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19話 潜攻

 「奴隷鉱山を襲う?」


 フェルサが眉間に皺を寄せる。

 ヌケサクこと、ラアサの言う「手を貸せ」とは奴隷鉱山襲撃の手伝いだった。


 イナブの様な街道街で、博打で型に嵌め、奴隷に落とされた者の多くが、鉱山で強制労働を強いられているらしい。

 その中でここ最近、やけに物資の搬入が多い鉱山が、ここから程近いハディード鉱山だそうだ。

 何かをしているのは確かなのだが、ガードが固く、情報が掴めない。


 そこでヌケサクは、潜入させた影武者の情報を元に、ハディード鉱山に運ばれる荷を尽く襲撃し、言わば兵糧攻めを仕掛けているらしい。

 最後の仕上げ、襲撃戦にフェルサ共々参加して欲しいと。


 「穴掘るの得意なの」


 奴隷のお仕事だから。

 そもそも俺はこの世界の奴隷制度を知らない。前の世界では侵略の戦利品として奴隷を得ていた筈だから、扱いは物か。しかし借金のカタとして奴隷になっているなら、支払いが終われば開放されるのか?マグロ漁船乗ってこいみたいな?


 ヌケサクはしれっとした顔で言う。

 ナツメ商会の鉱山を潰したいだけで、奴隷解放が目的では無いと。


 自分の意思と力で現状を打破出来ないヤツは、助けた所でまた同じ道を辿る。そしてまた誰かが助けてくれるのを待つ。

 そんなヤツらの為に、大切な仲間を危険に晒す気はないと。


 ドライでリアルな言葉だが納得する所もある。

 だが、実はそうやって助けられた者が、ヌケサクの元で頑張って働いているのも俺は知っている。

 俺にもそうやって声掛けてくれたしな。


 ヌケサクの良い所は、自分が悪行をしているって認めてる所だな。

 悪いヤツを懲らしめる「正義の味方」なんて名乗らず「盗賊」って名乗ってる辺りが潔い。

 不正を正す行為ですら、失った者からすれば悪と認識されるだろう。

 だから自分達は悪い事をしているんだって前提で動いていると。

 

 やだ、ヌケサクちゃんかっこいい。

 俺もラアサ殿って呼んじゃおうかしら。呼べませんけど。


 「リンクスちゃんは危ないからお留守番だなぁ」


 「はっはっは、ラアサ殿リンクスちゃんは強いんですぞ。俺様は勝った試しがありません」


 フェルサ、胸反らして言う事じゃ無いだろ。

 首を傾げてリンクスを見るラアサ。


 結局、イニドリスの情報を集めてもらうのを交換条件に、協力を決める俺達。

 ナツメ商会が気に入らないってのが本音だが。


 ラアサの命令で再び茂みに消える二人の盗賊。

 守っている拠点を攻めるには、相手より多くの戦力が必要だとか。仲間を呼びに行ったらしい。

 仲間の合流まで、四、五日掛かるらしい。暇だな。

 あー、ちょっと試したい事あるかも。


 「お兄ちゃんの考えを伝えるの」


 苦労しながらリンクスが伝えた内容を聞いたラアサは、渋い顔をした。


 「んなこと出来んのかぁ?ヤバくねぇか?」


 「そうですよ師匠。俺様も連れてって下さい」


 俺達は盗賊団本隊の到着を待つ間、鉱山に心理戦を仕掛ける事にした。

 ……しかしコレが事態を思わぬ方向へと……。



 「ド!ドラゴンだーー!!」

 「逃げろ!」

 「喰われる!喰われちまう!」

 「ひ!ひーー!」


 鉱道の奥から、我先にと出口を目指す鉱夫達。

 階層を登る場所では大渋滞が起こり、はしごを登る人の背中を登る者まで居る。

 足元がおぼつかず、転がり、それでも四つん這いで少しでも遠くへ逃げようとする。


 パニック。必死。阿鼻叫喚。

 

 鉱夫を監督する役目であろう鞭や槍を持った男達も、暴走する牛の如く、濁流となって逃げくる鉱夫になすすべもなく、突き倒され踏みつけられた。


 鉱山入り口から次々と溢れだすヒトヒトヒト。


 鉱山を守る護衛達は、初め流出を押し留めようとして失敗し。次いで外にでた鉱夫達を一箇所に留めようとして失敗した。


 「一体ぇ何したんだぁ?」


 「これは壮観ですな」


 鉱山入り口を見下ろす丘から、溢れだすヒトの濁流を眺めるラアサとフェルサ。

 目を見張るラアサとは対照的に、口元に笑みを浮かべて顎鬚をシャリシャリ触るフェルサ。


 鉱夫達の最後尾に混じって、鉱山の護衛兵も出て来た。

 本来坑道の外側に向けて警戒をする筈の警備兵が、坑道入口に向けて陣を敷く。

 「狭い入り口を守る」という地の利を完全に失った警備兵であった。



 「何があったのだ、随分と人が逃げてきたが」


 「ん?鬼神殿!これは調度良い所に。実は……」


 警備の兵に声を掛けたのは、これ見よがしに板剣を手に持っているフェルサと、濃い付け髭で変装したラアサだった。


 兵の話は「坑道奥の横穴からドラゴンが現れた」と言うものだが、成竜だと言う者も居れば、親子だった、数匹居た、等情報が錯綜しており、調査をしたい。

 しかし本当にドラゴンがいた場合自分達ではエサにしかならず、どうしたものかと悩んでいた所だったそうだ。


 「ドラゴンだと?こんな所でか。では日堀りは出来ないのか」


 「困りましたね。これでは旦那様に上質な鉱石を届けられませぬな」


 「何処に仕える者だ」


 「答えられませぬ……と言えば察して頂けるかと」


 兵士の問に、鬼神の隣に立つ髭の濃い男は、含みのある答え方をした。

 ぬ、と戸惑う兵士。


 「どけどけ、ワシが話す」


 兵士を押しのけて二人の前に出て来たのは、背の低い、頭に布を巻いた壮年の男だった。

 ナツメ商会の者だと告げた男は、フェルサ達に坑道の調査を依頼した。


 「私共は、剣を打つ為に上質な鉱石を自ら掘りに来たのです。依頼はお断りいたします」


 「そこを何とか」


 「無理ですな」


 取り付く島もない様子で断る濃い髭の男と、しつこく食い下がるナツメ商会の男。


 「報酬一万クルシュの他に、貯蔵してある内で最も上質な鉱石を三十キロ差し上げます。助けると思ってご協力頂けませんか」


 鬼神と濃い髭の音はヒソヒソと話し始めた。

 それを見てナツメ商会の男は口元を綻ばせた。


 「五十キロ出しましょう」


 鬼神が確認するように口を開く


 「調査だけでいいんだな?討伐などいくら鬼神でも無理だぞ」


 「結構でございます!ありがとうございます」


 ナツメ商会の男は満面の笑みで手揉みする。


 こうして襲撃予定の鉱山の、奥深くに入り込む事に成功した四人。


 「来るとは思わなかった。ってお兄ちゃんが言ってるの」


 「状況を利用したまでだなぁ」


 少女姿のリンクスに、ニヤリと答えるラアサ。

 元の計画では、俺とリンクスが潜入して内部を調査し、本隊の襲撃の手引をする。という物だった。


 だが、鉱山から全ての人が逃げ出すと言う異常事態に、ラアサが素早く便乗し、四人で調査する事にしたらしい。流石「はぐ○デカ便乗派」、便乗スキルたけーな。


 ラアサは俺達と合流するまでに、坑道の地図を完成させ、掘り進められていない不自然な一角を見つけていた。調査のプロは伊達じゃないと言った所か。

 先行した俺達はと言うと、リンクスの書いた地図らしき物がこの辺数百メートル分だけ。

 だって俺が書こうとしたらリンクスが、いや〜な顔するんだもの。

 

 地図を片手に壁を叩いたり、床に這いつくばったりしているラアサ。

 ここほれワンワン言わないかな。


 「判らんな。フェルサ〜ここ力任せで頼むわぁ」


 ラアサは何かを見つけたらしく、岩壁を指してここほれワンワンした。

 フェルサは、ツルハシを拾ってきて上段に構えると、力いっぱい振り下ろした。


 高い金属音と共にツルハシの柄が砕け散る。

 木製の柄の部分が、鬼神の力に耐えられなかったようだ。

 

 ツルハシが突き立てられた箇所に、僅かに人工的な平らな金属が見える。


 「鬼神の力でも無理かぁ。開け方探るから暫く時間くれぃ」


 そう言って頭を掻くラアサ。


 「リボ○ビング・バンカーなのーー」

 

 リンクスが十分な助走を付けて、壁に突きを六連続で打ち付ける。

 岩壁が大きく崩れ、その奥にひしゃげた鉄扉が姿を表す。


 「リ……リンクスちゃん?……達人級(マスタークラス)?」


 「ち……力でもコレほどの差があるなんて……」


 顎が外れる程、あんぐりするラアサに、四つん這いになって項垂れるフェルサ。

 リンクスを抑えて、先に扉の隙間に滑りこむ俺。


 扉の奥にあったのは体育館程の広さと高さを有する空間。


 『電気……なのか?』


 『この明かりがでんきなの?』


 天井に吊るされ、その空間を照らすソレは、体育館などに使われる「水銀灯」に見えた。

 水銀灯の白っぽい明かりが照らす先。


 『うそだろ……』


 そこにあるのは、俺の知る言葉で言うなら「銃」だった。

 テーブルの上、向こう側の的に向けて固定された様々な銃。

 片手銃、両手銃、カッコイイの等、様々な銃が固定されている。

 いずれも排莢口部分が大きな筒で覆われ、筒からは太いコードが伸びている。


 ん?一番右の台座には何も載ってないな。


 キュイィィィィン


 歯医者のアレみたいな音がして、台座下の暗がりに赤い光点が灯る。

 赤、赤、赤、赤、赤と光点が五つに増えて行き、次の瞬間5つの光点が全て緑になる。


 ヤバイ


 思うのと同時に、俺は胸に強烈な衝撃を受けて後方に吹き飛ぶ。


 同時に響く「ドゴォン」という轟音。


 すぐ背後に居たリンクス、鉄扉の隙間を覗きこもうとしていたラアサが、俺に押される形で吹き飛び、鉄扉の外へと転がる。


 「し!師匠おおおぉぉぉ!」


 地面に転がる三人に駆け寄るフェルサ。


 胴体……あるよな。


 俺は胸に手を当て、胴体の存在を確認する。良かった。穴も開いていない。

 胸の辺りが痺れている。激痛もだが、目眩が酷い、衝撃のせいか。


 撃たれたのか?銃で?上半身消し飛びそうな威力でしたけど。

 俺が狙われて良かった。リンクスが撃たれたらと思うとゾッとする。


 「中に何が居るんです!?」


 「マテ、なの」


 フェルサが、鉄扉の向こうに行こうとしたので、急いで止めた。

 アレはヤバイ。多分俺以外は一発で死ねる。

 あのデカさは異様だ。俺が撃ちたい。


 だがあのランプは何だ?あの音は何だ?

 考えろ、思いだせ……。


 ……


 ……


 ワカンネ。


 もっかい行っとくか。直撃したけど死ななかったし。

 トライアンドエラーって事で。


 皆に絶対に入るなと固く伝えて、鉄扉へと向かうい、耳を澄ます。

 キュィィインという嫌な音が、微かに聞こえて来る。

 足元に転がる、頭大の大きさの石を、鉄扉の隙間に投げ入れる。


 轟音と共に石が砕け散る。

 「置いて」ますよねー、俺でもそうする。


 芋スナめ勝負しちゃる。


 石が砕けた煙が残る、鉄扉の隙間を、這う様な低さで駆け抜ける。

 レーイチ、レーニ、レーサン……。

 キュイィィンの音が甲高くなる。


 俺は狙いを定めにくい様に、不規則にジグザグに走る。

 台の上に銃身の二脚を立てて、俺を狙うデカイ銃。

 レーシ、レーゴ。


 ドゴォン


 俺の背中を掠めた弾が壁に当たり、金属片を飛ばしながら壁に直径五センチの穴を穿つ。

 目とか入ったら、流石に頭残らないんじゃ無いか?と不吉な事を考えながら、回避運動を継続する。

 レーシ、レーゴ。


 ドゴォン


 ぐぅぅう!!


 腹に直撃を貰い、壁まで吹き飛ばされるが、すぐに回避を再開する。


 「何が起こってるんじゃ!当たっておらんのか!」


 いいえ、ガッツリ当たってます。吐きそうですけど。

 男の声だ、老人か?


 『リンクス、発砲間隔は五秒丁度だ。次の発砲があったら消えて入ってくれ』


 『食べていい?』


 『ダメ』


 次の発砲を跳んでかわす。撃ってくるタイミングが分かれば、縦方向の射角は狭い。

 老人は大きな弾倉を交換し始めるが、油断はしない。俺が囮になってる間はリンクスが安全だ。


 老人は弾倉を差し込み、再装填しようとレバーに手を掛け……。


 「ちょっとごめんよ、なの」


 崩れ落ちた老人の背後。ボンヤリと姿を現す少女姿のリンクス。

 まさかそのポーズは「首トン」したのか?マジ気絶すんの?



 「科学者を縛らんでほしいのじゃ」


 目覚めた老人はまず不平を漏らした。

 胴体をロープで、更に両手を後ろ手に縛って、床に座らせて居る。


 後ろに流したまとまりの無い白髪。同じく白い口ひげ。愛嬌のある垂れ目。

 どこかで見たような顔だが思い出せんな。


 と言うか今、科学者って言わなかったか?


 中世ファンタジーの世界に召喚されたと思ったが、銃も科学もあるらしい。

 怪力も魔物もあるし、魔法もちょろっとだけ見たことがある。

 何でもアリなのか?ああ、だからファンタジーね。

 どうせ考えたって判りませんけど。


 「取り敢えず、名前とナツメ商会との関係からだなぁ」


 尋問はラアサに一任してある。一通り済んだら気になる所を聞いてもらう予定だ。


 「十二・七ミリの初速が毎秒八百五十四メートルじゃから……」


 さっきまで老人が座っていた床にあるのは、焼き切れたロープのみ。

 白髪の老人は、机に向かってブツブツと独り言を言いながら、紙に物凄い早さで計算式を書いていた。


 え?イリュージョンなの?


 「ほほ〜凄い強度じゃな。しかも動きを妨げないとなると……」


 「あ〜爺さん?どうやったかも知りたいけど、まず名前からだなぁ」


 「なんじゃ共和領随一の智将はせっかちじゃの、今は砂嵐かの?ワシはシュタインじゃ」


 白髪の老人はそう言って「ベロン」と舌を出した。

 

 

 

 

 


 


 


ここまで読んで頂きありがとうございます。


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