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暁のデスペラード  作者: 飯来(いいらい)をらく
CHAPTER 4:EL DIABLO
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EL DIABLO・14

 アマンダの退院日も近づく頃、フランクと子供たちは今日も外に出て銃を撃つ練習をしていた。とはいってもやはり実弾入りの銃を持たせるわけにはいかず、銃を抜く練習に留まっている。青い空は今日も雲一つなく、乾いた風が時折灼熱の荒野に拭き荒んでは、砂を巻き上げて唸っていた。


 フランクが手を叩くと長男はその体と不釣り合いのガンベルトから銃を抜く。銀色が目を眩ませるほどの光を放つ。


「早くなってきたな」


「遊んでるわけじゃないから」


「そうか」小さな木の椅子に座るフランクは微笑む。「あと十年それを続けられたら同年代じゃお前より早く抜ける奴はいなくなってるさ」


 長男は苦虫を噛んだような顔でフランクに向き直った。


「十年間、ずっとこれ?」


「当たり前だ。俺はもう三十年以上やってる」


 少年はフランクの言葉に気の遠くなる、という感覚を初めて味わったような気がしていた。


「僕たちは、エラディオを倒さなくちゃいけないんだ」


「そうだろうな」


「だから十年も続けてられない。強くなりたいんじゃない。お母さんを守ってあげたいんだ」


 怒りと、強い気迫に満ちた声で長男はフランクを見つめる。その小さくあどけない顔には、やはり一人前の男の瞳が鈍く輝いている。


「フランクは言ったよ。僕じゃエラディオを殺せない。でも、この銃はエラディオを殺せる」


 その瞳を真正面から受け止める。面倒を見ているアマンダの子供としてではなく、一人前の男の言葉としてそれを耳に入れる。


「よし」フランクはそれに対して答えを言うことなく、椅子から立ち上がると長男の頭をわしゃわしゃと力強く撫でた。


「痛いよフランク」


「お前の銃を買いに行くぞ。安いものなら、その首から下げてる巾着の中の金で十分買えるだろう」


 その言葉に次男と三男は沸き上がるようにして喜んでいた。長男は背の高いフランクを見上げていた。真一文字に結んだ口元が震えていた。


「だがその前にアマンダのところに寄るぞ。毎日会いに行かせるって約束しちまったからな」


 次男と三男はフランクとともに馬に乗り、長男は一人、ラバに乗って吹き荒れる風の中を進んでいった。蹄鉄が固めたその大地を馬とラバが風に煽られることも無く悠々と進んでいく。




「あら、今日も来てくれたのね」


 未だ顔にあざの残るアマンダが起き上がる。医師の話ではしばらく跡が残るだろうとの話だった。フランクはこれまでそんな女たちを何人も見てきた。自分の女だと言わんばかりに顔に傷をつけられ、他の男に取られぬように美しい顔を見る影もなく変えられた女たちを。

 牧場の牛に焼き印を施すのと同じだ。フローディアでもアメリカでも女を道具や家畜と同程度にしか思っていないに男が多い。この三兄弟の面倒を見るのも一苦労な自分はそんな真似がとても出来そうもない。女性は世間が思うほど弱い生き物ではないのだから。


「お母さん!」


 三男がアマンダに飛び込んでいく。まるで磁石のようだ。いくら長い間子供たちと一緒に過ごしたとて、母親の引力に敵うわけがない。


「明日退院するっていうのに大げさな子たちだね」


「少なくとも家には居てやれてねぇんだ。こいつらにとっちゃ三か月会ってないのと同じだよ」


「あら、私だって同じよフランク」


「かもな」


 微笑むフランクは長男がやはり自分たちを遠巻きに見ているのが分かった。アマンダもそれに気づき声をかける。


「アルもこっちにいらっしゃい」


「いいよ。二人がお母さんの傍にいるんだ」


 兄としての姿勢を誇示したいのか長男はそこを動かない。フランクには分かっている。彼は今、甘えるわけにはいかない。それは弱さにつながる。エラディオを倒すことを目的とした今、アマンダの腕に抱かれることを頭が拒否しているのだ。


「まぁ、明日帰ってくるんだ」


「そうだけど・・」


 少しだけ不穏な表情を見せる長男に戸惑いながらもアマンダは兄弟たちの頬を撫でた。

 それから一時間ほどアマンダと子供たちは会話をした。長男も会話に混ざったが最初に言った通りにその場を離れるようなことは無かった。

 



 その後でフランクとともにシディアを訪れた長男は決断の時を目前にしていた。賑わう町の中、長男の周りにだけ静寂が纏う。意識しなければ自分の呼吸と鼓動しか聞こえない。焦燥と緊張がせめぎあう中で一人の少年がフランクの言葉を聞いていた。


「・・お前は言ったな。強くなりたいわけじゃなく、アマンダを守りたいって」


「うん」


「なら、お前が選ぶんだ。エラディオの顔じゃない。アマンダの顔を思い浮かべながらな」


 フランクと子供たちはシディアのガンショップの入り口までやってきていた。シディアにはもう一つ店内も広く品揃えのいいガンショップがあるがフランクは用があるといつでもここに来ている。


 戸を開けると眼鏡を掛けた初老の男がいらっしゃいと声をかける。細めた目と緩む皺。その外見は敵を作らない人間であることを証明しているかのようだ。


「おや、フランク様じゃないですか」


「久しぶりだなアンディ」


「そちらはお子さんで?」


「知り合いの子供だよ。分かってんだろ?」


「世の中は日々変わりますから」


「だとしても俺の性格はそうそう変わりはしないさ」


 死ぬまで子供は作れない。そういう人生を歩んできてしまったのだ。背伸びをしても父親ごっこしかできはしない。


「それで今日は銃を新調しに?」


「ああ。だがこいつらに選んでもらう。歳を食って勘が鈍って来たからな」


「何を選んでも間違いはございませんよ」


「だからお前んとこに来てるんだよ」


 長男はガラス棚に並べられた銃を眺めている。黒が、銀が、暴力的な光を放ち彼を圧倒させる。(これ)を抜いたらどうなるか分かってるのだろうな。そんな威圧さえ銃は見ている者にもたらしてくる。どれも長男の手には合いそうにもないがそれでも自分の武器を真剣に見定める。泳がせていた視線が急に止まる。長男はフランクを見て止まった。


「・・フランク。僕、決めたよ」


 眼差しは真剣そのものだが銃を選んでいるとは思えない穏やかな声だった。




 アマンダの退院日、彼女を迎えるためにフランクは一人で診療所を訪れた。まだ午前中の柔らかな光が窓から射す中、アマンダは荷物をまとめているようだ。フランクは棚の上に置かれた花瓶に入った数本の花に気づいた。


「・・よおアマンダ。迎えに来たぞ。その花は?」


 アマンダはため息とともに笑った。


「さっき、ほとんど入れ違いでエラディオが来てね。この花を私にって見舞いに来たの。フランクがなんとかしてくれたの?」


「いや、俺は何もしてないぞ」


「言わなくてもいいわよ。彼、青ざめてたもの」


「本当に何もやってないんだがな・・」フランクは頭を掻きながら困惑していた。「それより、大丈夫だったのか?」


「大丈夫じゃ無かったらここにいないわ。もう一度君の隣にいることを許してくれって懇願してきたの。心を入れ替えるからって」


「返事はしたのか?」


「もちろん。この花は有難く受け取るけど、もう二度と私の目の前に現れないでって言ってやったわ。夫を亡くした寂しい女だと思ってるなら、私には子供がいるし貴方は私に必要ないって。そしたら肩を落として君のことは諦めるよって去って言ったわ」


 得意げなアマンダにフランクから笑みがこぼれた。


「そうか。それじゃ帰るとするか。あいつらが駄々こねる前に家につかなきゃならん」


「それもそうね」




 フランクたちが家に着くころ、エラディオはサルーンのカウンター席に座っていた。バーテンには水だけを頼み、一口だけそれを口にすると煙草に火を点けた。酒を飲む気にはなれなかった。


 飲み仲間の老人たちが昼間からサルーンにやってくると笑い声を響かせて砂埃を払いながらエラディオの隣に座った。


「どうした色男、今日は飲まねぇのか」


「そういう気分じゃねぇのさ」


 影を見せるエラディオに気づいて仲間が尋ねる。


「何かあったのか?」


「・・・・アマンダのとこに行ってきたんだよ。フランクがどうこうじゃねぇ。男として詫び入れに来たんだ」


「立派なことじゃねぇか」


「それでよりを戻してくれって頼んだんだが、断られちまった」


「そうか。ま、仕方ねぇやな」


「あいつは女じゃねぇのさ。うら若き町娘じゃねぇ。子供がいるからって断ったあいつの目は俺のおふくろと同じ目をしてた。それが今まで分かんなかったんだよ。でもあいつはもう立派な母親になってた。俺がどうこう言える立場にねぇのさ」


 飲み仲間はエラディオの肩を叩いてバーテンにウイスキーを頼むとそれをエラディオの前に置いた。


「悪いが爺さん。酒は止めたんだよ」


「じゃあそれを最後の一杯にしとけ。失恋したら酒を飲むもんだ」


 戸惑いながらもエラディオはウイスキーを飲んだ。

 今まで飲んだどのウイスキーよりも苦い味がしていた。




「久々に帰って来たって感じね」


「その間に俺の家みたいになっちまったがな」


「それもいいかもしれないわね」


「馬鹿言え」


 馬から降りたアマンダは扉の開く音を耳にした。その方向には深い緑色のドレスを着たエルマが立って二人を見ている姿があった。


「・・エルマおばさん?」


 エルマは駆けだしてアマンダを抱きしめる。突然のことにアマンダは驚きを隠せなかった。


「心配かけて・・もう・・この子は・・」


「おばさん・・どうして・・」


「フランクが貴女が酷い目に遭ったって言うからここに来たのよ」


「でも・・」


「でもじゃない。兄さんが愛した一人娘よ。私が愛してないわけないじゃない」


 涙を拭いながらエルマはそう告げる。偽りのないこの気持ちをもっと早くにアマンダに伝えるべきだった。その後悔を払拭しながら、痣の残る顔を優しく撫でた。


「それより、一番貴女を待ってる人がいるでしょう?早く行ってあげなさいな」


「ええ」


 アマンダはエルマに促されてその扉を開ける。そこで待っていたのは色鮮やかな色彩とこの世で一番愛しい笑顔だった。


「お母さん退院おめでとう!!」


 高らかに歓声を上げる兄弟たち。長男は真ん中に立って上手に抱えきれない花束を持っていた。


「おかえり、お母さん」


 その言葉と共に長男はアマンダに花束を手渡す。


「・・ありが・・」


 そこから先は言葉にならなかった。花の香りに包まれながら涙の滴が花束へと落ちていく。アマンダはフランクに花束を渡すと子供たちを抱きしめた。


「お母さん感動した!?」


 嗚咽を漏らしながらアマンダは静かに首を振った。


「フランクからお給料もらって買ったんだ。最初は銃を買ってエラディオを倒そうって言ってたんだけど、兄ちゃんがやっぱ花にしようってさ!」


「心配しないで。銃は持ってないけど、それでも、僕たちはお母さんを守れるから」


 長男の強い言葉にアマンダは彼を抱きしめずにはいられなかった。こんなに間近で見ていたのにも関わらず、彼はいつの間にか強い人間に成長していた。守ると決めた存在に守られる幸福をアマンダは強く抱きしめていた。





 その頃、大佐はローザを連れずにサンタモレラにやってきていた。ヴァルベルデ社の社長室。今は機能もしていないが大佐の報告を待つロバートは数日ここで過ごしていた。広く快適であり、誰の目にも留まらないこの建物はある意味自分の家よりも過ごしやすくあった。


 扉を開けた大佐の顔は沈んでいるようにも見えた。何があったのか、言わなくても分かりそうな気はしていた。


「ようこそ、大佐。またこうしてあなたの顔を拝めるとは」


「よせ。何があったか、大方察しは付いてるんだろう?」


 ロバートはかぶりを振った。


「いや、彼女を追い詰めるために非常に有効な策を取ったつもりだ。だが、その口ぶりからすると」


「失敗に終わった。手付金も返す」


「それには及ばない。それはあなたへの敬意だ。彼女を目の前にして生き残った者はあなたしかいないのだから。それに・・正直安堵しているよ。一度は彼女をこの目で見てみたかった。世界の平和のために彼女が打ち倒されてもいいが、心残りがあるのでね」


「生き残った者はいない・・か。私は明日死んでいてもおかしくないんだぞ」


「それは困る」


 笑うロバートを大佐は張り詰めた目で見た。


「今回の件で貴方の実力が見て取れた。やはり貴方は素晴らしい才能を持っている」


「話が見えないな」


「私はこの地で新たな私設部隊を作り上げている。西部とは違い秘密裏に、少数で、そして桁の違う兵士を集めている」


「その部隊に私が加入しろと?」


「希望するならばだ」


「生憎私はフリーの殺し屋だ。雇い主は次々に変わる。兵士ほど向かない仕事もない」


「語弊があったな。私の部隊には兵士は一人もいない。統率などあってないようなものだ。彼らを束ねるには私一人の実力では及ばない。強すぎる力というものはそういうものだ」


「それでフローディアの悪を潰すと?」


「規則よりも強いものは目的だよ大佐。目的を果たすために規則がある。規則が無ければ目的を果たせないような人間は私の部隊には必要ない。それでは弱すぎる。個々の力だけでも十分に戦える部隊でなければ奴らは倒せはしない。現に、『暁』とはそういう者の集まりだ」


 ミス・ノーバディが所属するというのだからロバートの言うことはもっともなのだろう。普通の兵士では『暁』を屠ることなどできはしない。


「だから大佐、改めて貴方の実力を買って私の部隊に貴方を招待したい。私が誇る正義の鉄槌『トワイライト』へ。敵はこの地に蔓延る悪、アメリカに牙を剥く先住民、そしてまだ未熟ではあるが確実にその枝を伸ばしつつある強盗団『暁』だ」


「なぜそこまで『暁』に執心する?」


()がいるからだ。貴方もその名前を知っているだろう。フランク・レッドフォード。彼が所属している強盗団が見過ごしていい些細な強盗団であるはずがない・・!それは強大な脅威となって『トワイライト(われわれ)』を、フローディア(われわれ)を、米国(われわれ)を襲いに来る・・!」


 ロバートの固めた拳は怒りに震えているように見えた。冷静な男が一瞬みせた炎に大佐は息を飲んだ。そして、その懐かしい男の名前は古傷のように彼を痛めつけた。

 ため息をついてロバートは大佐に向き直る。


「だからこそぜひ、あなたの力を借りたい。ミス・ノーバディを倒す機会は何度でも設けよう。『トワイライト』はそのすべてをかけてもこのフローディアに平和をもたらさなくてはならないのだから」


 時は十九世紀末期。新大陸フローディアが二つの夜明けを迎えようとしていた。

 狂乱と混沌の夜明けか、正義と秩序の夜明けか。

 いずれ来るその光はやがて暁とともに訪れる。

今日は保安官について。

暁のデスペラードでは保安官のルビが保安官(シェリフ)だったり、保安官(マーシャル)だったりしてるのにお気づきでしょうか。実はこれ結構大きな違いであり、物語的にも重要になってくるかもしれないのでちょっと気に留めといてください。

さて、THE DAWNで頑張ってたウォレスはシェリフと呼ばれていました。シェリフは選挙によって指名された者がシェリフとなり、町の治安維持に努めます。ちなみに、デイヴとフリオは保安官補佐ですが、保安官補佐はシェリフによって選ばれ、宣言をさせれば誰にでもなれる職業でもあります。

で、これからおそらく重要になってくるのがマーシャル。実はマーシャルにも郡、市、町の頭文字が付くマーシャルもいますが暁のデスペラードでは基本的にはUSマーシャル、連邦保安官の事を指していきます。

連邦保安官は大統領、州知事によって任命されシェリフとの大きな違いを言えば、行動の権限が州を超えることにあります。これは連邦保安官だけの権限であり、他の治安維持職にはありません。

とは言いつつも州制度もこれから実施しようとするフローディア。今のところ州で区切られてはいないので連邦保安官は一人しか置けないことになりますが、広大な大陸という前提のために数人の連邦保安官が任命されてる模様。

さて、四章はこれで終わりです。五章からようやく物語が動き始めます。スローペースで申し訳ないですが今後ともよろしくお願いします。


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