103食目 尋問
魔法障壁の牢から解き放たれたゲアルク大臣は我先に、とリューテ皇子の下へと掛け参じる。
そんなに急がんでも、リューテ皇子は逃げんだろ。
「きゃっ、きゃっ!」
逃げた。
でもまぁ、直ぐに捕獲される辺り、体力が無い子なんやなって。
「し、信じられぬ……いやしかし、確かにリューテ皇子からは以前のような病の気配は、微塵も感じられないっ」
「苦しくなくなったよ」
ゲアルク大臣に捕獲されたリューテ皇子は、幼い手足をパタパタさせて元気になったぞアピールを炸裂させる。
でも、そんなんじゃ甘いよ。
きみは圧倒的に栄養が足りていないっ! 速やかに栄養を補給したまへっ!
「ヒーちゃん、エリンちゃん、食事を作るから手伝って」
「……分かった」
「うん、いいよぉ」
俺もまた、治療で魔力を消耗したので、ここいらでモリっと回復させておきたい。
そこで、リューテ皇子の栄養補給もかねて食事に突入するのである。
お昼にはちょっと早いが、調理している間にいい時間になることだろう。
それに、人数もかなーり増えたことだしな。
「エルティナちゃん、何を作るの?」
「うん、【オムライス】」
俺たちは貯蔵庫より、くそデカ卵を取り出しキッチンへと戻ってきた。
これは、ロードダッシャーの卵だ。
ダチョウの仲間であるロードダッシャーの卵は、その大きさから一つで三人前のオムライスの材料になったりする。
それを、三人がかりで十個ほど持って来た。
ご飯は大喰らいな俺たちに合わせて、おかしい量を炊いてあるので問題は無い。
あとは具材にロードダッシャーのもも肉を細かく刻んだ物を使用。
野菜は今回は使わない。ただし、固形のものは、であるが。
「あ、野菜ジュースだね」
「ニンジンベースのヤツな。こいつに自家製トマトソースを混ぜて、ケチャップライスを作るんだよ」
今回はお子様の舌に合わせて、ほんわかあまぁいオムライスを製作する。
とはいえ、引き締めるところは引き締めるがな。
その役目はふわとろ玉子に掛けるトマトケチャップ。
それ以外が甘い味の構成なので、十分過ぎる程に引き締めてくれるだろうて。
「そして、これ」
「えっ? 桃?」
「……反則」
エリンちゃんは驚きの表情を、そして、ヒュリティアは眉を顰める。
そう、これは反則なのだ。
桃先生が果物の役目しか果たせないとか、認識が甘すぎる。
彼女はありとあらゆる素材に変化する究極素材。
お野菜役からお肉役までこなす名女優なのだ。
何よりも、その栄養価は下手な栄養剤など足元にも及ばない。
「桃先生はみじん切り。ケチャップライスに混ぜる」
まずは普通にケチャップライスを作成。
がこがこ、と中華鍋を振るう。
流石、重力魔法【ライトグラビティ】万能説だ。
くそ重な中華鍋も自由自在だぜっ。
「で、いい感じに仕上がったら、桃先生を投入」
「ひえっ、なんの光っ!?」
すると、ケチャップライスが桃色の輝きを放ち始めたではないか。
やがて、ケチャップライスの朱色は、ピンクサファイヤのような色合いへと変化を見せる。
この珍妙な現象に、エリンちゃんは目をまん丸にして驚いていた。
「というか、本当にお米が透き通ってるね」
「食べる宝石、なんだぜ」
ぶっちゃけ、この状態のまま提供してもいいくらいだ。
しか~し、これはオムライス。
ふわとろ玉子をドッキングする運命にあるのだよ。
「ヒーちゃん、玉子仕上がった?」
「……いい感じ」
ハンドミキサーで丁寧に溶き卵を作ってもらう。
それを焼くのは【卵専用のプライパン】である。
卵は匂いや味を吸収しまくるので、中華鍋を洗ったくらいでは事前に作っていた料理の味やにおいが移ってしまう。
そこで、卵を焼く専門のフライパンが必要になってくるのだ。
もちろん、一般家庭ではそこまでする必要はない。
これは俺のこだわりなのであ~る。
「よし、あとはオムレツ作る要領で、っと」
「お皿にケチャップライスを盛りつけたよ~」
「おっしゃ、こっちも仕上がったぞぉ」
「……トマトソース、準備よし」
エリンちゃんの盛ったケチャップライスの上にふわとろオムレツをドッキング。
そのオムレツのお腹を包丁で切り裂く、とケチャップライスを覆うかのように、とろりと半熟玉子が広がってゆく。
そこに、真紅のトマトソースを適量、掛けて【ふわとろオムライス】の完成だ。
流れるかのような動きで、瞬く間にふわとろオムライスが出来上がってゆく。
これが俺たちの必殺技【ジェットすとりんむクッキング】。
こいつに掛かれば、十人前の調理なんぞ朝飯前だぜ。
「できたー」
「できたー」
「……わぁい」
満面の笑みの俺とエリンちゃん。
そして、無表情で喜ぶヒュリティアの対比はイヤァンパクト絶大だっ。
出来上がった料理は男衆に運ばせる。
ヤーダン主任も現在は女性であるが、情けは無用らっ!
「さぁ、さぁ、食べるんだぜ」
「あれ? エルティナちゃんは、食べないの?」
「後でモリモリいただくんだぜ」
俺は出来上がったオムライスを手押し車に載せようとして、背が届かない事が発覚。
お口を三角にして遺憾の意を示した。
「おまえさんが、やらんとしていることが分かったわい。ゲアルク、先に食べさせておいてくれ」
「うむ、了解した」
「「毒見は既に終わらせてありますっ」」
「全部食べてしまってどうするのだっ、馬鹿者」
「「ひえっ」」
ダメだ、この武装メイド。早くなんとかしないと。
何はともあれ、俺はガンテツ爺さんにオムライスを運んでもらい格納庫へと赴く。
そこには、魔法障壁の檻に閉じ込めた盗賊どもの姿。
「おるるぁん! 飯だぁ! ふぁっきゅんどもぉ!」
「てめぇ! 俺たちをここから出しやがれっ!」
負け犬どもがよく咆える。
そんな、悪い子はお仕置きをせねばなるまい。
俺は檻にチョンと指先を押し付け、そこから桃力を流し込む。
「んごぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!?」
これにより、自動的に桃力が悪人どもにビリビリを流してお仕置きをしてくれる、って寸法よ。
どやっ。
「おまえらは、立場を理解するべき、するべきじゃない?」
「く、くそっ!」
捕まえた盗賊の数は十名。
それぞれ、個別の牢を作って閉じ込め悪さできないようにしてある。
しようと思っていても、戦機ですら破壊できない俺の魔法障壁に対しては意味無し、であろうが。
彼らに提供するオムライスはお子様サイズの量である。
本来、悪人に食わせる飯は無いのだが、俺は心がものすっごい広いので、彼らにも作って差し上げたのだ。
泣いて感謝したまへっ!
「これから行うのは尋問だぁ! 正直に答えた者はこの超絶激うまオムライスを食べる権利を与えよう!」
「はっ! 誰が答えるかよ!」
と粋がる盗賊だが、ごくり、との音も聞こえる。
胃は正直なんやなって。
「料理には美味さの持続時間があるぞぉ? ほれ、ほれ、尋問を受けたい奴はどいつだぁ?」
「お、俺っ! 答えますっ!」
「う、裏切り者ぉっ!」
盗賊の結束なんて、こんなもんだよ。
結局は、粋がっていた盗賊も最終的には「答えるますっ!」と正直になった。
俺とガンテツ爺さんがおこなった尋問は、彼らのアジトと、捕えられた人々がどうなるかだ。
アジトは、ここからそう遠くはない位置に在るようだ。
規模はそれほど大きくはないもよう。
保有する戦機が厄介なのだが、俺たちの戦機はそれを遥かに上回るイカれ具合なので問題無し。
問題は捕らえられた者たちの末路だ。
女は膝枕を強要され、溜まりに溜まった盗賊どもの耳垢の掃除をおこなわされるらしい。
男は容赦なく、盗賊どもの凝りに凝った肩を揉みほぐす刑らしい。
「なんて残酷な仕打ちをっ」
「この外道どもがっ」
このヘタレどもがっ! ぺっ!
俺とガンテツ爺さんは、見た目よりも純真な盗賊どもに無表情の罵声を浴びせた。
セリフも、もちろん棒読みである。
「へっへっへ、恐ろしいだろぉ? 親分は容赦のねぇお方だ」
「それに、仲間想いでもある」
「直ぐに俺たちを取り戻しに来るさ」
それは、生きているのを知っていたら、の話だバカタレども。
だが、ヤツらが俺たちに接触してくるのは確実だろう。
人質の交換、といったところだろうか。
「絶対、裏でコソコソするパティーンだな」
「十中八九、そうじゃろうな」
正直に答えた盗賊どもからオムライスを手渡す。
俺の魔法障壁の檻は、俺の意志で変幻自在に形を変えられるので、オムライスが入る幅を、ぐにっ、と作り出せば、わざわざ扉を開ける必要はない。
というか、扉ないんですがね。
「んめんめっ!」
「うんめぇ~! なんじゃこりゃあっ!」
「はふっ! はふっ! おかわりっ!」
「あるわけないだろ、バカタレどもっ」
そんなわけで、聞くことも聞いたし、盗賊どもは放置だ。
人質の身柄は安全ということが分かった。
そして、こいつらが見た目よりも遥かにヘタレであることもだ。
あとは人質交換に備えるだけ。
さてさて、どうしたものか。




