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106話 魔王無双2

 俺はリンクスの「合体ロボ」の言葉にテンションを上げ、その場に急行した。


 オーマイガッ!


 多数の機装兵に囲まれ、リンクスの眼前に立ち塞がるソレは巨大だった。

 全高十メートル、全幅五メートル、人型の鉄の巨人はまさにそびえ立つ大きさ。


 『あれ?巨大ロボ?合体ロボって言ってなかったっけ?』


 『合体してああなったの』


 マジデ?


 モスグリーンとブラックを基調とした鉄の巨人。

 重厚な人足に股関節が露呈した腰部。前方に大きく張り出した胸部と大きな肩。三つのレンズを逆三角形に備えた頭部は、ヘルメットを被った兵士の様だ。


 ……かっけぇ。

 マジかっけぇ……。


 立ってるだけでもかっけぇ巨大な機装兵が、これが合体しただと?

 見たかった!見たかったなぁ合体シーン。


 巨大な機装兵が、徐に右足を一歩踏み出し、周囲に響く声を上げた。


 「むはははは!見たかドラゴン共よ!これが我が共和国軍の秘密兵器、機装巨兵キョウワンジャーZだ!」


 『……』

 『……』


 俺とリンクスは、絶句した。余りのネーミングセンスの無さに。

 ワハイヤダ特戦隊といい、このキョウワンジャーZといい、共和国にはネーミングのセンスが無えな。


 「もう一回なの」


 「ぬ?もう一回だと?むはは、そうかそうか、この名乗りが余りにも格好良かったのだな?良かろう良かろう。見たかドラゴン共よ!これが我が……」


 「名前はダサイからどうでも良いの。合体やり直すの」


 「ぬ!?名前がダサイだと!?兵士公募三万通の中から非厳正の元選ばれた名前がダサイだと!?」


 リンクスがキョウワンジャーZと舌戦を繰り広げている……が、ダサイは通じるのか。非厳正に選ぶなら三万通も公募するなよ。色々おかしいだろ。


 「名前はダサイけど合体はカッコイイの。もっかい見せるの」


 「そうかそうか、合体はカッコイイか。兵士公募三万通とは無関係に、科学者が設計したこの合体システム。どうしてもと言うなら今一度見せてやろう」


 だから無意味に三万通も公募するんじゃ無えよ。


 心中で突っ込みを入れる俺の目の前で、キョウワンジャーZは、瞬時に九機の機装へと分離変形した。


 うお!変形もするのか!しかも早え!どれがどうなったのか分からなかった!

 ヤバイ、ワクテカが止まらない。


 「見せてやるドラゴン共よ!これが我が共和国軍の秘密兵器!キョウワンジャーZだ!」


 見せてしまった以上、既に秘密でも何でも無いのだが、ダサイ名乗りと共に機装巨兵は再度合体シーンを見せてくれる様だ。中々ノリの良いヤツっぽい。


 俺は九機の機装が同時に行う、変形合体を見逃すまいと、集中力を最大限に高める。

 ドーパミンが大量に分泌され、休眠していたニューロンが次々と覚醒して行く。


 視覚の画像解像度は数倍に跳ね上がり、機装のモーター音や中の兵士の呼吸が聞こえ、周囲に漂う微かな汗や金属独特の匂いが、情報として認識されて脳へと流れ込む。


 本気モードにも似た状態になりながらも、俺は更に認識力を強化する。

 録画不可のこの合体シーン。どんな些細な所も見逃す訳には行かん。


 強化された認識力の元、スローで映し出される合体シーン。


 まずガッシリ型の機装二体が膝から下に変形。その上に大腿部に変形した機装がドッキングして両足が大地に立つ。

 そこに蜘蛛型機装が上り変形して胴体に。


 蜘蛛型、お前充電専用かと思ったら、パワーユニットだったのか?

 さっき倒した蜘蛛型とは、色も形も違うから別物か?


 直立する胴体に、左右から変形しながら跳んだ機装が、両肩と両腕となってそれぞれドッキングし、動力パイプが連結される。


 そして最後に胴体部から頭がせり出し、三つのレンズが赤く光りを発する。


 「機装巨兵!キョウワンジャーーゼェェェット!」


 『おぉぉー』


 パチパチパチパチ。


 俺とリンクスは並んで拍手した。

 出来れば最後は角が開いてから、目が光って欲しかったが、無いモノはしょうが無い。十二分に格好良かった。


 「わはははは!どうだドラゴン共よ!どうだドラゴン共よ!格好良いであろう!」


 うん。カッコイイです。パーフェクトグレードで欲しいです。

 武器セットは、ないのか?


 「武器ないの?」


 「武器だと?この超絶秘密兵器キョウワンジャーZに武器など要らん!兵士公募三万通の中から現在企画開発中だが、武器など無くとも十分に強いのだ!」


 そこはちゃんと公募から選ぶのか。てかそんなに公募掛けてたらやっぱり秘密兵器じゃ無いよね?兵士限定だからそれなりに秘密なのか?


 「わははは!ドラゴン共よ!このキョウワンジャーZと神妙に勝負しろ!」


 「もっかい合体見たいの」


 「ぬ?もう一回だと?」


 「合体、チョーカッコイイの」


 「そうかそうか、チョーカッコイイか。そこまで言うなら仕方ない。もう一回だけ見せてやるから、そしたら勝負だぞ」


 えらいノリが良いな、この人。

 煽てに弱いタイプなのか?キャバいったら一晩で百万コースの人だろうな。


 ガシャン!ガシャン!

 パチパチパチパチ。


 俺達は、分離と合体を見ながら、やはり拍手した。


 『さて、壊すか』

 『壊すの』


 「機装巨兵!キョウワ……」


 ガッシャーーン!


 俺は、せり出した頭が三つの目を光らせた瞬間、思いっ切り蹴飛ばした。


 顎を天に突き出して、反り返った姿勢のままゆっくりと後ろに傾いていくキョウワンジャーZ。


 地響きと土煙を上げて、仰向けに倒れるキョウワンジャーZ。

 土煙の中、立ち上がりながら非難の声を上げる。


 「いきなり攻撃して来るとは卑怯な!まだ名乗りが……」


 「合体は見たの。名乗りはオマケなの」


 「ぬ……」


 納得したのか?今ので納得したのか?

 しかし頑丈だな。首チョンパするつもりで蹴ったのに。


 「勝負だドラゴン共!」


 いやもう始まってるから。


 ドゴン!ドゴン!


 キョウワンジャーZが振り下ろす腕が、地面にニメートル大のクレーターを次々に作り出す。


 攻撃力は武器無しでも鬼神並じゃねえか。動きもその巨体に似合わず早い。

 並の兵士なら、一瞬でクレーターの血溜まりにされているだろう。


 だが、俺とリンクスを捉える事は出来ない。

 合体シーンを見る為に、既に俺の認識力は本気モード並だ。


 打ち下ろされたキョウワンジャーZの右腕に、盾剣を振るう。

 ギン!と鈍い音と共に伝わるこの感触。


 俺はキョウワンジャーの腕を抱え込んで、逆関節にキメて腕を折り千切ろうと試みるが、腕関節は火花を一瞬散らしただけで、そのまま俺を持ち上げた。

 地面に叩きつけられる前に、一旦離れる俺。


 その時、銀のたてがみが腕の分厚い装甲に触れる。

 たてがみを通して伝わる同調感と、強い拒絶の意志。


 何だ今の感覚。


 『リンクス、厚い装甲の所、オリハルコンだ。関節狙いだ』


 『らじゃなの』


 俺が離れた腕を地面に叩きつけたキョウワンジャーZの、前のめりになった背中をリンクスが蹴り飛ばす。

 たたらを踏んで四つん這いに倒れるキョウワンジャーZの右膝の裏に、漆黒の短槍を深々と突き刺すリンクス。火花と共に一筋の煙を吐き出す右膝。


 キョウワンジャーZは立ち上がったが、歩行に支障をきたしている。

 ナイスだリンクス。


 びっこを引くキョウワンジャーZの動きをカバーする様に、周囲の機装兵も連携した攻撃を開始した。

 背後に回り込もうとする俺達に、ピンポイントで矢を打ち込んで来て牽制する。


 機装兵の動きに、粘りと統率が見られる様になって来た。

 合体ロボにかまけてる間に、指揮系統が再編されちまったか。しくったな。


 それでも俺とリンクスは、キョウワンジャーZの攻撃を回避しながら、周囲に群がる機装兵とも剣を交え、その数を減らす。


 『芋洗いなの』


 それにしても凄い数だ。見渡す限りの機装兵。傭兵や一般兵の生身のニンゲンは姿を見せなくなったが、周囲を取り囲む数千の機装兵は圧巻だ。

 しかもその数は、まだまだ増えつつある。


 『兄上様、巨人が近付いてるウキ』


 サルの声に視線を転じると、地響きと共に機装兵の列が割れ、新たなキョウワンジャーZが姿を現す。


 「おうおう、遅かったでは無いかキョウワンジャーX、待ちかねたぞ!」


 「電圧の制御に手間取ってな、まだ魔王は生きているか?」


 キョウワンジャーXだとぉ!?

 Zってネーミングじゃ無くて、識別番号だったのか?だとしたら最低でもあと二十二体のキョウワンジャーが居るって事なのか。


 「わははは、素早くて捉えきれんが所詮は生き物、疲労も空腹も必ず訪れる」


 「VもSも向かっておる。何なら魔王を生け捕りにして、見せしめに拷問の末に公開処刑にしてもいいかもな」


 あ?見せしめ?拷問?公開処刑だと?


 俺は、さっきまでの浮かれたテンションが、すぅっと引いていくのを感じた。

 数万機の機装と数十機の機装巨兵で取り囲み、自分達が狩る側だとコイツらは思い込んでいる。

 その優越感が、残忍な発想に拍車を掛けるのか、あるいは元来の残虐さを露呈させるのか。


 『リンクス、ちょっとだけ本気出してもいいか?あのクソ野郎だけは殺しときたい』


 『同感なの』


 直後、俺とリンクスの周囲を取り囲む機装兵が、天地を逆さにして宙に浮く。

 水面蹴りと尾で足を払われた機装兵は、地面に落下するより先に次々に蹴り飛ばされ、一点に向って飛ばされて行く。


 クソ野郎が乗る、キョウワンジャーXの元へ。


 「うお!何だ!」


 突然凄まじい速度で飛来する多数の機装に、キョウワンジャーXは驚き、豪腕を振るって、味方である筈の機装兵を次々とたたき落とした。

 ひしゃげ、潰れ、血とオイルを吹き出しながら、地面に叩きつけられる機装兵。


 『味方も平気で殺すか。やはりクソ野郎だな』


 俺はキョウワンジャーXの正面に立つ。


 「覚悟しろ魔王!」


 全力で振り下ろされる、血とオイルにまみれた腕。


 ガッシッ!!!


 「バカな!!」


 俺は避けもせず、盾剣でその腕を受け止めた。

 足元に出来るクレーターと、その中心で地面に体半分めり込む俺。


 一瞬動きを止めたキョウワンジャーX。その隙を狙って、リンクスが両方の膝裏に黒い光球を叩き付ける。


 「な!なんだぁああ!?」


 膝裏を直撃した黒い光球は直径ニメートルに膨れ上がり、ケーブルを引きちぎり薄い装甲を押し潰し、火花とオイルをまき散らしながら、膝関節を破壊した。


 バランスを崩し、自らが作ったクレーターへ前のめりに倒れこむキョウワンジャーX。

 その時既に、俺とリンクスはキョウワンジャーXを、左右から挟み込む位置で構えている。


 『喰らえクソ野郎』


 『双竜撃なのーー』


 トン。


 残像を残す程に素早い左右からの突きは、意外な程小さな音を立てた。

 右拳を引いた姿勢でキョウワンジャーXから離れ、残心する俺とリンクスを、呆然と見守る周囲の機装兵達。


 「……はっ、何だ?あれで攻撃したつもりか?」

 「攻撃を受け止めた時は驚いたが……」

 「攻撃は大したこと無いぞ」


 固唾を飲んで見守っていた機装兵達が、再び戦意を漲らせて二匹のドラゴンに襲いかかる。


 二匹のドラゴンは、先程までと比べ物にならない速さで機装兵の間をすり抜け、別々の方向へと逃げて行く。


 「くそ!また逃げるのか!ちょこまかと!」


 「追え!逃すな!」


 ガチャン、ドスン、と重い音を立てて、二匹のドラゴンがすり抜けたルートに居た機装兵が、次々と倒れていく。


 「なっ……」


 倒れた機装兵を助け起こそうとした別の機装兵は、機装の脇腹に穿たれた穴からドロドロと血が流れ出るのを見て、腰を抜かした。


 一突き。たった一突きで、前後の装甲の合わせ目を貫かれ、搭乗者を殺された機装が、鉄を敷き詰めた道の様に続いている。


 「いつまで寝ておる。さっさと起きて追撃するぞ」


 そう言って右足を引きずりながら、クレーターにうずくまったキョウワンジャーXを引き起こしたキョウワンジャーZ。

 だが、キョウワンジャーXからの返事は無い。


 直後、キョウワンジャーXの、装甲の隙間から異臭を放つ液体が流れだす。


 二匹のドラゴンを追って殆どの機装兵が去った後、キョウワンジャーXを強制除装した整備兵は、理解を超えたモノを見た。


 合体したそれぞれの機装のコクピット。

 その中に横たわる、血と粘液にまみれた搭乗者の骨。


 特に損傷の見られないキョウワンジャーX。その中で異臭を放つ遺体。

 整備兵は嘔吐を懸命に堪えながら、コレをどう報告したらいいのか考えていた。


 双竜撃。


 かつてヒエレウスの勇者を撃退し、オリハルコンの鎧を強制解除させた、二匹のドラゴンの同時攻撃。


 全ての衝撃を内部に封じ込める様イメージされ、対ミ・ディンの切り札として訓練を重ねられた技。

 その技は、体組織内部をも破壊し、含水量の多いニンゲンの体を、生命のスープに還元する寸前に迄、昇華されつつあった。


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