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暁のデスペラード  作者: 飯来(いいらい)をらく
CHAPTER 3:RISE OF SARTANA
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RISE OF SARTANA・6

 リオ・コントレーのカフェテリアでコーヒーを啜るアレン一行。ヴィジェもレイナも無表情の中、アレンだけが眉間にしわを寄せていた。


「本当にこの町であってんのか?」


 想像していたよりもずっと呑気な町だ。銃規制でもされているのかというくらい町民の腰に銃の姿がない。確かにフローディアに住む人間全員が銃を下げているというわけでは無い。銃を下げれば厄介ごとに巻き込まれる可能性は高くなる。家族を持ち、家を持ち、人生を平穏に過ごしたいなら凶器と離れて然るべきだ。

 だとしても何人か銃を持っていてもいいだろうに。


「確かにここってアインさんが言ってましたよ。確かに平和な町ですけど裏にイタリアからの移民がいて、その人たちが天使の羽の売買に手を染めてるって」


「アインが言うなら間違いはないだろうけどな・・」


「とりあえずこういう時は聞き込み調査をしなきゃですよ。いかにも悪そうな人を見つけて取引場所を探しましょう。ってことでアレンさん後はよろしくお願いしますね」


「なんでお前らも付いてこないんだよ」


「年端もいかない女の子連れた人に天使の羽なんて売ると思いますか?」


「・・まぁ、確かにそうなんだが。じゃあレイナはここにいていい。だがヴィジェ、お前は付いて来いよ?」

 

 フードの下からカップに視線を落としたままでヴィジェが答える。


「断る。私も、年端のいかない、女だ」


「別に付いてなくていい。物陰から俺と連中との取引を見張ってりゃいい。妙な動きがあったらお前が殺せ」


 ヴィジェの表情は窺えなかったが、少なくとも素直に首を縦に振るような反応ではなかった。


「・・決まりだな。とりあえず聞き込みから始めなくちゃなんねぇ。早いとこ天使の羽を手に入れておっさんのところに戻るぞ。茶を啜っちゃいるが俺たちには時間がねぇんだ」


 アレンは銀貨五枚をテーブルの上に置いて席を立つ。


「私の分も、払え」


「金持ってねぇのかよ・・。しゃあねぇ一つ貸しだ」


「勘定細かい男は嫌われちゃいますよ?」


「生憎金にはうるさい男だからな」


 そうして二人はカフェテリアから町へ赴く。窓越しに二人の背中を見ながらレイナは小さく呟いた。


「・・余計なこと言わなきゃかっこいいとこもあるんですけどねぇ」


 どっしりと構えるわけでも無く、臆病で痛みに弱くて、そのくせ何にでも噛みつく情けない男。それでも目的だけは見失わない。アレンはその事実を体で語るかのように地面をひょうひょうと踏みしめる。




 


 近くの路地裏で見つけた木箱の中にナイフをすべて入れたあとで、デイビッドは恐る恐る孤児院の門を開けた。例え命を投げうってでも。そんな固い意志で孤児院を抜け出しても結局怒られるのは怖いことだった。孤児院の入り口では仁王立ちするかのようにタバサが立っている。それだけでも心臓が縮み上がりそうだったが、隣に立っている牧師を見てそうもいられなくなった。


「ルイス、お菓子の話は覚えてる?」


 声を潜めてルイスに問う。


「うん。あのお姉ちゃんからもらったの」


「そうじゃなくて、町で買ったってことにするんだ。分かった?」


「おーけーだぜ相棒」


 ガンマンに憧れる魔法使いのルイスは時折こうしてガンマンの口真似をすることがある。それが良い成長とは言い切れないがたまにこうして背伸びをするようなルイスを見てデイビッドは頬を緩めていた。


「あんたたち!どこに行ってたの!?」


 デイビッドが想像していた通りの言葉が一字一句そのまま再現される。


「ごめんなさいタバサ。私お菓子が欲しかったの」


 マリアに言われた通りルイスはクッキーのカスが残った包み紙を見せる。


「お菓子って・・。あのね、今日は私がケーキ焼いてあげるって朝に言ったでしょ?」


「そうだっけ」


「デイビッドも、いちいちルイスのわがままに付き合わなくていいから!」


「すいません。これからは気を付けるようにします」


「二度としないと誓って!」


「はい。二度としません」


 タバサはため息をついて額を拭う。


「デイビッド、あんたはこの孤児院でも立派なお兄さんなんだからちゃんとなさい。すいませんでした牧師様。ほら、あんたたちも謝るの!」


「ごめんなさい」


「すいませんでした」


 頭を下げるデイビッドだったがその目はぎらついていた。この男に下げる頭などあるものか。


「頭をあげなさい二人とも。タバサと神様の御前で誓ったことを守ってくれればいい。それと、デイビッド。君に話があるんだ。あとで教会まで来てもらってもいいかな?」


「あら、里親が見つかったんですか?」


「残念ながらそうじゃないんだが、まぁとにかく後で話をしよう」


 去り際に牧師の目がデイビッドを睨む。デイビッドは心の底が冷えたような気がした。なんて冷酷極まりない目だろうか。この目こそがこの男の正体なんだ。みんなどうか気づいてくれ。

 そう思う一方でデイビッドは不安にも襲われる。話とはいったい何だろうか。狡猾なこの男にすべてがばれてしまったのではないか。

 汗に濡れた服を着替えた後でデイビッドは教会へと向かった。




 真昼の光差し込む教会。その教壇で牧師は立っている。


「ようこそデイビッド。近くに座ってくれ」


 教壇の奥のろうそくの火がゆらめく。真昼のリオ・コントレーにしては涼しい教会。デイビッドの体はさらに冷えている。外気ではなく体の内側から冷えている様だった。


「さて・・。君とルイスに関するうわさを余所から聞いてね。なんでも町の外から来た人間といたところを見たとか・・。心当たりはあるかな?」


「いえ・・」否定した後でデイビッドは考えた言い訳を話す。


「でも、確かに道を尋ねられました。酒場を探しているとかなんとかって。この辺りで人が集まるのはカフェテリアだけですから、もう少し登らないと無いって教えました」


「それは確かかね。神の御前だ。嘘や偽りは許されないよ」


 だとしたら裁かれるのはお前の方だろう。お前に比べたら自分の吐いた嘘など罪に勘定されるはずもない。


「本当のことです。聖書に手を置いても同じことを言います」


 デイビッドは胸元から聖書を取り出して表紙の上に手を置いた。


「なるほど。ならばきっと本当の事なんだろうね。・・ただ、牧師である私が言うのもなんだが、この地に神はいないような気がしていてね」


「それは・・どういうことですか」


「この惨状を見ていれば分かるだろう。ここには親に見放された子供たちがいる。外を出れば人でなしが大通りに寝転がっている。救いも何もあったものじゃない。リオ・コントレーを出れば目も当てられないほどの犯罪が起こっているというじゃないか。この地で神の下に仕えてもう何十年も経った。だが、今さらになって気づいた。この地は神から見放されている」


「そんなことは無いと思いますが」


「私が思うに、だ。君はこの地でも神の存在を信じるべきだ。だが私にはそれがどうしても信じられない」


 牧師はデイビッドを見つめる。やはりそうか。デイビッドは俯いている。


「だからもう一度今言ったことが嘘偽りでないと言ってくれないか。聖書に手を置いてではなく、私の目を見ながら」


 デイビッドが顔をあげると後ろで扉の開く音が聞こえた。振り返ろうとするデイビッドに牧師は「こっちを見るんだ」と強く言い放つ。

 複数の足音がデイビッドの下へと近づいて行っている。


「今言ったことに」


 人影はデイビッドの横を通り過ぎて牧師の隣に立った。思わず声が止まる。間違いない。この男はルッシオ・サンティーニ。油で固められた真っ黒なオールバックに口ひげ。紳士的な顔ではあるが笑った顔が酷く歪んでいる。


「嘘や・・・偽りは・・ありません」


「・・どう思うかね?」


 牧師はルッシオに尋ねる。


「回答を急ぐ前に第二の質問と行こうじゃねぇか。おい、ガキ。俺の名前を知ってるか?」


「いや・・」


「目を見て物言えやコラァァ!!!」


 怒号が静寂を叩く。デイビッドは歯を食いしばり泣くのをこらえた。カフェテリアで出会ったあの男は自分を殴りにかかったじゃないか。こんな男、なんでもない。あの男の方がまだ恐ろしいというものだ。そういえばまだ名前を聞いてはいなかった。


「あぁ?で、どうなんだガキ。俺の名前を知ってんのか?」


「いえ・・知りません」


 睨み返すデイビッド。あの男と同じく拳が飛んでくるのも覚悟していた。


「まぁ。その辺で良いだろう。それより良い質問を思いついた」


 ルッシオを抑えるように前に出た牧師が醜く笑う。


「私が銃工房に訪れた時、君はあそこにいたな?」


 ・・間違いない。牧師はすでに確信を持ってしまったのだ。自分が彼らの悪事を知っていると。でなければこうも簡単に情報を流すわけがない。そしてそうさせたのは自分の震える声と震える体のせいだろう。


「おかしいとは思ったんだ。世話をしていたはずの君がいなくなったのに随分と彼女はそっけなかった。普通はもっと動揺するものだろう。あの時、君はあの場所にいたんだ。そうだろう?」


 目に涙を浮かべたままデイビッドは首を横に振る。


「・・君がこの男を知っていようといまいとこの男の力は立派なものだ。本当のことを言いなさい。もう二度とマリアに会えなくなってしまうぞ」


 言っても言わなくてもマリアがどんな目に遭うか、デイビッドには分かっている。このことを知った自分もルイスも同じ目に遭うのだろう。これは質問じゃない。もう自分をいたぶっているだけだ。


 ふと、デイビッドの背後に光が差した。急いで振り返るとそこには開け放たれたドアに立つルイスの姿があった。


「もう一人のガキか!」


 間髪入れずにルッシオは銃を抜く。本当に撃つ気なのだろう。まだ幼い少女といえど彼らにとっては物も同然だ。そしてその予想通り銃が咆哮する。


「ルイス!!」


 叫ぶデイビッドを余所にルイスは指で形作った銃を撃つ。ルッシオの銃弾は壁を抉り、空の銃弾は確かに牧師とルッシオの胸のど真ん中を撃ち抜いた。


「デイビッド早く!!」


 その声でデイビッドはルイスを連れて駆けだす。本物の銃弾ではない。痛みが残るだけで出来たとしてもせいぜい痣くらいなものだ。彼らはすぐにでも起き上がり自分を追いに来るだろう。そうなってしまえば町には逃げ場がない。サンティーニのファミリーがこの町に何人いるか知ったことではないがルッシオがこの町にいくつもの目を持っていることは間違いない。

 奴らより先にマリアの下へ。そして奴らより先にあの男の下へ。

 ルイスの手を引きながらデイビッドは孤児院を抜け出した。

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