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41話 働き者

 夕食後、玄関のドアノッカーがドアを叩く。


 コンコンコンコン。

 四回だ、お客様の様だ。


 ドアのノックは二回がトイレ、三回が親しい間柄、四回が国際標準とか聞いたことがある。


 シルシラがエプロンを置いて、玄関へと足を運ぶ。


 「ご主人様、ハーリス様ガお見えでス」


 だれ?


 「陛下より、アニキ様との連絡係兼秘書を、仰せつかって参りました。お屋敷を下賜された様ですので、今夜から早速こちらでお世話になります。時にシルシラは、奴隷でしょうか?使用人でしょうか?」


 鉄子だった。


 大きな旅行かばんを二つ脇に置き、肩から斜めにショルダーバッグを掛けている。胸元の開いた服、爆乳の間に埋もれてしまっている紐が、何ともエロ羨ましい。リンクスさん足踏んでます。


 奴隷と使用人?どう違うんだっけ?

 奴隷は飯だけで良くて、使用人は給金が発生するんだっけ?

 良く分からないが、そんな関係のつもりは無いな。


 「仲間なの」


 「分かりました。ではシルシラさん、すみませんが荷物を運ぶのを手伝って貰えますか?私はソコの、玄関に一番近い部屋を使いますので」


 なぜ間取りを知っている鉄子。


 「ボクあの人こわい」

 「凄い頭良さそうだし」


 あまりにテキパキと話す鉄子に、ちびっ子二人は人見知りしたようだ。

 ほらアフマル、おねえちゃんなんだろ?

 俺の視線に気付いたアフマル。


 「ボクはアフマル、一番のおねえちゃんです」

 「もうそれでいいけど、アタイはリース……亜人なんだ」


 リースは、ドアノッカーが鳴った時に被った頭巾を脱いで、犬っぽい部分のある顔を見せた。


 「問題ありません。この国は亜人の差別も、個人の好き嫌い以上のモノはありませんから、頭巾は必要ありませんよ」


 「ホントに!?ホントに隠さなくて良いの!?」


 リースは花が咲いた様な、晴れやかな表情で喜んだ。


 余り屈折したところ見せないけど、差別やら迫害やら酷い目に合って来たんだろうな。帝国じゃ駆逐対象だっていうし。脱いだ頭巾を見つめる目に光る雫がある。


 俺は、リースを抱きしめて頭をなでた。

 この小さな体に、どれ程の恐怖や屈辱を受けたんだろう。


 「こんな国があるなんて……クアッダって凄いね……グスッ」


 「この国は国民の国なのよ、勿論陛下が道筋を作ってくれたのだけれど、国民権を持つ者には、等しく選挙権と陳情権があるの。三年間の納税とその間の犯罪行為が無ければ、亜人でも、魔獣でも、国民権が得られるのよ」


 ちゃんとしてるな。


 俺達も納税するんかな?まあ、とは言っても国王の恩人な訳だし、名誉国民ぐらいはくれるだろう。


 「ちなみにこの家で国民権を持って居るのは、私とシルシラさんだけですね。アニキ様も日割り計算で納税書が届きます」


 ちゃんとし過ぎてるな。


 けっちぃなぁ。と思わないでも無いが、公平な税制と公正な裁判さえあれば、まともな社会は構成されるんだっけ?


 「あの……お兄さん、もう放していいです。耳くすぐったいし」


 モフモフを差別して駆逐とか意味わからんし。


 「あたしのお兄ちゃんなの」


 リースを開放した俺の膝の上を、リンクスが占拠した。

 ヤキモチやいてるっぽいので、こちょこちょの刑だ。


 リンクスが身を捩って笑う。

 あんまり笑うんで調子に乗って、お腹ブーしようとした時。


 ガタン


 椅子が倒れる音に次いで、バタバタと慌てて走る音、そしてジャラっと鎖を持ち出す音がした。


 「ガ、ド……ドラゴンです!ご主人様離れテ下さイ!」


 あんまり笑いすぎてリンクスの変身解けちゃってた。

 そっか、シルシラは知らないんだったっけ。


 「大丈夫だよシルシラさん、リンクスちゃんだし」

 「ボクたち怖くないよ」


 ちびっ子の声に緊張感を失うシルシラ。

 見れば、驚いているのは自分だけで、ちびっ子達はおろかハーリスでさえ平然としている。


 あ、鎖出したなら調度いいか。リンクス〜。


 「鉄子はアフマルとリースと引っ越しするの。シルシラはリンクス達と訓練するの」


 は〜い。と良いお返事と共に、鉄子の手を引いて部屋へ引っ張って行くちびっ子達と、腰を上げて裏庭に向かう俺達。


 「ちょっ、テツコって私の事です?何でテツコなんですか!や、待って、私もアニキ様の躍動する所見たいぃぃ……」


 「ドラゴンと訓練ですカ……討伐者としテこの上ない訓練でス」


 シルシラはさっきの「あたふた」は何処へやら、高揚した顔で付いて来た。


 いや〜鉄鎖って独特だな。夜の暗い中での訓練という事もあって、俺もリンクスも苦戦しまくった。

 初見で封殺したフェルサって、実はスゲーんじゃね?

 とは言ってもフェルサですけど。


 俺もリンクスも鉄鎖が珍しくて「おかわり」しまくったせいで、シルシラはすっかりグロッキーだ。


 コンコンコンコン


 休憩をしていると、ドアノッカーがまた四回鳴った。

 もう結構な時間の筈だが、誰だろう?この国って夜に訪問するのが普通なのかな?


 鉄子が早速秘書スキルを発揮して、応対している様だ。話し声が聞こえてくる。……女の声だ。


 「あら?あなたは服飾店の……」


 「テツコだれ〜?」

 「テツコのこのブラ……二人でかぶれるし」


 「あなた確か役所の……テツコさんって仰るのね。アニキ様の使用人かしら?アニキ様はおいでかしら?」


 「テツ……アニキ様は既にご就寝なさいました。こんな夜更けに突然の訪問、失礼ではありませんか?それと私は使用人ではありません。秘書です」


 マダムだった。

 そして鉄子、さらっと嘘ついた。


 「失礼かとは思ったのですけれど……今日店にいらした時にナデナデでポッと……じゃない。ベッドカバーをお求め忘れになられまして、ワタシが直接添い寝と採寸を……」


 ピキッ


 何か変な音がしたな。

 添い寝と採寸って何だよ。


 マダム積極的だな、確かに美人だし熟女前のツヤがあるな。上乗って貰って好きに……って痛い痛い!リンクス足!足!


 「盛ってんじゃ無いわよオバサンのくせに」


 「なんですって!あんただって何よこの半分ポロリなチチは!アニキ様たぶらかす気満々じゃないのよ!なんて羨ましい!」


 「ふん!あなたと違ってピチピチなのよ!諦めてさっさと帰って!」


 鉄子はこれでもか!と下着姿になり、バウィ〜〜ンと揺らした。

 同じ女であるマダムですら絶句する鉄子のバウィ〜〜ン。


 何故あのサイズで垂れて無いんだ?ガスでも入ってる?柔らかそうに見えるがチチも鉄なのか?今度調査をせねばなるま……って痛い痛い!リンクスさん足潰れちゃう!


 「いたいいたい!もがないで!」

 「一個よこしなさいよ!」


 「きゃー!顔こすらないで」

 「化粧濃いのよ!」


 「「きーー!」」


 ……飛行訓練行こっか。


 三人で裏庭に戻り、シルシラに前もって竜化すると告げて、覚悟をしてもらってから始める。

 竜骨を打ち付け、モードDまで変身する。


 クッ!


 電気の走る様な痛みは慣れたが、覚悟してても、この猛烈な殺意は苦労する。今回もリンクスが居なかったら持ってかれる所だった。

 俺は俺の物だ。誰にもやらん。


 モードBの盾剣までは、イライラする程度で軽いのだが、モードC、更にDとなると重い。今のままだと、戦闘中に華麗に変身とは行かない。


 木の枝で眠っていたらしい鳥が、一斉に飛び立つ。

 近所の動物が狂った様に吠え始め、赤ん坊の鳴き声が聞こえる。


 シルシラは汗どっぷりだった。

 武器を構えようとする本能を、懸命に抑えている。


 俺は刺激しないように、ゆっくりとシルシラの頭に右手を乗せる。


 『聞こえるか?シルシラ』


 「ガ!?、ははハ……頭の中に声ガ……これがご主人様ノ声……」


 『ココじゃまずそうだからちょっと行ってくる、朝までには戻るから寝てていいぞ』


 「は、はい、行ってらっしゃいまセ」


 シルシラは硬直した体をぎこちなく折って、跪いた。


 リンクスを抱えて、姿を消す。

 取り敢えず森はあっちか。

 俺は塀を飛び越え、森を目指した。


 一方……。


 「なに?今の」

 「何かこう……心臓を鷲掴みにされた様な、恐怖を感じましたわ」


 急に興が削がれて辺りを見回す二人の女声。

 お互いに髪の毛を掴み合っている。


 どちらからともなく手を離し、無言で身だしなみを整え始める。


 「「ごきげんよう」」


 優雅に挨拶を交わして、二人の女性は何事も無かったかの様に背を向け、マダムは玄関の扉を、鉄子は自室の扉を、開けて、くぐり、閉めた。同時に。


 「大人って良く分からないね」

 「ボクはああならないよ」


 その後ちびっ子二人は、女の戦いが終わったことを告げに中庭に行き、シルシラしか居ない事にブーたれ、何気にシルシラに稽古を付けて貰った。



 翌朝。


 コンコンコン。


 良く働くドアノッカーだ。

 三回って事は誰だ?


 「師匠!お早うございます!」


 フェルサだった。


 「良い家ですね、華やかさの中にも質素さがある」


 あ?慣れない言い方無理して使ってる感パネーな。

 それとも翻訳ミスか?ライブラだっけ?ナノマシンが翻訳してくれてるんだっけ?


 吹き替えの映画見てる様な感覚や、丁度九・一四メートルとか思い当たるフシはあるな。


 「これは祝の品です。どうぞ使って下さい」


 フェルサが抱えた布から出したのは、盾と剣。

 大きめの円形の盾は厚みがあり、内側にギミックがある。


 「この盾、剣の鞘になるんですが、この向きで剣をいれて固定すると」


 おお!?


 「師匠の左腕の盾付きの剣と、同じように使えるんです。師匠は鞭みたいな剣も使いますから、コレなら違和感無く両方使えるかと思って作らせてたんですよ」


 やばい、うるうる来た。

 なんて師匠想いな弟子なんだろう。ありがとうフェルサ、大事に使わせて貰う。


 フェルサが俺の耳元に口を寄せて、小声で囁く。


 「ただ、竜化の時は外して下さい。想定してなかったんで、壊れるか食い込むかします」


 どっちもヤダ。忘れずに外します。


 「それと陛下が、師匠に秘書を付けるそうです。昨夜決まった事なので今日明日には来るかと……」


 「お早うございますフェルサ様」


 「……早いのは貴方だ、ハーリス。まさか昨日来ていたとは」


 フェルサは鉄子のバウィ〜〜ンから目を逸らさずに、呆れ顔を作った。

 昨夜の派遣決定から即座に来ていた事に呆れたのか、相変わらず視線を釘付けにするオノマが掛かった爆乳に呆れたのか。


 コンコンコン。


 本当に良く働くドアノッカーだな。

 今度も三回、誰だ?


 「兄貴!どうっすか新しい家は」


 ガビールだった。


 「おおフェルサ殿もハーリスも……って昨日来たのか?まあ頑張れよ」


 ガビールはニヤニヤ笑った。

 おや?ガビールには釘付けのオノマが効いてないな。

 ああ、そう言えば新婚だったか。世紀末リア充め。


 「兄貴にお祝いって言うか、試験も兼ねてなんすけど、ちょっといいっすかね?表まで」


 外?一体なんだ?車か?レ○サスか?


 玄関先に馬車が止めてあり、数人の男達が作業していた。

 馬車から数人掛かりで下ろしているもの、それは……。


 機装兵


 「先日鹵獲したヤツを、使える部品同士組み立てたんすけど、シュタイン博士が言うには、兄貴やリンクスちゃんに使わせて壊した方が、より良い試験になるって」


 まじかーー!


 プレゼントでパワードスーツ貰うヤツとかいる?

 テンションやべえ。鼻息荒いの自分でわかりますけど。


 なんて兄貴想いな舎弟なんだ。ありがとうガビール楽しく遊ばせて貰うよ。


 「昼には技師が来て使い方説明してくれると思うっすけど……」


 俺は言葉を遮って機装に乗り込む。

 俺はトリセツ読まない派だ。

 チュートリアルのログも読まない派だ。


 大体後で困るんだが、沸き起こる衝動を抑えられない。

 え〜っとどうやるんだ?パカっとするスイッチとかどこ?


 「フェルサもガビールも、おはようなの」

 「おはようございます、ボクはアフマル、この子はリース」


 「おはよう、フェルサだ」

 「おはよう、ガビールだ」


 リースは眠そうに目をこすっている。


 「試験を兼ねて、調べて欲しい所があるんすよ」


 ガビールの説明はこうだった。


 先月の虫津波で遺跡と思われる入り口が露見した。何処に繋がっているかは分からないが、魔獣が多数住み着いており、水害防止の工事が止まっていると言う。


 そして小声で、魔獣を無駄に殺して報復を招くより、ドラゴンの縄張りだと認識させて、追い払う事が出来ないかと。


 ダンジョン探索……きた?




 

 

 


 


 


 

 


 

 


ここまで読んで頂きありがとうございます。


次回更新予定 水曜日 20時

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