表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
36/124

35話 月下の包囲戦

 ハディード鉱山から数時間、ハリーブとクアッダ王国を繋ぐ街道への道。

 月下の包囲戦は続いていた。


 鉱山から出立したワハイヤダの軍勢を発見した俺達は、俺のミスで敵のど真ん中で姿を晒してしまう。

 俺は満足に動けず、機装兵が動き出し、銃弾が襲う。


 さすがに今回ヤバくね?


 リンクス逃がすか。


 俺なら暫くは持つ、あのバカでかい銃でも俺の皮膚は通さなかった。

 炎のオノマの五連……いや三連にも耐えられた。

 拷問されても腕生えるよかマシだろ。


 イケんじゃね?


 『ビリビリきたらアウトなの』


 確かに。


 敵の中心部まで入りきってしまった為に、どっちも向いても敵だらけだ。

 リンクスだっていつまでも俺を抱えたまま走れまい。


 でもほら、リンクスなら消えれるし、通話でお話出来るし、レスキューミッション最適じゃね?


 『ビリビリきたらアーウートーなーのー』


 確かに。


 周りの機装兵が多くなってきた。手にしているのは鬼神の板剣に似た大剣。

 逆算するに鬼神並みの力があるって事だよな。

 全方位敵だらけで、もうどっちの方角逃げてるか分からなくなった。


 『リンクスおんぶ』


 『?』


 『いいからおんぶ』


 俺はリンクスにおんぶされた。真っ直ぐ逃げていいぞ。


 ドン!

 『グッフゥ』

 ダーーン!


 二人で盛大に前に転がる。


 『お兄ちゃん!』


 大……丈夫だ……お前は守る。

 再度おんぶされて逃げる。

 右手をニギニギしてみる……電撃で萎縮した筋肉は大分動くようになって来た。

 リンクスいいぞ、もう走れる。


 チュインチュイン!

 ドン!

 『ぎゃ!』

 ダダンダーン!


 銃の数が増えてきた。めちゃめちゃ痛たいけどバカでかい銃よりマシだな。

 単発でしか撃ってこないのが救いだが、伏せて隠れても機装兵に包囲されるだけだしな……ん?


 今、何か……引っかかったな……バカでかい銃……。


 伏せた俺達の頭の上を、弾丸は飛び、枝を折り、幹をえぐった。

 とにかく乱戦にしなきゃ駄目だ。

 味方を巻き込む危険をチラつかせて、銃を撃つのを躊躇させる。

 乱戦なるまで、この窪みから出るなよリンクス!


 俺は意識を集中させて、盾剣を構え、低い姿勢で飛び出す。

 一番機装兵が固まってる所へ。


 チュイン!キンキン!


 良し!盾なら平気だ。イタクナーーイ!


 機装兵の懐まで一気に距離を詰める。頭上から振り下ろされる大剣。

 体を開いて躱すと同時に、振り下ろされた腕を切り落……。


 ギィィン


 盾剣が弾かれた、何て硬さだ!切れない!

 ならば!と突きを放つ……が、丸みを帯びた形のせいで、上手く突き立ってくれない。

 横薙ぎに払われた大剣を盾で防ぎ、五メートル程飛ばされて着地。

 姿勢を崩すこと無く着地した俺だが、直後背中に大剣の一撃を受け、前のめりに転がってしまう。


 素早く立ち上がり、移動しながら何とか包囲されないように動いてはいるが、コイツはヤベエ。決め手も無いのに多勢に無勢。


 チュイン!

 ドン!


 痛ってえ!ちょっとでも機装兵と距離を取ると、銃弾が飛んでくる。

 銃を構えた兵士が視界に入る。


 生身だ。


 周囲を見渡して位置関係を確認。深く息を吸い込んで盾を構え、銃を構える兵士に向かって走る。背後に機装兵を従える様にして走る。


 前方の銃を構える兵士は三人。俺の背後の機装兵に弾が当たるのを恐れてか撃ってこない。


 「なんだコイツは!当たってるのに!」

 「何ともないのか!」

 「バケモノか!」


 狼狽の叫びと共に、銃兵を守る様に横から展開してきた機装兵。

 大上段から振り下ろされる大剣に、俺は更に速度を上げて突っ込む。


 巻き起こる土煙、地面に出来た一メートルのクレーター。

 俺はスライディングで機装兵の鳥足の股間を滑り抜け、そのまま銃兵の膝を蹴り砕く。


 目の前に落ちる銃。

 その銃には、本体に円筒の囲いがあり、囲いからは太いコードが伸びている。

 以前鉱山の秘密の部屋で見た時よりは、囲いは一回り小さいが、コードもランプも見覚えがある。


 赤赤赤赤、緑、ピーン。


 緑が光った!


 俺は銃を拾い上げ、振り向く機装兵に構え引き金を引く。


 ダーーン!


 俺を掴もうと伸ばされた外腕は、肘の辺りに銃弾を受け、金属片を散らし、半ば千切れた。

 立て続けに引き金を絞る。


 カチン


 不発!?

 不発弾を排莢しようとしたが、左腕が盾剣の俺にレバーは引けなかった。


 ピーン


 左から電子音が聞こえて振り向く。銃兵の構えようとする銃のランプは緑。


 そうか!


 俺は銃口に盾をかざしながら走り寄り、銃から伸びるコードを切断した。

 全身を走る電撃!だが覚悟していたからか、カプセルを貫いた時程じゃない、耐えられる!


 俺は確認よりも先に、コードを追って馬車へと走る。馬車を守る機装兵の斬撃を躱し、受け止め、転がる様に馬車に辿り着き、カプセルから伸びるコードを次々に切断していく。


 銃撃は……無い!


 光は見えた!馬車の数は十……あと九つもあるのか。


 『リンクス突破口を見つけた、無事か?』


 『白いヤツに、絡まれてるなの』


 は?白いヤツ?

 機装兵はグレーだ。隊長機とかなのか?

 とにかくリンクスが何者かと戦っているなら、付近の銃を一刻も早く使えなくしなきゃならん。息が上がる自分の体を励まして、次の馬車へと走る。


 銃弾が俺を襲う。腹や足に弾が当たる度に地面に転がりながら、懸命に馬車へと走る。

 一台の馬車に積まれたカプセルは六。ケーブルは六本だった。一台の馬車で稼働する銃は六で一台当たりの発射数は……。


 !!あの銃兵コッチを狙って無い!


 俺は、腰に括り付けた尾剣を握り、投げつける!

 早く!早く届け尾剣!なんでスローモーションなんだ!


 回転しながら飛ぶ尾剣は、銃兵の右腕に絡まり、巻き付き、切断した。

 上を向いた銃口が火を噴く。


 安堵した直後、銃弾が襲う、地面に転がり、草を巻き上げる俺。

 足の小指はやめろぉぉぉおお!


 『リンクス!大丈夫か!』


 『白いヤツ、強いの。お兄ちゃん大丈夫?』


 『銃を使えなくしてるから、俺から離れる様に戦うんだ!頼むから!』


 『……らじゃなの』


 クソ……撃たれた所が痺れて上手く走れない。

 疲労と酸欠で動きも鈍ってきた。機装兵の斬撃も喰らう。


 それでも、俺は銃兵を倒し、奪った銃でカプセルを撃ち、コードを切り、二台目の馬車を無効化した。


 ……あと……八つ。


 視線を巡らせ馬車を探す。あった!けど距離がある、しかも馬車二台。

 やるしかねえんだ!

 俺は尾剣を拾い、盾を構えて走りだす。



 数十分前、最初の銃声が響いた頃。


 部隊の南側で混乱が生じた。


 「何者だ!それ以上近付けば攻撃する!」

 「引き返せ!近付くな!」


 警告の声は、そよ風の如く聞き流され、来訪者は自らの歩みを止めようとしない。来訪者の影は三つ。


 「ちょっと脅かしてやるか」


 機装を装着した一人が来訪者の前に立ち、両腕を広げ行く手を阻んだ。


 先頭を歩むのは、白銀の鎧に身を包んだ女だった。


 裸体に描いたかと思われる程に体に密着した鎧、腰まで伸びた銀髪、長い睫毛に縁取られた氷蒼の瞳。

 スレンダーな肢体、長い手足、高名な彫刻家が半生を掛けて造形したかと思われる顔立ち。

 一切の贅肉を拒みながらもメリハリの効いたラインは、引き締まった体も相まって、実際よりボリュームアップして見えた。


 思わず見とれた機装兵が賛美の言葉を選んでいると、白銀の美女から想定外の言葉が飛び出した。


 「邪魔する気なら……排除する」


 穏やかな口調だった筈なのに、囁く様な声だった筈なのに、感情を感じさせない表情だった筈なのに、機装兵は冷たい汗が吹き出すのを感じた。

 機装兵は、目を見開き、我知れず大剣の柄に手を掛けた。


 舞い上がった金属片には沢山の穴が開いていた。


 抜き打ちで薙払いを放った機装兵は、舞い上がった金属片が自らの外腕だった事を知る。大剣の柄を握った機装の手が「ガシャン」と音を立てて地に落ちる。


 「硬いな……」呟く白銀の美女。


 更に見開かれた機装兵の目に映る、白銀の美女の両側に立つ人影。

 白銀の美女と同じような、体に密着した鎧。


 赤銀と青銀。どちらも筋骨逞しい男の体。


 次の瞬間、視界がガクンと傾く。

 焦げ臭い匂いが機装内に充満し、次の瞬間発火する。


 「うわぁぁああ!た、助け……」


 「救ってやろう、苦痛から」


 青銀の男が囁いた直後、機装兵は凍結した。


 場を支配したのは静寂……「ピシッ」と音を立て、機装兵が崩れ落ちるまで、誰も動かなかった。


 「て……敵襲ーー!」

 「総員迎撃!」


 慌ただしく機装に飛び込む兵士たち。


 「我ら機装兵団の力を見せてやれ!」

 「ケーブル接続!ゲージあげーーい」


 ダーーン!


 遠方からその夜最初の銃声が響いた。

 

 「北でも何かが……」

 「目の前の敵に集中しろ!回避を主に包囲陣!準備が出来次第撃て!」


 指示が飛び、銃が運び出され、次々と立ち上がる機装兵。


 「どうするのだカログリア、本来の目的とは違うが」


 「へっ!やっちまやぁいいんだよ!全て灰にしてやるゼ!」


 「……邪魔は……排除する……」


 青銀の鎧を纏った、青髪をオールバックにした、細目細眉の男が問う。

 赤銀の鎧を纏った、赤毛を逆立てた、太眉釣り目の男が吠える。

 カログリアと呼ばれた白銀の美女は、淡々と答える。


 ダーーン!

 チュイン!


 青銀の男の肩を銃弾が襲い、よろめいて膝を付く。

 微かに凹む肩部を見て、青銀の男は細い眉をしかめ、視線を巡らせた。

 視線の先、黒い筒をこちらに向ける兵士。


 「何だ?あれか?」


 青銀の男は、膝を付いたままの姿勢で、腕を横に振った。


 青白い光の尾を引いて、銃を持つ兵士の額に突き刺さるナイフ。

 ナイフから急速に冷気が広がり、兵士は凍結する。

 氷が厚くなる寸前引きぬかれたナイフは、ワイヤーによって手繰られ青銀の男の手に戻る。

 ナイフ中央の穴では、青白い光が冷たい光を放っていた。


 「この新しい武器アナアキの試験を、機装兵相手にできんだゼ!オイラ一人で灰にしてやんゼ!」


 「油断するな、今のツブテを飛ばす武器、恐るべき威力だ。完全防備にするのだ」


 三人がそれぞれ取り出した面を顔に当てると、面は飴の様に伸びて頭部全体を覆った。


 「……散開……」


 三人は各々の獲物を求めて戦場に散った。



 一際厳重な警備を敷く大型の馬車。その周りも騒々しさを増していた。

 馬車の中は広く、簡易ベッドと一対のソファーもある。

 馬車の中、苛立ち顔を隠そうともせず、長身痩躯の白長髪の男は声を荒らげた。


 「何事だ!砂嵐共の襲撃か!クアッダが先手を打ってきたか!」


 白い長髪を後ろに束ねて、ワハイヤダは部分鎧を身に付ける。

 鎧の装着を手伝いながら、執事が答える。


 「野営地の北と南で、同時に敵襲との事で御座います。詳細は報告を待つ状態ではありますが、どちらも数名との事で御座います」


 ワハイヤダは目を細める。


 「数名じゃと?何処かに本体が潜んでおるぞ、八方に偵察を放て。ラアサに勘付かれたかも知れん……ネヒマの豚めが密告したのかも……」



 奇襲・包囲・遭遇・偶然……そして運命(さだめ)


 この夜、月下の包囲戦の、全体を掌握する者は一人も居なかった。

 ある者は、陣中に突然奇襲を受けたと言い。

 またある者は、三色の悪魔が出たと言う。


 そしてある者は「ドラゴンと白い魔人の戦いを見た」と言った。

 二人が出会ったのは、偶然か必然か……あるいは……。



 「なんでお兄ちゃんトコ行くの邪魔するの!」


 「ドラゴン……滅ぼす」


 この周辺一帯は地形すら変わっていた。

 大地はえぐれ、木々は裂け、小川が干上がる。


 「なんだアイツら……機装でもまるで付いて行けん」

 「むやみに近づくな!巻き込まれる!」


 鬼神に匹敵する攻撃力と、鋼をも上回る防御力を持つ機装兵。

 その集団が、ドラゴンと白銀の戦士との戦いに巻き込まれ、一体また一体と数を減らす。


 時には四足で時には二足で縦横に森を駆け、一蹴りで樹木をなぎ倒す。赤地に白い水玉模様のリボンを付けたドラゴン【リンクス】


 対するは、人型でありながら人外の動きを見せ、突き出すレイピアで岩に拳大の穴を穿ちオノマさえ使う。体に張り付く白銀の鎧を身にまとった戦士【カログリア】


 カログリアの放つ超音速の突きを、リンクスが伏せて躱す。

 低い姿勢から振られる尻尾を、バク転で回避するカログリア。


 着地を狙って突き出された漆黒の短槍は、ギリギリ回避され、白銀の鎧の表面を滑る。

 飛び散る火花の向こう、カログリアの左手にあるのは緑の光球。

 咄嗟にジグザグに回避して距離を取るリンクスに、仮面の中で舌打ちしながら距離を詰めるカログリア。


 タイミングを見極めて放った緑の光球は、リンクスに回避され、その向こうに居た不運な機装兵を空中に巻き上げる。


 二人共お互いを視界に収めながら、高速で移動し、機装兵を倒しながら、十合二十合と打ち合っている。


 「異常な……ドラゴン……」


 「白いヤツ……強いの」



 混乱は連鎖し、何が正解なのか、何処が潮時なのか誰も判らない。

 ただ生き残る為に誰しもが戦い、己が信じるそれぞれの正しさの為に足掻いていた。



 

 


ここまで読んで頂きありがとうございます。


次回更新予定 水曜日 20時

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ