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25話 鉄鎖VS技鬼神

 決勝戦第三試合。


 鉄鎖術の使い手シルシラと鬼神フェルサの戦いは始まった。


 ハジメの合図と同時にシルシラの鎖が、手元から波打ち、生き物の様にフェルサを襲う。

 フェルサは板剣を体の中心に構えたまま、大げさな程遠くまで飛び退いた。


 「慎重ですねフェルサ選手」


 「そうですな。鬼神とは言え、鉄鎖術はそうそう目にしないはず。一瞬のミスが勝敗を決する決勝の舞台、慎重にならざるを得ないようですな」


 地面に再びS字に収まった鉄鎖を警戒し、回りこむように移動するフェルサ。


 その動きに対応して、シルシラは鉄鎖を地に這う蛇の如く動かしながら、鉄鎖を挟む様に回りながらフェルサと対峙する。


 シルシラは三度の牽制の後、手繰り寄せた鉄鎖を一メートル半の長さに握り、体の横で振り回し始めた。


 地面に鉄鎖を配すのが防御の型だとすると、さしずめ攻めの型か。

 来るぞフェルサ、集中だ。


 ダッ


 跳躍し一気に距離を詰めながら、頭上から鉄鎖を振り下ろすシルシラ。


 横へ回避したフェルサが距離を詰めようとしたその時。シルシラが鉄鎖を持つ手首を翻すと、鉄鎖は軌道を変え、横にかわした筈のフェルサを強かに打ち付けた。


 前のめりに倒れ、膝をつくフェルサ。


 「ファーストヒットは鉄鎖術のシルシラ選手!しかし何故フェルサ選手は横から攻撃を受けたのに前に倒れたんですか」


 「鉄鎖や鞭は巻き付いた先端の方が、遠心力で威力が上がるんじゃ、今の場合腕よりも、背中の衝撃がはるかに大きかったようですな」


 ファーストヒットを奪ったシルシラではあるが、片膝を付いたにも関わらず、フェルサが板剣を正中線からずらさなかった為に追撃を躊躇していた。


 それから暫く、シルシラが攻め、フェルサが躱す攻防が続いたが、フェルサは一度も板剣で鉄鎖を受けなかった。


 下手に受ければ、板剣を巻き取られてしまうのが分かっているのだろう。


 ふーっと深く息を吐くと、フェルサはあろう事か板剣を背中の鞘に収めた。


 「なんと!フェルサ選手鬼神の代名詞とも言える板剣をしまいます」


 「負けた時の言い訳ですな、手も足も出てませんからの」


 無手となったフェルサは、やや左手を下げたファイティングポーズで不規則にステップを踏み、シルシラの周囲を時計回りに回り始めた。


 『まだ早いの』


 『だよな、左手の剣の軌道をまだ見てない』



 貴賓席


 「この鬼神も初めて見るが、板剣を収めるとは面白い、何をする気だ?」


 「イーラ殿を倒したアニキを、師匠と呼び、付き従っているようです」


 「鬼神が鬼神以外に弟子入りとは珍しいな……アニキなる者の情報を集めよ」


 「かしこまりました」


 豊かな髭を擦りながら、上機嫌で闘技場を見下ろすクアッダ国王。

 執事は軽装の男を呼び、耳打ちすると再び国王の傍らに佇んだ。



 闘技場


 ステップを踏みながら右へ右へと回りこむフェルサに、シルシラは舌打ちをして地面の鉄鎖を巻き上げ、頭上で回転させ始めた。


 ここまでは予想通りだな。

 ニンゲンの腕の構造は外から内に振る力より、内から外に振る力が弱い。


 テニスで言えばバックハンドよりフォアハンドの方が力のあるショットが打てる人が多いのと一緒だ。


 「フェルサ強くなったの」


 『そうだな相手の嫌な所に上手く付け入ってるな』


 「え?どうゆうことですかリンクスちゃん、フェルサ殿は何もしてませんよ?」


 リンクスの言葉に一本髪が反応する。

 教えてやれリンクス、この学習能力の低い「ぎゃふん」に。


 「フェルサ、ススッてするの、鎖、ブンってした後なの」


 「……えっと、分かりません、すいません」


 コチラコソ言語能力低くてスイマセン。

 俺は喋れないし、図解しようにも呪われてるし……。


 フェルサ!負けてもいいから元気で帰ってきて!

 俺達にはお前の戦闘力よりも言語力が必要だ。


 最近のフェルサの、リンクスの意図を汲む力は素晴らしいモノがある。

 昨夜、肉欲しさにクアッダを抜けだして狩りに行った時なんか。


 「ファ○ネル!」

 「承知!」


 の、やり取りだけで連携してた。

 いつの間にサイ○フレームに変えたんだ。

 教えてくれないとチェ○ン怒っちゃうよ。


 「シルシラ選手!頭上の鉄鎖を、短く持ってより早く振り回します。リーチ面で折角の優位を捨てている様に思えるのですが、どうなのですか解説のファムさん」


 「フェルサ選手の無手に対して、シルシラ選手も無手で応じるつもりですかな。プライドのぶつかり合いですな」


 「何も分かって無いのである!」


 腹に響く声と共に、俺の側にドカッと腰を降ろしたのは、イーラ。

 何処か別の場所で観てたのか?


 「ナフル殿、今あの場所で主導権を握っているのは、フェルサ殿なのである」


 「イーラ殿分かる様に説明頂けますか」


 イーラは闘技場から目を離さずに、語った。


 まず、シルシラの右に常に移動をする事によって、鎖を振り下ろす攻撃を封じた。攻撃を躱されれば背中を晒す位置を取られてしまう。


 フェルサの意図を察したシルシラは、右側をカバー出来る横からの振り回しに切り替えた。


 ところがフェルサは、振り回される鎖の先端が自分に迫るタイミングでツツッと距離を詰めたり、更に右に回り込む素振りを見せる。


 鉄鎖の攻撃は振り回す先端が使用者の左側から後方に位置する時に発動する。

 言い換えれば使用者の右側や正面に先端があるタイミングでは、対応が遅れるのだ。


 対応の遅れるタイミングで動かれるのを嫌ってシルシラは隙を少なくするべく鉄鎖を短く持って回転を上げる。


 結果鉄鎖の長所であるリーチ、遠心力に依る威力増加の両方を失う。


「とまあ、回っておるだけに見えて高度な攻防なのである」


「す、凄いですね……」


 そこまで見えてるか、イーラすげえ。

 付け加えると無手になったのは、「鎖を掴んで力勝負するぞ」って心理戦仕掛けて、大胆な攻撃を控えさてるんだと思うぞ。


 「あーっと!膠着状態から仕掛けたのはシルシラ選手!フェルサ選手の足元を鉄鎖が襲う」


 選択肢を狭められたシルシラが、フェルサの足を絡め取ろうと鉄鎖を振るう。


 『飛ぶなよ、誘われてるぞ』

 『飛んじゃダメなの』


 「フェルサ選手!鉄鎖を引きつけて……飛んだーー!」


 『飛ぶなーー』

 『なのーー』


 飛んだフェルサを見てニヤリと笑い、着地のタイミングに合わせて再び鉄鎖を繰り出すシルシラ。


 『お?』


 飛び上がったフェルサは左手一本、逆立ちの要領で着地した。


 左腕に絡まる鉄鎖。


 フェルサは四つん這いの姿勢から、左腕に絡まった鉄鎖をしっかりと両手で掴むとシルシラの真上に飛ぶ。


 ざっぱーーん


 波音が聞こえる程見事な一本釣り。


 真上から一気に釣り上げてシルシラを上空に飛ばすと同時に、自らは反動を使って一気に地上へ。


 「何とーー!立場逆転!上から落ちてくるシルシラ選手を地上で待ち構えるフェルサ選手!その右手には既に板剣が握られているーー!」


 勝負あった。

 落下中の無防備な背中に与えれた一撃は、部分鎧を砕いてシルシラの意識を奪った。場外に出されて丁度一分。


 「勝者!フェーールサーー!」


 宣言をする鉄子が段々と調子に乗って来てる気がする。

 会場を覆い尽くす拍手と、黄色い声援。


 「この様な戦い方をする鬼神は、見たことが無いのである」


 「そうですね、力任せな戦い方をするのが殆どなのに……」


 イーラと一本髪はフェルサの鬼神らしからぬ戦い方に感心しているが……。

 それもそうだろう、力だけで勝てている内は他の戦い方は身に付かない。


 コイツ等は気付いて無いかも知れないが、今回の戦いで一番凄い所は、シルシラに一度も剣を使わせずに勝った所だ。

 

 フェルサは負けて負けて、戦い方を変え、それでも負けて今の戦い方を自ら切り開いた。

 そしてフェルサはまだ気付いていない。力に寄らない戦い方を熟成させた時こそ力の本当の出番なのだと。その時が来たら俺なんか手も足も出ないだろう。


 師匠として、それでも負けませんけど。

 秘策はある。セコイですけど。


 「みごとフェルサ選手が勝利を収めました。今の戦いをファムさんに振り返って頂きましょう」


 「そんな……シルシラが無名の鬼神に……」


 「ファムさん?」


 「イーラ戦での負けを取り戻そうと倍掛けしたのに……」


 「えっと……技巧派鬼神フェルサ選手の次の戦いも期待したいと思います!」



 貴賓席


 「なんと!シルシラが負けたのも驚きだが、あの鬼神の戦いぶりは何だ」


 「左様で御座いますな。異様としか言いようが御座いません」


 「……ダジャレか?」


 「め!滅相も御座いません!爺の茶目っ気で御座います!」



 特等席


 次の試合がリンクスと言うこともあって、フェルサは控室に戻らず特等席に来た。大きな拍手に迎えられる。


 「お主の様な鬼神は見たことが無いのである」

 「何か秘密がありそうですね」


 「全て師匠の教えの賜物です」


 フェルサめ、殊勝なとこを。それと一本髪、何でもかんでも秘密とか言ってかんぐるなよ。どこの家政婦だよ。


 「アンタの様な鬼神は初めてダ。世の中広いナ、オレもまだまだダ」


 シルシラが歩み寄り、フェルサを称えて握手をする。

 近くで見ると、長身の割に細身だが凄く引き締まった体だ。

 痩せマッチョかっこいいな、俺に身長五センチくれない?


 「全て師匠の教えの賜物です」


 「師匠とハ、そこのアニキ殿の事カ?何年程アニキ殿の元で修行ヲ?」


 「もう一月程になりますかな」


 「ガ!?一月デ……元から強かったのカ?」

 

 シルシラは、マジマジと俺を見つめた後、神妙な顔で俺の前に跪いた。

 ちょ!この流れヤバイ!


 「是非オレも弟子にして下さイ」


 「身長五センチくれたらオッケーなの」


 「ガ?難題でス、おいそれとは弟子入りを認めないのですネ」


 何言ってんだリンクス!本当に身長くれるオノマとかあったらどうすんの!

 ……一人五センチとして六人集めれば、俺も夢の百八十か……ゴクリ。


 今のやり取りで周りがざわめき出す。


 「身長要求するのかーー悩むなぁ」

 「アニキってここにはフェルサ殿しか連れてないけど、もっと弟子いるんだろ?」

 「鬼神を弟子にしてる位だから、そりゃもっと居るだろう」


 「って事は……」


 「……」


 「ドンダケちっちゃかったんだ?」


 マテコラ


 「いやいや、弟子一人につき、五センチ大きくなる訳だろ?」

 

 「って事は……」


 「千人弟子入りしたら巨人だな!!」

 「帝国も共和国も魔獣も、みーんなまとめて敵じゃねえな!」


 テメーらチビディスってんじゃねーぞ!

 巨人って五十メートルとか何処のスパロボだよ!

 ゲッ○ーロボもガイ○ングもゴッ○マーズも揃って五十メートルだからな!


 「フェルサ殿、初戦突破お祝い申し上げる。シルシラ殿も良い戦いでしたぞ」


 「これはガビール殿、師匠の名に泥を塗る訳には行きませんからな」

 

 ガビールが賑を割って現れ、フェルサと握手する。


 「一番弟子として当然の結果ですよ。ふふふ」


 「これは、オレも兄貴の一番舎弟として恥ずかしい戦いは出来ませんな。ふふふ」


 固い固い握手は、開始の号令が掛かろうものなら、今すぐにでもバトルに発展しそうな程に熱かった。


 「リンクスのお兄ちゃんなの!」


 「何故か知らんがメラメラが凄いのである」


 「ガビール殿の兄貴分でもあるのですカ……これは是が非でモ」


 シルシラは俺の左に居るリンクスの更に左。ベンチの切れた所の地面に座り込んだ。


 「あの一団凄いな……決勝進出者が六人も集まってるぞ」

 「あの六人で百人の兵に勝る戦力じゃないか?」


 確かに凄い顔ぶれなのかも知れん。

 戦闘力を測ってみたいな。誰かスカ○ター持ってきて。


 「ア、アニキ様。お忘れとは思いませんが、控室の荷物をこちらにお持ち致しました」


 運営の人だろうか、親切にワニマントとバック、それに左手の鞘を持ってきてくれた。勿論お忘れでしたけど。


 肩に掛けてさり気なく盾剣を隠していたタオルを外し、盾剣を鞘に収めようとして……。


 あれ?コレなんだっけ?


 見ると鞘の口から何かが出てる。

 黒い石の様なモノ。


 リンクスに鞘を持ってもらって中のモノを引き出す。

 スラリと引き出されたモノは、一メートル程の石作りの漆黒の槍。


 あーそういえば大槍蛇の刺を鞘に入れてたんだった。

 盾剣が左手に戻って以来、左手用の鞘は訓練時に使っていたのだが、大槍蛇の刺を入れて重りにしてたんだった。


 「リンクス選手、闘技場へどうぞ」


 「ぶっ飛ばす!なの」


 『どっちか使うか?相手は槍っぽいの持ってるぞ』


 『んじゃコレ使うの』


 リンクスは今しがた鞘から抜いた大槍蛇の刺を持って闘技場へ向かった。


 対戦相手が立てているのはハルバート。

 ニメートル程の棒の先の方に、斧と(かぎ)と槍の付いた長柄武器。


 一方リンクスが持つのは一メートル程の短槍と呼べるだろうか。

 無いよりはマシだろう。


 ん?シルシラが凄い険しい顔でリンクスを見てるな。

 幼女好きなの?残念ですがあの子はドラゴンですよ。


 俺の視線を感じたのかシルシラが俺を見る。


 「まさかとは思いますガ、まさか大槍蛇の刺じゃないですよネ」


 その通りですがなにか?


 ……え?ナニその表情。

 リンクス……ソレ使わない方がいいかもしんない……。

 


 


 

 


 


 


ここまで読んで頂きありがとうございます。


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