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69話 ファーリス

 「クアッダ王国の近くに、遺跡があるなんて知りませんでした」


 そんなファーリス王子の言葉で、王子と俺とリンクスは翌朝。近くの遺跡に足を運んでいた。


 今朝城を出る際に、既に旅支度と出立の別れを済ませて、遺跡を見たらそのまま東へ、共和領を越えてアジスタンとか言う所に向かうらしい。


 遺跡までの馬車の中、俺は王子に西の旅の話しをしてもらった。

 内容は、まさに英雄譚。


 三歳で文字を覚え、五歳で剣の修行を始め、八歳で既に国政に口出ししていたとか。今現在クアッダ王国で行われている治水工事も、王子が五年前に計画した物だと言う。


 「口出しと言う程の物でも無いんですけどね。司法と行政と宗教を分離させて、それぞれの権限を互いに制限させて……あ、難しかったですか」


 「うん、わかんないの」


 リンクスが元気にワカリマセンしてるが、八歳のガキが考えることじゃ無い。

 クアッダ王国という土壌があって、優秀な教師が付いていたとしても、天才と呼ぶに相応しい頭脳だろう。


 加えて、剣の腕もかなりの物の様だ。


 十才で西方に旅立った時は、二人の護衛を伴ったそうだが、帝国の支配地域を越えた西方辺境、魔獣が猛威を振るう地域で二人共命を落とし、以後一人で旅を続け獣王を退けたと言うから、良い意味でお察しだ。


 遺跡に到着して馬車を帰す。

 王子はそのまま旅路だし、俺達は飛んで帰った方が早い。


 盛り土によって覆われた遺跡入口を、王子は土のオノマでこじ開け、苦もなく遺跡内部へ。流石スマートだ。


 「あ、アニキさん気配消せます?魔獣との戦闘も見たいですし」


 ん?俺の気配で魔獣とエンカウントしてないのか?

 まあ気配消すぐらい出来ますけど。


 ちなみに今の俺はモードAの人型。装備はフェルサに貰ったギミック付の盾と剣。リンクスは漆黒の短槍。王子は腰に長剣を下げ、旅装でリュックだ。


 「流石は武闘大会で、決勝に進出するだけの事はありますね!」


 王子は俺とリンクスの戦いぶりを、光のオノマで後方支援するだけで、熱心に見入っていた。

 まぁね、修羅場っぽいのも何度か潜ったし、この階層の魔獣じゃ準備運動だな。

 未来の英雄に褒められて、悪い気はしませんけど。


 遺跡に潜って数時間、地下五階に至った時、それは起った。


 「ここまで来れば良いか」


 王子の声のトーンが低い。さっきまでとはまるで別人。

 俺とリンクスが振り向くと、光のオノマを数個天井付近に飛ばす王子が居た。

 光のオノマに照らされた周囲は、ニフロアをぶち抜いて作られたホールの様な場所だった。


 「まず何の目的があって父上に近付いたか、話して貰いましょうか」


 審問官とか尋問者とかそんな口調。

 近付いた目的?


 「ナツメ商会の襲撃の警告、暗殺者からの救出を経て、アンタ等はクアッダ王国の中枢に食い込んだ。ラアサ、ガビール、フェルサ、フィリコスそしてシュタイン」


 何を言ってるんだ?

 王子の言葉から感じられる悪意と、体から感じられる敵意。


 「クアッダ王国に入り込んで何を企んでいるんです。父上は騙せても私は騙せませんよ」


 リンクスが変身を解いて、銀の竜人の姿を晒す。警戒態勢だ。

 こんな時のリンクスはいつも正しい。


 王子から目を離す事無く、俺も左腕の装備を外し、竜骨を打ち付けてモードD飛竜まで一気に変身する。

 今回の変身はそれほど重く無かった。呼吸を整えて王子に集中する。


 「問答無用ですか。アンタ……何者だ?」


 王子は俺達の変身に呼応するように、腰間の長剣を抜いた。

 赤く淡い光を発する真っ直ぐな刀身。


 王子の表情は変身した俺達を見ても、変わらない。

 動揺も恐怖も無い。あるのは圧倒的な自信と、ヒシヒシと伝わる敵意。

 王子は長剣を正中線に構えたまま、尚も続けた。


 「この世界に生まれて十五年、姿を偽る術は沢山見てきましたが、アンタの様なのは見たことがない。もののけか?」


 「お兄ちゃんは王様助けて、戦争をカイヒしただけなの」


 「だから何が目的だと聞いているんです。ラアサ、フェルサ、フィリコスは素性も知れたがアンタ等だけは存在すら定かじゃ無い。しかも魔王のまね事まで」


 まね事って、ニンゲンが勝手にそう呼んでるだけだろ。

 それに皆の事を調べたのか?

 リンクスはドラゴンだし、俺はつい数ヶ月前に召喚されたばかりだ。調べた所で、分かる訳がない。


 「何を企んで居たにせよ、私の帰還に遭遇したのが運の尽きでしたね。私の特異点の多さも無駄じゃないって事ですね」


 今なんつった?


 「アンタ等二人を始末すれば、後はザコだけ。アンタ等は遺跡で事故なり魔獣に襲われたなりで帰らず、後のザコもナツメ商会に暗殺された事にします。私は既に旅立ってるので自由に行動できますしね」


 コイツ……最初からそのつもりだったのか。


 いや、そもそもコイツは本物の王子なのか?

 なんで父親の命を救って、息子に命を狙われる?

 それこそ光のオノマで化けた暗殺者?

 こんがらがって来た。


 「みんな食べるの?」


 「食べる訳無いでしょう。何を言ってるんです」


 「食べないのに殺すの?」


 「リンクス……でしたか……調子が狂いますね。何の作戦か知りませんが、父上が築いた国を好き勝手させませんよ」


 その時々で良かれと思って行動してきただけなんだが、王子から見れば陰謀を巡らせてクアッダ王に近付いた様に見えるのか。

 どう説明すれば分かって貰えるのか……。

 それともやはり王子は偽物で、何かの企みに俺達が邪魔なのか……。


 シッ!


 戦闘は無拍子に始まった。

 予備動作も無く王子が繰り出す剣戟に、俺の防御は遅れ、俺は脚と脇腹に斬撃を受けてしまう。


 痛ってえ!何だこの痛さ!何か変だ。


 「お兄ちゃんになにするのー」


 キン!


 おい……嘘だろ……。


 リンクスが突き出した短槍は、払う様に振られた長剣に半ばから切断された。

 コイツ……強いぞ……。


 決して油断していた訳じゃない俺に二発も入れて、間髪入れずに突出されたリンクスの短槍を切り落とすとか。


 集中しろ。黒衣の男の様な、周囲を圧倒するオーラは感じられないが、それだけに不気味で底が知れない。

 間違いなくバケモノ級の強さだ。


 「何故……刃が通らないんだ?結界じゃないよな?」


 !


 リンクスが仕掛ける。


 低い姿勢で近付き、以前よりも伸びたリーチでアッパーを放ち、躱そうと上体が伸びた所に、連続した水面蹴りを放つ。


 俺は脚を払われて空中に浮く王子を殴りつけようと、一気に距離を詰める。


 だが!


 王子は宙に浮かなかった。

 リンクスの水面蹴りを足の裏で受け止めると、リンクスの脳天に赤く淡く光る刀身を振り下ろしたのだ。


 ギン!


 伸ばした俺の盾剣が間に合い、リンクスの頭上で光る刃を弾く。


 「だから……何でアンタの剣も切れないんだよ。チートか?」


 リンクスの水面蹴りからの連続攻撃を尽く躱しながら、王子は言った。

 後退してきたリンクスを背にかばって、俺は目を見開く。


 幼年期から才能を開花させ

 政治や土木等の知識に長け

 地位に固執せず

 英雄的行動


 思い当たるフシがある。


 加えて「この世界」「チート」と言うワード。

 間違いない。


 コイツ……転生者だ。


 俺とリンクスは時間を稼ぐ為に一旦ホール下階に飛び、姿を消す。


 転生者、前世の記憶を持つ者。


 俺や三色勇者の様に召喚された者も居れば、短命の鬼神イワンの様にこの世界に紛れ込んでしまう者も居る。

 転生者がいてもおかしくは無いが……。


 「何処に隠れようと無駄ですよ」


 問題はコイツがクアッダ王の息子かどうかだな。


 本物の王子……と言うか、クアッダ王の息子として生を受けたなら、極端な話、ここは逃げてしまって構わない。

 クアッダ王を交えてゆっくりと話しをすれば、誤解も解けるだろう。


 問題は、王子に成りすました何者かだった場合か。


 その場合俺達がここで敗退すれば、俺の仲間もクアッダ王国の国民まで危険に晒されるかも知れない。


 何か方法は無いか……王子が本物か偽物か見極める方法は……。


 「姿を消したのか」


 王子(?)は剣を鞘に収めると、両手を顔の前にかざし、唇を微かに動かした。

 両手の間が光り、緑に光る文字列が王子(?)の周りを時計回りに回り始める。


 アレは……皇帝が使っていたオノマか!

 文字列の放つ色は違うが、クアッダ王が「本物のオノマ」とか言ってたヤツだ!

 と言う事は、やはり王子は偽物で帝国からの暗殺者なのか?


 偽王子(?)の周りをもう一列、今度は水色の文字列が反時計回りに回っている。

 本物のオノマの同時展開か!


 偽王子(?)が両手を頭上に掲げると、緑の文字列が両手の中に吸い込まれ、圧縮されたかと思うと、突如暴風が吹き荒れる。


 『きゃー飛ばされちゃうのー』


 台風、いや竜巻クラスの暴風。

 俺もリンクスも隠れていたコンクリの柱に爪を立て、中の鉄筋にまで掴まって踏ん張っている。風速四十メートル以上の暴風だ。


 吹き抜けのホールは暴風によって、瓦礫や剥がれた天井が吹き荒れる竜巻の巣と化した。


 目を開けて居られない、息するのもキツイ。

 瓦礫が凄い早さでガンガン襲ってくる。

 屋内での竜巻ってこんなに凶暴なのか!


 直後、竜巻に冷たい雫が混じる。


 『きゃー痛いの!雨痛いの!』


 屋内で暴風雨とかあり得んだろ!横殴りの雨は、その速度によって結構な攻撃力を持っていた。

 俺はリンクスを抱えて、盾剣を鉄筋の柱に深々と突き立て、とにかく耐えた。

 偽王子(?)を見失ってしまったが、俺がこうして覆って居れば、リンクスがやられる事は無い。


 「居ましたね」


 唐突に止んだ暴風雨。

 そして耳元で囁かれる声。


 戦慄が走る。


 振り向かずに尾を振るい、翼を羽ばたかせて視界を遮り、リンクスを遠くに放る。


 ギン!


 ぐあ!痛ってえ!

 コイツの剣、やっぱおかしい。鱗から伝わる痛覚が尋常じゃ無い。

 尻尾切れたんじゃないだろうな。


 ホール中央に陣取り、偽王子(?)と対峙する。


 ……だが、何故見つかった?リンクスの光のオノマの精度は極めて高い。

 居ると分かって見なければ、到底見つけられるレベルじゃあ無い。

 声も出して無いし、そもそもあれだけの暴風で音なんて……。


 ビチャッと音を立てて、リンクスが俺の隣に寄り添う様に立つ。

 全身ドロだらけだ。そして俺も。


 ……泥の雨か。

 赤毛の暗殺者コキノスが、赤ん坊のアフマルの連れて逃げてた記憶。

 今更ながらに、夢のシーンを思い出した。


 リンクス……頑張れ。


 「んっと、王子様偽物なの?」


 「何を言ってるんです。私がファーリス・クアッダですよ」


 「旅の途中で入れ替わったの?本物はどしたの?」


 シッ!


 偽王子(?)は一瞬で距離を詰め、上段から切り下ろし、返す刀で切り上げた。

 俺達が飛び退いた地面がパックリと割れる。

 水しぶきすら上がらない。オメエこそどんなチートだよ。


 マズイな、舌戦に乗ってこない。

 この世界のヤツラは大体乗ってくるのに。やはり転生者と言った所か。


 ならば。


 「偽王子、どんな世界から来たの?」


 ピクッ。


 「どんな世界?……いま世界と言いましたか?」


 偽王子(?)は追撃の足を止めた。

 よし!掛かった!

 会話の主導権を掴んだまま、王子が偽物か本物か確認せねばならない。


 「このたてがみ、おでこにくっつけて。お兄ちゃんとお話できるの」


 「そんな誘いに乗る訳がないでしょう……あぁ、そうか、勇者を喰ったんですね。竜種が記憶を盗む事はもう知ってますから」


 盗むって失礼だな。オマケで付いてくるんだよ。

 マラソンするキャラメルと一緒だよ。


 しかし偽王子(?)舌戦も手強い。

 無駄に異世界的な予備知識があるせいで、こっちのペースに持ち込めない。


 リンクス頑張れ。


 「ここで第一問なの」


 「は?」


 踏みだそうとした偽王子(?)の足が再び止まる。


 「クアッダの王様は、若い頃なんて呼ばれてたでしょ〜か?なの」


 おお?いいぞリンクス!それなら息子は知ってても、成りすましは知らんかも。


 「……聞いたことないな……クアッダ……じゃ無いのか?」


 「……」


 リンクスどうなんだ?正解なのか?不正解なのか?


 「……」


 リンクスまさか……?


 『知らないの』


 押せ!ガンガン押すんだリンクス!


 「じゃ、第二問なの」


 「おい!正解は何なんだ!」


 「王様の近くに居るモアイの人の名前はな〜んだ?なの」


 「ナハトだ」


 即答。下手したら問題言い終わって無いんじゃね?って位早かった。

 正解だ。モアイはナハト将軍だ。

 でもコレ簡単じゃね?第一将軍なんだから、有名なんじゃね?


 「ピ、ポンコーンなの」


 「そこはピンポーンだろ!何かスッキリしませんね。それで一問目の正解は?」


 眼前に赤い光が迫る。


 咄嗟に盾で受けるも、左腕に痺れる様な激しい痛みが走る。


 コイツ……俺にここまでしつこく不意打ち狙って来るヤツは初めてだ。

 不意打ちのアニキと呼ばれたこの俺に。


 偽王子(審議中)が眉間に皺を寄せ、赤く淡く光る自らの長剣を鑑定でもするかの様に見、そして長剣を構えなおしてニヤリと笑った。


 偽王子(審議中)が一回り大きく見える。

 遂に本気を出すのか……。

 俺は集中を高めて盾剣を眼前に構え……。


 え?


 左手なんですけど。


 『お兄ちゃん、人型なの』


 何だと!?俺は慌てて自分の両手と足元を見る。

 ……ニンゲンだ。


 『お兄ちゃん!』


 上げた視線。視界の中一杯に広がる赤く淡い光。スーパースローで迫る長剣の切っ先は怪しく光った。


 リンクスがカウンターで放った蹴りは、長剣の鍔を捉え、切っ先は皮膚に触れたまま俺の頬から額へと走る。


 仰け反った勢いそのままにバク宙して、着地と同時に再び飛竜まで変身、リンクスへの攻撃を盾剣と尻を振って、追い払う。


 「ニンゲンの時でも切れないだと?マジチートだな。さてどの手で葬るか」


 当てる気で放った攻撃は、しっかり目で見て避けられた。

 そして盾で受けた時のあの感覚。更には意図しない変身。


 あの長剣……竜の武器だ。

ここまで読んで頂きありがとうございます。


更新予定 日曜・水曜 20時


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