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47話 遭遇

 城から出た俺達は、ちびっ子とイケメンの待つ我が家へと向かった。

 遅くなってしまったが、今日は外泊の予定では無い。


 きっとシルミチが旨い飯を作って、皆そろって帰りを待っているだろう。

 明かりの点いた暖かい家に帰るって、何かいいな。


 「おみやげの寿司ぶら下げるの」


 いいね〜分かってきたなリンクス。

 俺達は足取りも軽く、家路を急いだ。


 ……。

 ……。

 「暗い……ですね」


 まあ……ね。待ってろとか言ってませんし、勝手に盛り上がってただけですけどね。なのに何だろうこの寂しさは……こうやって夫婦の愛って冷めてくんだろうな。


 家の中に入り、燭台に火を灯して回っていた鉄子が紙切れを見つけた。


 「アニキ様、シルシラさんからの伝言です」


 リースとアフマルに訓練、食事、寝ます。


 「だそうです」


 質素極まる手紙だな。お使いのメモかよ。

 鉄子がメモを見せてくれた。

 いや俺読めませんけど。


 メモの中に連結矢印がある。アーチになった、場所入れ替えの矢印だ。


 『なにこれ?なの』


 はは〜ん。俺分かっちゃったかも。


 矢印の前の文字がリース、後の文字がアフマル。

 んで、アフマルがあとから矢印書き足して「順番の訂正を要求」だろコレ。

 矢印から「ボクがお姉ちゃんでしょ!」って声が聞こえるようだ。


 ほっこりしたら、先に寝られちゃった事とか別に良くなってきた。


 鉄子、今日はもう寝ていいぞ。俺とリンクスは、訓練がてらアレやっつけに行くから。

 リンクスに伝えてもらい、城門から街の外に出る。


 リンクスの両手をしっかりと握って、十分に心を落ち着かせてから変身を開始、モードCの竜化でもう一度心を落ち着かせて、飛竜へ。


 ぐ……ぐぅぅう。


 大分慣れては来たが……やはりキツイ。

 カッコ良く変身する日は、いつになるんだ……。


 俺達が向かった先、アレとは昼間のやり残し。

 言ってみれば残業、川底の岩塊だ。


 頑迷なオヤジ。

 断固立退き拒否。

 お客様のアクセスはブロックされました。


 様々な言葉が浮かんだが、とにかく岩塊は固かった。

 果たして、リンクスとのツインドラゴンアタックが、完璧に決まればこの岩塊は割れてくれるのだろうか。


 双竜撃……テヘ、ちょっと中二した。


 一度惜しい感じはあった。タイミングよく同時に攻撃がヒットした時、岩塊に微細な振動が留まったのだ。

 力の逃げる方向が見つからずに、内部で反響している様な。


 再度同じ攻撃が出来れば、破壊出来ると考えた俺は、振動が残る内にすぐさま攻撃体勢に入った……訳だが、俺が力んだせいでタイミングがずれ、破壊出来なかった。


 『次からは二回、いや割れるまで連続で出すイメージで行こう』


 『らじゃなの!』


 リンクスがすげー楽しそうなんですけど。


 その後、微細な振動を生む一撃は中々発声せず、あれが千載一遇の機会だったのでは?と考え始めた時、俺は微かな異変に気付いた。


 『音……違わないか?』


 『リンクスも感じたの』


 岩塊を叩いた時の音では無い。


 林から返って来る音が、微かに変わったのだ。

 風下にあたる林の中……塞ぐ物が増えたというか……微かに反響が増したというか。


 首だけ振り向いて俺は見つけた。

 鈍く光る三つの人影。


 『デカのギャとシャとシャなの』


 凄い縮め方したな。

 そう白と赤と青のあの鎧は、宇宙○事の三人だ。

 なんとかレウスって剥ぎ取りチャンスな国の勇者だ。何故こんな所に。


 あの位置からじゃリンクス見えて無いんじゃね?

 リンクス、リボンだけ消せるか?


 『リボンは取らないの』


 消すだけでいいからさ、んで……。

 俺は林に隠れる勇者達に、体ごと向き直った。



 時は数分前、場所は数十メートル離れた林の中。

 風下から気配を消して、ドラゴンを伺う三つの影があった。


 白銀の勇者カログリア、赤の勇者ニキティス、青の勇者メントルである。


 「アレってもしかしてカログリアとメントルが戦ったヤツか?」


 「……違う」

 「違うな」


 「あ?」


 二人の返答にあっけに取られるニキティス。


 「変な左腕で幼体のドラゴンって言ってなかったか?」


 「腕は……普通」

 「翼など無かったのだ」


 「三体目のドラゴンだってのかよ」


 三人は我知らず辺りを見回した。


 「私とカログリアが、一対一で勝てなかった亜竜と幼竜が近くに居るかも知れない。しかもあの翼竜……なんと禍々しい姿なのだ」


 「……ドラゴン……滅ぼす」


 その時、一瞬動きを止めた翼を持つドラゴンが、振り向く。


 三人の勇者は慌てた。


 風下に位置取り、気配を殺していたのに気付かれた。

 自らあんなに大きな、何かを叩く音を立てていたのに。


 カログリアは愛用のレイピアを抜き、林を出てドラゴンへと歩き出す。


 「カログリアちょっと待てって!どうすんだメントル!」


 メントルが考えたのは一瞬。


 「総掛かりで一息に殺すのだ。街のこんなに近くに三体もドラゴンが居るなどクアッダでは把握していまい。ドラゴンを退治して恩を売れば、明日の会談で有利になるのだ」

 

 言葉とは裏腹に、顔色は青ざめ、微かに手を震わせるメントルを見て、ニキティスが努めて明るい声を出す。


 「メントル、大丈夫だゼ!前回は初のドラゴン戦でタイマンだったろうけどよ、今回は三対一。何より経験があるだろ!」


 「ああ、そうだな」


 メントルは強張った顔を少し崩し、素早く六本のナイフに氷のオノマを仕込み、カログリアを追って林から出た。

 ニキティスも自らのトンファーに炎のオノマを仕込んで後を追う。


 二人が追いついた時、カログリアのレイピアの鍔元には緑に光る球が三つ光っていた。


 「最初から全開みたいだゼ」


 「……巻き込まれるな……勇者の鋼(オリハルコン)でももたない」


 「それ程の敵……なのだな」


 初めて見るカログリアの本気に、二人は不安と頼もしさを感じた。



 出てきやがったな宇宙○事ども。

 武器は剣とナイフと……あれってトンファーか?

 それぞれ色の違う光の球が武器に収まっている。ちょっとヤバそうじゃね?


 「ニンゲンよ〜なぜ争いを求めるのだなの〜」


 緊張感を欠く、少女の様な声が辺りに響く。


 「こ、このドラゴン……しゃべるのかよ?!」


 「姿を現せ!幼体のドラゴン!」


 声を張り上げたカログリアに驚く二人。


 「バレたかなの〜」


 スタッ


 翼竜の背後の岩塊上に姿を現した、幼竜にカログリアは眉をひそめる。リボンをしていない。


 あちゃ〜リンクス、もう出ちゃったか。


 俺はコイツらの行動が、腑に落ちない。

 大切な国使として交渉の最中である筈なのに、城を抜けだしてドラゴンに戦いを挑む。


 出会いが偶然でも、戦いは必然では無い筈だ。

 何故敵対するのか、その辺をリンクスに聞き出して欲しかったのだ。

 にしても、リンクス……大根役者ぱねぇな。


 「キサマ!あの時のドラゴンだな?!」


 「知らないなの〜」


 演技指導しとくんだった。白いヤツとは喋ったような事言ってたから、とっくにバレバレじゃね?


 「……別の……幼竜だと?」

 「この地域にどれだけのドラゴンが居るのだ!?」

 「やべえゼ!」


 緊張感を増し、周囲に視線を走らせる三人の勇者。

 ……バレてないらしい。マジカヨ。


 「ニンゲンよ〜なぜ争いを求めるのだなの〜」


 「知れたこと!魔獣は人の敵!その頂点に位置するドラゴン!勇者の名に掛けて二度の敗北は無いのだ!」


 青いヤツが勇んで叫ぶ。「二度の」って前にドラゴンにやられたのか。

 恨み晴らさで〜なのか?俺関係ありませんけど。


 「魔獣の中にも、いい子はいるのなの〜」


 「良い魔獣は死んだ魔獣だけだゼ!」

 「ドラゴン……滅ぼす」


 ダメだこいつら。

 固定観念が強すぎて、話せるレベルじゃない。ここ迄とは思わなかった。

 さて、どうする……逃げるか?


 「なぁメントル、さっきから気になってるんだけどよ。あの翼竜の後ろの岩って、オリハルコンの原石じゃねえか?」


 「なん?だと!」

 「……そう」


 は?おるはりこん?

 勇者シリーズの材料の?コレが?

 俺が一瞬、岩塊を見たその瞬間。


 「ドラゴンがオリハルコンを欲して、何を企む!やはりここで討ち滅ぼさねばならないのだ!」


 「行くゼ!」


 敵意が膨れ上がり、勇者達が動き出す!


 ぐっ、向けられた敵意が俺の中の殺意を刺激する。


 三対ニ、武器の光の球も不明だし、俺がいかにヘイトを取れるかに掛かっている……しかし素早い!


 青いヤツはナイフを飛ばし、左右と上から同時に攻撃して来やがった。

 ナイフが到達するのにタイミングを合わせて、赤いヤツが突進して来る。

 あ?白いヤツはどこ行った!?


 赤いヤツは、トンファーを持ち手中心にクルクル回しながら、懐に入ってきた。左のトンファーが突出される。リーチが短い握り方だ。

 スウェーで回避した俺を右のトンファーが襲う。


 赤いヤツ……何笑ってやがる。

 当たると思ってんだろ。


 「なに!躱しただと?!」


 見えてんだよ。左のトンファーを短いリーチ、右のトンファーを長いリーチで握った所が。


 左の初撃と同じ感覚で避けようとすれば、リーチを読み違えて食らっちまうワンツー。


 俺は右の一撃をトンファーに触れない様に受け流しながら、クルリと体を入れ替えて、背中合わせに立つ。

 後ろ蹴りを喰らわした反動をそのままに、青いヤツに詰め寄る。


 俺と赤いヤツが場所を入れ替えた事で、攻撃を中断してナイフを巻き取る青いヤツ。ナイフが弧を描いて飛んでるがどんな仕組みだ?


 「こいつ!双炎棍を知っているのか!?」


 俺に尻を蹴られ、前のめりに転がりながら、赤いヤツが叫ぶ。

 ソーエンコン、双エン棍、エンは赤い光球から察するに炎か?貴重な情報ありがとよ。青いヤツの武器名も言わねえかな。


 「気を付けろメントル!六氷剣も知られてるかもだゼ!」


 言いやがった。ロクヒョウケン、青い光球がはまったナイフだから、氷の短剣で数は六……ってとこか。


 俺に距離を詰められた青いヤツは、慎重に距離を取った。

 なんだよ、殺る為に来たんじゃねえのかよ。逃すかよニンゲンごとき。


 ぐぅぅ……ヤベエ、殺意に引っ張られてる……これじゃダメだ。

 しっかりしろ!俺!


 そうだ!リンクス!?どうしてる!


 『白いのと戦ってるの。でもリンクス三倍早いの。当たらなければ何とかなの』


 白い勇者と赤黒いドラゴン。

 因縁の対決と言えなくも無い。


 そうかリンクスはもう本気モードか。


 『お兄ちゃんニ対一だいじょぶ?』


 まだ分からんが、よれよりも怒りに飲まれそうで、そっちのがヤバイかも。


 『これどう?』


 頭の中に流れて来たのは……。


 アニソンだった。

 燃え上がったり、立ち上がったりするロボの歌だ。


 おお?何か良いかも!

 テンションは上がったが、怒りの水位は下がった気がする。

 井戸思い出すわぁ。あの時はフェルサと三人で五日間戦ったんだよな。


 そんな脇道にそれた事を考えながらも、俺と赤と青の戦いは続いている。

 赤のトンファーも青の投げナイフも、変化に富んだ攻撃なのだが、何故かよく見える。……と言うか判る。


 飛んでくるナイフの風切音。

 赤と青の息遣い。

 鎧が擦れる微かな音。


 飛竜モードの意識野の広がりと、エコーの訓練が相乗効果を生んでいるのだろうか?二人の動きがとても良く判る。


 「くっ!この図体で何て速さだ!当たらねえゼ!」

 「何故こうもあっさり見切られるのだ!」


 リンクスと違って、俺自身が格段早くなった訳では無い。

 相手の動きが判るお陰で、ほんの少し先回り出来ているだけ。

 言うなれば、感覚と動きが最適化されてる様な。


 突き出されたトンファーが、その場で持ち手を中心に回転しトリッキーな動きを見せる。

 だがグリップを緩める仕草が見えている。

 そして俺はトンファーという武器を知っている。


 当たらない。


 持ち替えて、持ち手を鈎にして足を刈ろうと試みる……が、半歩引かれて空を切る。


 赤が接近戦を挑む間に、青が背後から同時に二本のナイフを飛ばす。

 弧を描く不思議な軌道で背中に迫るナイフ。


 更に追い打ちとばかりに、ナイフを両手に持ち、接近戦で挟んでくる。


 だが当たらない。


 「……信じられんのだ」

 「これがドラゴンなのかよ!」


 「だが……何故攻撃してこない」


 そう、俺はまだ一度も攻撃していない。

 さて、個々の技も連携もある程度見せて貰った。

 ここからは俺のターンだ。


 ん?


 歌が止んだ。


 『リンクス?』

 

 

 


 


ここまで読んで頂きありがとうございます。


次回更新予定 水曜日 20時


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