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105食目 殲滅

 そこに在ったのは、コクピットと思わしき部分にぽっかりと穴を開けた戦機どもの群れ。

 昨日、遭遇した盗賊たちの駆るナイトブルーの戦機に相違ない。


 尚且つ、両肩のスラスターたちは何かに射貫かれた痕跡がある。


 その正確無比な狙いは、どう考えてもヒュリティアの所業で間違いない。

 だが、その肩を射抜かれた戦機どもは、決まって頭部から叩き潰されている。


 その戦機に搭乗していたであろう盗賊が、桃色の半透明のタマタマに護られ、地上に転がっていた。

 もちろん、白目痙攣状態で気を失っているが。


 こんな阿呆な戦機のぶっ壊し方をできる戦機など、たった一機しか俺は知らない。


『メガトンパンチっ』


 ぐしゃっ。


 今し方、現行犯を目撃した。


 エネルギーが切れないように、と魔力で作った疑似おにぎりをむしゃむしゃしながら、鋼鉄の拳をナイトブルーの頭部に叩き落す騎士の姿。


 我が愛機エルティナイト、それがこんな無茶な戦機のぶっ壊し方をしていた張本人である。


『あいあ~ん!』

『クソザコナメクジにも全力で仕留める。割と獅子だが実のところ俺はナイト。おまえら、しっかり絶望してもいいぞ』


『な、なんなんだっ! こいつら……べぶっ!?』


 セリフを言い切らせないままペチャンコにする騎士は実に容赦ない。

 アイン君がエルティナイトを操ると、こうも非情になるのであろうか。


 黙々と肩を射抜かれて動きが緩慢になったナイトブルーの戦機を叩き潰す鋼鉄の騎士の姿に、俺とザインちゃんは遠い眼差しを送る。


 もう、あいつらだけでいいんじゃないのかな?


「おっと、白目痙攣状態に陥っている場合じゃないんだぜ。もちもち、ヒーちゃん?」

『……意外と早かったわね。もうすぐ終わるわ』


 ガウンっ、とルナティックの狙撃銃レイタックが火を噴く。

 ほんの僅かな時間差でガンっ、という音を立てて、左腕の無いナイトブルーの戦機は沈黙した。


「びゅーりふぉー」

『……せんきゅー』


 流石、盗賊殺しの二つ名は伊達ではない。

 あっさりと全滅した盗賊団も、本来であれば相当に手こずるであろう一団に違いないのだ。


 しかし、彼らは実に運が悪い。


『おまえら、調子ぶっこいた結果だよ?』

『あいあ~ん!』


 俺が搭乗していないエルティナイトはまったくもって容赦がないのだ。

 防御ではなく、攻撃に特化した行動を見せている辺り、アイン君は実のところ好戦的な性格なのかもしれない。

 普段からはそのようには見えないのだが、戦機に乗ると性格が変わるのかも。


「お疲れ様、なんだぜ」

『超一流の騎士の活躍、しっかりと見届けたか?』

「ナイトの拳、凄いですね?」

『エリン剣を使うまでもないから』

「モンクじゃないですかやだー」

『これは手加減、剣を使うと盗賊どもが真っ二つになる感』


 震え声で言い訳をするナイトは赤いマントを翻して、そそくさと『バックステッポウっ!』とクロナミに向かって逃亡した。


 ぶちのめした盗賊どもを回収するの手伝え、ばかちんがっ。


「まったく……ガンテツ爺さん、そっちは?」

『おう、三機ほど飛び出してきたが、ハチの巣にしてやったわい』


 あっちはあっちで容赦なかった。

 まぁ、デスサーティーン改の武装が武装だから仕方がないのだが。


「んじゃ、盗賊どもと人質をを回収して帰るか」


 回収方法は至って簡単。


 桃力の玉に保護されている連中を浮かび上がらせて、空中からここへと招集をかける。

 そして、集結した玉を融合させて、ひと纏めにするのだ。


 もちろん、盗賊と人質は分ける。当然だなぁ?


「よぉし、これにて一件落着なんだぜ」

『……エルが一緒だと、楽ちんでいいわね。桃結界陣さまさまだわ』


 とはいえ、あまり派手にやられても困る。

 桃結界陣は頑丈であるが、これに鬼力が加わると意外にパリンと割れてしまう可能性があるのだから。


 まぁ、鬼力自体が滅多にないので多少はね?


「んじゃ、帰ろっか」

『……ええ』


 ガンテツ爺さんに連絡を入れて、俺たちは見事に盗賊一味をボコボコにして人質を救出。

 人質交換なんて甘いよ作戦を完遂したのであった。






 クロナミに帰艦した俺たちは、格納庫にて盗賊どもが詰まった桃力玉の中に、桃力をドバーっと注ぎ込む。


「……何をしているの?」

「強制改心」


 そう、桃力とは陽の力の極地にある超エネルギー。

 鬼力のような陰の極地のエネルギーを使わない者であれば、こいつに漬けておけば三十分程度でばっちり改心、善人になること請け合いである。


「……ある意味で恐ろしいわね」

「敗者に情けなど不要らっ!」


 だが、これは必要な処置。

 このご時世、盗賊は捕らえられたら高確率で縛り首だ。


 よって、善人にして放流する。

 善人になっても罪の意識は残るので、それからの人生は贖罪の人生へと変わるのだ。

 即ち、自ら慈善事業に身を投じることとなる。


 ふっきゅんきゅんきゅん……桃力の恐ろしさを知るがいい。


 今まで結構な悪事を重ねてきたのだろう。

 彼らの険しかった顔が、どんどんと柔らかな物へと変化していった。


「これなら二十分もあればいいかな? 先に人質を休ませようか」

「そうじゃの。全員、酷い有様じゃ」


 そりゃあ、纏めて一緒くたにボコりゃあ、こうもなろう、というものだ。


 でも、俺たちは謝らない。

 敗者は何をされても文句は言えないのだ。


 それが嫌なら、決して敗北してはならないのであ~る。


「あいあ~ん」

「おぅ、アイン君も大活躍だったな」


 ご機嫌な鉄饅頭のアイン君は、定位置である俺の頭の上に、ちょこんと載った。


『俺の方が活躍してるからっ!』


 と迫真の集中線を炸裂させるエルティナイトは、魔力でオムハヤシを作り出して黙らせた。

 こいつ、お昼にオムライスを食べたことを、しっかりと知ってやがったのである。


『うまっ、うまっ、はふっ、はふっ!』


 巨大なスプーンを用いて、人間と変わらない食事風景を披露する巨大ロボット。

 果たして、これは良いのであろうか。


「俺の知ってる戦機と違う」

「……大丈夫。絶対、全員そう言うと思うから」


 顔面に魔力で作った米粒を張り付かせながらオムハヤシを食べ進めるエルティナイトを放置して、人質たちのコンディションを正常に戻す。


 精神の方は簡便な。




 人質たちは揃って白目痙攣状態であったが、それ以外は問題無いもよう。

 あの盗賊どもがヘタレ集団であったため、レイポーなどはされていなかったのが救いであろう。


 人質たちは取り敢えず、まったく使わないブリーフィングルームへと案内。

 そこにて待機してもらい、俺たちがゲアルク大臣たちを連れてくる形式をとる。


 そんなわけで、彼らがいるリビングへと向かう。


「お帰り。作戦は上手く行ったようだね」

「ただいまなんだぜ、ヤーダン主任、って……その状況はぁっ!?」


 俺たちの驚愕に、エリンちゃんは人差し指を口元に当てて「し~」と沈黙を強要してきた。


 そこには、女体化したヤーダン主任の豊かな乳房に顔を埋めて眠りに就いているリューテ皇子の姿があったのだ。

 よくよくみると、彼の頬には涙の痕跡がある。


 そんな彼の頭を優しく撫でるヤーダン主任は聖母のそれ。


 ヤーダン主任が、【ショタをどう食ってやろうか、とほくそ笑むショタコン】に見えた心の穢れた諸兄は心を入れ直したまへっ!


「なんだか、懐かれちゃってね」

「いや、大変に申し訳ない。恐らくは、ヤーダン嬢にお母上様の面影があったがゆえでしょう」


 ゲアルク大臣は申し訳なさそうに頭を下げる。


 ヤーダン主任が懐かれた理由は、ぶっちゃけ、その容姿の全てであった。

 どうにも、リューテ皇子の母親と女性化したヤーダン主任は髪の色以外が瓜二つなのらしい。


「じゃあ、髪を金色に染めたら、リューテ皇子のかーちゃんに化けれるな」

「いえ、お母上様は既に……」


 というのも、リューテ皇子の病を貰ってしまって、彼の母親は先に亡くなってしまったらしい。

 なんという悲劇であろうか。


 それを知ってか、それ以来、リューテ皇子は人に近付くことを避けていたようだ。

 しかし、ゲアルク大臣はそれを知って尚、彼に寄り添っていたことになる。


 結構、命がけな事をしていたことになるのだが、感染拡大の観念から褒められた行為ではないんだよなぁ。

 ヒーラーとしては手放しで褒められないのが痛い所さん。


「ふきゅん、それなら仕方がない。リューテ皇子はここに残して、ゲアルク大臣に来てもらおうか」

「それがええの。ようやく、心おきなく安らげているところじゃからの」


 俺の意見に皆は肯定の意志を示す。


 ゲアルク大臣を連れて、俺たちはブリーフィングルームへとやってきた。

 彼の姿を見た途端、緊張の糸が切れたのか人質たちは感情を解き放つ。


 そんな彼らをゲアルク大臣は慰め、リューテ皇子の無事と病の完治を告げるのであった。


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