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34話 発見

 「ボクだってできるよ」


 「リンクスやるのーー」


 「アタイもやりたい」


 朝から賑やかだなぁ。


 ここはイナブから半日、ハリーブから二日の距離にある「イワン式」の外柵がある町だ。名前は……まだ無い。


 ソーセキかよ!と思ったが、作り始めたばかりの町や村では、よくある事だそうだ。人が増え町の形が決まり、特産物が出来たり、有名人が住むようになって、呼ばれた名で定着する事もあるとか。

 無論最初から名を持つ町や村もある。


 俺の脳内命名ではイワンの町だ。


 昨日深夜に赤毛のコキノスの娘「ボクっ娘アフマル」をハリーブから救出し、夜通し駆けてイワンの町まで戻ってきた。


 「ボクにやらせてよブラシ」


 「リンクスやってるの」


 「あ、じゃアタイその後の柔らかいブラシやる」


 おんなじ位の背格好の三人が、争ってやっているのは、馬の手入れだ。

 馬子のおっさんから教えて貰いながら、わいわいやっている。


 ちなみに俺は農場でバイトした事あるから、馬の手入れは大体判る。

 こっちの世界の馬の手入れも変わらんな。

 誰かが「ボロ爆弾」喰らわないかニヤニヤしてる。


 アフマルは普通に見えた。普通な訳無いだろうが、努めて普通に振舞っていた。

 健気な子だな。


 「リンクスに出来るんだったらボクにも出来るよ、だってボクの方がお姉ちゃんだもん」


 「どしてお姉ちゃんなの?」


 「だってほら、ボクの方がおっきいでしょ」


 よ〜〜っく見るとアフマルが一センチ位大きいかな?


 「アタイの方がおっきいんじゃない?」


 よ〜〜っく見るとリースがリンクスより更に一センチ小さいかな?


 子供の距離感って良く分からんな、昨日までリンクスのドラゴン姿みて気絶したり、酸欠なるまで悲鳴上げたりしてたのに……。


 「しっかし、コイツら急に大人しくっつうか、堂々とつうか。こっから連れ出した時は、暴れ馬で大変だったのに」


 馬子が二頭の馬を、不思議そうに眺めている。


 そりゃドラゴン乗せたら一気にふた皮位剥けるだろうよ。喰われる恐怖さえ開き直っちまえば、こんな頼もしい乗り手も居ないだろうし。


 二頭の黒馬は、ブラシは自分で持ってくるし、蹄に油塗ろうとすれば、サッと足を差し出すが、俺とリンクス限定。

 他の人が世話すると「我慢シテマス」って顔してる。


 「シロもクロもお利口さんなの」


 ヒヒーーン


 チョットマテ


 今、馬達の事を「シロ、クロ」って呼んだか?

 どっちも黒いんですけど。どっちも喜んでるんですけど。

 俺が付けようとした「マツ○ゼ、黒○号」を拒否ったくせに。


 どっちがシロでクロか判らん。


 シロとクロの世話をしている間に、アフマルは寝藁でウトウトしている。

 無理もない。

 コキノスの夢から察するに、赤ん坊の時から監禁状態で、外に出たことも無いのだろう。ハリーブからの移動だって、リンクスに抱きかかえられながらも辛そうだった。


 何故監禁されていたのか、後で聞いておかなきゃな。コキノスならば力ずくで連れ出す事も出来た筈だ。何か理由がある。病気か何かなら、治療なり薬なりが必要になってくるだろう。


 「ジョーズさん、毛皮なめしておきやしたぜ」


 おっと忘れてた。厩に現れたのは、盗賊団のメンバー。

 その手には丸めても両手で抱える大きさの、片羽熊の毛皮。


 「しかし大物ですね〜コレ、ジョーズさんが殺ったんですかい」


 あ、良いこと思いついた。リンクス〜。


 「その毛皮で、シロとクロのアオリ?作ってなの」


 「え?シロ?クロ?どっちも黒いですぜ?」


 だよなぁ。普通そこ突っ込むよなぁ。

 障泥(あおり)は鞍の下に敷く布だが、ワニマントの経験から、強い魔獣の革等を身に付けていれば、それよりも弱い魔獣が寄ってこないと思われる。

 片羽熊のランキングは判らないが、何も付けないよりはシロとクロを守ってくれるだろう。


 シロとクロの水を汲みに井戸に向かったら、メンバーに呼び止められた。


 「この札がねえと井戸には近寄れねぇです」


 そう言って銅板をチラリと見せ、一緒に付いて来てくれた。

 ラアサだな、こんな事考えるのは。


 ナツメ商会が競合する宿場町を潰すのに、井戸に毒を投げ入れると言っていた。

 井戸は生活の中心。そこを守る為に井戸に小屋を建て、通行証を持たいない者は小屋に入れない様にしてあるとか。


 そして井戸の滑車を見て驚いた。


 バケツが逆さに降りていき、横穴に吸い込まれて、水を汲んで上がってくる。

 この井戸クランクになってやがる。


 これなら毒を放り込まれても水に落ちない。さらにバケツに毒を入れようとしても、下がって行くバケツは逆さま。


 ラアサあったまいい〜〜。


 厩に水を運び、完全に寝てしまったアフマルを抱えて宿屋へ。リースと盗賊団のメンバーにお守りと留守番を頼んで、俺とリンクスは再び厩へと戻ってきた。


 休む間もなくハリーブへ取って返す為だ。


 ワハイヤダの動きは掴めていない。まだクアッダに居るのか、ハリーブに向かっている最中なのか、あるいは入れ違いでハリーブに入ったかも知れない。


 ここからの行動は繊細さが必要になってくるだろう。

 まずはワハイヤダの動向を掴むのが最優先か。


 ハリーブから軍勢が出た様子は無かった。街道に軍勢の足跡は無く、ハリーブには物資があった。


 さてと。


 ワハイヤダになってみる。


 俺、ワハイヤダは派閥抗争で焦っている……だったかな。

 自分が推し進めた「銃によるクアッダ制圧」の評価をより高める為に、クアッダ王暗殺を企てる。


 だが失敗。

 コキノスと言うカードを失う。


 ここから行ってみるか。

 成功していた場合のプランはどうだった?


 クアッダ王の死で混乱する王国を襲撃するのが、最も効果の高いプランだな。

 となると既に部隊はクアッダ周辺なのか?


 だがハリーブから部隊が動いた形跡は無かった。

 ラアサの妨害工作が効いて遅れているのか、あるいは別の場所からなのか?


 もっかいワハイヤダになってみる。


 暗殺は失敗した。

 国王崩御の混乱は無く、今までに無い程の戦力がクアッダには集中している。

 暗殺者の背後の調査が進めば、ナツメ商会、ワハイヤダにも火の粉が迫る。

 犠牲の羊にされるかも知れない。


 最短の時間で可能な限りの増援をもって、全てを葬る為にクアッダを襲う。

 こんな所か。


 何か忘れてる気がする。思いだせ。

 ラアサの語った情報の中に……。


 ここ最近、やけに物資の搬入が多い鉱山が……。

 鉱山に運ばれる荷を襲撃して兵糧攻めを……。

 ガードが固く情報が掴めない……。


 ワハイヤダの部隊はハディード鉱山か!


 以前潜入した時は、隠し部屋の向こうの学者に遭っただけで、脱出してしまった。もっと奥に施設が在ったのかもしれない。


 『行けるかリンクス』


 『食べれば眠くないの』


 シロとクロが頭絡(とうらく)を咥えて来る。

 いや、お前ら夜通し走ったんだから無理だって。

 他の馬の縄を解こうとすると、邪魔をする。


 「ジョーズさん熊の毛皮の裁断出来ましたよ。紐つけりゃ使えます」


 片羽熊の毛皮で作った、シロとクロの障泥(あおり)がもう出来上がった。

 型があれば切るだけだからな。


 シロとクロは、頭絡(とうらく)を俺に持たせると、障泥(あおり)を咥えて自ら背中に乗せ、蹄を踏み鳴らした。まるで「まだ行けるぜ」と言わんばかりに。


 分かったよ、行くか。


 シロとクロの為に黒砂糖を多めに積み、馬具を装着する。片羽熊の障泥(あおり)似合うじゃないか。ワイルドでいい感じだぞ。


 俺達は颯爽と黒いシロと、黒いクロに跨がり、ハディード鉱山を目指した。

 


 半日後、ハディード鉱山目前。


 日の落ちた森の中、俺達は暫しの休息を取った。

 ヘトヘトで乗り込んでも、駄目な気もするし、判断力も鈍るだろう。


 それに、シロとクロがガス欠だ、小川のそばでご飯なう。

 前にもこの辺で狩った蛇尾フクロウと狼牛をいただく。


 『狼牛なのーー』


 狼牛はリンクスが好物の為、殆ど一人で一頭平らげてた。

 勿論俺が口付けるまで喰わないんだが。


 蛇尾フクロウが少し余った。腹がキツイが頑張って食べようと、立ち上がってトントンと跳ねる。何となく胃袋に隙間が出来た気がする。

 見ると、シロとクロがフクロウの肉を見つめている。


 え?食べるの?


 意を決した様にフクロウの肉に食いつくシロとクロ。

 馬って草食じゃないの?厩でも牧草喰ってたと思ったが……。


 食い千切れ無くてエライ苦労してる。

 食事中に悪いが、口を開いて歯を見てみる。

 やっぱ草食じゃねーか。喰ってみたかっただけなのかね。

 子供が大人の食い物欲しがるみたいに。


 俺は、フクロウの肉と狼牛のバラに付いてる肉とを、合挽き肉にしてやった。

 頑張って食べてる。時々ゲーゲー言いながらも食べてる。

 あれか?馬使い荒いご主人様だから「精つけなやっとれん」って感じか?


 腹が膨れた所で、鉱山入り口が見える丘から様子を伺う。


 『ビンゴなの』


 『まだ出発してないようだな』


 鉱山入り口は多数の光のオノマで照らされ、大型の馬車が十台見える、その荷台には人が入れるサイズの円筒状のカプセルっぽいのが六個積まれている。

 傘のマークは描かれてないが、あれからバイオ兵器が出てくるんだな。

 こっそり培養液抜いて、カピカピにしちゃうんだからね。


 大型の馬車が一列になって、ゆっくりと移動を開始した。

 馬車を引くのは馬では無く。


 パワードスーツ


 あれが機装兵か!

 うおお!テンションあがるううう!

 アナ○イム製か? ネ○フ製か?


 人の大きさから推測するに全長はニメートル半位だろうか。

 サイズ的には装着型か乗り込み型か微妙だな。

 全体的に流線型の丸みを帯びたフォルム、胸部がキャノピーになっていて搭乗者の顔が見える。脚部はトリ型モデルだ。

 

 ん?胴体中部と下部に間接付きの棒が生えてるな……。

 あれは……内腕と内足か?


 内腕内足とは、胴部に生えた細い間接に腕や足を入れ、それをセンサーとして

外腕外足がトレースする方式だ。

 足はトリ足だからトレースじゃ無いけど、ヒト足よりも重量、運動性、エネルギーコストの面で上回る筈だ。


 毎月一冊づつ部品付きで、初回だけ安いアレで読んだ覚えがある。

 途中買いそびれると、一気に詰む確率上がるアレだ。


 バックパックには、肩装甲と同じ位の大きさの円筒が左右に縦二列、計四個付いてる。……まさかイン○ム!なわきゃ無いか。

 大型馬車を引く機装兵には銃は装備されて無いみたいだ。


 馬車に積まれたカプセルは相当重いのか、馬車自体も頑強で車輪も太い。

 その馬車一台を機装兵が四体で引いている。


 『ストーリーキングするの』


 『ストーキングな』


 脱いでどうする。

 こんな夜に移動を開始するんだから、まだ戦端は開かれてないかもしれない。夜の間は警戒もしているだろうし、今出発したばかりならモチベも高いだろう。

 今度こそは兵法に則って夜明け前の奇襲だな。


 『ホモジジさがすの』


 ほもじじ?ああワハイヤダか。掘られそうだったのはコキノスの記憶であって、俺が襲われた訳じゃないんだが。うっ、思い出したら悪寒が……。


 でもそうだな、こんだけ行軍が遅いなら偵察してもいいな。

 シロとクロは見つからない様に付いて来れるかな?


 ヒヒン


 その顔は任せろ!って顔だな。

 相変わらずこの世界の動物は表情が豊かだ。


 こうして俺とリンクスは、姿を消して強行偵察を試みる事になった。



 「居たぞーー!北に逃走中!」

 「輸送部隊は荷から離れるな!」

 「水のオノマは使うな!泥濘んだら馬車が動かなくなる!」


 ハァハァ


 「伏せろ!」


 チュイン!

 ダーーン!


 うお!撃って来た!

 すまんリンクス、俺がドジっちまった。



 俺とリンクスは姿を消して、敵陣深くまで入り込んでいた。

 そして異様に警備の厳重な大型の馬車を発見した。顔は見ていないがワハイヤダで間違い無いだろう。

 夜明け前までまだ時間があった為、一旦敵陣から距離を置くことにした。


 そこで俺が、欲をかいたのがいけなかった。


 どうしても気になるカプセル。俺の予想ではヌルヌル系の生体兵器がカプセル内でコポンコポンしてるはずなんだ。

 今、カプセルに穴を開けて培養液を抜いとけば、奇襲を掛けた時に……。


 「リ○カーを出すぞ!覚醒液濃度あげぇぇい」

 「な!なにい!」

 「こいつ……腐ってやがる」(髭)


 ってなる予定だったんだ。


 所が現実は……。



 『リンクス、穴開けたらなんか飛び出して来るかも知れないから油断するなよ』


 『らじゃなの』


 俺はタンク下部に盾剣を突き刺す。

 だが予想に反して、タンクから漏れて来たのは生暖かい空気だけ。

 培養液じゃないのか……ならば。


 俺は大きく振りかぶってタンク中央を貫いた。


 バチバチッ。


 『アバ!ババッ!ババ!し、痺れる〜〜』

 『きゃーーお兄ちゃーーん』


 ぽて

 しゅ〜〜〜〜ぷすぷす


 感電した。

 破裂したタンクからは水が溢れだす。


 「て……敵襲ーーー!」

 「起きろ!敵だーー!」


 小男に迫る刃、リボンの少女が二人まとめて蹴り飛ばす。

 更に別の刃が三本、小男に迫る。


 『お兄ちゃん起きて!お兄ちゃん!』


 ギィィイイン


 刃が肌に到達する寸前。俺はリンクスの声を聞き、意識を取り戻す。紙一重で発動する「お断り」三本の刃は俺の肌に弾かれる。


 痛ってえ。


 一瞬意識飛んでた。アブネ。

 最初の「ビリッ」で運良くリンクスと手が離れたお陰で、感電したのは俺だけ。

 二人で気絶してたらヤバかった。


 『お兄ちゃんによくもなのーー』


 リンクスが俺を切りつけた兵士を、背中から取り出した漆黒の短槍で、一人また一人と貫いてゆく。

 短槍は肋骨を砕き、心臓を捉え、背中まで突き抜けた。毒を発症するまでも無い、即死だ。


 「ひ!ヒィィィイイ!」

 「ド、ドラゴンだーー!」


 変身を解いたリンクスを目にして、わっと逃げ散る兵士達。


 「引くな!機装兵も銃もある!ドラゴンスレイヤーとして名を上げよ!」


 鋭い檄が飛び、逃げ散った兵士達が足を止める。

 マズイ俺はまだ筋肉が萎縮してて上手く動けない。


 「銃を準備しろ!ケーブルの長さは!?」

 「は!丁度、九・一四メートルです」


 「二本繋げ!機装兵前へ!」

 「ゲージあげーーい」


 『ひとまず退散なの』

 『すまん』


 そして今。


 リンクスをも撃ち抜くやも知れぬ銃。

 満足に動けない俺。

 更に部隊の南、俺達の反対側では別の混乱が起きていた。




 

 


 


ここまで読んで頂きありがとうございます。


次回更新予定 日曜日 20時

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