表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/124

20話 学者

 ナツメ商会の管理する奴隷鉱山。その最深部、隠された部屋。


 俺、ちっちゃいおっさん。

 リンクス、少女に変身した子ドラゴン。

 フェルサ、弟子入りした鬼神。

 ラアサ、盗賊団の棟梁。


 の四人は、この部屋の主と思われる自称科学者「シュタイン」に話を聞いていた。

 尋問はラアサに一任してある。横から口出すとややこしいからね。出せませんけど。

 リンクスのいつものヤツで自己紹介は済んでいる。


 謎の縄抜けを披露したシュタインだが、逃亡するでもなく、反撃するでもなく、自分の計算に没頭しながらも、ラアサの質問に答えている。


 「えっとシュタイン博士?質問してんだからこっち見て貰えるとぉ〜」


 「ん?問題ないぞ。並列処理は得意じゃ」


 そう言いながらシュタインは、テーブルに広げた十枚以上の紙に、あっちにメモり、こっちに計算を書き、手を休める事無く返事をしている。

 何処の聖徳太子だアンタは。


 「急がんと、さっきの音を聞いた兵が来てしまうぞ?」


 「ふむ。ナツメ商会との関係は?」


 「捕まったのじゃ。地下の研究室ごと抑えられて、ここに連れて来られたんじゃ」


 「ここでは何を?」


 「銃を撃つ研究をされられとる。全く……今この時も宇宙は膨張を加速しとると言うのに」


 ラアサの顔からは常のニヤニヤが消えて、喋り方ものんびりじゃ無くなってるな。

 シュタインは受け答えしながらも、自分の作業を一切滞らせない。


 「ジュウとは?」


 「そこに並んでおる黒い金属の筒じゃ。金属のつぶてを飛ばして、攻撃する道具じゃ」


 「ジュウを使ってナツメ商会の目論む事は?」


 「人間世界の安定と拡張……と言っておるが、帝国との戦争じゃな」


 「そう思う理由は」


 「第一に銃の数、第二に機装兵の準備、第三に兵糧の備蓄じゃな」


 何だこの会話の早さは。頭の良い子同士だと会話ってこうなっちゃうの?

 フェルサは台に固定された銃を、恐る恐る見ているし。リンクスはシュタインの隣に座ってテーブルに広がったメモをひっくり返したりして悪戯している。

 俺は……混乱していて何が「今知るべきこと」かが判らない。


 「俺達はナツメ商会を潰しにかかっている。一緒に来ないか」


 「ここ以上の環境が準備出来たらじゃな」


 リンクスが壊した鉄扉の隙間から叫び声が流れて来る。

 シュタインの言う通り、銃声で兵が様子を見に来てしまったようだ。

 ドラゴンを仕留めたと思ったのかも知れない。


 「帝国に戦争を仕掛けると言っても、国境付近には独立した王国がまだ三つある。何処を先に攻めるつもりだ」


 「流石はラアサじゃな、盗賊に身を落として尚その聡明さ。第一目標はクアッダじゃ」


 ちっと舌打ちするラアサ。

 さっきから機密っぽい内容がさらっと出てくるんだが大丈夫か?


 「あはは、くすぐったいの」


 リンクスとシュタインは、空間に浮かべた光の玉を指で弾いて遊んでいる。

 弾かれた玉がリンクスに当たると身を捩って笑っている。


 よく見ると光の玉が当たった場所、五センチ程の空気が揺れてドラゴンの部分がチラリしている。

 ん?シュタインがやってるのって、リンクスの言う「光を使う」ってヤツじゃね?


 「残念じゃが時間じゃの、リンクスちゃんの光で上手く帰るのじゃぞ」


 俺達は兵士が部屋に入る寸前にリンクスと手を繋ぎ、姿を消した。

 無事でしたかと声を掛ける兵士と、ドラゴンは逃げたと告げるシュタイン。


 坑道内に号令が響き、散開して行く兵士達。

 俺達は兵士達にぶつからない様に慎重に移動し、途中フェルサとラアサの連結を解除。

 多くの情報と報酬、幾らかの鉱石と謎を得て、鉱山をあとにした。



 二日後。


 「作戦変更だなぁ〜」


 イナブの街から半日程の場所で、盗賊団と合流した俺達だが、ラアサは入手した情報を元に即座に作戦の変更を伝えた。

 奴隷鉱山の襲撃は中止して、ナツメ商会の輸送に圧力を掛けるとの事だ。

 戦争を未然に防ぐと。


 「機装兵って何?なの」


 既に腰を上げたラアサに、最も気になった言葉を聞いてみる。

 ラアサは盗賊団の出立準備を見守りながら、教えてくれた。


 鬼神並みの怪力を出す鋼の鎧。


 あ……あるのか……ガ○ダム!!

 うおーーヤベえテンションきゅいんきゅいん言ってる!

 俺も「いきまーーす」とか「そこだ!」とかやりたい!


 いや鎧って言ったからそこまで大きくないのか。

 何にせよロマンあふれる話しじゃないの!何処行けばあるの?オダイバ?


 遠くから「おお」と歓声が聞こえる。フェルサが怪力を披露して積み荷を手伝っている。

 ラアサは引き続きイニドリス村の情報収集を約束してくれたが、その代わりにと頼み事をした。

 

 先行してクアッダ王国に行き、戦争に対する注意喚起をして欲しいと。


 組織の上層部に共和国の動向への注意を促せれば良し、民間レベルで共和国は帝国に先んじてクアッダ王国を攻めるらしいと噂を流してくれてもいい。


 辺境で仕事にあぶれていたものが急に雇われだしたり、市場から食料が大口で買い集められたりすれば、誰しも戦の匂いを感じる。

 だが、戦争の当事者という認識が無ければ、戦争特需に浮かれて滅びの道を歩む。


 「最悪、共和国のふりして兵糧に火付けて来てもいいんだぜぇ」


 物騒な事おっしゃる。完全に犯罪者じゃないか。

 「あてにしてるぜぇ」と間延びした言葉を残し、ラアサは盗賊団と共に去って行った。

 一台の馬車と路銀を残して。



 早速出発しクアッダへ向かう馬車。御者台のフェルサが鼻歌を歌っている。

 午前中は涼しく風も心地いい。


 なし崩しで、政治介入のまね事をする羽目になったが、俺はこの世界の政治構成を知らない。今まで聞いたのは帝国、共和国、王国あたりか。

 フェルサに聞いてみるか?知ってんかね?


 「鬼神は傭兵として働くことが多いんで、習うんですよ。この地域って事でいいですか」


 鼻歌を止め、時折馬車の中を振り返りながらフェルサが説明を始める。


 まず帝国。皇帝を頂点とする軍事国家。古代遺跡からオノマを集め、人類社会の統一によって魔物を世界から駆逐しようとしている。


 帝国の一部が分離独立して出来たのが共和国。古代の業の復古によって皆が豊かな暮らしが出来ると謳っており、選挙による民主主義を施行。近隣王国を加えて議員共和制に。


 王国。元は小さな街などが、統治者の能力や名声によって大きくなり、外交上国として認知された集団。

 各王国によって様々な国策を取っており、帝国からも忌避される程の魔獣排除論国もあれば、刺激しない程度に共存と言う国もある。


 『ちょっとリンクス、鼻歌でアニソン歌うの止めて。気が散って頭に入らないから』


 『後で一緒に歌うの』


 『通話でだけどな』


 この他国家未満の大小の街があるが、流通の恩恵に預かる為だけにいずれかの陣営に属している。


 帝国は、軍国主義ゆえ締め付けが厳しく、重税で生活が苦しい。

 共和国は、ナツメ商会に代表される資本が政治中枢に入り込んで、自浄作用を失っている。

 王国は、両大国相手に綱渡りを強いられる国が多いが、近年「勇者召喚の儀」がもたらされ、政治力強化も兼ねて勇者召喚が流行している。

 これから向かうクアッダは直接民主制……と。


 チョットマテ。勇者召喚が流行?はやりで召喚されたのか?


 「ゆうしゃしょうかん?」


 「ええ、ただ勇者とは言っても胡散臭い所があってですね……亡王国の司祭って人に話を聞いたって鬼神がいまして」


 正確には召喚の儀式と勇者の儀式は別で、魔物から奪った力を勇者の儀式によって召喚した者に与えるんだとか。不完全な術式らしく成功率も低く、半獣人になってしまう事も多いと。


 「ただ、儀式の成功した勇者は、鬼神を凌ぐ怪力と、魔物を凌ぐ生命力に加えオノマも使いこなすらしいんですが……帝国から流出した不完全な術式って噂ですね」


 半分実体験なんですけど。もしかしたら魔改造されちゃう所だった訳?

 上手く行けばチート能力ゲット出来たかも知れないのか?

 それともう一つ。


 「オノマはなあに?って」


 さっきから何度か出てくる「オノマ」随分前に聞いた気もするが何だろう。


 「え?オノマはオノマですよ」


 何故下唇を突き出して怒っている。ちゃんと分かるように教えろ。


 「俺様は簡単なのしか出来ないんですけど……」


 そう言ってフェルサは馬車を道端に止める。

 御者台から降りたフェルサは「すーっ」と深く息を吸う。


 「大気に満ちる力の素よ。僅かな結果をもたらし下さい。手の内に光を」


 ……


 ……


 え?

 フェルサがドヤ顔してるだけで何も無いんですけど。


 「師匠、ココですよココ」


 俺が近づくとフェルサは眼前の空間を指し、両手で包み込んだ。

 包み込んだ両手の内側。閉じられた手のひらが明るい。


 おおーーーー


 ソコに確かに光はあった。

 昼間で明るいせいもあって殆ど見えないが、夜ならばそれなりに明るいのか?

 あ、洞窟での戦いで天井にあった光源がコレか。


 すげーーフェルサすげーー!魔法使えんじゃん!えーなーえーなー。


 「ふっ。なの」


 お?リンクスが不敵な笑いを……。


 「捕食者の名において命ずる。世界を照らせ。指し示す所に光を」


 リンクスの頭上に現れた光は、直視し得ない程の光量を発していた。

 目を逸らした俺が見たのは白と黒の世界。フェルサから伸びた影がそのまま地面に焼き付いてしまうのでは無いかとさえ思えた。


 風が止んでいるのに周囲の樹木がザザザッと葉音を立てる。

 リンクスの生み出した光源に、恵みを求めるかの様に、木の葉が、草が光源を向く。


 「敢えて言お○カスであ○と!なの」


 確かにソー○レイクラスでしたわ。詠唱以外何が違うのか判らんがこれ程違うものなのか。

 泣くなフェルサ、お前をカス呼ばわりした訳じゃないから。


 オノマ = 魔法 でおけ?

 

 フェルサが、すかさずリンクスの詠唱を繰り返す……が、何も起きない。

 何やってんだか、と見ていると。


 「オノマは基本的に、同じ言葉を同じように発声出来れば、誰でも同じ効果が得られると言われているんです。ですが実際はそうじゃ無い……同じ地方で同じオノマが使える人が多いんで、血統とかあるのかも知れないですね」


 同じように発声……イントネーションや音程とかも関係してるかもな。

 絶対音感持ちとかオノママスターなれんじゃね?

 俺もオノマしてぇぇええ!ボイスカムバーーック!!



 カン、カカン


 早朝の森に木を打ち付ける音が響く。

 上段からの打ち下ろしを、棒を横にして防ぐリンクス。

 即座に体を捻って繰り出される尻尾の一撃を、バックステップで避けるフェルサ。


 二人はいま二メートル程の棒を武器に、朝のじゃれあいをしていた。

 朝晩毎日欠かさず、じゃれているお陰か、最近のフェルサは一方的にやられる事も少なくなった。

 それでも勝ち気にはやって攻め込んだ時は、リンクスの罠にハマる……ほらな。


 「雀落○しなのー」

 「ぐあぁぁぁぁぁぁ」


 「流石リンクスちゃん、俺様のジャンプ攻撃を誘ったんですね」


 「飛ぶと不利なの」


 「ありがとうございました!」


 合掌して礼をし、朝じゃれを終える二人。

 リンクスの指導ぶりも板に付いて来たが、飛ぶな言うお前X拳大好きじゃん。


 そろそろクアッダ王国領に入るかという辺り。

 すれ違う馬車が増えてきた。妙に護衛が多い商隊はナツメ商隊だ。

 以前は誇らしげに翻っていたであろう小旗も、かろうじて見える所に飾ってある。


 すれ違う旅人にまで追加で護衛を頼んでいた。

 これからクアッダに向かう人に、クアッダからの護衛頼んでどうすんだ。

 頭悪いのかとも思ったが、それだけ切羽詰まってもいるのだろう。

 頭数は揃ってはいるが、ヤサグレた護衛が多い。あれなら五人居てもフェルサの敵じゃ無いな。


 しかし日に数回もナツメ商会の馬車とすれ違うと、嫌な予感を覚える。

 特需に見せかけた物資の流出が、もう始まってるんじゃないだろうな。



 大きな街って感じ。


 クアッダ王国に着いた時の第一印象だ。

 帝国辺境の街トラゴスよりは大きいかな?って程度。

 

 夕暮れ時、街の中は活気に溢れていた。

 門から真っ直ぐに伸びた広い道がメインストリートだろうか。


 飯屋が客引きの声を上げながら、道にテーブルや椅子を追加で並べ、肉屋が今入った魔物の肉を手際よく捌きながら、切り売りする。酒場が開店前にご近所と談笑しながら店前を掃除する。


 メインストリートから、枝の様に横に伸びる狭い路地には、屋台がひしめき合い、串焼きや揚げ物などを売っていた。


 「ロクムなのーー!」


 路地の屋台に一目散に駆け出す食いしん坊さん。

 俺にはお菓子屋さんは見えないが……匂いなのか。


 やっと追いついた俺達は、屋台に並ぶお菓子の種類に驚いた。リンクスが目を輝かせるのも納得だ。

 色とりどりのロクムが二十種、他にビスケットの様な菓子や蜘蛛の糸の様な菓子?がところ狭しと並ぶ。


 俺達はご飯を自分達で狩る為、ラアサのくれた路銀は殆ど手付かずだ。

 ギャブル狂しちまったイナブの街では探せなかったから、ちょっと位散財しても良いだろう。


 「全部下さいなの」

 『却下』


 『みんなで食べるの』


 屋台ごと買ってどうする。子供は大人買い出来ません。


 『俺達のは良いから自分の分な』


 屋台のおばちゃんはニコニコと俺達を見ている。


 「ロクム一個下さいなの」


 ガクッとずっこけるおばちゃん。

 笑いながらも「どれにするんだい?」とリンクスの指の先を追っている。


 リンクスの頭にポンと手を置いて、俺がロクムを指さしてゆく。


 コレと、コレと、コレとコレとコレと……。

 二十種全部指さした。コンプ買いだ。


 「いいの?ほんとにいいの?」


 リンクスが目をキラキラさせながら見つめてくる。

 コクリと頷くと、きゃーと喜んで俺に抱き付く、尻尾まで絡めて。

 痛い痛い。リンクスさん手加減して下さい。中身出ちゃいます。


 気になる蜘蛛の糸の様な菓子を三つ追加する。


 「ピシュマニエだね、ありがとね」


 微笑みながらフェルサが会計を済ませていると。


 「シェケア、景気が良いじゃないか、もうすぐ税期だが何処に収めるんだ?」


 隣の屋台の男が声を掛けてくる。


 「税金は土木部だけど、選挙では別の人に入れるよ」


 「食べていい?」


 『ロクムだよな?』


 「確かに今の土木部長は仕事が遅えな」


 直接民主制て凄いな。納税先も大臣に当たる部長も民衆が選ぶらしい。

 いい加減やって予算集まらない部はどうなるんだ?廃部して民営?


 「武闘会もいよいよだし、俺は軍部に税金いれるわ」


 今、なんてった?


 「武闘会ですか?」


 「ん?おお、あんた鬼神か!腕試しに出てみたらどうだ。賞金もそうだが将才が認められれば、将軍も夢じゃないぞ。国王様との晩餐会にも招待されるぞ」


 「色んなロクムでる?」


 「見たこと無いご馳走が出るらしいぞ」


 「優勝する。なの」


 リンクスがお菓子に釣られてしまったが、国王と話す機会があるなら出場する価値はある。

 どの位の規模かは知らんが、今のフェルサならいい線まで行けるかも知れない。


 「優勝する。なの」


 いや、お前は手加減しないからダメだろ。下手したら相手喰いそうだし。

 俺達は、明日武道会の申し込みをする事にして、ひとまず宿を探した。


 ちなみに、ピシュマニエという蜘蛛の糸の様な菓子。

 フワフワの綿菓子だった。それもほんのりバターの香りと塩味のする絶品。

 正に糸引く美味しさだ。いや、あと引く美味しさだ。


 リンクスと夜にこっそり買いに行ったら……お店閉まってましたとさ。

 


 

 

 

 

 


ここまで読んで頂きありがとうございます。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ