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24話 盾剣VS超竜骨剣

 全身にみなぎる力。

 沸々と沸き起こる、残虐なまでの闘争心。

 それなのに霞掛かった意識。


 なんだアイツ?デカイ剣構えて睨んでやがる。

 やんのかジジイ……喰ってやる!


 パァン


 横薙ぎに払われた板剣から走る、衝撃波が見える(・・・)。

 俺は地を這うように身をかがめ、板剣を振るったジジイに迫る。

 背後の壁にぶつかった衝撃波が、派手な音を立てて壁を破壊する。


 「かわした!?」


 咄嗟に切り返される板剣。


 ギン!


 盾剣の盾部分で受けた俺は吹き飛ばされる。


 「なんじゃ左腕のアレは!竜骨剣で切れんだと!?」


 再び突貫し、やはり吹き飛ばされる俺。


 「アニキ選手!奇跡の復活から猛然と反撃ーー!だが、イーラ選手の剛剣の前にその都度迎撃されるーー!解説のファムさん左腕の装備は何でしょう」


 「……いや、見たことも無いな。腕と一体化しとる様にも見えるが……」


 「確かに!アニキ選手の左の武器は腕に固定されている様に見えます!」


 「じゃが、開放したイーラの剛力に為す術は無さそうじゃな」


 特等席


 「馬鹿な!開放したイーラ殿の斬撃は城壁を崩す程だぞ!何だアノ左腕は」


 「盾から剣が生えてますね……腕?」



 闘技場


 『お兄ちゃん!』


 リンクスの声が頭に響き、俺は無謀な突貫を止める。

 次第に意識が鮮明になり、体中の感覚が戻って来る。


 『ん?何だ?体が軽い、いつの間に盾剣?』


 『飲まれちゃダメなの』


 呼吸を整え、俺の中で暴れまわる残虐性を懸命に抑える。

 相手をなます切りにして喰らうイメージが、少し遠のく。


 「こちらから行くのである!」


 「おーーと!イーラ選手、迎撃から攻撃に転じたーー!これは凄い連続攻撃だと思われます!正直私には、何回斬りつけているのか見えません!」


 「八回ですな」


 五回だバカヤロウ。解説がいい加減すぎる。

 打点をずらしても尚、強烈な斬撃に吹き飛びそうになる。


 「何故斬れないのか、理解できないのである!」



 特等席


 「凄い強度の盾ですね……」


 「いや、盾以外にも当たってるぞ……私にも理解出来ません」



 貴賓席


 クアッダ国王が椅子から腰を浮かせている。


 「なんだアレは?古代の遺産か?」


 「わ、判りかねます。さほど注目されていなかった所を見るに、予選では力を隠していた様です」


 濃い髭を撫でながら、口角を釣り上げて笑う国王。


 「早くも番狂わせ……あるか」



 闘技場


 この試合初めての鮮血が飛ぶ。


 遂に懐に入った俺が、鱗剣でイーラの腕装甲の隙間を捕らえたのだ。

 痛みより、驚きに顔を歪めるイーラ。


 「なんと!最初の出血はイーラ選手!左腕からの出血です!」


 「ゆ、油断ですな」


 会場からは大きなどよめきが起こった。


 左腕の負傷により、巨大な竜骨剣は剣速を鈍らせる。

 懐に飛び込まれる回数が増えると共に、小さな傷も増えてゆくイーラ。


 「お主!水如派であるか!」


 速度、威力共に落ちてきた竜骨剣を、俺は捌き始めていた。

 目も慣れてきたし、昨日の一本髪との試合で見習った防御も効いている。

 どこかで深手を与えられれば……と思った直後。


 「本気の本気を出すのであーーる!ふぅぅううん!」


 ウソだろ


 イーラが二度目の息吹を使うと、筋肉が隆起し、上半身を覆う鎧が弾け飛んだ。


 「大開放じゃとおおお!」


 「ファムさん大開放とはなんですか!」


 「発動時間の短い限界突破(リミットブレイク)じゃ!前列の客を非難させろ!死人が出るぞ!」


 「な!非難警告!前列のお客様は非難して下さい!大変危険との事です!」


 大上段に竜骨剣を構えるイーラの周りの空気が歪んで見える。

 闘気が見えているのか?イーラが息吹を絞り出す度に、更に大きくなる闘気。


 「消し飛ぶのである!」


 振り下ろされた竜骨剣から巨大なキレツが飛ぶ。

 空間が裂けてるのか!?


 俺の背後にはまだ非難しきれていない観客が大勢いる。

 避けたらあいつらが死ぬ。


 クソ!何で鬼神は周りが見えなくなるヤツばっかなんだ!


 迫るキレツ


 足を肩幅に開いて覚悟を決める。


 頼むぞ盾剣!


 キィィィイイン


 脳に針が刺さる様な音がして、避難中の者が頭を抱えて倒れる。

 

 耐えたか?俺の盾剣。

 俺は全身を鞭で打たれた様な痛みをこらえて、正面に掲げた盾剣を下ろす。


 アノヤロウ


 盾剣の向こう、イーラは再び闘気を纏い二発目を放つ寸前だった。

 更に大きさを増す闘気に、迷わず俺は突っ込む。


 発動寸前の技を潰してやる!

 臨界まで密度を増した闘気が、竜骨剣に集約された瞬間、腕の筋肉が躍動する。


 間に合え!


 振り下ろし始めた竜骨剣の、鍔元目掛けて盾剣の切っ先が突き出される。

 点を点で貫くカウンター。


 ピシッ


 ひびの入った竜骨剣は、一瞬の間を置いて砕けた。


 キィィイイン


 発動寸前に依り代を失ったキレツは急速にしぼみ、不発の余波をまき散らす。

 極小の範囲で起こった衝撃波は、小さな真空の刃を放射上に飛ばす。


 露出した肌全てに裂傷を作るイーラ。


 一瞬の間を置いて、イーラの裂傷から血が飛ぶ。


 振り下ろされた手にあるものは、鍔元から折れ血にまみれた竜骨剣。


 前のめりに倒れるイーラを肩に担ぎ、場外に座らせる。

 うめき声やすすり泣く声が、一分をより長く感じさせる。


 そして


 「勝者……アニキ!!」


 高らかに勝利宣言がされると、会場はさっきまでの恐怖や不安を打ち消す様に、熱狂的な歓声に包まれた。


 「お兄ちゃんGJなの!」

 「兄貴……これ程すか……」

 「大開放って何だああぁぁぁぁ」


 フェルサの絶叫、久しぶりに聞いたな。格好付けた喋り方より似合ってるぞ。


 「何とも信じがたい結末に成りました第一試合。優勝候補筆頭と言っても過言では無いでしょう、イーラが敗れました。ファムさん最後は何がおこったのでしょうか?」


 「あり得ん、イーラが、小遣いが……」


 「ファムさん?」


 「え?掛けておらんよ!妻に内緒で金掛けたりしておらんよ」


 「カイセツをお願いします、最後の攻防、何が?」


 「おほん。イーラが大開放の後に放ったのは、禁忌「山崩し」。鬼神でも極々一部の強者しか扱えぬ技じゃ。空を裂き山を崩すと言われておる。しかしそれを防ぐばかりか、発動寸前に潰すとは……」


 「良く判りませんでしたが、どうやら凄い事の様です!えっと?はいはい、なるほど。壁面の応急処置の為、第二試合は三十分後に開始します!お楽しみに!」


 戦いを終えた俺は、控室で質問攻めにあった。その武器は何だとか、どこの流派だとかイロイロだ。勿論お答え出来ませんけど。


 リンクス、フェルサ、ガビールと順にグータッチする。


 「飲まれなくよかったの」

 「師匠、左腕また病気になっちゃいましたね」

 「病気だったんすか……左腕」


 どいつもこいつも、何を言ってるのか理解出来ん。俺がバカなの?

 リンクスが何かを渡して来た。手のひらに収まる白いもの。


 「死んだドラゴンの骨なの」


 さっき俺が砕いた板剣の芯になっていた物を、拾ってきたそうだ。

 高く売れるのか?取り敢えずワニポーチにしまっておいた。


 「驚いたのである!」


 突然の背後からの大声に、驚いたのはコッチだ。

 振り向くと上半身を包帯でグルグル巻きに、顔には四角く切った布を沢山貼り付けたイーラが立っていた。


 左右の太い眉毛の中央、眉間の皺は深いままだったが、目と口元は笑っている。まつ毛長えな色男。

 右手で握手をし、ブンブンと上下に振る。腕抜けそう。


 「しかし左腕のソレは何であるか?触っても?」


 盾剣を上げて、頷く。恐る恐る触れるイーラ。

 ついでにとばかりにガビールも触ってくる。


 「ガビール殿、コレは何であるか?」


 「オレにも判りませんな。同行する鬼神の話しでは病気とか」


 「そうか……気の毒であるな」


 何か哀れむ目をされた。気の毒なの?

 ガビールが舎弟言葉を使うのは、俺達にだけのようだ。まぁ王国での立場もあるだろうから、ヨソイキの言葉使いなんだろうな。


 「いろいろ秘密がありそうですね」


 「おお!ナフル殿!防御面の指導をして頂いたのに、優勝出来ずに申し訳ない」


 そこに現れたのは一本髪だった。

 防御を指導?偉い人だったのか。学習能力が残念で、しかも「ぎゃふん」ですけど。


 「アニキ殿、非常に目が良い様ですが、どの様な修練を?」


 「……」


 「えーっと、では、どの地方に行かれた時に感染したんですか?」


 「……」


 「……あの」


 ぐうううぅぅぅ


 盛大に腹が鳴った。


 「はっはっはっ!ただでは教えられぬらしいぞナフル殿!」


 「や、確かに、これは虫が良すぎましたね」


 盛大に笑うイーラとナフル。

 虫は虫でも腹の虫が鳴いたのだが、感染って?病気が伝染って盾剣になるの?重症なら肩からキャノン砲とか生えるのかな。選べるなら柔道家より軟弱者のキャノンがいいな。


 ドラゴンが気まぐれで生やしてくれました。ってのはどうなんだろう。

 

 『第二試合終わったの』


 へ?


 二人を相手している内に、第二試合は始まり、さくっと終わったらしい。

 くっ、コイツらのせいで偵察出来なかったじゃないか。


 居ないと思ったら三人して、試合を見に行ってたらしい。

 ナフルが屋台でピタサンドと言う、半円のポケット型のパンに焼いた肉や野菜を挟んでヨーグルトソースを掛けたファストフードを買ってくれた。


 「美味しいけど、ちょっとしょっぱいの」


 俺は気にならないが、味付けがちょっと濃いらしい。

 勿論みんなの分、買って貰った。ありがとう一本髪、何も教えられませんけど。


 フェルサはこれから試合だと言うので、後で食べるそうだ。

 暖かい内に俺が食べちゃいますけど。



 リンクスと並んで、仲良くピタサンドをもきゅもきゅしていると、フェルサが闘技場に現れた。

 会場からは「お、あの鬼神か」「予選では見事だったな」等の声に混じって「キャ〜フェルサ様〜」なんて黄色い声援も飛んだ。


 確かに素は良いからな。

 ニヤニヤすんな。嫁のイーテアにばらすぞ。


 「決勝番号四番!技巧派鬼神フェルサ!怪力に頼らぬ異色の鬼神!」


 「「キャ〜フェルサ様〜」」


 ファン多いな……素直になろう……羨ましい。


 「決勝番号五番!鉄鎖術の達人シルシラ!戦闘奴隷からの成り上がりは一つの頂点を迎えるか!」


 「「シルシラ!シルシラ!」」


 「解説のファムさんこの戦いはいかにご覧になりますか」


 「シルシラは名の知れた討伐者ですし、フェルサは予選でも見事な戦いぶりを披露してましたからの、好勝負が期待出来ますな」


 シルシラは褐色の肌にニッカポッカのようなズボンを履き、頭にはターバンを巻いている。

 左手に剣を構え、右手に鉄鎖を巻き、地面に伸ばした鉄鎖はS字になっている。その長さ約五メートル。


 一方のフェルサは板剣を構えている。

 リラックスした良い構えだ。


 鉄鎖術って初めて見るな、どんな動きするんだろ、ワクワクする。

 ポテチとビールが欲しい。


 「それでは決勝第三試合……ハジメ!」


 開始の合図と同時に鉄鎖が踊る!


 


 

 


 

 

 


 

 


ここまで読んで頂きありがとうございます。


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