表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/124

28話 VSオノマ

 「オ!オノマです!!そこ逃げて!」


 会場に響く絶叫。


 決勝六戦目、俺は赤毛のオノマ使い「コキノス」と対戦していた。

 コキノスが放った炎のオノマを俺は躱したが、小さな炎はリンクス達の居る特等席へと飛んで行った。


 当たればレンガをも溶かす高熱を発する小さな炎がリンクス達に迫る。


 「「「……土の壁よ。今ここに。立ち上れ!」」」


 突如地面から突き出た扉程の土の壁が、隙間なく両隣に数を増やす。


 土の壁に触れた小さな炎が、二十センチ程に膨れ上がり、高熱を発する。

 熱を遮る様に、今度は五センチずつの隙間を開けて、手前側に二重三重に突き出る土の壁。


 横に十枚、手前に三列出現した、合計三十枚の土の壁は、火球が消えると同時に土に還った。


 「「「お怪我ありませんかリンクスたん!」」」


 リンクス達の前、火球を遮る様に地面に両手を付いて並んでいるのは、三十人の鬼神達だった。


 「な!何と!あわや大惨事を防いだのは、三十名の鬼神の方々!リンクス選手の応援の方々です!盛大な拍手を!」


 「「「わぁぁああああ」」」


 会場から盛大な拍手が沸き起こる中、赤髭を始めとする鬼神達はリンクスに恭しく頭を垂れる。


 ちょ、リンクス。なんでそうなってんの?そこだけリンクス王国なの?


 「ありがとなの。ここは大丈夫だから、みんなを守ってほしいの」


 「あぁぁリンクスたん、何て優しい……」

 「「「了解しました!」」」


 鬼神達は闘技場を囲むように、円の外側に等間隔にしゃがむ。



 貴賓席


 「これは素晴らしい……これならオノマの被害はずっと小さくなりますな」


 興奮した顔で目を見張る老執事。

 隣に座るクアッダ国王も同じように興奮していた。


 「土壁のオノマが使える三十名の鬼神……欲しい!欲しいぞ!」



 特等席


 「驚いたのである!」

 「三十名の一糸乱れぬ集団オノマなんて初めて見ましたよ」

 「それよりも師匠の動き、オノマを読んでた様な……」


 「そう!ソコもですよ。謎は深まりますね」

 「さすが兄貴!」



 闘技場


 土の壁の出現に目を奪われた俺は、劣勢に立たされていた。

 赤毛のレイピアは鋭く、素早いステップで俺を攻め立てている。


 痛ってぇ!


 俺の未熟な防御は、時折レイピアの侵入を許してしまう。


 それでも俺は、時折赤毛がオノマを呟こうとする度、首と左手に攻撃を集中させ、妨害を試みる。


 「くっ、貴様もオノマ使いか」


 赤毛はオノマを効果的に妨害されているせいで、俺もオノマを使えると思ったらしい。ふふふ、オノマどころか喋れませんけど。


 俺は右手の鱗剣を鞘に収めると、右手の親指と人差し指で「Cの字」を作った。


 キツイ目元に更に険しさを増して、距離を取る赤毛。


 掛かった!


 俺は右手を盾で隠し、唇を微かに動かす。


 舌打ちを一つして、ジクザグに回避運動を取る赤毛。

 

 派手に回避運動を続ける赤毛に、ジリジリ距離を詰める俺。

 今度はお前が疲れてくれ。俺は呼吸を整えさせて貰う。


 なるほど。

 回るよりも、ある程度オノマの方向を限定した方が対処しやすいのか。


 オノマ使いを相手にする時はこうするのが良いのかも知れない。

 勉強勉強。


 呼吸が整った所で、オノマを諦めたフリをして鱗剣を抜き一気に距離を詰める。

 二本の剣、盾の殴打、時折放たれる足払い。


 息の上がった赤毛は、動きが鈍って捌ききれず、傷が増えてきた。


 「ここに来てアニキ選手ラッシュを見せるーー!このまま一気に勝利を掴むことが出来るかーー!」


 「コキノス殿は何故、あれ程の回避を続けたんでしょう」


 「判らないのである」

 「師匠が激しく威圧したんですよ」

 「兄貴が踊って見せろって言った」

 「下かラ、下着覗いてタ」


 「ガビール、一ポイントなの」


 何遊んでやがる、リンクス通して聞こえてるぞ。

 こっちは決め手不足で困ってんだ。


 俺はラッシュの最中、相手に手の届く程の距離で、再び鱗剣を鞘に入れた。


 ギョ!っとしてジグザグに距離を取る赤毛を、場外に追い込んで行く。

 足元を見て場外に出てしまった事に気付いた赤毛は、軽く左手を上げて何かを呟く。


 「お?おっとー?コキノス選手忽然と姿を消しました!消えた時点で場外に居ましたのでカウントが開始されます!」


 『あらいの』

 『ああ、粗いな』


 光のオノマを使って姿を消した赤毛だが、リンクスに比べると光の制御が粗い。

 俺には揺れる空気が見えている。


 左右にゆっくり動く度に、俺が円の内側ギリギリで向き直る。

 諦めて時間切れまで場外に居てくれないかな。


 赤毛を押さえつけているのは、盾に隠れた俺の右手。

 つまりオノマのハッタリだ。


 一度も俺のオノマを見ていないのに、オノマを躱され、妨害され、光のオノマすら見透かされて通じない。

 その積み重ねが、俺のオノマに対して過度の警戒をさせている。


 諦めたか?そう思った瞬間。


 歪んだ空気から赤毛が姿を表し、両手の間に五つの小さな炎が浮かんだ。

 ちっ、そう上手くは行かないか。


 小さな炎は一直線に五つ飛んだ。

 赤毛は俺が避けた所で闘技場に戻るつもりで、距離を詰めている。


 ちょ!避けられないだろ!後ろの鬼神が集まっても、五連の炎は多分防げない。

 どうする!

 考えろ!


 オノマは当たった所で火球に膨れたハズだ。

 俺は腰のナイフを鞘ごと投げた!

 頼むぞ俺のコントロール!


 ボウッ!

 よっしゃ!発火した!


 ボウッっともう一度発火して後続の小さな炎も火球となった……が。


 ……あれ?音二回だけ?


 ぐっ……俺の投げたナイフは4つ目の小さな炎に当たったのか。

 上手く五つ目を巻き込みはしたが、小さな炎が三つ俺に迫っている。

 俺は後ろをチラリと振り向いた。


 やったる!


 大気圏突入する気でやったる!

 オレこの攻撃耐えたら、単独で大気圏突入するんだ……。


 息を大きく吸い込んで、右手も盾の裏側に当てて念を込める。


 熱っつ


 小さな炎は盾に触れた瞬間に、火球になり膨大な熱を放出した。


 二つ目。

 三つ目。


 「あーーっとアニキ選手!炎のオノマを避けない!後ろの観客を心配したか三つのオノマを受けたーー!」



 貴賓席


 クアッダ国王は椅子を後ろに転がし、貴賓席から落ちるのではないかと言うほど身を乗り出していた。


 「我が民を守るために、再び身を晒すだとぉぉぉおお!」


 「陛下!陛下!ご自重下さい!」


 老執事は国王のベルトを掴んで落ちない様に懸命に引っ張っていた。



 特等席


 「師匠ォォぉおおお!」

 「兄貴ィィぃいいい!」

 「うおォォぉおおお!」

 「ひいィィぃぃいい!」


 「おいおいなの」



 闘技場


 静まり返った場内、誰一人言葉を発しようとしない。


 闘技場の円内に立つのは、消し炭と化した小さな男だけ。

 オノマを放ったコキノスは、炎に包まれながらも動けば反応するアニキに、結局闘技場内に戻れなかった。


 ぱらり


 ススが一欠片落ちて、消し炭が動いた。

 開かれた目は、今なお対戦相手であるコキノスに向けられている。


 「ま……参りました。そのオノマを撃たないで……下さい」


 既に場外負けが確定していたコキノスではあったが、恐怖に青ざめた顔で改めて敗北を宣言する。


 盾に隠された右手が、ゆっくりと姿を現す。

 その右手が形作るのは「Cの字」では無く。


 ファ○ク


 中指が立てられていた。



 「「「うおおおおおおおお!」」」

 「「「アニキ!アニキ!アニキ!」」」


 熱狂に包まれる会場。


 「生きてます!生きていますアニキ選手!」


 「こ……これは……盾がどうとか言う話では……無いでしょうな」


 駆け寄ろうとするリンクス達を右手を上げて制して、俺は鉄子を見る。

 まだ勝利宣言がされていない。


 「え……アニキ……様、そんなお姿で見つめられたら……私……」


 何を言ってるんだ鉄子。さっさと勝利宣言してくれ。

 鉄子が何故か顔を赤らめて居ると、会場から囁きが聞こえる。


 「アニキ様ってちいさな巨人だったんですわね」

 「ギャップがジュって来ますわ」


 『お兄ちゃんかくすの』

 『へ?』


 うおぉおぉぉお?


 装備が全て燃え落ちていた。

 盾剣が生えているだけで、生まれたまんまの姿だった。

 髪の毛すら無い。


 「アニキ様の完全勝利でございますーー!!」


 鉄子の勝利宣言で再び会場は熱狂に包まれたが、完全勝利ってなんだよ。 


 フェルサとガビールが「俺がオレが」と争っている内に、シルシラがワニマントを羽織らせてくれた。

 ありがとうシルシラ。全く弟子も舎弟も当てにならん。


 ……と思ったらシルシラが、片膝を付いて頭を垂れている。

 いや、ありがたいけどマントで弟子入りゴリ押しされても……。


 「民の為ニ、その身を投げ出スお姿、流石は我がマイマスター一生お仕えしたク、改めて心に誓いましタ」


 は?まいますたー?


 「シルシラ殿、弟子入りは諦めて奴隷として仕えるのであるか」


 「はいイーラ殿、身の丈を五センチ差し出ス術を知りませんのデ」


 五センチのネタまだ引っ張ってたのか……。


 「明日はいよいよ武闘大会最終日!準決勝と決勝の三試合が行われます!皆様ご期待下さい!それではごきげんよう!」



 数十分後、俺達は服屋に居た。


 俺の装備が全て燃えてしまった為に新調するのだ。

 正直服なんて「清潔であればどうでも良い」と思っていた俺だが。


 最初にガビールが連れて行こうとした服屋は高級店だったらしい。

 シルシラが「明日モ戦うのですかラ、安くとモ丈夫な物ヲ」と、丁度真向かいにある店に入った。


 リンクスが向かいの店を見ている。

 美味そうなニンゲンでもいたのかな?


 服は店の人に選んで貰う。


 「師匠にはもっと神々しいのが似合うかと……」

 「アニキは赤が似合うっすよ」

 「マントとノ色合いヲ……」


 どうでもいいから早くしてくれ、マントの下マッパなんですけど。


 ん?これ俺?


 試着して、見せられた鏡を見て違和感を覚える。

 コッチの世界に来て初めて鏡を見たが、髪の毛はおろか、眉毛もまつ毛も無いせいかも知れないが、自分の顔とは思えない。


 心なしか若くなってる様な……まさかな。


 どうしても払わせてクレと、譲らないシルシラの好意に甘えて、服はシルシラに買って貰った。ありがとう。


 店を出るとリンクスが、向かいの店のショーウィンドウ前で右を向いたり左を向いたりしている。

 ガラスに映る自分の姿と、中に飾ってある衣装を重ねてるのか?


 見ると、可愛いピンクのフリフリが付いた、赤いショートドレスに、頭には白い水玉の赤い大きなリボン。

 こうゆうのが好きなのか……はぁ!?


 一千万クルシュ!?

 串焼きニ十万本分!?


 「靴だけでも二十万クルシュか、成長期の子供の服とは思えんな」

 「見ろあんなペラペラなグローブが十五万クルシュだ」

 「あれでハ、戦えなイ……」


 いや、戦闘服じゃ無いから。

 全部で一千万クルシュなのか。


 よく観察するとリンクスが見てるのはリボンのようだ。

 ガラスに映る自分とリボンを重ねて、頭辺りに合わせている。


 『欲しいのか?』


 『……』


 リンクスはリボンを見つめたまま「フルフル」と首を横に振る


 『帰ろ、なの』


 十五万クルシュ。


 俺はリンクスの頭にポンと右手を乗せると、高級店へと入った。


 「いらっしゃ……」


 驚いた表情を見せるツインテールの店員。

 だろうな、俺でも安物の服着た毛の生えてない小男が、高級ブティックに入ってきたら驚く。

 いや、安物って言ってごめんなさい。感謝してますシルシラさん。


 ショーウィンドウに飾ってあるリボンを丁寧に持ち、カウンターに置くと、俺はワニのマントを外してカウンターに置く。


 これと交換したいんです。

 お願いですから通じて下さい。


 「う、腕が剣……」


 ツインテールは狼狽するばかりで、商談にならない。

 俺はワニバッグから鱗のナイフと、ワニ革の袋に入れられた鱗を組み合わせた剣も取り出し、マントに乗せる。

 今の俺の全てだ。


 鱗剣も、もう一本の鱗のナイフも、さっきの炎のオノマで炭になっちまったし、ラアサから預かった路銀は皆の金だ。


 頼むから通じてくれよ。

 俺がリンクスに買ってやりたいんだ。


 「師匠、何か欲しい物でもあったんですか?」

 「兄貴、今度はオレが払うッスよ」

 「一回帰っテ、取ってきまス」


 入ってきたメンツを見てツインテールは目を白黒させた。


 「ガビール様にシルシラ様?フェルサさんに……リンクスちゃん?」


 ツインテールは俺の顔を再び見つめる。


 「やっぱりアニキさんですよね?」


 頷く俺を見て女店員の顔がパァっと明るくなった。


 「店長!店長!有名人来ちゃいました!」


 それからの展開は俺の予想とはかけ離れた物だった。


 奥から出て来た派手な熟女は、俺達一行をそれはそれは丁重にもてなした。

 椅子が用意され、お茶と菓子が出され、武闘大会の話を興奮して聞く。

 何かもう、アイドルに出会った女の子かよって反応だった。


 リンクスはずっと店の入口の柱の影から店内を覗いている。

 お茶菓子が出て来ても動かない。


 「あ!店長!アニキさんがリボンを譲って欲しいようで」


 つ、通じたーーーーーーーーー!

 お前いいヤツーーーーーー!


 「これは見事なナイフですわね、装飾も素晴らしいですわ。このナイフだけで十分です」


 俺は包装を断り、その場でリンクスの左耳に大きなリボンを結んでやった。


 一瞬だけ歪んだ大きなリボンは、少女姿のリンクスの頭にフィットし、オカッパの黒髪に映える赤地に白い水玉のリボンは、まるで初めからそこに在ったかの様な一体感を見せた。


 『いいの?本当にいいの?』


 『似合うぞ』

 「きゃ〜〜なの!」


 リンクスは店の中をはしゃぎ回った。


 「にあう?お兄ちゃんが買ってくれたの!」

 「にあう?お兄ちゃんが買ってくれたの!」

 「にあう?お兄ちゃんが買ってくれたの!」

 「にあう?お兄ちゃんが買ってくれたのーー!」


 フェルサに、ガビールに、シルシラに、そして店長にもツインテールにもリンクスは体一杯に喜びを表現した。


 鱗のナイフ以外を返してくれる店長に再度頭を下げて感謝を表すと、リンクスが居ない。声のする方へ視線を転じると、溢れだす喜びを道行く人にも振りまいていた。


 「にあう?お兄ちゃんが買ってくれたのーー!」



 その日の晩はガビールが夕食を御馳走してくれると言うので、ガビール邸まで服屋から移動したが、すれ違う全ての人にリンクスは俺が買ってくれたと自慢していた。


 そこまで自慢するほど高い物じゃ無いが。

 ここまで喜んでくれるとこっちまで嬉しくなるな。


 『ありがと大事にするなの』


 『ありがとな』



 夕食時、来客が告げられ食堂に二人の人物が招き入れられた。

 商人風の壮年の男と付き従う初老の男。歩いているだけで判る程、どちらもかなり腕が立つ。


 ターバンを頭に巻き、頬からビッシリと濃い髭に覆われた顔の下半分。

 好奇心溢れる活力ある瞳。愉快そうに歪む口端。


 「貴様がアニキか……もっと大きいと思ったが」


 悪かったな。


 「今日は我が民を身を挺して、二度も救ってくれた事、礼を言う」


 この国でワガタミなんて言っていいのは只一人だと思う。


 クアッダ国王が現れた。  不明

              不明

             >ガビール


 あーー、どうすりゃ良いか判らん。ガビール助けて。

 

 

 



 

 


 


ここまで読んで頂きありがとうございます。


次回更新予定 日曜日 20時

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ