えるんじゃね?」
「……もぐもぐ、そうね」
彼女の狙った個所はコクピットのみ。
その正確な腕前は他の部分を一切傷付けてはいなかった。
ただし、エルティナイトが仕留めた戦機はまったく使い物にならなかったという。
スクラップそのものだぁ。
えっちらおっちら、とエルティナイトをこき使い、コクピットに穴が開いた盗賊戦機を回収してゆく。
これにエルティナイトは不満を覚えた。
『おいぃ、なんでこんな負け犬どもをナイトが回収するんですかねぇ?』
「改心したんだから、大目に見るべき、そうするべき」
『ナイトの実力を知って改心した? 流石はナイト、格が違った!』
「あい~ん」
勝手に勘違いして上機嫌になったので、エルティナイトはそのままにしておく。
これにはアイン君も苦笑する様子を窺わせた。
しかし、その後は回収作業もスムーズに進み、アイン君と鼻歌交じりで回収作業に当たる。
エルティナイトがスクラップへと変えた戦機も回収指示が出ているのでクロナミに運び込む。
果たして、何に使うつもりなのであろうか。
「ま、使える部分だけを保管して、後は素材っていったところかな?」
「あいあいあ~ん」
きっとそうだろう、とアイン君も肯定しているので、たぶんそう。
そう結論付けて、俺たちは回収作業を終えたのであった。




