9食目 配達依頼
はい、現場のエルティナです。
そこには焦げた戦機乗りが多数、ケツプリ土下座を披露してました。
「おまえら、学習能力がないって、それ一番言われてっから」
またしても俺に対して嫌がらせをしてきたチンピラ戦機乗りがいたので、問答無用で爆ぜてやりました。
「ねーちゃん、お仕事ないか?」
「いらっしゃい、新人さん。この時間帯は新人さんが受けれるような仕事は……っと一つ残ってたわね」
受付の眼鏡のおねーさんは机の上にあった依頼書を手にし、俺に提示した。
「このお仕事、キャンセルされちゃったの。簡単な配達任務だけどやってみる?」
「配達任務か」
とここで、モヒカン兄貴のありがたい助言を思い出した。
まずは地道にやってみることが肝要。
であれば、この任務はやっておくべきであろう。
「やるます!」
「それじゃあ、ここにサインしてちょうだい」
「あい!」
無駄な元気を炸裂させながら、依頼書にサインをする。
後に受付のお姉さんから任務内容を聞かされた。
「エルティナちゃんが運ぶのは【アマネック社】の【試作型ビームバズーカ砲】よ」
「いきなり物騒な名前が飛び出してきたんだぜ」
「そうね。でも、戦機乗りのお仕事はこういう危ない仕事が大半よ。これくらいでビビっちゃ駄目」
受付のお姉さんに、めっ、とされてしまってはビビれないビビり難い。
だから俺は開き直るだろうな。
「これをキアンカの北東に五十キロメートルの【トッペルボト】にあるアマネック社支店に運んでもらいたいの」
「結構遠いんだぜ。日帰りはきついかな」
「今からだと帰りは夜になるから日帰りは危ないわね。トッペルボトで一泊した方がいいわ。荷を渡せば、そこで依頼は達成されるから、トッペルボトの戦機協会で報酬をもらうといいわよ」
大まかな説明を受けた俺は、取り敢えずは荷物をもって出発することにした。
大きな木箱に取っ手が付いた物を抱えて、えっさほいさ、とトッペルボトを目指す。
ゲームなどでは大抵、この荷を奪わん、と盗賊チックな奴らがヒャッハーするものだが、それは現実であっても当然の権利のように湧いて出てきた。
「待ちなぁ! そいつを置いていけ!」
アインリールの前にひょっこりと姿を現したのは、マーカス戦機修理工場に置いてあるTAS‐024・ブリギルトと同系統機であった。
それが三体。内一機は改造が施されているのか、増加装甲が取り付けられている。
「断る」
「なら、死んでもらうしかねぇな」
真ん中のいかにもリーダー格のブリギルトが銃を構えた。
ライフルであろうか。
だが、そんな貧弱な機体では発砲時の衝撃に耐えられないのでは。
とおもったら、後ろの二機が全力でブリギルトリーダーを支えている件について。
「おめぇ、後悔すんぞおるるぁん」
「はは、俺に歯向かったヤツはみんなそう言って死んだよ」
こいつらが襲ったのは、きっと超三流の戦機乗りか貧弱一般市民だったのだろう。
だが、俺は違う。
「アイン先生! お願いしますっ!」
「あい~ん!」
すかさずアイン先生にお願いし、ふぁっきゅん盗賊団の殲滅をお願いする。
俺は何一つ間違っていない。間違っているのは、この世の中だ。
すらり、と背中に背負っていたエリン剣を抜く。
そのあまりの異様な剣に、盗賊団はビビっていた。
「おいおい、そんな【なまくら】で俺たちに……」
ぐしゃ。
「あ、あにきぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!?」
アイン君、恐ろしい子。
盗賊団のリーダーはセリフの途中で、エリン剣によって叩き潰されてしまった。
そして、返す刀で二機のブリギルトをもボコボコにする。
エリン剣は形こそ剣であるが、カテゴリー的には鈍器である。
「おまえら、反省するべき、そうするべき」
乗機を捨てて無様にも逃げ出す盗賊たち。
いきなりの洗礼にも俺は動じない。
まるで【今まで何度も】このような体験をしてきたかのように心が落ち着いている。
「ふきゅん、思わぬ拾い物だ。アイン君、使えそうか?」
「てっつ~」
盗賊団をやっつけて入手した物はライフル銃と鉄屑三体分。
とはいえ、持ってゆくにしても限度というものがある。
したがって、追加装甲とライフルを選択し、あとは放置と相成った。
「思わぬ儲けだったな」
「あいあ~ん」
しかし、このアイン君、こんなに強いのに、あの時どうして大ピンチだったのだろうか?
それとも、マーカスのおっさんが、密かにアインリールをパワーあっぽしてくれていた?
「よぐわがんにぃ」
「あいん?」
ま、強いことは良い事だ、という事にしておく。
深く考えたって、俺のつるつるの脳みそじゃ分からんて。
その後はトラブルもなく、日が暮れる頃にはトッペルボトの町へと到着。
キアンカよりも小奇麗な印象を受ける街だ。
「え~っとアマネック社はどこだぁ?」
きょろきょろ、とアインリールの視点を動かす。
すると、クソでっかい看板にアマネック社と書かれている建物を発見した。
戦機専用の装備を開発販売するのがアマネック社だ。
ここは主に銃器を専門に取り扱っているらしい。
盗賊団から没収したライフル銃もこの会社製であり、アマネック社のロゴが刻まれている。
これは、33mmライフル銃【ホライド】というのだそうな。
受付のお姉さんに聞いて確認したから間違いない。
「はい、確かに受領いたしました。戦機協会には、こちらから連絡を入れておきます」
こうして、俺は初任務を達成した。特に感慨に耽る要素はない。
「取り敢えず、報酬を貰いに行くかぁ」
先立つ物がなければ宿泊もできない。
アインリールの中で寝ることも考えたが、町にいるのだからベッドで寝たいのが人情というものであろう。
そんなわけで、トッペルボトの戦機協会にて報酬を受け取る。
受付の褐色爆乳受付嬢が言うには、報酬は受付の隣にある機械にて受け取るらしい。
そこで活躍するのが戦機協会証だ。
こいつを機械に、ぬぷっ、と挿入すれば、あとは機械が勝手にやってくれるらしい。
「お? 順位が上がってる」
戻ってきたカードには、Eランク4648位と記載されており、一つ順位が上がったことを示していた。
これはちょっぴりやる気が出る制度だ。
どうせなら、一位を目指すのが良いだろう。
険しき道であると確信しているが。
尚、お金は銀行に預けられているので引き出しに行かねばならない。
報酬金額が金額なので、全て銀行預かりとなっているのだ。
尚、通帳もこの戦機協会証で確認できる。
お金を下ろす場合も、このカードを使うことになるので紛失できない。
銀行にやってきた俺は早速、お金を下ろす。
ATMが普通に置いてあり、そこに人が並んでいた。
よって俺も並ぶ。横入りする不届き者はいねがぁ?
どうやら、ここにはそのような不届き者はいないもよう。
ヘタレが、ぺっ。
順番が回ってきたので端末を操作する……が背が届かない。
「おっちゃん! 持ち上げてっ!」
「え?」
後ろに並んでいたおっちゃんに持ち上げてもらいカードを挿入。
お子様には、きつい高さなんやなって。
「お、入ってる入ってる」
「うお、おまえさん、この金額って……戦機乗りかい!?」
「ふっきゅんきゅんきゅん……尊敬してもいいぞ」
報酬額は二十万ゴドル。なかなかに、いい報酬だぁ。
三万ゴドルほどを引き出す操作をする。
ビックリなことにタッチパネル方式だ。
でも暗証番号などはないもよう。
どういうこと?
お金がATMから、うんこらしょ、と出てきた。
当たり前のように紙幣である。
戦機という兵器が存在していることから、文明レベルは相当に高い。
地球の文明と、そうそう変わらないのではないだろうか。
そんな中にあって、俺だけがファンタジー世界の住人なんやなって。
「お嬢ちゃん、気を付けなよ?」
「大丈夫、俺にちょっかいを掛けるヤツは爆殺するから」
「ば、爆殺っ!?」
混乱状態に陥ったおっちゃんに礼を述べて、宿泊施設へと向かう。
場所は庭で草花に水をやっていたお婆ちゃんに聞いた。
俺は躊躇というものを忘れた野生の珍獣。
誰かれ構わず、ほいほい聞いちまうんだぜ。
「古い宿だなぁ」
とはいえ、普通に繁盛しているもよう。
駐機場に多数の戦機が鎮座していることから、戦機乗り御用達、といったところであろうか。
「今日はここで一泊だぜぇ」
無駄に迫力をかましつつ、俺は宿屋にINするのであった。




