22話 予選
突き抜ける様な青空。
「武闘大会の開催を宣言する」
武闘大会の開催を祝うような快晴の元、エライ簡単な国王様の挨拶で武闘大会は開催された。
大きなコロシアムの二階席、護衛に囲まれた貴賓席から開催を宣言した国王は、頬から顎に掛けてビッシリ生えた、濃い髭を擦って、嬉しそうに笑った。
「今年も盛況だな、ナツメがやらかしてくれたお陰で国に金が落ちるし、万々歳だな」
有力選手のリストの隣にある、収支見込表を見ながら国王はニヤリする。
一次予選は既に始まっているが、さほど見入っている感は無い。
大会一日目
一次予選、十人のバトルロワイヤルを百組。
二次予選、十人のバトルロワイヤルを十組。
コロシアムの地面に引かれた十個の円。その中の一つに既に俺は居た。
直径十メートル程の円から出ても、戻れば戦闘続行、戻らなければリタイア。
最後の一人になれば勝ち抜け、予選は運営が準備した木製の武器を使用。
一次予選はあっさり味だった。
俺がチビだったお陰もあってか、誰も俺などアウトオブガンチューだ。
強そうな二人に大勢が集中し、なぎ倒される。只の力自慢から、夢見るチンピラまで実力に天地の開きがある予選。
気絶して線の外に放り出される者、折れた腕を抑えて自らの足で線の外に出る者。
その様子を見て戦意喪失して線の外に出る者。
予想通り強そうな二人が残り、睨み合っている。動きを見た感じでは互角の二人。
黒髪の男は木剣に木盾、茶髪の男は身の丈の棒を使っている。
「あ?場違いなチビが残ってんな」
「先に外出して、タイマンといくか」
タゲ取っちゃった。
疲れきった最後の一人と戦うセコイ作戦立ててたのに。
引かれた線の内側に沿う様に移動し、二人を直線上に並べ、同時に攻撃されない位置取りをする。
勿論リーチを活かされない様に、棒使いが後ろだ。
ドラゴンの洞窟での訓練を思い出すな。レヒツもヒーアも元気だろうか。
「ぐほっ」
「が」
二人が一直線になった瞬間、一気に木剣の懐に飛び込む。
鳩尾に肘を打ち込み、後方へ吹き飛ばす。
突然前の男が吹き飛んで来て、場外に転がり出る棒使いの男。
立ち上がり、円に戻ろうとして、木剣の男が既に円のすぐ外で横たわる姿を見る。
「な?んだと?そいつは中々の腕前だったハズ」
円の内側ギリギリに立つ俺は、無手だが隙無く棒使いを見ている。
棒を構えて、時計回りに円の外側を回る棒使い。
それに合わせて、円の内側に沿って時計回りに移動する俺。
「一分で戻らないと場外負けだぞ」
「チビ相手にびびってんのか」
既に負け確したヤツラから、野次が飛ぶ。
「七十二番、既定により場外負けです。八十番勝ち抜け!」
審判の宣言に「何やってんだ」やら「棒使って無手にびびるなよ」やらブーイングが飛ぶ。
俺は、その場をさっさと離れ、他の円を見に行く。
『リンクスどこだ?』
『こっちなのー』
最近俺は、通話の聞こえる方向が分かる様になってきた。
リンクスの右側に座り、フェルサと三人で試合を見ている。強そうなの結構いるなぁ、フェルサ大丈夫かな?
「四百一番から四百十番まで、円の中に」
「ぶっとばすの」
「頑張れリンクスちゃん」
『ちゃんと手加減しろよ』
『らじゃなの』
リンクスの番号が呼ばれ、円の中で一列に並び、銅板の確認を済ませる。
審判が円の外に出ると、中の参戦者がそれとなく距離を取る。
ドッ
円の中央部に一筋の土煙。
側の幾人かが視線を送るが小さな窪みがあるだけで、何も無い。
「それでは、よーいハジメ!」
開始の合図に皆が動き出した直後。
ドッゴーーン
大きな音と共に選手が吹き飛び土煙が舞う。
近くの円で戦う者も、何事かと動きを止め、土煙を見つめている。
一陣の風が吹き抜け土煙が吹き払われた場所に立っていたのは、体操選手の着地ポーズをしたリンクスだった。
『十点満点なの』
足元の地面はえぐれ、円の中に居るのはリンクス只一人。
一分間の沈黙の後。
「四百二番……勝ち抜け……です」
審判の宣言の後も、リンクスはポーズを崩さない。
おーい、帰ってこーい。リンクスが俺達の側に移動すると、異常な光景に見入っていた近くの円の者も、我に帰って戦い始めた。
手加減……したのか……リンクス。
フェルサの一次予選。
鬼神である事は既に知れ渡っているらしく。第一目標と位置付けられていた。
フェルサが選んだ武器は、片手使いの木剣。盾は持たずに左腕に籠手を着けている。
「ハジメ!」
開始の掛け声と共に三人が同時にフェルサに襲いかかる。
これを予期していたフェルサは、一人目の棒を折り、二人目の足を払い、三人目の襟元を掴んで地面に叩きつけ、気絶させてから円の外に投げ飛ばした。
円の端に陣取ったフェルサは、ここでようやく木剣を抜く。
「来い。俺様が稽古を付けてやる」
ヤバイ、フェルサがカッコイイ。
「板剣持たねえ鬼神がナンボのもんじゃ!あふーーん」
不用意に近づいた男はあっさりやられ、円外にポイされる。
「ぎゃっ」
「ぐへ」
「あぽーん」
結局全員に「稽古」を付けたフェルサが、特に苦戦するでもなく勝ち抜けた。
「師匠!ありがとうございます!」
フェルサは相手の動きが見えるだの、無駄な力が一切入らないだの、ちょっと興奮気味に話し「努力って身についてるんですね」と締めくくった。
ふふふ、良いだろ努力。
屋台で昼飯を済ませ、二次予選に備える。
リンクスは生肉を食べたがったが、この辺に大型の魔物は居ないらしい。
我慢とは言ったが、俺もそろそろ食べたくなってきたし、今夜辺り遠出して狩り行くか。
二回戦、俺。
俺は地に転がっていた。流石は二回戦、強いヤツが結構いる。
一回戦の反省を踏まえて、タゲを取らない作戦中だ。
開幕巻き込まれて気絶した振りをして、ここ、円のギリ内側で観戦中。
時々戦いながら俺を円外に転がすヤツもいたが、その都度こっそり寝返りして戻ってますけど。
流石一回戦を勝ち抜いた戦士達、中々熱い戦いを繰り広げてるな。
おーーっと!トンファーが低い姿勢から仕掛けたーー。
剣がブロックーー!まるで舞う様に更に攻撃を仕掛けるトンファー!
受け流しながら後退する剣!おっと、ここでタゲを斧に擦り付けたーー!
剣を後ろから攻撃する隙を伺っていた斧!
突然トンファーの猛攻に晒され裁ききれないかーー!
しかしその猛牛を思わせる体つきで、トンファーを受けながらも重い一撃を繰り出しつつ前進を始めたーー!
その様子は猛牛VSマタドールだーー!
……うん、何処かのプロレス実況みたくは行かないな。
残ったのは髪を後ろに束ねた剣の男。若いが戦い方が実に巧みだと思っていた。
だが隙も見つけた。今の俺の目はキラーンだ。
一本髪が最後の相手、斧を円外に押出し、勝者宣言を待つ。
「何故宣言をしない」
チラリ
くるり
あ。審判、コッチミンナ。
バレちゃったじゃないか。
せっかく体格に見合った姑息な奇襲をかけようと、顔に地面の跡が付くまで寝てたのに。
仕方が無いので、木剣と木盾を構える。
「む?小僧何度も外へ出した筈ですが……擬態ですか」
若いのに難しい言葉を知ってらっしゃる。使い方合ってるかは知らん。
若造に小僧呼ばわりされましたけど。
「私も大分疲れて居るので、手加減は出来ないってぐあっ」
おお!コイツ動くぞ!
じゃないコイツ強いぞ!息を吸うタイミングで奇襲したのに防ぎやがった。
魔物だと、一定以上の強さを持ってるヤツは急所を守るのが上手い。
戦闘が長引けば相手の動きも覚えるし、スタミナはゲージ振り切ってる。
コイツも若いが一定以上の強さを持っている。
俺、ニヤニヤしてないか?バトルジャンキー来ちゃった?
ギャンブルジャンキーと掛けあわせて、新しいスキルにならんかな。
若い男は、俺の木剣の早さに驚いた顔をし、構え直すとスウっと目を細めた。
「あなた、何処で剣技を修めってぐはっ」
脛を痛打されて距離を取る一本髪。
「喋ってるでしょうが!」
弁論大会じゃありませんけど。話し掛けられても答えられませんけど。
一本髪……涙目かわいいな。
「なるほど、剣士なら剣で語れとっぎゃっ!」
学習能力の無いやつだが、反射はすこぶる良い。
あと少しで急所に入らない。
苛立ちを木剣に乗せて一本髪は反撃して来た。
無駄の無い剣筋、理に叶った脚さばき、インパクトの瞬間まで弛緩した人差し指。
おお、良いぞ一本髪!お手本の様な剣士だ。
善は急げ、悪はもっと急げ、気になったら今スグに。だ。
見習う為に、受けに回る。
打ち込み、なぎ、返し、十合、二十合、三十合と木剣を打ち合わせる。
「すげぇハイレベルだな」
「どこぞの師範クラス対決か」
「決勝で見たかったな〜」
何か周りが騒がしくなってきた。
攻めは、まあ普通だな……理論通り無駄が無いが、意外性も無い。
単調って訳では無いが、予測の範囲を越えることは無さそうだ。
俺の相棒は意外性の塊だ。
攻めに転じて、観る。
木剣を打ち合う軽快な音が響く、十合、二十合……。
メッチャ上手い……。重心移動が秀逸だ。見習い見習い……。
俺もリンクスも防御はおざなりだ、フェルサも上手くは無い。後で皆に教えてやろう。
「はぁはぁ、あなた中々の腕前ですがぎゃふん」
学習しないヤツだ。ぎゃふんとか初めて聞いたし。
この学習能力の無い一本髪がここまでの剣技を習得するには、相当の努力を積み重ねたに違いない。
敬意を払って俺の奥義で……って。
あれ?最後の入っちゃった?それでぎゃふん?
せっかくスキを見つけておいたのに、使わなかった。
予定とは違うが、「ちゃぶ台返し」と言う奥義で、円の外に出してやった。
判定が下るよりも早く、周囲からは惜しみない拍手が送られる。
「良い勝負見たなぁ」
「演舞を見るようだったな」
「決勝で見たかったな〜」
「お前それさっきも言ったよ」
結構な人だかりだ。
リンクスもフェルサも居る。
『終わったの、二人共』
ありゃ、時間忘れてたわ。
既に日は沈み、たくさんの光のオノマが中に浮かび、コロシアムを照らしていた。
「八十番勝ち抜け!」
再び拍手が起こる。どうやらココが二次予選最後の円だったようだ。
もう戦っている者は誰も居ない。
「おい、あのチビがアニキらしいぞ」
「ガビール殿の知り合いだって奴か?」
「不意打ちのアニキか……要チェックだな」
なんか不名誉な通り名で呼ばれた気がするが。ガビールのせいか……殴りたい。
「兄貴!決勝進出っすね!当然上がってくると思ってたっすよ!」
ガビールが現れた。 握手する
ハグする
キスする
「殴る」のコマンドがねぇええええ!
流石に国の剣術指南をこんな所で殴れませんけど。
「本選楽しみにしてるっすよ」
「おお、これは楽しみな組み合わせだ」
「さすがにガビール殿だろう」
「わからんぞ〜」
ん?ナンダト?
当然上がって来る?楽しみな組み合わせ?武闘大会出てたのか、ガビール。
堂々と殴るチャンスキターー!
>握手する
俺は、俺の健闘を称えてガビールとがっちり握手した。
ここまで読んで頂きありがとうございます。




