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42話 パーティー

 遺跡の入り口がある。


  入る

  今はやめておく

  装備確認

 >メンバー確認

  課金する


 盾ー俺

  装備:フェルサの贈り物(特注レア)、尾剣

  スキル:カチンコチン、いざとなったら変身


 火力ーリンクス

  装備:漆黒の短槍(レア?)

  スキル:本気モード


 サブ火力ーシルシラ

  装備:機装(ハイレア)、機装用剣盾、鉄鎖

  スキル:オリーブオイル


 探索ーリース

  装備:戦闘ナイフ(ノーマル)、長い棒

  スキル:くんかくんか、気絶


 オノマーアフマル

  装備:ボロボロのぬいぐるみ(?)

  スキル:各種オノマ、金切声


 ……こんな所か。所々いろいろアレだが、パーティーとしてはバランス取れてるんじゃね?ヒーラーが居ないが、薬草採りのフィリコスから色々預かってきた。毒や麻痺の中和薬は分かるが、ポーションって何?怪我したら飲めって言われましたけど。しませんけど。


 リンクスの本気モードで、ゴリ押しクリアも出来そうだが、ちびっ子達がこれからも一緒に行動したいなら、戦闘訓練は必須だ。弱い魔獣とのエンカウンを稼ぐ為に、ワニマントも置いて来た。


 機装は取り敢えずシルシラに使わせて見る事にした。

 シルシラにはサブ火力の他に、ちびっ子の護衛もしてもらわにゃならん。

 使い潰して良い装備はありがたい。


 一番頑張って欲しいのはリースだな。

 亜人のアドバンテージを最大限に活かして、探索と危険回避に、活躍してほしい。宝箱も見付けて欲しい、無いとは思うが……。


 遺跡の入り口とは言っても、岩肌にぽっかり穴が空いていたり、神殿奥に隠し扉があったりするわけでは無かった。


 虫津波で剥げた山肌。そこに崩落して出来たと思われる直径五メートル程の穴が空いている。穴の底は暗くて見えない。


 「この機装ハ、力持ちですネ、作業が楽でス」


 一緒に運んで貰った資材を使って、シルシラが穴の上に頑丈なやぐらを組み、ロープを使ってまず俺が降りる。


 真っ暗過ぎてどの位降りたか分からないが、底には着いた。

 足元は穴からこぼれ落ちたであろう砂が、小山の様になっているみたいだ。

 辺りに気配が無いのを確認して、ロープをツンツンと引き、合図する。


 「私達!幸せになります!なの」


 リンクス、リース、アフマルの三人がカゴに乗って降りてくる。

 光のオノマで、周囲を照らしながら降りてくるカゴは、バブリーな結婚式を思い出させた。


 「オオ、これは凄イ、降りるのモ登るのも自在でス」


 最後にシルシラが機装のウインチで降りてくる。時々登ってまた降りてくる。

 楽しそうだ。やっぱ先に俺が乗るんだった。


 アフマルが光のオノマを三方向に飛ばし、降り立った空間をおぼろげに照らす。あ、一個消えた。


 天然の洞窟等ではない。かなりボロボロに朽ちてはいるが、明らかに人工物……。俺風に言わせて貰えるのならば、そこは……。


 ビルだった。


 割れたガラス、白くカビの生えたアルミの枠。表面がポロポロと零れ落ちそうなコンクリ。


 俺が覚えたのは、違和感よりも不快感。


 パラレルワールドだっけ?無数の分岐によって生まれる平行世界?

 異世界ってなんだ?分岐の根本がそもそも異なる世界?

 ならココは異世界等では無い。


 未来……な……のか?


 「右の方から……何かくるし」


 リースの声で我に帰り、打ち合わせた陣形を組む。

 俺を先頭に、リンクスが続き、ちびっ子二人を挟んで後方をシルシラが守る。

 長い数分の後、複数の足音と息遣いが俺にも聞こえて来た。


 角を曲がってゆっくりと姿を現したのは、犬系の魔獣だった。

 肩口から生えた一対の触手が、意思を持つかの様に四方を伺っている。

 数は三匹。大きさは大型犬位か……。


 「闇犬でス。素早い動きト牙に注意して下さイ」


 『ちびっ子達に動きを見とく様に言ってくれ』


 「アフマルもリースも犬見とくの」


 「「はい!」」


 ちびっ子達は戦闘の緊張からか、とても良い返事をした。


 俺は三匹の中心に踊りこみ、防御と回避、ヘイト管理に専念する。

 特に脅威は無い。飛び掛かってくる寸前に、スッと姿勢を低くするのさえ見えていれば、やられる事は無いだろう。


 『一匹そっちやるぞ〜』


 「くるの」


 「アフマルもリースも、動きハ覚えましたネ、まずは回避に専念しテ」


 「「はい!」」



 そして。


 「はぁはぁ……」

 「勝ったし」


 ちびっ子二人がクタクタになった頃、闇犬はようやく引き上げた。

 リースは一匹の触手を切り落とし、アフマルは一匹に火傷を負わせた。


 リンクスやシルシラに、時々助けて貰いながらも、見事迎撃したのである。

 倒すには至らなかったが、訓練目的だ。

 良く怪我しなかったと褒めてやった。


 長めの休憩を挟みながら、探索と戦闘を繰り返す。


 リースの索敵は中々のモノで、不意打ちを受ける事は一度も無かった。

 長い棒で怪しい所をつつき過ぎて、時々崩したりしてたが、崩落には至っていない。

 更に戦闘を重ねるにつれて、魔獣の匂いも覚えていき、足跡等からどんな魔獣が何匹位いるか、予想出来る様になって来た。


 早くフイダマ使える様になると良いな。


 一方のアフマルの成長ぶりは目を見張るものがあった。

 戦闘中に光のオノマで補助していたかと思うと、敵の着地地点を狙ってオノマを「置き」始めた。

 直接飛ばしても当たらないが故の、苦肉の策から考えた戦法だろうが、跳びかかって来る魔獣に対して、自分の場所にオノマを置く事で、命中率を格段に向上させたのである。


 コダイ使える様になったら良いな。


 シルシラは流石は討伐者だっただけあって、殆どの魔獣を知り、適切なアドバイスをし、ちびっ子達を守ってくれた。

 そして器用にも、機装を装着したままで鉄鎖まで使って見せた。


 「流石ニ、繊細な操りは無理ですガ、その分パワーがありますネ」


 時々「変わってくれ」オーラを出しているのだが、気付いてくれない。

 いけずである。


 二階程降りた所であるモノを見付け、休憩する事にする。


 「両側に見張りヲ立てるのですカ?」


 部屋ではなく、通路で休憩する事が理解しがたいらしい。

 俺は壁に近付き、オノマで照らして貰いながら、目当てのモノを見付けて引いた。


 ガラガラと金属音を立てながら降りてくる、通路幅一杯の金属の板。

 自重でゆっくりと降りる、連なった金属の板が床まで降りた所で、俺はワイヤーから手を離す。


 同じように背後十メートル程の所にも鉄の板を下ろすと、その通路は鉄の板に封鎖された安全な空間となった。


 「鉄の門が降りてきたよ!」

 「遺跡ニ、この様な仕掛けガ……」


 そう、俺が見つけたのは防災シャッターだ。


 正式には防火戸(ぼうかど)と言ったか。

 電源消失時の為に手動での昇降が出来る様になっている。降ろす時はワイヤーを引いてロックを外して自重で、上げる時は……これの場合はチェーンを引く。


 遺跡に潜ったのが昼近く。時間の感覚は曖昧だが、リースが無口になり眠そうに見える。ゴールも判らんし特に急ぐ必要も無い。


 『ここで寝るか』


 「今日はここで寝るなの」


 「「はーい」」


 「ご主人様ハ、遺跡に入った事があるのですカ?」


 ああ、俺の時間では数ヶ月前かな。

 俺の印象だと、この遺跡はオフィスビルの様だ。


 至る所崩れて、土砂で行く手が塞がれている為、ビル自体が沈んだのか、ビルの地下部分だけが残っているのかは不明だ。窓が無い事が確認出来れば、地下部分なんだろうけど。

 あいにくフロアナンバーを示す様なモノも見なかった。見ても読めるとも限りませんけど。


 このシャッター一枚隔てた向こうは、安心して眠ることすら出来ない世界……か。ゾンビ映画かってんだまったく。


 俺達はアフマルのオノマのお陰で、密閉空間にも関わらず温かい食事をして、早々に眠った。

 

 

 その夜、一人の老人が永遠の眠りについた。


 痩せこけたその老人は、長い白髪を振り乱し、死の間際まで抵抗し、口汚く周囲を罵り、首を括られた。


 「ナツメの血は流されるべからず」


 組織の結束を高める掟は、死刑の方法にまで影響を及ぼし、ナツメ商会では伝統的に絞首刑が用いられていた。


 うんざりした面持ちの幹部面々の中、一人スッキリとした顔をした男が居た。油で頭髪を後方に整え、油を塗ってもいないのにテカテカした肌を持ち、やはり油でも入っているかの様な腹の出た男。


 序列第三位ネヒマ……の影武者である。


 事あるごとに粘着され、裏切りの噂を流され、序列上位の詰問を受けることさえあった。

 影武者でしか無い彼にとって、ワハイヤダの執拗ぶりは異常者としか思えず、常に苦々しく思っていたのである。


 ワハイヤダの処刑を観覧し、上機嫌で屋敷へと戻った影武者は、滅多に直接顔を合わせる事のない、ネヒマ本人との食事の席に付いていた。

 隠し部屋にしては広く豪奢な部屋には、よく似た二人の腹の出た男がテーブルに付き、執事一人が給仕をしていた。


 「ワハイヤダは確実に死んだのじゃな?」


 「間違いないぞよ。儂がこの目でしかと確認したのじゃ」


 「儂とおる時は、その喋り方は止すのじゃ。不愉快じゃ」


 「はい……ですが既に身に付いてしまっておるから……いまして」


 常にそうしろと言ったのはアンタじゃないか。そう言いたげな表情の影武者を見ながらネヒマは続けた。


 「しかしワハイヤダが確実に処刑されると分かっていれば、儂が行くのじゃったの。ヤツの惨めな最後を拝めたのにの」


 二人はワハイヤダの悪口になると機嫌よく食事を進めた。

 ネヒマに裏切りの疑惑を掛け、銃の実用計画をかすめ取って行ったかと思うと、計画に失敗した挙句、失敗を隠そうと虎の子の特戦隊でクアッダ奇襲を目論み、それすら失敗。


 「大人しく序列にぶら下がっておれば、もう少し長生き出来たじゃろうにの。老害が居なくなって商会も力を取り戻すじゃろ」


 共通の話題からか酒も手伝ってか、二人は時折大声で笑い、古くからの友人の様に談笑しながら、食事をすすめた。


 「しかしワハイヤダの最後は無様でしたよ。罵り、暴れ、もがいて力ずくで縄を掛けられて括られてましたからね。タリスでもあそこまで醜悪じゃ無かったですよ」


 「わっはっは。やはり儂が行けば良かったの。もっと詳しく聞かせるのじゃ」


 油の乗った男達の、油ぎった晩餐は、深夜まで続いた。



 「お腹すいたの」


 翌朝?深夜?空腹で目覚めた俺とリンクス。

 生肉をガッツリ喰っていないせいか、腹が減って目が覚めてしまった。

 そう言えば最近食が太くなった。


 ちびっ子二人は、初めての本格的な戦闘からか、まだぐっすり寝てる。

 シルシラを静かに起こしてここで待つように伝えて、地図を借り、飯を狩りに行く事にした。


 シルシラ……機装装着したまま寝たのか……。

 随分とお気に入りの様で「俺にも貸せよ」って言い難くなってきたな。


 静かにシャッター区画から出て、ご飯目的の探索を開始する。


 『えっと……加減とかは?』


 『おーるうぇいず・どぅ・まい・べすと。なの』


 リンクスの光のオノマは相変わらず強烈だった。

 直視したら網膜焼けちゃうんじゃ無いか?って位眩しい。

 ケースバイケースも覚えて欲しい。


 ガサ……ガサ


 強烈な光に集まってきた気配がある。


 ……虫かよ。


 カナブンか雌カブトかそんな感じの虫が十匹程集まってきた。脚多くね?

 厚みの無い、黒光りするアイツじゃなくて良かった。


 取り敢えずサクッと殺して、死骸を放置してみる。

 よしよし来た来た。お口がワニっぽくて首まで毛が無い大型の豹っぽい魔獣二匹を、奇襲を掛けて危なげなく倒す。


 『意外なおいしさなの』


 うん、旨いな。何と言うか雑味の無い、ほんのり甘さを感じさせるお味だった。水とか食べ物とか影響してるのかな?


 お腹を満たし、戻ろうかと地図を見た所で、明かりが消える。

 ちょっとリンクス〜まだ見てるんだけど。


 『何かくるの』


 暗闇が支配する世界。

 確かに微かに気配を感じる。俺達を挟み込む位置に前後に四……五か。


 リンクスが再び光のオノマを呟く。

 追従するかの様に周囲から呟きが聞こえたかと思うと、発光し始めたリンクスの光がかき消されてしまった。


 そして完全な闇に辺りは包まれた。

 何だコレ?自分の手が見えないってレベルじゃない。まぶたを閉じているのかどうかすら分からない真闇。


 チッ……チッ……チッ


 リンクスは舌打ちを始めた。

 何が起こっているんだ?視覚を完全に失った俺は動揺し、思考が定まらない。


 ガイン!


 痛ってえ!攻撃された!場所は首、感触では剣。

 敵かよ!いきなり殺す気まんまんじゃねーか!


 舌打ちは少し離れた所に移動していた。

 躱したのかリンクス。


 俺は盾と剣を構え、微かな音を頼りに攻撃を繰り出すが、空を切るばかりだ。一方の俺は敵の攻撃を躱す事も出来ず、攻撃を受け続けている。


 狙って来るのは、頭、首、武器を持った手……こいつらプロだ。

 とにかく動きまわって急所を外すしか無い。


 「何だ?刃が通らんぞ」

 「岩でも切りつけた様な感触だ」

 「俺達の知らない防具でも身に付けているのか?」


 敵の声が微かに聞こえてくる。


 「気を付けろ!こっちの少女は俺達が見えている様だぞ」

 「ありえん!闇のオノマの支配下で見える筈が」


 舌打ちが移動している。

 リンクスには見えてるのか?だがリンクスの攻撃も当たった様子は無い。

 このままだとジリ貧だ、打開策が見つからない。まずいな。


 『動くななの』


 ズビシッ!!


 リンクスの言葉に、はたと動きを止めた俺の首筋に強烈な一撃が入る。


 意識が……。


 『リン……クス……何を……』

 




 


 


作中「アルミのカビ」と言う表現がありますが、主人公がそう認識しているだけで、実際には白サビです。


ここまで読んで頂きありがとうございます。


次回更新予定 日曜日 20時

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