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暁のデスペラード  作者: 飯来(いいらい)をらく
CHAPTER 3:RISE OF SARTANA
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RISE OF SARTANA・15

 リオ・コントレー貧民街の外れにそびえたサンティーニたちの宮殿。入る者を拒むかのような薄暗い通りの最奥にある彼らのアジトは白を基調とした建物で、リオ・コントレーの頂上付近に立つ家々と肩を並べるどころか大きさで言えば随一とも呼べる。周囲は部下が警戒し、許しを得ないものは命を危険に曝される。

 

 余所者の訪問に揺れる貧民街で警備はいっそう固くなり、夜間の間でも交代制で宮殿の周りを徘徊させていた。といっても彼らは既にこの世にはいない。

 そんな宮殿に一人、大柄な男がやってくる。門番はもちろん警戒し声をあげた。


「何の用だ!どうやってここまで入って来た!!」


 灯りに照らされた大男はゆっくりと手をあげる。胡散臭い帽子とスーツ。手に持った杖が闇夜の風に揺れる。


「夜分遅くにすまねぇ。あんたらのボスと取引に来た」


「取引?ボスが応じるとでも?」


「応じるさ」男はさも当然のように言い放つ。


「この町を騒がせている男が直々に会いに来たと言え。興味くらいは持ってくれるだろ」


 門番は顔を見合わせた後で分かれ、一人は銃を男に向けたまま、もう一人が中へと入っていく。


 上手くいってくれるだろうか。凍えそうな夜に冷たい汗を一滴流しながらサルタナは再びドアが開かれるのを待った。





「まず間違いなくハチの巣になるだろ。アレン、俺への恩義はどうした?」


 宮殿の影が見え始めるころ、アレンはサルタナに言った。「兄貴には正面から入ってもらう」


「ハチの巣ってのはまずないと思うぜ。これはギャンブラーの勘であり読みの一つだ」


「俺を駒扱いかよ」


 随分扱われ方が雑だが、自信満々に言い張るアレンを見てそれ以上は何も言わなかった。運が尽きたと言っていたことは気にかかったものの、勝負ごとに関して言えばアレンが素人のような手は出さないことも知っている。


「まぁいい。それで、その根拠はなんだ」


「考えても見てくれ兄貴。奴らの目には兄貴がかごに入ったネズミにしか見えてねぇ。生かすも殺すも自分たち次第。チェックメイトのコールだって済んだ後だ。それに、ここは奴のホームだ。部下も大量にいる。逃げも隠れも出来ねぇ」


「奴らが俺を舐め腐り切ってんのは分かるが」


「だろ?そんな相手をすぐに撃ち殺して何が楽しい。兄貴は入るだけなら命のあるまま宮殿へと入れる。あとは兄貴のコミュニケーション能力次第ってとこだが、交渉は得意か?」


「通すのは得意だ。もちろん力でな」


 銃を突きつけ、拳を振りかざす。それで要求は通る。通らなければ引き金を引き、或いは拳を振り下ろす。それでも要求は通る。


「コミュニケーション能力は低いと・・」


「てめっ、何それで納得してやがる」


「あたしもそう思うけど」


 意義を唱えるサルタナに対してマリアがアレンに同意する。


「てめぇいつからそんな舐めた口聞くようになった」


「まぁどうだっていいさ。兄貴の持ってくる取引はただの餌だ。必ず失敗に終わる。だが俺たちの目的はゲームに勝つことじゃねぇ。台をひっくり返すことさ」


「アレンさんが負けた時の常套手段ですか?」


「おいおい、賭け事に対しては真面目にやってるぜ。今まで二、三度やったっきりだ」


 すべて相手プレイヤーにタコ殴りにされて翌朝店の外で鈍い痛みとともに目を覚ました。苦い思い出だ。


「それで取引ってのはなんなんだ」


「絶対に決裂するやつさ。負けることしかできないカード。そいつを出したらテーブルの上をめちゃくちゃにしてやってくれ」




「・・入れ。ただし、武器は持ち込むな」


 銃殺の命は出なかった。とりあえずはアレンの読み通り。サルタナはばれないように鼻から安堵の息を漏らす。


「言われなくてもホルスターは軽くなってる。俺だって素人じゃねぇんだ」


 サルタナがコートを広げると門番が引き金に指をあてる。歯を食いしばり、目を見開く門番。確かにサルタナのホルスターは空だ。


「余裕がねぇな。なんなら杖もここで置いてくか?足をあんたらに撃たれてこれがなきゃ歩けもしねえが」


「勝手にしろ。中で変な動きを見せれば息をすることもできなくなるからな」


「忠告感謝するぜ」



 扉の向こうにはサルタナが思わず目をそむけたくなるような光が待っていた。暗闇を歩いていたサルタナにはまばゆすぎるシャンデリアの明かり。部下たちの手で光る拳銃の輝き。広間の奥、二階へ続く階段の大きな踊り場ではアレンの言っていたように自分こそが王だと言わんばかりに堂々と立った男の姿がある。

 紛れもなく、ルッシオ・サンティーニその人だろう。


「初めましてだな余所者(ストレンジャー)。ようやくお目にかかれたな」


 固めた黒い髪、整えられた口ひげ、紳士を装うスーツ。サルタナが幾度となく目にしてきたサンティーニのシンボルのような姿に既視感すら覚え、ルッシオの顔がすぐに見慣れたものになっていた。


「初めて会ったような気がしねえな。あんたの顔をずっと思い描いてたからかもしれねぇ。身に覚えのねぇ報復であんたらの部下に随分酷い目に遭わされた。憎んでも憎み切れねぇその顔をずっとな」


「随分想い焦がれてたみてぇだ。それで夜分に何の用だ?俺のケツにキスでもしに来たか?」


「それと同等の事をしに来たんだ」


 サンティーニが部下を見ながら笑った。それは楽しみだ。


「命乞いだよ。この町から俺を出してくれ。迷い込んだとはいえ、あんたらのビジネスに泥かけかけたのも承知の上だ。俺もやり方は違えど人の不幸で飯を食ってる人間だ。ついこないだムショから出てきたばかり。つまりはあんたら側の人間だ」


「その面があれば説得力にも上乗せできるだろうな。それで、もちろんただでってわけじゃねぇんだろ?引き換えに何を出す?」


「七百ドルある。少ねぇが俺が出せる限度ギリギリだ。この町から出してくれるってならいくらでも稼いで持ってきてやってもいい」


 目を伏せるサルタナ。サンティーニは目を丸くしながらその大男を見下ろしていた。体格で言えば自分より強靭。町の外に出れば自分よりも彼を恐れる人間の方が多いだろう。その男がはした金と引き換えに自分に命乞いをしている。


「・・・っはっはっはっは!!おい、聞いたか手前ら!?俺たちゃ町中こんな男を探し回ってたんだぞ!?なんだこいつ!!下げる頭ならいくらでもあるってか!!プライドもクソもねぇ!!フローディアの悪党ってのはみんなこうなのか!?」


 サルタナの奥歯がギリギリと音を立てる。怒りを抑える。気位を捨てる。杖を握る手に力を込めてサンティーニの笑い声を聞いていた。


「あぁ・・傑作だ。傑作だぜ」サンティーニが目の脇に溜まった涙を拭う。「さて・・その答えだがノーだ。あんたをこの町から一歩も出さねぇ。ここで死に、ここで埋められるのさ。どうせ仲間を連れて俺に報復しに来る。俺の兄弟も散々そんな目に遭ってきた。小奇麗なスーツを着ちゃいるがこぎたねぇ性根が滲み出てんだよあんた」


「今の言葉・・そっくり手前に返すぜ」


「そりゃありがとよ」サンティーニが手をあげる。撃ての合図だろう。部下がサルタナを見守る中、銃を構えた男が動き出す。そして銃声。宮殿に乾いた音が響き渡り沈黙。倒れたのは部下の方だった。


「・・天才とはよく言ったもんだ。ここまでやられるともはやイカれてると言った方が早えか」


 反撃はすぐにはやってこなかった。何が起こったのか、部下たちは分からなかったのだ。銃声に振り向くサンティーニですら唖然としている。


 杖の先端から硝煙が舞う。非暴力に擬態していたのはサルタナだけではない。サルタナの持つ杖ですら銃器へと変貌を遂げていた。

 

「ステッキガン・・改めて聞くと馬鹿みてえな名前だ」


 部下たちはようやく懐から銃を取り出してサルタナに向ける。対するサルタナは両腕を伸ばし袖の下から現れた二丁の拳銃へと持ち替える。


「ボディチェックでもしておくんだったな!!」


 放たれる弾丸は部下たちの胸を貫き白いシャツに赤黒い花を咲かせる。何人かの男が床に倒れ衝撃で引かれた引き金があらぬ方向へと銃弾を飛ばした。

 一階から、二階から、ドアを乱暴に開け次々と現れる部下たち。入れ替わるようにしてサンティーニは階段を上り二階の奥の部屋へと消えていく。やはり逃げやがったな臆病者(チキン)野郎。気概だけは不死身のサルタナだが体はそうじゃない。近くにあった大きなウォールナットの高級テーブルをひっくり返し銃弾から身を護る。木製だが質もよく、分厚く、堅い材質だ。これなら数分は凌げる。


「伏せながら入ってこい!!ドア開けてすぐテーブルでカバーしてある!!」


 外で待つ救援を大声で呼ぶサルタナ。もちろん先ほどの舐めた門番は地獄に落ちたことだろう。


「そりゃ安心だぜ」


 強風とともに開けたれたドアからルイスが、レミントンの放つ銃弾とともにアレンがサルタナの下に飛び込んでくる。


「ひゃー!すっげぇドンパチやってらぁ!!」


「じゅうねんまえのはちがつを思いだすぜぇ・・」


「生まれてもねぇだろ手前は」


 やはりどうしても緊張感が壊れる。だが今はそれでいい。空っぽな笑いで奴らに笑われた。仲間が来たことで笑い返す余裕ができた。このサルタナを舐め腐った礼はたっぷりとしてやらなければならない。


「アレン、弾はあるか!?」


「おうよ兄貴!どうにも弾が当たらねぇから余分に持ってきたぜ!」


「弾が当たらねぇのはツキに頼りすぎなんだよ!もうちょっと練習しろ!」


「無茶言うな兄貴!体から弾抜く事の次に嫌いなのが練習だ!」


 リロードが済むとすぐに頭をテーブルの陰から出し、敵の位置を確認する。もたれかかったテーブルが銃弾の当たる衝撃とともにガタガタ揺れ、木くずがサルタナの視界に降ってくる。

 余計なことは考えなくてもいい。撃って当たれば反撃はやってこない。手に持ったコルトの撃鉄を起こし、半身を出すと位置の変わらないサンティーニの部下たちに銃弾をお見舞いしていく。狙った数人が腕や足に被弾したに留まったが当たりは当たりだ。体に穴が空けば余程の強靭な精神でない限り動くことすらできずに悶絶する。ゆえに二発目を当てに行くのは容易い。銃を持ち替え再び同じ位置でうずくまったままの男たちを撃ち抜く。ドアの奥からやってきた新顔には目もくれない。二撃必殺。確実に命を奪っていく。


「どうだアレン!しっかり六人ぶち殺してやったぞ!」


畜生(デム)!やっぱ当たらねぇ!!ヒイロにショットガンでも借りてくりゃ良かった!!」


 六人の命を奪う。時と場所が違ったら大した人数になり得たが、ここは十九世紀末フローディア。場所は敵陣のど真ん中である。六人の命はあまりにも軽い。流れるようにして次から次へと現れる部下たち。六人の消耗だけで喜んでいてはサルタナたちがいずれやられてしまうのは明白で、本人たちも痛いくらいに自覚していた。

 二階中央のドア、サンティーニが逃げた先から散弾銃を持った男たちが追い打ちをかけるかのように現れる。数は全部で五人。一度に手に持ったそれらが放たれればアレンたちは顔を上げることすら許されない。アレンたちはその来訪をショットガンの放つ轟音で知ることになった。


「おっかねぇなぁ・・これがショットガンの射線上にいる奴の恐怖か」


「何、感慨に耽ってんだアレン!!さすがに抵抗できねぇぞ!!」


「心配せんでもそのうちキリングバイツが来るだろ」


 アレンの目は濁っている。勝負の負けが確定した時と同じ目だ。


「奴がやって来ようとこの散弾の雨ん中じゃ奴だって動けねぇ!どっちみちその前にテーブルが破壊されて終わりだ!!」


「・・・なんとかなんじゃねぇか」


「・・一回その面ぶっ叩いて目ぇ覚まさせる必要があるみてぇだなおい」


 そうこうしているうちにウォールナットのテーブルがサルタナたちの背後を襲う。木くずは砂嵐のように舞い、ダメ押しに彼らの目に入った。ショットガンがテーブルを破壊する音、サルタナたちの背後ががら空きになるまであと数秒。

 それまで黙り込んでいたルイスは何を言うことも無く、すっくと立ちあがりショットガンを撃ち込む五人組に手をかざす。


「何やってんだてめぇ!!」


 目に入った木くずで視界のぼんやりしたサルタナもそれを察した。


 子供が立ったからと言ってその引き金を引くことは止めない連中だ。むしろ肉塊にすることを喜んでやってのけるだろう。そしてその通りに五人全員が立ち上がったルイスに向けて引き金を引いた。

 彼らに無いのは容赦ではなく、人間性だ。

 瞬間、突如として巻き起こった追い風。コンマ数秒。まさに早撃ちの世界で風が吹き荒れる。アレンが追われていた時に見たものとは比べものにならないその強風は向かってくる銃弾の向きを逸らし、階段にしっかりと立てつけられた柵を揺らし、二階正面のドアを向こう側にいた部下たちごと吹き飛ばした。後方に飛ばされたルイスのソンブレロ。バタバタとはためくポンチョ。何がとは言わないがアレンには見えた。


 吹き荒れた風に呼吸を止められた二人は、水中から浮かび上がって来たかのように深く乱暴な呼吸をする。見渡す嵐の跡、壁や床に叩きつけられ二度と息を吹き返さない部下たちがいくつか目に入った。うめき声をあげた部下にはとどめの一発を無言で与えてやる。


 片方の口角を上げ、得意げな表情をするルイスに飛んでいったソンブレロを拾い上げ被せてやると、二人は呆れたように同時に声をあげた。


「「最初からやってくれ」」

PV数、ブクマ数、じわじわ増えてきて嬉しいぜ。感謝するぜ(グラシアス)同志諸君(コンパニエロス)!!

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